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第1話「初めまして異世界1」

 俺の名前は宝賀舞人。しがない大学生だ。

 十秒前まで薄暗くて居心地のいい空間で三人仲良く日常を送っていたんだが――


「えっと……どちら様で」


 俺の目の前には謎の少女とサングラスを下厳つい大男が立っている。

 少女は思考が停止してるんだろうか瞬きしかしない。

 大男組んでいた腕を解いて部屋を出て行った。

 そうだ、部屋。

 壁が全面……なんだこれレンガか?灰色の大きさバラバラのレンガでできている。

 半径六メートルほどで高さが五メートルくらいの円柱上の部屋だ。アニメとかでしか見たことねえ」


「どこだここ……」


 もしかして!もしかしなくても。


「俺、転移成功したのか!?」


 真横にはあの本が落ちていた。下には見慣れない魔法陣が書かれている。

 俺らのものとは比べものにならないくらい本格的で緻密だ。

 感心して線をなぞってたら少女が話しかけてきた。


「あ、えーと。あなたは日本人であってるでしょうか?」

「ああ、はい。そうですけど」


 黒髪黒目ショートヘアの高校生くらいの女の子だ。

 日本語が通じるってことは日本のどこかか?

 さっきの大男は絶対日本人じゃないし……ワンちゃん海外かもな。


「ここって日本のどこですか?」


 少女は頭を抱えている。


「えっと、ここは日本ではありません。というか地球でもないです」


 要するにどっか違う惑星ってことか、転移しすぎだろ。


「まあ簡潔に言えば異世界ですね」

「はあ……ええええええ!!!」


 少女は耳に指を突っ込んだ。失敬うるさすぎたようだ。


「ってことは俺の魔術成功したのか……」

「あなた魔術師なんですか!?向こうの世界に魔術師なんていたんですね……」

「いや、俺はただの大学生です。魔術師とか知らない」


 でも魔術使えたんだからそうなるのか?


「え……」


 少女は急に俺の顔をじっと見た。


「本当ですね。魔力がとんでもなく少ない……これじゃ転移魔術なんて使えませんね」


 あからさまにがっかりされた。あった方がおかしいだろ!?地球人なんだから!

 俺から目を離した少女は俺と共にあっちから転移してきた本を見つめて、ハッとした。


「ちょっと待ってください、その本あなたのですか?」

「あ、そうですけど……みます?」


 少女は本を手に取り表面に書かれた文字をみる。


「これは……本物ですかね…少し借りてもいいですか?」

「え、ええ。その本に何かあるんですか?」

「これは空間と転移の研究が記された大魔術師クリオラケルスの魔術書――もしくは聖典…かもしれないものです」


 くりお……なんて?


「これが本物なら国どころか世界が揺れますね。戦争も起こるかもしれません」


 何でそんな大層な本が日本の古本屋で売ってんだよ。

 つか、そんな危ねえのこの本……渡すの危険じゃねえか?


「あ、貸すのなしってことで、俺がもっとくってことでどうでしょう……」

「……残念ですが所有者の意見は尊重しなくてはいけませんね。すみませんでした、返します。ですがむき出しという訳にはいきませんね……それに合うカバーが私室にあるかもしれません。あとで持ってきます」


 表紙でばれちゃ怖いもんな。配慮が神がかってる。

 それはそれとして、だ。


「あの、いろいろ聞きたいことがあるんですけど」

「ああ、失礼しました。とりあえずおかけになってください」


 木製の椅子を勧められたのでありがたく座ることにした。

 いかんせん石の床が冷たい。

 あたりをちゃんと見ると本がたくさん置いてある、あれは魔法陣の設計図か?


「きになりますか?ここは私の魔術工房です。私も初めて工房を見た時はびっくりしました」

「はあ~なんかこれこそって感じがしますね」


 アニメなんかに出てくるものにそっくりだ。

 これぞ俺の憧れ。


「それで話を始めようと思うのですがその前に……」


 少女はまた俺の顔をじっと見る。


「な、なんですか?」


 そしてため息をついた……礼しちゃうわ。


「そのだらしない顔やめていただけませんか。みっともないですし見てて不快なので」


 どうやら憧れの異世界に来てしまったせいか、人を不快にさせるような顔をしてしまっていたようだ。


「失敬。おほん。はい、これでどうでしょう」


 これならいいですと頷いてくれた。

 ほかの人に見られないうちに注意してくれて助かった…。


「はい。ではここがどこからですね。ここはクラネル王国のカクラという都市です」

「聞いたことないですね」

「異世界ですからね。それで私たちがいるここは世界有数の魔術学校、クラース魔術学院といいます」


 覚えられなさそうだから紙とペンを貸してもらった。

 ここでは高価らしいからあとで返すことになった。借りた分どうやって稼ごう…。


「ここは日本とか地球とは完全に別の次元にある、と思っていたのですがその魔術書を見る限り案外近いのかもしれませんね」

「俺が転移してきたのってなんでかわかります?」

「そうですね……私が使った魔術陣が原因かもしれません」


 俺が初めて来たとき、下にあった魔術陣をみた。魔法陣じゃないんだな。


「あれは元の世界に帰ることを目的とした転移魔術の試作なんです」

「へー……戻りたいんですか。あっちに」

「はい。何の前触れもなくこちらに飛ばされましたから。未練しかありません。会いたい人もいますし」


 分かりにくいけそちょっと寂しそうなかんじがする。

 そっか。自分から来ようとした俺とは全く違うな。


「まあ、すでにこちらで五年ほど経過しているので難しいかもしれませんね」

「海外留学と思えば……ていつ戻れるかもわからないですもんね。すみません」

「いえ、いいんです。ちなみに私は二千二十一年から来たのですが、あなたはいつから?」

「二千二十三年です」


 少女は鼻下に指をあてて考え始めた。


「向こうで経過した時間が二年…時間の齟齬が……時間に関しても魔術陣に組み込む必要が――あ、すみません。こういう話になるとつい。話を戻しましょうか」


 根っからの研究者って感じだな。…もしくはそれほど帰りたがっているか。


「あの魔術陣なのですが。向こうの世界のものをこっちに呼び寄せるためのものなんです」

「で、俺が呼び出されたってわけですか」


 しかし首を振った。


「指定していたのは無機物です。人間はそれに該当しないのですが…」


 うーん。転移魔術に明るいわけじゃないしな。というか全然知らない。

 俺が知ってるのはかっこいい詠唱だけだ。


「魔術陣が間違っていたのか、それともなにか……」

「もしかしてこの魔術書が関係あるとか?」


 この、くら……何たらの魔術書は元々こっちの世界のものらしいしな。


「そうですね、転移前に何かおかしなことはありませんでしたか?」

「あー同好会でこれもって詠唱してたら、転移って言葉に反応していきなり光光を放って……気づいたらここに」

「詠唱って魔術のですか?」

「まあ、ほとんど思い付きですけどね、魔術師でもないですし」


 本気でやってたのは事実だが……恥ずかしいとは思ってないぞ?


「変な同好会ですね」


 変とはなんだ変とは…。


「でもそうですか。言葉に反応して……そこに秘密がありそうですね。この工房に来たのはおそらく偶然、転移魔術陣を起動していたからなのかもしれません」

「なるほど。俺としては幸運でしたね」

「何がですか?」

「字が違うってことは言葉も違うってことでしょう?同郷の人のところに来れたってのは助かりますよ」

「なるほどですね。私もそうなって欲しかったです」


 少女は遠い目をした。

 きっと苦労したんだ。女の子ならなおさら。


「今の成長具合からして五年前……小学生くらいですかこっちに飛ばされたの」


 いっちゃ悪いがよく生き残れたな。


「いえ、私はもともと四十代なのですがこっちに来てからなぜか十代の体になったのです」

「え!?俺より年上……えっと」


 二回りくらい違うじゃねえか


「敬語はなしでも構いませんよ?」

「私はこれが通常なので気しないでください」


 そういう感じのひとなのか。ありがたいが…でも流石に目上の人だから敬語をやめるのは俺のポリシーに反する。


「こっちで五年過ごしているのですが歳を増している気がしませんね。喜ばしいものですが」


 ほっぺたを両手でムニムニしている。

 四十代で五年って言ったらもうすぐ……いや年齢の邪推はやめとこ。

 しぐさも全部謎にかわいいから今まで聞いたことは忘れよう。この人は女子高校生だ。


「さっきの話に戻りますけど、この魔術書の近くにいたから転移してきたってことですよね」

「おそらくは」

「近くに二人いたんですけど、そいつらはどうなったんでしょう」


 あの部屋には庄司も伏見もいた。でけどこっちに来たのは俺だけだ


「別の場所に転移した可能性もありますが……あなたの詠唱とやらに反応したのだとしたらそのまま残っているのではないでしょうか」


 そうならいいんだけどな。見ず知らずの言葉も通じない場所に飛ばされるのは怖い


「この魔術書ほんとに力あるんですね」

「はい、それ自体に魔力を感じます。でも魔術書とはそういうものです。ああ、それだけで何の魔術書なのかわかることはありませんので安心してください」


 ポカいない限り命を狙われることはなさそうだな。


「そうか、まあ転移した理由の詳細は今後の俺次第ってことですね」

「私も手伝います。研究の糸口になるのは確かですし、あと…その……その魔術書も見せていただきたいので」

「はい。俺にもできることがあるなら協力させてください」


 この少女ならこの本に関して言いまわることもないだろうし、いいか。


「あの、それでお願いがあるんですけど……」

「なんでしょう。私にできる範囲でお願いしますね」

「文字と言葉教えてくれません?」


 生きていくには絶対に必要だ。教えてもらえるなら教えてもらわないと。


「なんだ、そんなことですか。構いませんよ」

「それとどこか働ける場所を……言葉が伝わらなくてもやれるところがいいんですが。あなたがこっちに来て最初にした仕事とか」


 金がないと紙とペン代どころか飢え死にしてしまう。できれば少し貸してもらいたいくらいだ。

 図々しいけど必ず返すから…。


「私の場合はゴミ漁りしながら二年で話せるようになって冒険者になりましたね」


 なかなか逞しいな。俺はできる気しない。


「冒険者ですか。ロマンですね」

「そうですか?低級の間は一日一食食べられるかどうかで野宿をしないといけないのでお勧めしませんね」


 ……いけるか、俺。いや無理だな。


「階級を上げるにはほとんど死と隣り合わせですし、冒険者になるのは困窮した生活をしている人か狂戦士くらいです。一部例外もありますが、あなたはそれではないです」

「ロマンとか言ってすんませんでした」


 少女は小さく笑った。さすがにこの手のひら返しは笑われても仕方ない。


「ですので、私の助手として働きませんか?これでも結構稼いでいるのであなたを雇うくらいは余裕ですよ」


 腰に手を当てつつましい胸を張った自慢気な女神がいる。


「それに語学を教えるならそばで勉強した方が早く覚えられます」

「ありがたいですけど、いいんですか?」

「はい、こちらからお願いしたいほどです」


 俺にそんな価値が……同じ日本人だもんな


「その本をみすみす逃すわけにはいきませんから」


 俺は椅子から転げ落ちた。


「ふふ、冗談ですよ。詠唱やらについても教えて貰いたいので」

「冗談とか、大人げないですよ……」

「年齢の話をするなら給金減らしますよ」

「申し訳ございませんでした」

「ふふふ」


 表情がそこまで変わらないが感情はしっかりわかるし冗談もいえる。いい人に拾われて?よかった。


「じゃあよろしくお願いします……えっと、名前聞いてませんでしたね。俺は舞人。漢字は……いいか、ここでは使わないですし」

「私の名前はマイ、なのですが・・・ややこしくなりますね」

「あーじゃあ、あだ名でブジンって言われてるのでそっちにしましょうか」

「いいんですか?変えてしまって」

「はい」


 特に思い入れがあるわけじゃないしな。


「ですが、それはこちらの人間からしたら呼びにくいかもしれませんね。意外と日本名は多いのですが濁音が続く言葉は何故か聞き取りづらいみたいです」

「そうですか、ならブをとってジンにしますか」

「はい。その方がいいでしょう。では、これからお願いしますね。ジン」


 俺たちはがっちり握手した。

 帰るつもりはないけど、世話になる人の手伝いはちゃんとしよう


「あと、こっちの魔術についても教えてもらえませんか?とくに詠唱魔術について」


 俺はそれに憧れてここきたんだ。なら教わらない手立てはない。


「はい、いいですよ。私には魔術の心得がありますし、よければ私の師匠を紹介しましょう。異世界人というなら歓迎してくれるはずです。あとその魔術書のこともありますから」


 これで俺の異世界ライフに花が咲いた。よっしゃ勉強頑張るぞ。


「ただ」

「ただ?」

「この世界に詠唱魔術が存在しているかは定かではありません。もしかしたらないかもしれませんのであまり期待は――」



「はああああああああああああああああああああああ!!!!?????」

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