03-2.反乱
「そうだな」
香月は氷叡剣を振るう。
舞を踊るように振るえば周囲は凍り付き、後宮は氷の要塞となる。
「反乱軍を鎮圧せよ!」
勇ましい声が反乱軍の背後より響いた。
皇帝の正規軍である麒麟軍の到着だ。武装した麒麟軍たちは反乱軍の背後を狙い、攻撃を開始する。それは瞬く間に鎮圧された。
「私が出る幕はなかったわね」
「貴妃。……いえ、来ていただけただけで士気があがりました」
「そういうものかしら」
美雨は笑った。
それから、大剣の先を香月に向けた。
「反乱を企てた李浩然の娘かしら?」
美雨は問いかける。
……そうだ。
香月は心の中で肯定する。
それを言葉に出してはならないと知っていた。
「いいえ」
香月は否定の言葉を口にした。
「私は玄玥瑶の子だ」
香月は玄家の新たな当主となった玥瑶の名をくちにした。
念願の当主になれたのだ。
玥瑶は今回の反乱を玄家が仕組んだものではなく、浩然が羅宰相と共に企んだものだと言い切るだろう。そうすれば、玄家は罰を受けない。
「そう」
美雨は大剣を床に下ろした。
「今回の活躍、お見事でしたわ。賢妃」
「貴女が背後を守ってくれたおかげです、貴妃」
互いを褒め合う言葉を口にした。
その間、反乱軍は鎮圧され、羅宰相と浩然は麒麟軍の兵士に捕らえられていた。
* * *
終わってみれば呆気のない反乱だった。
後宮の協力を得ることができず、反乱の計画が筒抜けになっていたのが原因だろう。
「賢妃」
俊熙は皇帝として声をかける。
王座に座り、香月を見下ろす。
「はい、陛下」
香月は最敬礼の姿勢をとりながら、返事をした。
「今宵の活躍、見事なものだった」
俊熙は現場にはいなかった。
後宮の奥にある玄武宮に部下と共に控えていただけだ。
「褒美を与える。なにが良い?」
俊熙の言葉に異論を唱える者はいなかった。
香月の活躍がなければ麒麟軍は反乱軍の隙をつくことができなかったからだ。
「朱徳妃の廃位を求めます」
「なぜ?」
「後宮内で呪術を広めた張本人さえいなければ、李浩然は立ち上がらなかったでしょう。羅宰相も同様です」
香月の発言に誰もが関心をした。
守護結界の存在を知る者だけが集められている。
その中でも香月は守護結界をはっきりとみることができる。それを示したのだ。
「わかった」
俊熙は香月の提案を受け入れた。
「朱家には新たな徳妃を差し出すように手紙を出そう」
「ありがたき幸せにございます」
「気にするな。いずれ、呪術を使った者には罰を与えるつもりであった」
俊熙はそう答えた。
* * *
羅宰相と李浩然は反乱を企てたとして処刑になった。
それと同時に後宮中で騒ぎになったのは、徳妃の廃位だろう。廃位の決定を聞かされた万姫は暴れたものの、鎮圧されて、朱家に戻された。
新たな徳妃が数日以内に後宮入りをすることだろう。
「……雲嵐」
香月は木犀の木を眺めながら、今は亡き、幼馴染の名を呟いた。
「仇は討った。だから、静かに眠ってくれ」
香月の目から涙が流れる、
その隣には俊熙の姿があった。
完結




