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後宮妃は木犀の下で眠りたい  作者: 佐倉海斗
第三話 賢妃の才能は底知れない
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03-2.四夫人の茶会

「翠蘭妃は玄武の舞が踊れなかったでしょう?」


 雪梅は非難するように声をあげる。


「そのせいで結界には亀裂が入ったわ。賢妃として責任をとるべきだと思うわ」


「そんな! 香月お姉さまのせいではないですぅ!」


「それなら、貴女が責任をとるの? 徳妃。貴女の舞も酷いものよ。舞の修練を重ねてから言ってくださる?」


 雪梅は誰に対しても遠慮はしない。


 遠慮をするような教育を受けていない。誰に対しても常に平等であり、皇帝以外には従わない。それが淑妃の在り方であると信じていた。


「でも、でも。お姉さまなら、亀裂の修復もできると思うんですぅ」


 万姫は意見をころりと変える。


 手のひらを簡単に返すのは万姫のやり方だった。自分にとって都合の良い話の展開にならなければ、他人の意見に乗る。そうすることで後宮を生き残ろうとしているのだろう。幼い考えだった。


 ……亀裂の修復か。


 亀裂が広がるのは防ぐことができた。それは同時刻に結界を張る為とはいえ、四夫人が舞を披露していたからこそできたのだ。


 しかし、空いた穴を塞ぐことはできなかった。


「結界を張る際の話を聞いてもいいでしょうか」


 香月は賢妃として問いかける。


 ……全員が宝貝を所有しているとは思えない。


 仙人が残した宝貝を所有し、使いこなすことができる人は限られている。その貴重な人物を後宮に渡すのはめったにないことである。


 香月は例外だった。


 皇帝が香月を指名したのだ。その理由がなければ、後宮に送り込まれていたのは妹の紅花だったはずだ。


「お姉さまの質問なら、あたし、なんでも答えますよぉ」


 万姫はにこりと笑いながら愛想を撒く。


 強い人物を味方にしようとしているのだろう。本音がわからなかった。


「徳妃は宝貝を使いましたか?」


「使いませんよぉ。あれは朱家の宝ですものぉ。あたしは触ったこともないですぅ」


「そうでしたか。淑妃と貴妃はどうでしょうか」


 香月は淡々と問いかけるだけだ。


 その様子に万姫は満足しているようだった。


「宝貝の持ち主に選ばれたのならば、後宮にはいないわ」


 美雨は即答した。


 明言は避けたものの、宝貝を持っていないと言っているのも同然だ。


「わたくしは淑妃ですもの。当然、宝貝を使って結界を張ったわ。運が良ければ結界の亀裂を抑えられる絶好の機会でしたもの」


 雪梅は自慢げに答えた。


「梅花」


 所持している宝貝、梅花を呼び出す。


 その名の通り梅の花があしらわれた扇は美しく、舞を踊るのに向いているものだった。


「わたくしの宝貝は舞を踊る為のものですもの。淑妃に選ばれる条件の一つですわ」


 雪梅は攻撃力のない宝貝を欲した。

 それは後宮で暮らす為には必要不可欠なものであった。


「賢妃も宝貝を所有しているのでしょう?」


「はい。私の宝貝は剣ですので、この場で披露するわけにはいきませんが」


「かまわないわ。わたくしは見せつけたかっただけですもの」


 雪梅は梅花を机の上に置く。


 そうすると披露する為だけの役目を終えたかのように梅花は光の粒となった。


「二人も宝貝を所持しているなんて、今までなかったでしょうね」


 美雨は羨ましそうに答えた。


 美雨も宝貝を所有する為の試練に挑んだことがある。しかし、その試練を乗り越えることができず、四夫人の一角である貴妃として後宮入りをすることになったのだ。


 美雨は後宮妃になりたくなかった。


 自由のない生活を送りたくはなかった。


 その願いは叶わなかった。だからこそ、宝貝を持ちながらも後宮に入ることになった二人に対して同情をしてしまう。


「香月は玄家の跡取りだったでしょ」


「そうですね」


「四大世家の会合で見たことがあったもの。それなのに後宮入りをさせられるなんて、翠蘭妃を恨んでいることでしょうね」


 美雨はため息を零した。


 四大世家の会合は定期的に行われる。主に当主の話し合いが行われているのだが、同時に跡継ぎとなる四人の会合も行われるのが通例となっている。その内の一人が玄家の香月だった。


 ……恨む?


 そう問われたのは初めてだった。


「後宮入りをしたのは父上に命じられたからです」


 香月は答えた。


 それ以外の理由を口にするわけにはいかない。


「翠蘭姉上の死を悼むことはあっても、恨むことはありません」


 香月の言葉に美雨は酷く驚いていた。


 ……恨んでいると思われていたのか。


 意外だった。


 身内の死を悼むことはあったとしても、恨みはない。


 ……それはそうか。


 玄家の当主候補から外され、後宮妃に選ばれたのだ。翠蘭が役目を果たせていたのならば、香月は後宮に来ることはなかった。


 恨んでいると思われていてもしかたがないことだった。


「……真っすぐすぎて痛々しいわ」


 美雨は目を細めた。


「後宮は華々しい場所じゃないのはわかっているくせに。どうして、そこまで純粋でいられるの?」


「純粋ではありません。役目を果たすだけです」


「それが純粋だというのよ」


 美雨はため息を零した。


 どうあがいても香月のように考えられなかった。


「四夫人なんて立場を与えられただけの結界を維持するための生贄よ。私たちは籠の中の鳥なのよ」


 美雨は貴妃だ。


 四夫人の中でもっとも位が高い。


 それに満足をするような女性ではなかった。


「自由に生きようとすれば、恨まれるだけの場所に連れて来られたことを恨まなかった日はないわ」


 美雨は法術を使える道士だ。しかし、宝貝を手にすることは叶わなかった。それだけで青家の当主候補の座を外され、守護結界を維持する為だけの貴妃に選ばれた。


 それは屈辱だった。


「愛しても報われはしない。後宮の籠の中に押し込められて、恨みたくなる気持ちもわかってしまうのよ」


 美雨は皇帝を慕っている。しかし、その愛が報われないと知っている。


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