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後宮妃は木犀の下で眠りたい  作者: 佐倉海斗
第三話 賢妃の才能は底知れない
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03-1.四夫人の茶会

 怨霊騒動が終わった翌日、香月は茶会に招かれていた。

 急遽開かれた茶会の主催者である淑妃、(バイ) 雪梅(シュエメイ)は目を輝かせながら、香月を歓迎した。香月に遅れて茶会の場に到着した貴妃、(チィン) 美雨(メイユウ)と徳妃、(ヂュウ) 万姫(ワンヂェン)も同様だ。


 文でのやり取りはしていたものの、香月は注目を集めるとは思っていなかった。それぞれのやり方で怨霊に対峙する覚悟があるのだろうと、勝手に考えていたのだ。その予想は大きく外れていた。


「あの怨霊を倒すなんて! 香月お姉さまは素敵ですぅ!」


 万姫は香月に遠慮なく擦り寄る。


 十三歳の万姫は侍女と下女に囲まれて震えていたようだ。次が自分の番ではないことだけを願いながら、必死に結界を維持していたのだろう。


「徳妃。はしたなくてよ」


 美雨は万姫を注意する。


「徳妃は子どもなのよ」


 美雨は機嫌が悪かった。


 菓子を食べ、万姫を睨む。


「でもでも、万姫は香月お姉さまがすごいと思いますぅ! みんなだって、そうでしょぉ?」


 万姫は子どものような口調で話す。


 幼い容姿を利用してかわいらしさを売りにしているのだろう。妹の紅花と同じ年齢とは思えないほどに幼い。十歳の時に後宮入りをしたとは思えない。


「それはそうよ」


 美雨は否定しなかった。


「香月でなければ怨霊退治なんて荒業できなかったわ」


「でしょう? でしょう?」


「徳妃。言い方がはしたないわ」


 美雨は万姫を注意する。


 それに対して万姫は気にもしていなかった。


 ……徳妃は幼いな。


 わざとらしさは感じられない。


 年齢よりも幼い気がするのは気がするのは、気のせいではないだろう。知識を最低限しか教え込まず、後宮入りをさせられたのかもしれない。


「貴妃、徳妃に注意をしても無駄だわ」


 雪梅は諦めているようだ。


「淑妃は諦めすぎなのよ。どうせ、今回の件も淑妃宮に籠っていたのでしょう?」


「それのなにがいけないの?」


「自分が狙われると思わなかったわけ?」


 美雨は非難する。


 それに対し、雪梅は気にもしていないようだ。


「思わないわ」


 雪梅は断言した。


「恨まれるようなことをしていないもの。お二人とは違ってね」


 雪梅は文に書かれた通り、結界は張ったものの、警戒すらしていなかった。


「それに香月が祓ったのだからいいでしょう?」


 雪梅は黄藍洙に対してなにもしていない。


 助けもしていないが嫌がらせや見下すような言動もしていなかった。だからこそ、恨まれるはずがないと高をくくっていたのだ。


「三人が結界を張ってくれたおかげです」


 香月は軽く頭を下げる。


「怨霊は祓えましたが、被害者も出ています」


 香月の言葉は事実だ。


 しかし、三人は動じなかった。


「被害者といっても充媛でしょう?」


 万姫はそれがなにがいけないのかと言いたげな顔をしていた。


「どうせ、すぐに補充されるわ。陛下は物好きですからぁ」


「陛下のことを悪く言うのは止めなさい」


「はいはい、一度しかお渡りのない淑妃様はお堅いことですねぇ」


 万姫はへらりと笑った。


「お渡りのないのは徳妃も同じでしょう!」


 雪梅は怒った。


 淑妃として選ばれたからには相当の自信があった。御子を成すのは自分だという自信を持てる見た目をしている。胸を強調するような服を着ているのは自信があるからだろう。


 しかし、俊熙は一度しか訪ねなかった。


 それも香月に関わる話をしただけであり、雪梅の自慢の肌には手を触れなかった。それは屈辱であった。


 香月にしか興味がないのだと俊熙は公言していた。


 雪梅は香月のことを知っていた。


 定期的に開かれる四神を守護にする四大世家の茶会の場で見たことがあった。三年前の姿ではあったものの、玄家を代表するのにはふさわしい見た目と実力があった。


 だからこそ、嫉妬はしなかった。


 自分では相手にもならないとわかっていたからだ。


「許せないのは翠蘭妃よ。あの子、なにもできなかったでしょう」


 雪梅は翠蘭に対して忌々しく思っていた。


「香月の代わりとはいえ、よくも堂々としていたものだわ」


「翠蘭姉上の評判は良くありませんね」


「それはそうよ。作法もなにもできない子が賢妃なんてありえないわ」


 雪梅の話を否定できない。


 ……当然か。


 香月は怒る気にもなれなかった。


 賢妃として紹介された時、三人は落胆したことだろう。玄家を代表する女性と言えば香月だった。当然、皇帝の妃として香月が選ばれるものだと思っていた。


 ……父上はなにを考えていた?


 香月は父を初めて疑った。


 ……姉上が恥をかくのは当たり前の話なのに。


 香月の代わりならば紅花がいた。

 万姫と同じ年齢であり、気功も舞も習得している。しかし、紅花は後宮には耐えられなかっただろう。


「翠蘭姉上はなにも教えられていませんでしたから」


 香月の言葉を否定する者はいない。


「やっぱりね。そうだと思ったのよ」


 美雨は同意した。


「見たことなかったもの。玄家の血筋とも思えなかったわ」


 美雨の発言に対し、香月はなにも言わなかった。


 ……父上の子であるのは確かだが。


 誰もが知っている。


 玄家の血筋を持っているのは父ではなく、母の玄玥瑶だ。玥瑶の子でなければ玄家の本家の血筋ではないのは誰もが知っている。


 ……見た目は楊林杏に似たのだろう。


 翠蘭は林杏に似ていた。美人ではあったが、それだけだ。

 それだけで後宮は生きていける場所ではない。


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