5年の月日は私をあなたと同い年にした
5年前、私は15歳だった。
年が明けたら成人式を迎える。
だけどひっそりと、一人でその日を過ごすだろう。
あなたのいない成人式など、祝う気になれない。
あなたの年に追いついてしまった。
あの頃、あなたは私のことを子供扱いして、恋愛の対象だなんて見てはくれなかった。
一人のアパート、一人の部屋で、振り袖代わりにコスプレの衣裳を揺らす。
あなたが大好きだったゲーム『現神』の、あなたの推しキャラだった『ユンユン』の衣裳だよ。
目に鮮やかなオレンジ色の袖を振って、私は笑う。姿見に映るのは彼が好きだった女の子。
家庭教師の仕事はちゃんとこなしながらも、休憩するたびに彼女の話をしたよね。
あなたは私じゃなく、遠い世界の非現実存在に見とれながら、熱く、熱く、彼女の魅力を語ってた。
『ユンユンはね、俺の理想の女の子なんだ!』
そんなことを熱弁するあなたが恥ずかしかった。
『二十歳なのにあの純真無垢さといったら……! あんな女の子、リアルには存在しないよ!』
私はまた私で、恥ずかしい反論をした。
『じゃあ、あたしがもし二十歳になっても純真無垢なままだったら、あたしに恋してくれる?』
頭を撫でられた。
『君子は成長しろ。いつまでも子供のままなんて、リアルじゃ馬鹿にされるだけだよ』
そのてのひらの感触が、今でも頭頂部に残ってる。
あなたの言うことを聞いておけばよかった。
ううん……。後悔はしてない。
成長なんていらない。
あなたがいればよかった。あなただけが、側にいてくれればよかった。
年が明けた。
あなたからの年賀状が届いた。
懐かしい、あなたの癖のある文字を、私は追うように読む。
『明けましておめでとうございます。
君子ちゃんも今年で二十歳かぁ……。大人になったことだろうね?
もう2年も会ってないけど、元気かな?
君を大学受験に成功させて、僕が結婚してから、一度も会ってないよね?
3年も君の家庭教師をしたんだ。君子ちゃんは僕の妹みたいなものだから、たまには会いたいよ。
大人になったんだからお酒ぐらい飲めるだろ?
いつか一緒に飲もう』
嘘つき。
あなたは立派な大人の女性と結婚した。
あなたのあの言葉を信じた自分がバカみたい。
何のために私、子どものまんま大人になったの?
いーよ。
子どものまま、もっと大人になってやる。
これからの5年間もずっと、純真無垢でいてやる。
その先の5年間も、ずっと──
そうしていればきっと、あの時のあなたのようなひとに会えると信じてるから。