9話「たとえ時に弾き合っても」
ウェネスと暮らし始めて一週間ほどが経ったある日のこと。
彼と二人で街へ買い出しに行っていたところ、路上にて、謎の刺客に襲われた。
――そしてウェネスが腕に傷を負ってしまった。
「ごめんなさい……大丈夫ですかウェネスさん……」
「大丈夫ですよ」
今は二人の家に戻ってきている。
買い物は少し早めに切り上げて帰ってきた。そして彼は今自分で自分の腕を手当てしている。厳しい環境で育ってきたからか自分の手当てをすることには慣れている様子だ。
私はただそんな彼を見つめているだけ……。
こんな時にすら何もできなくて、申し訳なさが胸の内を蹂躙している。
心の状態も下り坂。
せめて前みたいに刺客を捕まえられたら良かったのだけれど、今回に関してはそれすらままならなかった。襲いかかってきた男は人混みに紛れるようにして逃げてしまった、それもまたもやもやを強めている。
「まさか本当にまた刺客に襲われるなんて思わなくて……」
「オレッタさんのせいじゃないです」
「でも、私を狙っている輩によって貴方は傷つけられたのですよ。それってほぼ私のせいみたいなものです。申し訳ないです」
「こういう時のために二人で暮らし始めたのではないですか」
「でも……」
「ああもう! いい加減にしてください! ちょっとしつこいですよ」
ウェネスは珍しく調子を強めた。
「……ごめんなさい」
こちらが謝れば、彼は気まずそうな顔をする。
それからしばらくはお互いに何だか気まずくて、上手く言葉を紡げず、普通の会話すらなくなってしまった。
――その夜。
「眠れませんか?」
暗闇となった部屋で横になるもなかなか寝付けずにいたところ、ウェネスにそんな風に声をかけられた。
ごそごそし過ぎて気づかれてしまったようだ。
「……あ、はい」
気まずさの残り香のせいで以前のようには返せない。
しかし無視するのも不自然なので一応返事はしておいた。
「色々ありましたからね、無理もないですよね」
「……お気遣いありがとうございます」
少し間があって、ウェネスは発する。
「その……先ほどは失礼しました、言い方をきつくしてしまって」
ベッドとベッド、お互いの姿はよく見えない。そこにいると分かってはいても、それ以上の情報は目から入ってこない。が、だからこそ顔つきを見て恐れるでも怒らせないよう警戒するでもなく、純粋に発された言葉だけを聞くことができた。
「い、いえ。私こそ、余計なことばかり言ってしまってすみませんでした」
闇の中、私たちは謝り合った。
でもその方が良かったと私は思う。
だってこれからずっと気まずいままでいるなんて嫌だから。
せっかくこうして共に生きることができているのに、楽しく過ごせてきたのに、それを手放すような真似――できることならしたくない。
たとえ時に弾き合っても、それでも、仲直りして。
そうやって生きていきたい。
「取り敢えず、今後も気をつけつつ生活しましょう」
「そうですね」
雨降って何とかとも言うし?
「もし僕に何かあっても、もう自分のせいみたいに言わないでください」
「え……」
「貴女は何も悪くない、悪いのは貴女をつけ狙う輩。それが僕の考えなので」
「甘えてしまって良いのでしょうか……」
「良いのです」
「……そうですね、分かりました。……甘えさせてくださって、ありがとうございます」