6話「予想外の展開で」
「美味しかったですね!」
また一つお気に入りの店が増えた。それが何だかとても嬉しくて、ついつい顔はにやけ足取りは軽くなってしまう。声も普段より高くなっているかもしれない。
「オレッタさんが気に入ってくださったなら何よりです」
「サンドイッチ最高でした」
「ああ良かった、ほっとしました」
「ウェネスさんって慣れていないというわりには結構センスありますね」
「褒めていただけて嬉しいです」
――刹那。
「死んでもらうぞ!」
私の右腕側から見知らぬ男が駆け寄ってきた。
物騒な言葉を放っているうえ手には刃物。
「え」
一瞬笑えないジョークかもと思ったがそれにしては男の目が黒く光っていてそうではないのだと察する。
でもその時には距離がかなり縮まっていて。
刺される――!
そう諦めかけたのだが。
「何なんですかあなた」
私に向かって突き出された刃物を払い落とすウェネス。
その瞳は見たことがないような鋭さを放っていた。
ウェネスは武器を失った男の片腕を掴むと勢いよく放り投げる。男の筋肉のついた身体が宙を一回転、そのまま地面へ落ちた。背中を強打した男は唾を吐き出すかのような息が詰まるような短い声をこぼす。が、二秒も経たないうちに懐からもう一本刃物を取り出した。それで反撃しようとする男。しかしそれを素早く察知したウェネスは魔法を発動し――地面に寝そべる体勢のままの男を木の根のようなものでぐるぐる巻きにした。
「せっかくの楽しい時間を台無しにしないでください」
男を見下ろし呟くように言い放つウェネス。
「最低ですよ、襲いかかるなんて」
男は地域の警備隊へと突き出された。
「ウェネスさん、お強いんですね」
「いえ……」
「そうですか? 私から見ればとてつもなく強いですよ、尊敬します!」
「尊敬……なんて、僕には相応しくない言葉です」
「だとしても、私が貴方を尊敬したという事実は事実ですから」
「……オレッタさん」
彼は褒められることに戸惑いを感じているようだったけれど。
「よく褒めてくださいますね、ありがとうございます」
やがてそう礼を述べた。
その後、男はバトレッサから依頼されて私の命を狙ったのだということが判明。
何でもバトレッサは自分がしたことをなかったことにしたいと考えているようなのだ。
つまり、彼にとって私は生きているべきでない人間なのである。
私が生きている限り、バトレッサが身勝手に婚約破棄した、という事実は消えてくれない――だから私の存在を消してしまいたい、といったところみたいだ。
「オレッタさんも苦労されていますね」
「すみません何か……申し訳ないです、巻き込んで」
ウェネスに怪我がなかったのが唯一の救いだ。
もし彼が傷ついていたら、多分、申し訳なさが強すぎて耐えられなかったと思う。
「いえいいんです。ですが、元婚約者がそのようなことを企んでいるのであれば、もしかしたらまた誰かが襲ってくるかもしれませんね」
「そうですね……」
「あの、これはあくまで提案、なのですけど」
「はい?」
ウェネスの方へ視線をやれば、彼は驚くほど真っ直ぐにこちらを見ていた。
「これからしばらく一緒に暮らしませんか?」
何を言い出すの? 急に。
……でもふざけている感じでもない。
「貴女の身が心配です」
「待って、一体何を」
「傍にいれば少しはお護りできそうだと思いまして」
「けど二人でなんてどこで」
「僕、今住んでいる家があるんです。そこで暮らすなら一人でも二人でも同じことです」