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4話「似た者同士な面もあり」

 私とウェネスの境遇はよく似ていた。


 彼もまた生まれながらに魔法の才を持っていた人間で、それで、親族やら何やら周りから愛されていなかったようだ。


 でも私より彼の方が酷い環境で育っている。


 彼は二十歳を過ぎるころまでほぼずっと家の地下室に閉じ込められていたそうだから。


「ここが……喫茶店?」

「そうです」


 今、私たちは喫茶店にいる。


 それほど広くはない店だ。

 でも爽やかな旋律が流されていて何だかとても心地よい。


 木の陰で長時間話すのも変かと思って、私が誘った。


 そしてここにいるのである。


「貴女は勇気がありますね、このようなところに入るなんて……」

「ウェネスさんはあまり来ないですか? こういうところ」

「僕みたいなのが入ったら問題かと思いまして……でも普通に入店できましたね」


 ウェネスは落ち着かない様子だ。

 どうやら喫茶店に入った経験があまりないようである。


 まぁ、初めてのことなんていうのは、誰だって緊張するもの――彼がどこか違和感を覚えつつここにいるというのもおかしなことではないだろう。


「けど、お金は足りるでしょうか」


 いきなりそんなことを言い出すウェネス。


「手持ちがあまりないですか?」


 問えば、彼は腰もとにつけた袋を手で掴んだ。


「そうですね……これが数枚、こっちが数枚、で、これが一枚……」


 袋の中身をテーブル上に並べ始める。


 不安そうにしていたわりには結構な額が出てきた。


「たくさんあるじゃないですか、これなら十分足りますよ」

「あ、そうですか」

「一日ちょこちょこ追加注文しつつでもいけるくらいの額はあります。ウェネスさん結構お金持ってますね」

「ちょっとだけの貯金です……」


 ウェネスはいつも目を伏せ気味にしている。決して派手ではないし、太陽のような明るさがあるわけでもない。が、その表情や目つきから感じられる哀愁が、見るものにある種の独特な愛おしさを感じさせてくる。


「お待たせしました~」


 やがて注文していた飲み物が出てくる。


「さ、ウェネスさん、飲みましょう!」

「これがアイスティーですか?」

「そうですよ! 冷たくて美味しいです。あ、シロップ入れたければどうぞ」


 彼は自分の前に置かれたグラスを不思議そうに眺め「シロップ……」と口の中だけで呟いていた。


「それを入れると甘くなりますよ」

「甘く……茶に砂糖を?」

「そうですね、そんな感じです」


 こうして彼と喋っていると、バトレッサ関係の嫌な記憶もどこかへ飛んでいってしまいそう。


 だからこそ私はこうしてウェネスとの時間を抱き締めているのだ。


 ほぼ初対面の彼とであっても一緒にいて話をしていればその間だけは苦痛から解放される気がして……。


「オレッタさんは入れるのですか?」

「はい、入れますね」

「砂糖お好きなのですか?」

「ええと……まぁそうですね、アイスティーにはシロップちょっと入れる派です」

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