2話「終わりと始まり」
バトレッサがこんな風に感情的になるのは初めてかもしれない。
これまでの彼はそれなりに優しかった。
だからこそ驚いたし衝撃を受けた。
こんな人だったなんて、と、悲しみすら生まれてくる。
「なんにせよ、これ以上話し合う気はない。なぜなら婚約破棄は決定事項だからだ。我が心は何を言われようとも変わらない、それだけがすべてだ」
彼は最後そう言って「出ていけ、もう俺の前に身を晒すな」と吐き捨てた。
どうしてこんなことになってしまったのだろう……。
私はただ彼を火から護っただけだったはず。それは善意からの行動だった。なのに今こうして捨てられて。確かに手にしていたものを強制的に捨てさせられてしまっているのだ。
部屋を出て少し歩くと顔見知りの侍女に遭遇する。
「オレッタ様? どうなさいました?」
「……婚約破棄されまして」
言いづらいけれど本当のことを言ったところ。
「えええ!! な、な、何なのですそれは!?」
かなり驚かれてしまった。
まぁ一応予想はしていた反応だけれど……。
「多分出ていくことになると思います」
「えっ!? ええっ!?」
「今までお世話になりました……ありがとうございました」
その後私は城から追い出されたのだった。
――でも行くあてなんてない。
我が力を恐れる両親から離れられる、そのことが嬉しくて、喜んで彼と婚約した。居づらい家から出られる、それだけでもいいくらいだった。けれどもそれも所詮は束の間の夢。私に本当の居場所が与えられたわけではなかった。結局私はいつだって同じように魔法の才のせいで捨てられる。環境が変わっても、相手が変わっても、結局のところは同じことが繰り返されるばかり。
虚しい……。
そんな思いを抱えて街中を歩いていた、その時。
「大丈夫ですか!?」
木の陰で倒れている人物を発見し、思わず駆け寄る。
その人物は青年だった。
二十歳は越えているだろう、恐らく二十代後半くらいか。
「どうされました!?」
「……っ」
彼は木の背後に隠れるように座っているが何やら顔をしかめている、調子が良くなさそうだ。
「もしかしてお怪我を!?」
「……ぁ、貴女は、一体」
警戒心を隠さない青年。
彼の髪は暗い茶色だった。
「あっすみません急に。いきなりで驚かせましたよね。私はオレッタといいます、通行人です」
「通行、人……」
「ここにいらっしゃるのをたまたまお見かけして、それで、何かあったのかと心配になりまして」
言ってみれば。
「……気にしないでください」
そんな風にそっけない言葉だけが返ってくる。