13話「そして来るその時」
魔法使いを雇ってもなお暗殺に失敗し、バトレッサががっかりしていたちょうどその頃――ある一人の侍女がその件についてリークしたことで事が大きく動き出す。
国王の耳にバトレッサの悪い行いの情報が飛び込んだのである。
「バトレッサ、お前、勝手に婚約破棄したのみならずオレッタ殿を何度も殺そうとしたそうだな」
もちろん国王は激怒した。
「え……」
婚約破棄だけでも失礼だというのに、暗殺しようなど。
いくら息子であっても許せないことはある。
元より真っ直ぐな人間である国王はそう考えている。
「どういうことだ。迷惑ばかりかけおって」
「ち、父上! 誤解です! それは何かの間違いで――」
「お前つきの侍女からの情報だ、間違いだろう。それに証拠物も集まっている。契約書、とかな」
「な……」
日頃は非常に身勝手なバトレッサでも、父にはさすがに逆らえない。
「それゆえ、今さらごまかそうとしても時既に遅しというやつなのだ」
「そ、そんな……」
「よって! バトレッサ・オーディオン! 勘当する!」
「ななななぜ!!」
「お前のような黒い悪そのものの人間は、我が王家の人間ではないとみなす」
「しかし! 実の息子です!」
「だから言っておるだろう。勘当する、と。縁を切るのだ」
こうしてバトレッサは、王子という位をはく奪され勘当されたうえ、体罰刑に処された。
身柄を拘束された彼は一日十五時間以上罰を与えられる暮らしを強制されることとなる。
「お、俺は元王子だぞ! こんなことをしてただで済むと思ってるのか!」
「元ですからね、今は誰も貴方の味方にはなりませんよ」
「むっ……鞭打ちは……やめてくれそれは! 頼む! 怖いからやめて! やめっ、あ、や、あああああああああ!! 助けてええええええええ!!」
それによってバトレッサの精神は崩壊していって。
「も、もう、殺して、ください、どうか、これ、以上はもう、どうか……や、やめてくだ、さい、死なせて、くだ、さい……お願い、します真面目に、お願い、しま、すから、早く生を、終わらせて、くだ……っ、ぐぎゃああああ!! ぎゃあああああ!! あああああああ!! 助けてええええええ!!」
やがて死を望むようになり、しかし死なせてはもらえず。
――バトレッサへの罰は何年も続いた。
終わりなどない地獄に彼はいる。
しかしそんな場所へ行くこととなってしまったのは自分の行いゆえだ。
だからバトレッサに同情する人間はいない。
自業自得よね――皆、口を揃えてそう言うのだ。
それに、実際自業自得の要素が大きい。
それゆえ誰にも同情してもらえない、それはある意味当然のことで当然の報いだ。
バトレッサはこれから先も生きる限り痛めつけられ続けるだろう。
永遠に終わらぬ悪夢の中で、誰からも愛されずに生きるのだ。
◆終わり◆