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日常系、時勢・時事問題のエッセイシリーズ

経験者は語る。今回のようなバス事故を減らしたいならリターダーを義務化して必要となる道路整備もすべき

 令和4年10月下旬に発生したバス事故は様々な憶測と混乱を呼び、現在でもその爪痕は業界内に深く刻まれたまま癒えていないと言える。


 そのような中で続々と明らかとなる事実関係。


 本日のニュースによりバスは事故直前時速90km/hにまで達していたことが判明し、ギアポジションニュートラルの状態のまま加速し続けたのではないかという疑念は恐らく事実であろうとにわかに囁かれはじめた。


 ここで少し筆者について情報を伝えておきたい。


 普段法律系の仕事をしている人間は大型二種を取得し、運転代行、派遣運転手、プロドライバーを通して大型トラック、大型バスを業として運転経験がある立場である。


 ただし大型バスは業としてはよくある観光バスより少し小型の9m級であり、フルサイズの12m級は数回程度。


 それでも尚、運転経験から業界内の問題や状況については相応に理解しているつもりだ。

 よって、これら一連の大型車経験より問題点・改善点等について改めて掘り下げようと思う。


 まず今回のバス事故の問題に関する業界内の問題は5つあると言える。


 1つ目。


 ”リターダー普及率の低さ”


 すでに判明しているが今回のバスにはリターダーは装備されていない。


 いや、そもそも大型バスにおいてリターダーの普及率は大型トラックと比較しても極めて低く、普及が課題となっているレベルだ。


 ではリターダーとは何かについて改めて簡単に説明しておこう。

 リターダーとは補助ブレーキの一種である。


 日本国内においてはおよそ半数の大型車が装備されているとされるが、その大半は大型トラックであり、大型トラックはその費用対効果も相まって普及率は比較的高め。


 国内では主として"流体式"と"永久磁石式"の二種のどちらかが装着されているわけだが、前者はトルクコンバーターの原理を応用した補助減速ギアとも言うべきものであり、流体と羽根車を利用して生じる負荷を減速に用いるもの。


 もう1つの"永久磁石式"とは日本が発明した発明品であり、元々国外では電磁式と呼ばれる電磁石を用いてプロペラシャフトに制動をかける電磁式が存在したところ、電磁式は仕組み上電流が流れないと作動しない事、流体式と比較して強力な制動はかかるがシステムが大掛かりで重量面で不利な事から、新たに日本メーカーが挑戦してついに開発に成功したものである。


 永久磁石式、電磁式双方共にローレンツ力を利用して減速を試みるいわゆる鉄道用の発電ブレーキと概念は同じものであるが、ある時期まで永久磁石式が存在しなかった理由は発熱にある。(なお細かい作動原理は鉄道用の発電ブレーキとは異なる)


 時に構造体が700度を超える可能性もある永久磁石式では、最大の懸案事項として"熱処理"の問題があった。


 主に2つの観点から熱問題は永久磁石式の実現化を阻んでいて、1つはキュリー温度。


 急制動をかけた際キュリー温度に到達したら当然渦電流は生じずローレンツ力は無くなってしまう。(内蔵された磁石の種類によってはキュリー温度に達しなくても磁力が落ちてしまう)


 すなわちドラムブレーキでいうフェード現象と同じく突然ブレーキが利かなくなる危険性を孕む。


 併せて構造体の耐久性の確保。


 永久磁石式は主として磁石を収めているローターは大気温度と同じ程度から一気に600度ほどの上昇がなされ、そこからまた一気に冷却されることを繰り返す。


 この発熱と急速な冷却に耐えられる構造体及び永久磁石というのがある時期まで存在しなかったので開発においては大変に苦労を要したとされる。


 現在存在する永久磁石式は既に誕生から30年以上が経過。


 世界では流体式が主流な中、日本国内では永久磁石式が主流足りえるほどの信頼性を確保しているが、前述の問題をクリアしていった今はバスが想定しうる高速領域から減速しても磁力を失わないような断熱処理及び冷却構造とされており……


 内蔵された永久磁石たるネオジム磁石は作動時において"最大120度以上となる事は無い"とされる。(ネオジム磁石は一般的に100度以上となると急速に磁力を失っていく事への対処がなされた構造となっている)


 また、その磁石を内蔵しているローターもまた、発熱及び冷却を繰り返しても構造的破損を生じないよう作り上げられている。


 それこそ乗り比べた経験がある筆者からしても永久磁石式の方が制動力が強く信頼におけると言えるほどだ。


 なぜそう言えるかというと、流体式の場合はその仕組みから流体の抵抗力には限界があるため。

 しかもより高いギアであればあるほどエンジンブレーキが弱まり、その効力は弱まる傾向にある。


 よって現在主流の流体式は多段式であり、より効力を増大させられるようにされている。

 しかしこれにも当然許容限界というものがある。


 一方、永久磁石式の場合は発生した渦電流が上昇すればローレンツ力が高まる事から、速度上昇に対して発生した熱量を逃がすことが出来るのであれば現在速度に応じた制動力を常にかける事が出来る。


 それこそ万が一ニュートラルになってもどうにかなるかもしれないのは前者であり(最新式はそれをも想定して作られている)、真の意味で命を預けられるのは永久磁石式といって過言ではない。


 いや、そもそも流体式であっても危機感を抱く前に減速できてニュートラル状態を脱することが出来ることが当たり前である事から、あるか無いかという差も大きいのだが。


 この流体式リターダーすら装備していなかったのが今回のバスなわけだ。


 なぜ装備していないかというと、標準装備化されたのが最近であるからである。


 乗車経験がある方ならわかるだろうが、排気ブレーキなんてものは二段階式でろうがあってないようなもの。


 流体式リターダーですら5段階式なら最大の状態ならば相当な制動力を生じさせ、減速出来ないなんて恐怖を感じることはまずない。


 加速し始めた段階で5段階目にして減速して少しずつギアダウンする余裕がある。


 一方、排気ブレーキなんてのは"ちょっとエンジンブレーキ強いかな?"って感じな程度で、殆ど役に立たない。


 リターダー装備車との差は極めて大きい。


 しかし、費用対効果の面においてトラックと異なりその効果が大きくないなどと考えられたことから、バス会社から求められるケースは少なく、ある時期を境にするまでリターダーは標準装備化されなかった。


 そのある時期こそが長野県でのバス事故であり、その時期を境に……例えば今回の事故車両のメーカーでは2017年モデルから標準装備化された。(一部のタイプは標準装備化されていない)


 これも国交省からの要求あっての事だが、ここに大きな落とし穴がある。


 当時の状況を見ればわかるが、大型バス、それも観光用など車両の年間生産台数は多くて数百台。

 それに対して登録されているこの手の種別のバスの総数は2万台以上。


 2017年から2018年までは順当に生産数を伸ばしていた一方、2019年~2022年の間に半導体不足やコロナの影響で出荷数が大幅に減ってしまった中、一体どれだけの観光バスがリターダーを装備した状態となったのか?


 ましてや最新車両は大手企業ばかりが導入し、一見して新しいように見えても格安観光ツアーバスというのは基本中古車両を使うのが当たり前の中で一体どれだけのバスがリターダーを装備しているのか。


 ここを考えれば答えはあるだろう。


 それこそリターダー装備車両を購入した際の下取りに供されたバスをお下がりとして使わされることが当たり前のツアーバスにおいては、ほぼ装備していないはずだ。


 筆者も現場で見てきたが、これまで"リターダー装備車両"というバスを全く運転したことが無い。(経験0ではないが数回程度)


 というか、一部の現場では「リターダーって何?」って感じでリターダーの存在すら認知されてないレベル。


 私から見ても相当に優秀で、絶対事故とは無縁であろうベテランすら知らないのだ……その存在を。


 彼らはより強力な排気ブレーキか何かというような理解しかなく、説明しても「まあ、聞いたこと無いしね。装備してるバスとか全く無いんじゃない?」――ってそんな認識以上になる事は無かった。


 つまり、"必要だ!"――って訴える地盤すらないわけだ。

 一部の現場では。


 一方、ある地域ではきちんと認知されるばかりか、積極的に導入されていたりする。

 一体どこか。


 豪雪地帯である。


 永久磁石式リターダー等が登場した1990年代頃から、豪雪地帯を走る事が主である観光バスや高速路線バスでは、あるのと無いのとでは全く安全性が異なると理解された事から積極的な姿勢でもって導入が進んだ。(流体式含めて)


 ブレーキによってタイヤがロックして滑ったら崖下に転落するような環境で運転するような地域では、雪道でも安定した制動力であるリターダーは重宝され、運転手の負担軽減も加味しての導入であったわけである。


 ゆえに東北等の地域では導入されているケースはままある。


 というか、それを表明するかのように豪雪地帯だと真後に「リターダー装着車」と書いてある路線バスや高速バスをよく目にする。(新潟とか長野の一部とか北海道とか)


 このようにリターダーへの理解は雪が降り積もる地域ほど浸透しているし、そして豪雪地帯で営業するバス会社は今回のような重大事故の件数は少ない。


 リターダーはそもそも急制動にも効果があるわけだから、事故比率を下げるには大きな役目を果たす。


 しかし、業界での理解、そして国の動きの鈍さが今回の二度目の悲劇を生んだと言っても過言ではない。


 真面目な話、国交省は今回の件で現時点での全国のバスのリターダー装着率を調べた方がいいと思うし、義務化すべきだと思う。


 流体式と異なり永久磁石式の場合、後付けも可能であるのだから、それこそ補助金なりなんなり出して義務化すべきでは?


 例えば今回も問題になったけど、一部のバスの場合、フィンガーシフトはクラッチを守ろうとする仕様からエンジン回転数が高すぎるとギアが勝手にニュートラルになるし、高すぎた状態ではギアは入らない。(一部のバスでは無理やり入るようになっているがクラッチが死んだら同じ事)


 しかも入れたと思って入ってなかったときに気づかない事がありえる。(警告音が鳴らない)


 これをどうにかするために一番効果的な装備が"リターダー"なのに、その装備が無くてどうする。


 ニュートラルで排気ブレーキのみなんて油圧全損でエンジン停止した航空機となんら変わらないんですよ。


 どっかの有名番組の言葉を拝借するなら「もう助からないぞ」――である。


 特に昔と比較して排気ブレーキの性能がどんどん落ちつつある昨今において、鍛え上げられたドライバーが減ってきた現状でそれでいいのか。


 雪が多いお隣の国では義務化されていたりするので、正直遅れてると言わざるを得ない。

 なぜ2回目があっても話題にならないのかと言いたくなる。


 もう標準装備化だけではダメでしょ。


 ちなみにリターダー装着車はメーカー側が公表してるようにブレーキ使用回数は非装着車と比較して平均で1/3程度まで減る。


 また、永久磁石式の場合の制動距離は一般乗用車並みとなり、正直停止できるかどうかの恐怖よりブレーキをかけた時に乗客がシートベルトをしてなかったらそれで前面の座席に体をぶつけて負傷することを気にした方がいいぐらいの違いがある。(慣れてないドライバーが運転する車に乗車するとブレーキが強すぎて不快な思いをするぐらい普段と挙動が変わる)


 バスの回送業務をやった際に最新車両を運転する機会があったのだが、その違いに驚かされた。


 全く違うんだ制動力が。


 メーカー曰く時速80km/h時において通常のバスは緊急停止で80mの制動距離が必要だったところ、リターダー装着車は50m弱だったというが、30mも違うって相当な影響力である。


 一般的な乗用車の場合、80km/hの制動距離は状態が良くて40m程と言われてるわけだから一般乗用車並という表現もあながち間違いではないだろう。


 この制動力を下り坂で使うわけだから、ギアが入らない程に加速してしまう前にシフトダウンができうるというわけである。


 2つ目。バス会社の姿勢及び運転手への負担。


 会社にもよるが、基本的に運転手をどこにでもいるドライバーだと思うような会社ほど運転手の扱いはぞんざいである。


 それこそ国で定められた休憩時間をガン無視するなんてザラであり、1つの仕事から次の仕事まで数時間も猶予が無いなんて普通にある。


 どうやら今回もそのようなケースらしく、走行時間等を刻むデジタルタコメーターを外して工作していたなる情報が出てきた。


 まーこんなの当たり前なんですよね、冗談抜きで。

 筆者も一番ひどい会社では次の走行まで3時間とかありましたんでね。


 渋滞に巻き込まれただけで罵声を浴びせる会社とかあるんですよ。


 自分は"本業としてやっていく気はない"ので即日辞表提出余裕ですけど、それだけで飯を食っていこうってな人はこれに耐えてる者もいるわけだが、はっきり言ってしまえば安さを求める人間に応える会社の犠牲になるのは運転手だということだ。


 今回の事故だって当初は「プロドライバーなら高給だろ?」だとか「金目的でやってんだろ?」なんて声があったものの、自分は業界の状況を知っていたので周囲には「よくて手取り20万。それかそれ以下」と言っていた。


 実際は19万なんだって?

 好きじゃなきゃやらんわこんなの。

 ついでにプロドライバーが高給なんていつから錯覚していたと言いたいな。


 自分も多い時で30超えたけど格安のバス会社なんて手取り17万とかだよ。

 これで責任感のある人間が来るとか夢物語だよね。


 12mバスなんて素人が乗ったら100%車両感覚掴めずに交差点1つ曲がれず事故るぐらい別次元の乗り物なのに、この手の会社の経営者というのは表向き社員に耳障りの良い言い訳を囁きながら裏では高級車乗り回して毎日豪遊してるわけ。


 比較的簡単に営業所は作れてしまうので経営者が二種免を持ってないなんてザラ。

 運転を一般乗用車と同じ感覚で語るのはSNSとかと同じ。


 やってみればいい。

 おすすめのシミュレーターゲームありますけど、1発目で曲がれた人を見た事ないんだよね。


 8mちょいまでの車までなら普段の感覚+αで曲がれるが、12mは別次元ですよ。

 そもそも筆者からしたら12mというサイズ自体が規格として間違ってる。


 こんなん極一部の人間だけしか乗れないようにすべきだった。

 つまり、大型のさらに上の特大型とすべきだった。

 かつてのトラックがそうであったように。


 9mならかなり狭い交差点でもなんだかんだ曲がれるが、12mは違う。


 「まだ曲がれないの?」――ってぐらい前に進めた、さらに先でようやく転回して曲がれるようなレベル。


 自動車免許持ってる人に乗せたら10人いたら9人はバスの中間のトランク部分ぶつけるか、そのやや後方の後輪より手前のあたりでぶつける。


 それぐらい車両間隔は異なる別次元の乗り物だ。


 その運転手に対する姿勢がそこらの運転手と同じで、かつ収益性のための数字だけ見て無理させるのが当たり前じゃ運転も荒くなる。


 今回のケースも行程に相当無理があって、さらにその後にも別の運転業務があった?


 そんなの焦って急いでスピード出しやすくなる精神状態に追い詰めるなんて容易に想像できる。

 完全にバス会社とその裏のツアー企画者の失態でしょこんなの。


 3つ目、"ゆずり運転"という概念が極一部を除いて業界内に存在しない。


 譲り運転というは道交法27条でも定められ、原則として追い付かれた場合は譲るのが義務となっている。


 が、一部の路線バス等の乗合バスやコミュニティバスやスクールバスはこの例外にあたり、その義務は生じない。


 他方、いわゆる観光バスは「一般貸切旅客自動車運送事業」にあたるので、この「他の車両に追いつかれた車両の義務」については履行しなければならないはずなのに履行しない謎の商慣習がある。


 バスだったら全車譲る必要性は無いと思ってるらしい。

 とんだ勘違いだ。


 それこそ道を間違えたらUターンしないのが商慣習であるだけでなく、"譲らぬ"が商慣習なのだ。


 最近の一部のバス会社は変わってきたが、これはつまり後ろから煽られたりなんだりされたらテクニックの無い運転手はよりスピードを出しがちになる悪しき慣習と言える。


 「クラクションを鳴らされたら乗客からクレームになりかねない」という状況が存在する中、なぜか多くの会社で譲る運転は認められてない。


 それもこれも「譲る」という行為そのものが乗客からクレームとなりうるためだそうだが、そんなの「後続車を進ませるため一旦停止します」のアナウンス1つでいいだろう。


 本来譲る必要性の無い地方の路線バスは最近それやり始めてるのに、なぜやらないのか。

 運航開始時点に客室乗務員に一言「退避所にて一旦停止することがあります」とかアナウンスさせればいいだけだろう。


 安全に気を使っていると言えばそれだけ評価になるが、極一部の観光バス以外見たことが無い。(やってる所はやっている)


 運転手の技量が落ちるならそれに合わせてソフトウェアたる運転手の運用法を変えるべきだろう。

 そうでないならリターダー装着させて速度が出させてもどうにかさせるか。


 少なくともリターダー装着車は普通の車の感覚に近い状態で運転できるから、後は車両間隔の違いさえどうにかすれば後続車から煽られたりクラクションを鳴らされる機会は減ると思うが、そうであったとしても安全に安全を重ねるならやるべきだと感じているし、やっている会社で働いたことがあるからこそ強く主張できる。


 4つ目、道路問題。


 さて、昨今人気観光地の道路ではある存在が増えてきた。

 "下り坂でのゆずり車線"である。


 関東だと群馬などが目立つが、山梨や長野でも新しい道路では増えてきた。


 従来まで登坂においては登坂車線と称したゆずり車線が存在したが、観光地では安全に運行されるバスが時に信じられない渋滞を引き起こす事から2010年代頃に入ると各地で盛んに導入されるようになり、それこそ道路を拡幅してまでゆずり車線が導入される事例が増加している。


 このゆずり車線、特定の都道府県では全く導入されていない。


 観光地が多いにも関わらず胡坐かいて整備が遅れている所があるが、こういう事故を減らしたいなら待避所ではなく下り坂での譲り車線の整備をすべきだろう。


 特に温泉地がある所では導入事例が多いように感じるが、有名観光地はインバウンド需要も考えるなら今後も相応に観光客は来るのだからやるべき。


 そして業界内にはいい加減ゆずり運転の概念を浸透させるべき。

 一部だけの会社だけが実行するだけでは意味がない。

 プライドより安全性でしょ。


 下り坂ゆずり車線があるのに本線をトロトロ走るバスは何がしたいんだ?

 八ッ場の近くの国道でゆずり車線を行かずに渋滞引き起こしてた某観光バスとかさ。

 何のためにその車線をわざわざ整備したかわからんのかいな。


 最後が業界内での各種ノウハウの共有。


 実はブレーキ関係の問題、一部の会社ではあることを試みていることはご存じだろうか。

 いや、恐らく仕事をやったことが無い殆どの者は見た事がないはずだ。


 例えば皆さんは観光バスが乗客が観光中にどこで何をしているかご存じだろうか?


 それこそ観光地の駐車場で停止しているだけならいいが、一部のバスは観光中に別所に移動しているケースがある事に気づくはず。


 その移動先はどこで何をしているか把握している者は少ないはず。


 この場合、多くが近場のバス専用駐車場で待機しているが、実は一部の者はある事をしている。


 それがホイール磨きとブレーキ清掃である。

 私も初めて仕事をやって知ったことだ。


 高尾での仕事があったある時の事。

 高尾にはとある場所に観光バス用の待機所のような駐車場があるのだが、そこで同乗していた先輩にあたる者よりこんなことを言われる。


 丁度駐車場にはいったばかりの時だ。


「おーおー。〇〇の所は今日も元気にホイール磨きをしてなさる。暑いのにワックスがけまではいらんだろうに」――と、このような述べられたのである。


 この時点では特に気にしなったのだが、次の瞬間ホイールスペースから煙が出てくる状況に遭遇する。


「なんですかあれ? 故障ですか?」


 筆者のその言葉に一瞬驚いた表情を浮かべが先輩は、さも当たり前の如く続けてこう述べたのだ。


「いや、ブレーキクリーナーかけてブレーキ冷まさせてんでしょ。やってないの? 教えてもらってない?あるでしょパーツクリーナーだかブレーキクリーナーだか」


 この言葉に凍り付いたのは言うまでもない。

 初めて知ったのである、そんなテクニックを。


 そう、実はフェード現象への対策の1つとして、走行後にブレーキを冷却するという事をやっている運転手がおり、ベテラン勢の中では周知のテクニックだったわけだ。


 特に夏場だと時に水なんてかけようものならホカホカと湯気が立つほどの熱量に至る事もあるブレーキだが、ベテラン運転手ほどホイールの状態とブレーキの状態には気を遣う。


 ゆえにこの手の待機所ともいうべき駐車場ではホイール磨きがてらブレーキを冷まさせる人は相応にいる。


 っていうか、磨くにあたってブレーキが熱かったらホイールの温度も高い状態なので火傷してしまう。


 やり方は簡単で、シフトブレーキをしたままエンジンかけてエアサスを持ち上げて車体の裏に回ってパーツクリーナーあるいはブレーキクリーナーを吹きかけるだけ。


 シフトブレーキは基本常用ブレーキと共用なのでブレーキシューはドラムに押し付けられた状態になり、その構造からドラムごとブレーキシューの冷却を試みることは出来なくはない。


 これらのスプレーは液化ガスを用いるために気化熱によって噴射される液体が冷たくなるがゆえ、効果があるらしい。


 特に一部の製品では"噴射先において結露の恐れがあります"なんて注意書きがされているものもあるが、こういうタイプほど効果があるといわれていた。


 効果がいかほどあるかは知らないが、夏場においてドラムブレーキのドラムなんて走行後かなりの時間素手で触れない状態なこともある中、20分もしないうちに素手で触れるぐらいまで冷える事からとりあえず多少は効果があるのだろうと思う。


 検証したことが無いのでわからないが、短時間でフェード現象を引き起こすことを抑制する効果ぐらいは望めそうであるとは思う。


 思えば大昔のレースカーでは水冷でドラムを冷却してた事を考えれば理にかなってはいる。


 こういったノウハウや、より急がなくても大丈夫なような車線合流方法は共有すべきだし、それでもって安全性を高めるべきだと感じる。


 ちなみにベテラン運転手が口をそろえてよく述べていたのは「ホイールとホイールからわずかに見えるブレーキの綺麗なバスほど安全」とのことだった。


 運転手の安全意識は車に反映されるらしく、ホイールが汚いバス程、運転が荒かったり能力が不足していることが多いらしい。


 1つの基準になると言われていたが、それこそ団体を乗せて複数台で動くバスでもホイールがキレイかどうかはまばらで一定してなかったりする。


 大体そういうのを欠かさない会社ほど大手で、かつ待遇もいい。

 きっと後継者育成においてもきちんと教育がなされてノウハウが共有され受け継がれているのだろう。


 ちなみに待機所の多くは水道も併設されていたりするのでパーツクリーナーに頼らず普通に水を用いる人もいる。


 少なくとも磨くときには水を多用するのでそうやって磨きながら対処するものなのだろうと理解している。


 そういうことをやらないという事は、ブレーキがそれだけ加熱した状態で連続運転している可能性もあるということだ。


 さて、まとめると基本的に事故の抑制には基本的に運転手の負担軽減にかかってくるわけだが、そのためにはハードウェアだけでなくソフトウェアの見直しも必要であるということ。


 特に道路状況の改善以上にリターダーの義務化は急務であると思えるし、役所側が情報を収集してノウハウの共有もやるべき。


 そもそもリターダーに関してはより重い荷物を運ぶトラックではブレーキ使用率の低下が各部の消耗を減らす事から装着時におけるコストは増加する一方でランニングコストの低減から積極導入された背景があり、大型トラックでリターダーを装着していない車両を探す方が難しくなりつつある昨今と比較すると大分差がある。(大型トラックは2010年頃から標準装備化が進んだため)


 筆者大型トラックでリターダー非装着車を運転したことが無いレベルで、ちょっと古い車種でも普通に搭載されている事を考えるとバスとの差に戦慄を覚えざるを得ない。


 未だに10台あったら装着車は3台かよくて4台ぐらいの比率なんだって?


 そんなんだからリターダー装着車の普及率がバスとトラック合算でも2020年頃において6割程度なんだってね。


 殆どトラックじゃないそれ。


 こんなん運転手以上にバスガチャでしょ。


 一応言うと、観光バスの会社によってはバスの仕様を公表してる所があって事前にわかるようになってたりするんだけどね。


 ちゃんとした会社はちゃんとしたいからHPで公開してます。

 

 そうでなくともバスマニアが年式含めてまとめていらっしゃったりするので年式から推定したりすることもできます。(調べた限り優良企業と評価が高い所ほど年式が新しいかあるいは装備している印象)


 こういった所からいろいろ推定して乗るって方法もあるのかもしれないが、現状は格安ツアーだったらまず装備してないと思わないといけない。


 もちろん装備してない車両だからって事故を引き起こすわけではないが、運転手の意識や人間性はバスの車体に表れるし、会社の取り組みはバスそのものの年式や装備等に表れるということを理解した方がいい。


 その上で消費者に訴えてほしいのがリターダー義務化。

 バスをより安全な乗り物にしろと訴えてくれということだ。

参考資料:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjws/78/3/78_182/_pdf

豪雪地帯のバスの一例(後ろのステッカーに注目)

https://livedoor.blogimg.jp/marinek/imgs/6/f/6f2609f2.jpg

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― 新着の感想 ―
[良い点] リターダーに触れていること [気になる点] 運転手に「食べていけないからこの業界には来ない方が良い」と言われたことがあります。 小〇総理の規制緩和の結果、以前なら考えられない小規模な事業…
[一言] テレビ局もロケバスの運転手にでも聞けば分かることなのに、聞かないんでしょうね。
[気になる点] バスってリターダーついてないのが普通なんですか!?Σ(゜Д゜) [一言] 大型トラック乗りです。 もしリターダーなかったら怖いです……。
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