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死に戻って王太子に婚約破棄をしたら、ドSな司祭に婚約されました〜どうして未来で敵だった彼がこんなに甘やかしてくるのでしょうか〜  作者: まさかの


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魔女の出動 ヒューゴ視点

~~☆☆~~

 大聖堂の司教以上でないと入室ができない部屋に来ていた。

 殺風景な部屋に台座が一つあり、そこに水晶が乗っている。

 セリーヌ様が水晶に手をかざすと、光があふれ出し、光が別の場所を映し出した。



「お久しぶりでございます。猊下」



 セリーヌ様が頭を下げると同時に私も真似る。

 目の前に映る人物は、齢四十を越えても未だに活力漲るその姿は覇者に相応しい。流石は我らの教王であった。

 そしてその他にも元老院達が椅子に座ってこちらを睨んでいるように見えた。

 まずは教王が口を開く。


「両名ともご苦労。報告は聞いておる。始祖の企み、魔女の看破、そしてクリストフ司祭の裏切り……前に聞いた報告と違うようだが、どうして聖女たる其方が魔女の存在に気付けなかったのだ?」



 聖女の力は多岐に渡るが、その中の一つが魔女の看破だ。

 それにもかかわらず、前回の異端審問会では発見できなかったのだ。

 これについては私が説明すべきだろう。


「猊下、ヒューゴでございます。先ほど得た新情報がありますので、私からご説明させて頂けないでしょうか」

「新情報とな。申してみろ」

「ありがとう存じます。先ほど本人の口から伺ったところ、クリストフが神聖術を使い、魔女の力を抑えていたようです。そのため、セリーヌ様の御力でも発見ができなかったようです」



 まさかそのような方法があったとは私自身驚いた。

 言ってしまえば、魔女が普通の人間として生きられる方法があるということだ。

 だからといって強大な力を持つ魔女を自由に出来るわけがないが。


「なるほど……ではクリストフ司祭を操ったのは、魔女であることを隠すため……で間違いないな?」「仰るとおりです」



 すると他の元老院のじじい共が割ってくる。


「全く……司祭でありながら魔女に与するとは嘆かわしい。だからわしは反対だったのだ。いくらリーヴェルヴァッセンの血を引くとはいえ、あの若さで王国の正教会を取り纏めるのは無理だとな」

「今さらそのことを蒸し返しても過ぎてしまったことだ。それよりも処遇をどうするか決めるべきだ。本来なら異端者を助けたのなら極刑。しかし今回は操られたとするのなら……いかようにするべきか」



 クリストフの処遇はいまだ決定していない。それには二つの理由がある。一つは未だにリーヴェルヴァッセンの跡継ぎが居ないこと、もう一つは黒獅子の異名は伊達では無く、隣国への牽制としても役に立つことだ。

 それほどまでに個人としての戦闘技量は突出しているのだ。


「皆様、お話のところ失礼致します。現在はクリストフの処遇よりもするべきことはございます」



 セリーヌは毅然とした様子で切り出した。そう、今はそんな些細なことを気にしている場合では無い。未曾有の危機が迫っているのだから。


「魔女の始祖により、王国だけではなく自国にも飛び火が来ようとしております。どうかすぐにでも援軍をいただけないでしょうか」



 ソフィア様が魔女と発覚してからもう二日が経った。すぐさま魔物の軍勢と戦うために、神官、そして王国の騎士達を派遣しているが、魔物の数に人が足りない。

 早く援軍が欲しかったが、この場を用意するだけで時間が掛かったのだ。



「無理だな」



 教王が一言述べた。


「知っているだろうが。今は東の異民族との戦いで神官達が出払っている。ドラゴンライダー達もそちらに向かっているため、早くともひと月はかかるぞ」



 そんな時間は無い。東の異民族はたくさんの部族がまとまっているため数が多く、また戦いの天才達が多いので、無視できないのだ。

 しかしひと月も待っていたら確実に王国は滅びるだろう。

 自国にとって、王国への存在価値なんぞその程度なのだ。

 再度発言を許してもらった。


「一つだけ許可をいただけないでしょうか。化け物には化け物で対抗する。こちらで捕らえたソフィア・ベアグルントの力を使うことを許可頂けないでしょうか」



 私の発言に焦る雰囲気を感じた。すると元老院の一人が質問する。


「魔女の力なんぞ御せるのか?」

「それはご心配なく、首輪を付けていますし、なんならこれから私が心を折ってあげてもいいですよ。ご存じかもしれませんが、魔女狩りをするうちに拷問は得意になりましたゆえ」


 笑ってみせると、元老院達は怯えるような目を見せるが、強がるように言葉だけは強く言う。


「余計なことはせんでよい。いかに小国とはいえ、大貴族に連なる者であろう。のちのちバレてからこちらの心証を悪くする必要はない!」

「そもそも本当に魔女の力なんぞ借りる必要があるのか。聖女セリーヌがおるのに、そのようなリスクを冒す必要を感じんぞ」


 魔女の力は危険というのは全員の共通認識だ。

 だがソフィア様から聞き出したこれまでの経緯を知ればそんな考えも無くなるだろう。


「それがそうとも言えません。彼女の能力は我々が想定する以上の力なのです。未来を見通すという力が……」



 ざわりと誰もが驚愕の顔をする。息を呑み、まじまじ私を見るのだった。



「申してみろ」


 動揺している者達と違い教王は落ち着き、静かに告げる。

 私はまだ完璧はない彼女の証言をまとめた内容を読み上げた。

 それは王国の行く末、そして自国にもたらす被害。

 冷静を取り戻した者達も、また話を聞くうちに青ざめていく。



「でたらめだ!」

「全くだ! 馬鹿馬鹿しい。こんな夢物語なんぞ信じおってからに!」


 予想通りの反応だ。

 私も始め聞いた時には耳を疑った。しかしだからこそ腑に落ちた。

 これまで彼女が行おうとした善行はどれもが未来を知らなければ行えなかったはずだからだ。

 だが一人、教王だけは何やら考えにふけっている。

 そして確認するように尋ねられた。


「その娘には王族の血が入っておるか?」

「祖母が王家の者と聞いております」

「ふむ……そうか。セリーヌよ、一つ聞く」



 突然にも話を振られたセリーヌ様は驚きながらも、すぐに気持ちを引き締めて神妙な面持ちをする。


「魔女の娘の力は其方と比べてどちらが高い」


 この質問をするということ――。


「魔法の優劣を器用さで見るのなら私です。ただ単純な相手を討ち滅ぼす力で見るのなら、先日の力を見る限り彼女の方が何倍も高いです」



 セリーヌ様の答えを聞いて、教王は黙って思考しているようだった。

 そして何かしらの答えを見いだしたようだ。


「よかろう。魔女の同行を許そう」


 もう少し交渉が必要だと思ったが、これは嬉しい誤算だ。

 元老院達もまさか通るとは思わなかったのだろうが、教王の発言に異論を挟むことはなかった。

 頭を下げて最上の感謝を伝える。


「ありがとう存じます」

「だが条件もある――」


 一拍置いて続きを告げる。



「用済みになればお前の判断で処分しろ。過ぎた力を国家が持たぬようにな」



 私は深々と頭を下げて水晶からの映像が消えるのを待った。

 念のため映像が消えた後も少しだけ待ってから頭を上げる。



「では私も支度をしてきます。やることが増えましたのでね」

「何か企んでますね」


 こういうときは本当に鋭い。これからのことを想像すると本当に面倒だ。


「ええ。魔女の処遇は一任されましたからね。一度は私もしてみたかったのですよ」


 これまで何度も汚れ仕事をしてきた。国のために。いつの間にか私にはどす黒い感情が生まれ出た。


「魔女の……公開処刑をね」



 その時、国民達はどのような反応をするのか楽しみだ。


 ~~☆☆~~

 もうすでに魔物の襲来は始まっている。先に先鋭達が出払っているとはいえ、芳しい成果は上がっていない。

 魔女の始祖を倒せば終わる戦いではあるが、不死身の男を倒すには、同じく魔女の力が必要だ。


 だからこそ彼女の投入は必須だった。

 大聖堂の地下へと向かうと、神官が二人、三つ叉の槍を持って立っていた。

 私に気付くとすぐさま礼をする。


「ご苦労。魔女に異変は?」

「特にございません。静かに座っております」



 罪人とはいえ相手はこの国の大貴族。警備の者も女性する配慮はしている。

 数少ないスイーツ仲間ではあるので、私も彼女の尊厳を辱めるつもりはない。

 そのため入室が可能か確認させてから入った。



「ごきげんよう、ソフィア様。ここの生活はいかがですかな」



 答えは返ってこない。

 彼女の口は黒いマスクで覆われているからだ。

 素っ気ない視線だけが向けられ、用件があれば早く言うように、と言っているようだ。



「先ほど教王からも許可をいただきましてね。出番ですよ。貴女にも前線に出てもらいます。これはお願いでは無く、命令です」



 支度は警備をしていた神官に任せた。

 白の服を着せさせ、口には仰々しいマスクが付いたまま。

 特徴的なピンクの髪は雑にまとめ上げられた。

 外に用意していた外から中が丸見えの護送車に彼女を入れて、私自ら2頭の馬を走らせた。

 この馬たちは特別で、竜になり空を飛べる特別種だ。司祭以上であれば乗ることが許される特別な馬だ。

 ただあまりおおっぴらにこの竜たちを見せたいものではないので、人が少なくなってから空を飛ぶつもりだ。

 ただやはりその間はまるで見世物のように彼女の姿が、人々の目に晒される。



「おい、あれって……」

「ソフィア様なのか? まるで罪人ではないか」

「魔女って立て札で出てただろ……罪人だよ」



 見えるのは、憐れみ、恐れ、嘲笑の目。誰一人とて彼女のために何か行動を起こす者はいない。

 それどころか異端審問官である私に目を合わせまいとしていた。

 疑いをかけられたら次はその者の番だからな。

 人の気配がしなくなったところで、空へと昇る。

 魔女の始祖の元へと行くために。


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