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死に戻って王太子に婚約破棄をしたら、ドSな司祭に婚約されました〜どうして未来で敵だった彼がこんなに甘やかしてくるのでしょうか〜  作者: まさかの


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異端者

 魔女だとバレた私に神官達が武器を向けるのは当然だ。

 正教会は魔女の存在を許してはいない。たとえそれが始祖の犠牲者であったとしても……。


「クリストフ大司教代理殿……何をしている。魔女がそこにいるのになぜ捕まえない」



 ヒューゴは冷静に問いかける。他の神官達もクリストフに対して戸惑いの顔を向けていた。


「待ってくれ! ガハリエを倒した今なら彼女はもう魔女でないはずだ! もうじきこの力も無くなる。 そうなれば敵ではないはずだ!」


 時間稼ぎのために彼はそう言う。今日を乗り越えるためだ。だけどそれはヒューゴには通じない。


「魔女に温情はなし。どんな理由であれ、あれほどの力を見せたソフィア様を野放しにしてはおけない。もし仮に力が無くなったと嘘を吐いて暴走されたら、また私や其方のように全てを無くす者もおるぞ。それに――」



 ヒューゴは何かを投げた。何度もバウンドしてこちらへ来たのは人の手だった。



「それは先ほど倒したガハリエの右手だ。上手く粘土で作った偽物のな」



 あれほどの力を放ちながら偽物だったというのか。そうなるとやはり私の力はいまだそのまま。



「ソフィーを殺すつもりか!」



 クリストフの殺気が周りに飛び回り、神官達が萎縮する。本気で怒るクリストフと戦えるのは、この場ではヒューゴのみであろう。



「それは上が決めること。邪魔をするのならまずは其方から排除しよう。いくら黒獅子といえども、我ら全員を相手に逃げ切れるかな」



 無理だ。だがクリストフはそれでも投降しようとしない。

 このままでは彼は殺されてしまう。


「フハハハハハ」


 突然にも聞き覚えのある気持ち悪い声が聞こえてくる。


「ガハリエ……やっぱり……」


 憎たらしい声に体に力が入った。

 それは先ほど投げられた手首から聞こえてくるのだった。



「私の優しさを無下にした愚か者よ。この屈辱はこれで終わりはしない。手に入らないのなら全てを破壊してやる。この国ごと貴様らに絶望を与えてやろう」



 その声と同時に窓の外の明かりが急に暗くなっていった。

 何やら不穏な気配を感じた。


「なんだこれは……昼間なのに」

「誰か外を見てこい!」



 不可解な現象に脅威が去った今も混乱が収まらない。外を見に行った兵士が大きな声で叫ぶ。



「遠方より魔物の飛来と思われる影があります!」


 するとヒューゴと聖女セリーヌが顔を見合わせた。

 何やらこの事象に心当たりがあるようだった。

 ヒューゴは舌打ちをして、急かすように言う。


「クリストフ大司教代理殿、どうやらここで時間を潰している暇はなくなったようだ」

「何が起きているというのだ、知っていることを話せ!」



 周りの者達も不安でたまらないのか、ヒューゴからの説明を求めている。



「あれは伝承で残る、始祖との戦いで起きた千の魔物が襲来する予兆だ。もたもたしていればこの国どころか我らの国まで大きな被害を被る」



 千の魔物と聞いてかなりザワつく。早急に対応しなければ手遅れになるだろう。



「だがこちらにも考えがある。とっておきの方法がね。化け物には化け物……そう思わないか?」



 ヒューゴと目が合ったときにぎゅっと心臓が締まった気がした。

 側に居るクリストフもまたヒューゴの言わんとしていることがわかった。


「ソフィーのことを……言っているのか?」


 怒りのこもった質問に、ヒューゴは吹き出した。


「他に誰がいる。首輪を付ければ、猛犬といえども少しは役に立つだろう」


 怒ったクリストフはまばたきの間にすでにヒューゴの顔へ拳を放っていた。

 だがそれは不可視のシールドに阻まれるのだった。


「聖女の盾……」


 セリーヌが手を前に掲げている。申し訳なさそうな顔をするがヒューゴを守ることを優先したのだ。

 体勢を崩した彼の腹にヒューゴの掌底が炸裂した。



「かはっ……」



 その場に片膝を突いてクリストフは痛みを我慢する。だがヒューゴは待ちはしない。そのまま足蹴りでクリストフの顔を打ち、彼は崩れ落ちた。



「いやっ! クリスッ! 離して!」


 彼の元へ駆け寄ろうとしたが、ヒューゴの命令により神官達によって両腕を掴まれ、力ずくで座らせられる。



「ヒューゴ司祭……」



 できるのは睨むことだけだ。だがヒューゴは気にせず涼しげな顔のままだ。



「ああする他、あの男が止まる方法がなかったのだ」


 分かっているが、それでも割り切れない。どうか彼が無事であることを祈るのみ。

 気を取り直したヒューゴは全体へ聞こえるように声を張った。


「これより異端審問を始める! 聖女セリーヌの御言葉より、其方が魔女であることは疑いようがない真実。そのため、私が其方の罪を測ろう。嘘、偽りを言えばその場で首を刎ねると思え! 私の質問にはい、もしくはいいえで答えることのみ許そう」


 周りからの視線が恐い。だけど私に出来るのはヒューゴの言うとおりにするだけだ。


「そなたは魔女であることを認めるか」

「はい」

「そなたは自身が魔女であることを知っていて周りを騙していたのか」

「はい……」


 身動きできず、たんたんと質問に答える。

 そして私とクリストフの関係に移る。


「クリストフ大司教代理は其方が魔女であると知って匿ったのか」



 静かになっていたこの場の者達の息を呑む音が聞こえた。

 異端である魔女を通報するどころか匿うことは、たとえ司祭であろうとも許されることではない。

 立場を失うだけではなく、それどころか最悪の場合には彼も殺されてしまうかもしれない。

 それならば……。


「……いいえ」



 彼が眠っていてよかった。ここから先も彼には聞こえないのだから。


「それであるなら、其方の魔法で操ったのか」



 そんな魔法なんてない。だけど彼との関係を隠すにはこうするしかない。


「……はい」



 ざわっと周りが一瞬息を呑んだ。すると神官達が私の口に猿ぐつわをはめ込む。



「んぐっ!」


 少し乱暴にされて思わず呻いた。


「魔法で操ったとなると我々も危ないのでな。返答は首を動かせ。はいなら縦に、いいえなら横に首を振れ……いいな?」


 私は首を一回だけ縦に振った。


「よろしい。では……クリストフ大司教代理が操られていたという証拠はあるのか?」



 私は首を縦に振った。すると紙を用意され、証拠を書けと命令される。

 床の上で書き終えるとヒューゴは、紙を拾い上げて読み上がる。


「ほう……偽装結婚で別れるつもりがあった。その証拠に書面で残していると……。なるほど、たしかにそれが真実であり、其方の家で発見されるのなら、嘘では無かったと言えるだろう。お前達、私が権限を与える。両名の自宅から証拠品を押収してきなさい」



 部下の神官に命令すると、さすがに上官と他国の大貴族にそのようなことをしていいのかと、戸惑っているようだった。


「心配するな。今回の場合、特例で私の判断で行って良いことになっている。それにこの国と結んでいる盟約もある。お間違いないですよね、国王陛下?」



 意見を求められた国王は、哀れそうに私を見た後に首を縦に振った。


「う、うむ……左様だ。彼の国との取り決めである。何も問題は無い」

「お答えいただきありがとうございます。言質も取れたのだ。早く行きたまえ」


 納得した神官達はすぐさま動き出す。

 そしてヒューゴは金属で出来た首輪を取り出した。


「ではソフィア・ベアグルントよ。其方に拒否権はない。これより千の魔物の討伐を命じる。聖遺物であるこの首輪を付ければ。反逆した瞬間に毒が回る。役だってもらうぞ」


 首輪を付けられた。重さは特に感じないが、いつでも私の命を奪えるこの首輪は、心に重くのし掛かった。


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