始祖を討伐?
ガハリエの突然の襲来。そして私の正体の暴露。
先ほどまでお祝いの雰囲気だったのが、一人の男によってぶち壊された。
ようやく頭を握っていた手の力が緩まると、意識が遠のきかけた。
体が動かず、また変な術をかけられたのだ。
そのままふわりと抱きかかえられ、ガハリエの腕の中で身動きがとれない。
「見るといい、ソフィア・ベアグルントよ。お前の正体を知って軽蔑する者達の顔を」
わざと私に全体を見渡させる。みんなの顔が青ざめており、誰も私を助けようとはしない。
ただ一人を除いては――。
「その汚い手でソフィー触れるな!」
とんでもない加速と供に白い法衣がはためく。私の夫が必死の形相で拳を大きく振りかぶった。
その拳がガハリエに当たる前にまたもやシールドとぶつかった。
それをガハリエはあざ笑う。
「必死だな、クリスよ。だが考えてみろ。この状況でこの女をどう助ける? 私が見捨てて、正教会がお情けをかけると思うのか? いやしないであろう。この女はもう魔女として私と居る未来しかないのだ」
動きたいのに全く動けない。気持ち悪い男に抱かれているのがたまらなく嫌だ。
「其方もそう思うだろ? 女としての賞味期限が切れるまでは私が大事にしてやろう。黙っていれば可愛い人形のようだからね」
言いたい放題のガハリエ。だがだからといって好き放題させるわけにはいかない。
「貴方の好きなようには……させない!」
私は自分の中の力を解放する。これまで使わずにしていた力が私の周りで炸裂し、爆発を起こした。
「くっ!」
臆病者らしく、突然の爆発に驚いて私を離してどこかへ転移した。
今のは威力は抑えた魔法だったが、ようやく自由の身になれた。
「安心しろ、もう大丈夫だ!」
すぐにクリストフが近づいてきて抱きしめてくれた。このままこうしていたいが、今はガハリエを追い詰めるのが先だ。
懐に隠していた瓶を取り出した。
「それは……やめろ!」
彼もこの瓶に気付いたようだ。だが止められる前に薬を呷った。
「ん……」
体が熱くなっていく。痛みが突然やってきたため、それに耐えるように歯を食いしばった。
「大丈夫か! 吐き出すのだ! また前のようになッ――」
「大丈夫……今回は……」
痛みが次第に和らいでいる気がするが、もしかするとただ麻痺しているだけかもしれない。
だけど前回と比べたらかなりマシだ。
私から離れたガハリエはヒューゴを先頭に神官達と交戦していた。
「逃げていた大物がのこのこやってきたのだ! 千載一遇のチャンスを逃すな!」
神官達が囲み、一斉に攻撃をしかけた。
「雑兵ごときが図に乗るな」
ガハリエが腕を振り払うと神官達が一気になぎ払われた。
「この時を待っていたのだ!」
いつの間にかヒューゴが接近していた。
「くっ……なっ!」
ガハリエは手で払おうとしたが、うまくくぐり抜けられ、ヒューゴに後ろを取られた。
だがヒューゴは攻撃せずに、ガハリエが動けないように羽交い締めにした。
「馬鹿力め。だがこんなもの時間稼ぎにもならんぞ」
また前みたいに超回復を利用した自爆をするつもりだろう。
だがそうはさせない。
「ガハリエ・セラフィン!」
私の声にガハリエは反応する。舐めた顔が次第に驚愕に変わっていく。
「なんだその魔力は……くそっ! 離せ!」
急にジタバタとするガハリエだが。ヒューゴから脱出できないでいた。
だが力がうまく操れない。強大な力を制御できない。
「お前も巻き込まれたらタダでは済まんぞ!」
「貴様のような小物と一緒にしないでもらおう。私の命は神に捧げている。今さら命なんぞ惜しくはない!」
「ほざけ! なら離れさせてやる!」
ガハリエの周りごと太い火柱が立つ。それにヒューゴ共々巻き込まれた。
ガハリエの笑い声が聞こえてた。
「ははは! 教えてやったのに馬鹿なやつ――」
だがその口を塞ぐように、ヒューゴの腕が伸びた。
「汚い口をそろそろ閉じるがいい」
「ばかな――」
「馬鹿みたいに手の内を晒して、対策しないわけなかろう!」
湯気が立ち上っているが、服は煤が付いているだけほとんど損傷が無い。
炎に耐性があるようだが、それでも完全に防げるものでもないはずだ。
だがその顔は痛みを感じさせず、ただ敵を倒すことだけを考えているようだった。
「お返しだ!」
ヒューゴは無防備なガハリエの腹を打ち抜き、大きく空へと吹き飛ばした。
だがそれでもあの化け物は倒せない。
ヒューゴから視線が飛ぶ。返事の代わりにガハリエへと手を向けた。
「当たって!」
全ての力を集中させガハリエへと炸裂させる。
小さな爆発がガハリエの周辺から起きた。
室内に熱気が広がるが、外へ逃げるように放ったため、被害は最小限に抑えたはずだ。
だが――。
「あっぁあ! 腕がッ! 半身が! きさまッ!」
ガハリエの体の左半分が焼け落ちていた。上手くコントロールできなくて倒しきれなかった。
「体が戻らん……くそっ! なぜだ!」
回復しないのなら好機だ。追撃しようと手を振りかぶった途端に急に血の気が引いて、体に力が入らなくなった。
だが代わりにヒューゴがとどめの一撃を放つため飛び上がった。
「今度こそ消え去れ!」
ヒューゴの渾身の拳が炸裂する。ガハリエの体が爆散した。
体の破片が飛び散っていく。
「終わった……」
もしかして本当に倒したのか。あまりにもあっけなく終わったため実感が持てない。
再生する様子もなく、これで本当に全て解決したのだろうか。
「ソフィー! もう其方は大丈夫なのか!」
「うん……なんか体がだるいけど、吐き気とかもないよ」
「そうではない。魔女の力のことだ! もう無くなったのか!」
肝心なことを忘れていた。魔女の呪いから解放されるためガハリエを倒さねばならなかった。
だけど先ほど死んだため、私からその力は失われているはずだ。
自分の体に集中すると、これまでと変わらない感覚があった。
「どうして……まだ残ってる……」
目の前が真っ白になりそうだ。いまだに魔法が唱えられる。考えられるのは一つ。
ガハリエがまだ生きているということだ。
まずはクリストフに相談しようとしたが、急に体を引き寄せられた。
どうしたのかと思ったが、彼の険しい顔と周りを見て状況がすぐに分かった。
「ソフィー、俺の後ろにいろ」
低い声を出し、周囲へ威圧する。
神官達が怯えた顔をしながら、私へ武器を向けていた。
神官達の中央からヒューゴが歩いてきた。
「魔女であった……ならば私がこれから何をするかはご存じですよね?」
服を整えながらヒューゴはこちらを見据えていた。




