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死に戻って王太子に婚約破棄をしたら、ドSな司祭に婚約されました〜どうして未来で敵だった彼がこんなに甘やかしてくるのでしょうか〜  作者: まさかの


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狩猟大会 後半

 私は絶賛、クリストフに命を狙われていた。

 クリストフの殺気にあてられて、私は呼吸が上手くできなくなっていた。

 死にたくない思いから涙が出てきて、私はどうすれば生き残れるか必死に考えた。

 だが彼の鉄球が地面から浮いた時に、体をひきずって逃げた。


「はぁはぁ。もう死にたく……ない!」


 顔を背けることでようやく息が出来た。

 だけどこんな動きでは死んでしまう。もうこんな無駄なあがきなんてせずに死んだ方がいいのかもしれないと諦めの気持ちもあった。

 だけど私は、死にたくないのだ。


 そんなときに私を心配する声が聞こえた。


「ソフィアさん、大丈夫ですか!」


 ブリジットが私を抱きしめ、ドレスを土で汚すことをいとわずに、抱えてくれた。だけどまだクリストフが私を狙っているため、本当の危機は去ってはいない。

 しかしクリストフもまた困惑した顔で、先ほどの殺気が薄れていた。


「ブリジット様、一体何があったのですか?」


 ブリジットがクリストフへ簡単に状況を伝えてくれた。動物が急に襲ってきたこと。私がブリジットの代わりに囮になったことを。

 するとクリストフの顔は真っ青になっていた。


「そうでしたか……申し訳ございません。私が来るのが遅れてしまったためにお怪我をさせてしまいましたね」


 クリストフはこちらへ歩み寄って、膝を突いて私の体の前に手を掲げた。

 すると急に淡い光が立ち、擦り傷だらけの怪我がどんどん治っていく。

 めったに見られない奇跡にブリジットは感嘆した。


「これが神聖術……」


 司祭だけが使える特別な秘術である。ずきずきとした痛みが消え、擦り傷もどんどん元の肌に戻っていった。

 気付けばクリストフは元の優しい顔になっていた。


「傷は癒やしましたが、体の調子はいかがで――」

「ソフィア! 無事か!」


 クリストフの言葉を遮って、遠くから私を呼ぶのは王太子のリオネスだった。

 馬を走らせてこちらへと近づいてくる。

 するとクリストフの目が光り、私を抱きかかえた。


「うわっ!?」


 まだ先ほどの殺気が色濃く記憶に残り、彼が近いだけでまた体が震えた。

 リオネスが近くまで来たことで、クリストフとにらみ合った。

 そしてクリストフは得意げな顔になって、リオネスを挑発する。


「狩りは私の勝ち……ということでよろしいですか? ちょうど大物を狩りましたので」


 クリストフは周りにある動物の死骸達を見た。

 数もさることながら、熊を倒すのなんてクリストフにしか出来ないだろう。

 リオネスは悔しそうに顔を歪ませ、苦々しく言う。


「其方がいなければこの事態に気付かなかった。認めよう」


 リオネス達はクリストフによってこの危機を伝えられたのだろう。

 私は首に掛けていた聖遺物のペンダントを見た。おそらくはこれのおかげで彼が気付いてくれたのだ。リオネスは「事後処理がある」とこの場から離れていく。

 私をチラッと見たその目には、すごくか弱い印象を持った。

 クリストフは急に抱きかかえたまま方向転換したため、リオネスの姿が見えなくなった。


「後で先ほどのことは教えますので、暴れないでくださいね。でないと少し手荒になります」


 耳元でささやかれてゾクッとした。もしかすると私は酷い目に遭うのではないだろうか。

 クリストフはそんな恐ろしい言葉とは裏腹に満面の笑顔で、ブリジットを見ていた。


「ブリジット様、申し訳ございません。ソフィア嬢がお疲れのようですので、私はお先へ失礼いたします」

「ええ……わたくしもソフィアさんへは別でお礼をさせていただきますわ」


 それなら今すぐに私とクリストフを引き離して欲しいと切に思った。

 それを口にしようかと思ったが、クリストフが小さな声で「助けを呼ぶのならわかっていますね?」と脅してくるせいで、私は首を縦に振るしかなかった。


 ――絶対にこのあと殺される……!


 さっきの殺気は未来の彼と全く同じものだ。なぜだか分からないが、彼は今も本当は私のことを快く思っていないのだ。


 逃れる術を考えるうちに馬車に連れ込まれて、私は彼の腕の中で抱かれたままだった。


「あ、あの……わたしは椅子に座れますが?」


 少しでも距離を離したいのだが、彼はさらに私の体を引き寄せて、彼の心臓の音が聞こえる距離まで近づいた。


「俺と貴女は偽装結婚をするのですから、これは練習ですよ。愛する夫婦は常に側にいるらしいですからね」


 そんな常識は初めて聞いた。だけどここで反抗したら殺されるかもしれないので、私は顔が引きつりそうになるのを我慢をして、「そうですね」としか言えなかった。


「もう結婚届け出しましたので、憂いなく夫婦ですね」

「いつの間に!?」



 どうやらすでに書類は作って、リオネスに勝ったら受理される流れになっていたらしい。

 そうなると、まだ私は殺されないかもと希望が湧いてきた。


 狩りの森近くに彼の別邸があるらしく、馬車はそこへむかう。

 綺麗な湖が見え、ボートもあったり、避暑地としては最適かも知れない。

 湖の丘の上に屋敷があり、そこの裏側の窓からなら湖も一望できそうだった。

 馬車は屋敷の前に止まった。


「着いたな。ではまずはその服を脱いでもらおうか」

「えっ――えええ!?」


 とんでも発言に思わず、声が上擦った。もしかするとこれから私は殺される前に、辱めを受けるのかと思ったが、クリストフが「ち、違う! 勘違いするな!」と顔を少し赤くして怒鳴った。


「その服では目に毒だ。侍従達がお風呂の準備もしてくれているから、綺麗になってくればいい」


 そうなると私は一時的とはいえ、解放されるということだ。

 断る理由も無いため私は大きく頷いた。

 だけど途中までは彼が離してくれないため、腕に抱かれたまま屋敷へと入った。


「旦那様、ソフィア様、おかえりなさいませ!」


 たくさんの侍従が私達を出迎えてくれた。

 しかしそこで男の使用人が一人もいないことに気付いた。


「どうかしたか?」

「男の方がいらっしゃらないと思いまして……」


 普通は一人くらいは男の使用人がいるはずだ。もしかするとクリストフの趣味で選んだのかと思ったが、「其方の姿を思い出してみろ」というので、どうやら私への配慮だったらしい。


「其方との晩餐までは部屋から出るなと言っている」



 やっとクリストフが私を降ろしてくれた。

 そして一人の年配の女性が私の近くまで来てお辞儀した。


「わたくしの名前はベルメールです。今日から貴女様の専属侍従として仕えさせて頂きます。お部屋まで案内いたしますね」


 ベルメールが私の前を歩いて案内してくれた。クリストフも自室に戻るらしいので、ようやく一人の時間が持てそうだ。急遽来ることになったはずなのに、私好みの淡いピンクのカーテンや、綺麗な赤や青の花が飾られ、家具類も新品で置かれていた。



「旦那様が婚姻を決められてから早急にご準備を命じられましたので、仮で置かせてもらっております。奥様のご希望をお伺いしたのちに新調したいと思います」



 どれも高価そうな家具なのでそのままでいい気がする。

 どうせ偽装結婚なんだから、無駄にお金を使う必要がないので、私はあとでクリストフへお断りをしておこう。


「ではまずはお身体を綺麗にいたしますね」


 ベルメールが私のドレスを脱がして、さらにキャミソールも脱がそうとしたときに、ハッとなった。

 私は脱いですぐに手で胸の前に腕をくっつけた。



「どうかしましたか? 胸が何か悪いのですか?」


 ベルメールは心配して私の体を診ようとするかもしれないので、とっさに言葉を出す。


「あちらでは一人でお風呂に入っていましたので少し恥ずかしいだけですよ。慣れるまでは許してください」


 適当な言い訳を言ったが、彼女も納得してくれてそれ以上は追求されなかった。

 気持ちいい湯船なのに、胸とおへその間にできた呪われし刻印が気になって仕方がない。

 この刻印のせいで正教会から狙われるようになったのだから。


 入浴を終えて、晩餐まで時間があるので、水色のワンピースに着替え、誰もいない自室でゆっくりと過ごすことになった。

 ベッドの上で仰向けになって、天井を見つめる。


「疲れた……でもどうしてクリストフ様はあんなに怒っていたんだろう」


 狩猟大会で見せた彼の怒りは、間違いなく私へと向けられていた。

 しかし今回はまだ組織に身を置いておらず、体に浮き上がった刻印も見られていないので、彼から恨まれるようなことはないはずだ。


「あれは確かに未来の彼そのものよね。それに未来が私のせいで変わっているけど、一番はクリストフ様と婚約になったこと……もしかして……」


 私は一つの結論にたどり着く前に部屋をノックする音が聞こえた。


「ソフィア嬢、入ってもよろしいですか?」


 ドキッと心臓が高鳴った。この屋敷で丁重に扱われるまでは、てっきり殺されるのかと思っていたため、まだ警戒する心があった。

 先ほどの恐い彼が頭から離れないため、二人っきりは不安だが、彼の屋敷で無視できない。


「はい。もう入浴も終わってますのでかまいません」


 許可を出すとクリストフが入ってきた。彼も入浴は済ませたようで、バスローブ一枚で入ってきた。

 がっちりとした胸板が見えるため、思わず目がそちらへ釘付けになってしまい、顔を振って邪念を吹き飛ばした。


「ど、どうかしましたか?」


 少しでも平静であるように見せるため、私はにっこりと笑顔で迎えた。

 するとクリストフは軽く微笑み、こちらへ歩いてきた。

 そして止まることなく――。


「えっ――」


 私は両腕を掴まれて押し倒された。


「く、クリストフ様!?」


 強い力で掴まれて身動き出来ない。

 そして顔の顔がどんどん近づいてきて、キスをされるのかと思わず目を背けた。

 すると耳元で彼の低い声がささやかれた。


「ソフィア・ベアグルント。どうやら貴女も前の記憶が残っているみたいですね」


 ――えっ!?


 私は彼から言われた言葉の真意を知るため、目を開けて彼の顔を直視した。

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