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死に戻って王太子に婚約破棄をしたら、ドSな司祭に婚約されました〜どうして未来で敵だった彼がこんなに甘やかしてくるのでしょうか〜  作者: まさかの


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未来へ

 本国へ要請を送り、王国へと援軍が送られてくる。

 大規模な人数を派遣しているため、国家間の調整が必要になった。

 だが時間も掛けられないため、色々と無理をして時間を省略した。

 夜になっても仕事が終わらず、私は眠たい目を擦りながらサインをしていく。

 少し離れた席で同じく事務仕事をしているヒューゴが、一度席を立ってコーヒーを注いでくれた。

 不機嫌そうな顔は彼も睡眠不足のせいなのかもしれない。


「セリーヌ様、お疲れのようですね。神聖術をお掛けしましょうか」

「そこは休んでくださいと言ってくださればよろしいのに……」


 文句を言ったが、彼は「それなら私も休みたいくらいです」と一言残すだけで、また席へ戻っていく。

 そして嫌みったらしく、もう一つ空いている席を見ていた。


「本来はクリストフ大司教代理殿の仕事もあるのですがね。どこかのお優しい聖女様が、休ませるせいでこっちの仕事が増えているのですよ」

「だって……しばらく遠征になれば、会えなくなって寂しいではありませんか」

「生きて帰られる保証もありませんしね」


 不吉な事を言う彼を睨んだが、彼はそれを無視するように書類仕事を再開した。

 どうして、ああいう嫌みしか言えないのでしょう。


「セリーヌ様もどうして休みたい場合には休んでください。ご存じのとおり、あれを滅せられるのは、貴女様の神聖な力だけなのですからね」


 まるでそれしか価値が無いような言い方だが、あれは彼なりの気遣いというのは長い付き合いで分かっている。

 いいかげんそういう遠回しすぎる気遣いを治さないと誰とも結婚できませんよ。

 私以外にね。


「解せませんね」


 心の中を読まれたのかと、ドキッ、としたが、どうやらそうではないようだ。


「何か気になることでもありましたか?」

「セリーヌ様の肩にある聖痕の件ですよ」

「ああ。そういうことですか」


 自分の二の腕部分に生まれた時から痣のようなものがあり、それは聖痕ということになっている。

 少しだけ二の腕を出すと、「はしたないから隠しなさい」とヒューゴは咳払いして怒られた。


「あの男が魔女を生み出しているのなら、祖国の裏事情も知っているはず。なのにそれをわざと放置していたのが気になる」

「おそらくですが、スリルを楽しんでいたのでしょうね」


 これまでの行動からある程度推測しているだけだが、不死ゆえに日常に退屈していたのだろう。だからこそ自分の弱点をそのままにしていた。


「もうこんな嫌な因果は終わらせねばなりません。私ももう同胞達を裁く側にはなりたくはありませんもの」


 ガハリエを倒した後に何が起きるのか分からない。だけどそれでも明日に未来があると思わねばならない。もし今代で倒せなければ、私もまたお母様のように命を絶たねばならないのだから。



 ~~☆☆~~

 クリストフと喧嘩して気まずくなったため、リタと一緒に散歩をしていたら、彼女は私が魔女だと知っていたことを告白された。

 彼女は私よりも私自身について詳しかった。


「わたくしは王族の方と結婚して子供を産んでも、また魔女が生まれるの?」

「もちろんでございます。誰がそのような嘘を広めたのか……」



 リタは確信を持ってそれを嘘と言った。そうすると結局は誰と結婚しても同じだったのだ。

 ただ待ってほしい。どうしてお母様は王族ではなく、里と呼ばれてる場所にいたのだ。

 だがそれはすぐに予想がついた。私の祖先は追い出されたのだろう。


「話は戻しますが、王家と魔女の血を受け継いだ子は未来を視る力を得ました」

「それって……私の力のこと?」



 リタは首を縦に振った。


「ですがお嬢様の力と同様に、死んでしまった時に発動したそうです。それは魔女の始祖に殺されてしまった時と伝承に残っております」

「ガハリエが殺したってことだよね?」

「おそらくは。ただ二回目の人生では見事に撃退されたそうです。しかし王族から魔女が出たことバレたら問題になるため、魔女に連なる者は全て追い出され、別の女性が迎えられたそうです」


 結局はあまりよろしくない結末だった。

 それにしても、王族も魔女を忌避していたのならどうして王族と魔女が結婚したら、子供は魔女を引き継がれないと語り継がれたのだろうか。


「でもガハリエを撃退したってことは、その魔女の人はすごかったのですね」


 クリストフ達ですら苦戦したのに、それを女性が一人で追い返したのだから賞賛すべき事だ。


「ですがその後は王族の血もどんどん薄くなっていきましたから、魔女の力も弱くなっていったそうです。これも運命でしょうか、ベアグルント家は先代にちょうど王族の方が嫁ぎに来ましたため、また王家の血が少しだけ入ったのでしょう」

「そういえばおばあ様はそうでしたわね。すごく厳しくて苦手ですけど……」


 お父様には優しいおばあ様だが、孫の私には厳しかった。作法に厳しく、何度も鞭で叩かれた。

 お父様が見かねて私と引き離さなければどうなっていたか、本当に嫌な人というイメージしか残っていない。


「奥様が素性が知れないということで、結婚はかなり揉めたそうですからね。一時期はベアグルント領も傾きかけましたが、旦那様の努力とお嬢様が王家との繋がりを強めたおかげで、財政も安定しました」



 平民のお母様を嫁に迎えて、別の令嬢から本来もらえるはずだった上納金が無かったため、苦しかったらしい。

 それならおじい様の時代に、おばあ様が浪費しなければ良かったのに、と思ったが、そんなことを言えば生意気だと叩かれるのがオチだった。


 リタは服の中で首に下げているブローチを取り出した。

 それを私へ差し出した。


「これは?」

「奥様から結婚する時に渡すように言われていたものです。宝石箱の鍵みたいでして、お嬢様に開けて欲しいと言っておられました。これこそが魔女の始祖を倒せる唯一の方法と仰っていました」



 そんなすごいものがあるなんて。もしかするとご先祖様もガハリエを倒すため機会を窺っていたのではないだろうか。

 ブローチは無くさないように懐に入れた。

 するとリタはホッとした顔になった。


「これで私も重い肩の荷が下りました。あとは田舎に引っ越しをして、猊下から頂いたお金で豪遊します」

「えっ!?」


 ずっと側にいてくれると思っていたのに、居なくなったら私が困る。

 でも彼女を束縛もしたくないから、引き留めたくも口に出来ない。

 するとリタは、クスリ、と笑っていた。


「冗談ですよ。ずっとお側に居ます」

「もう!」


 からかわれたようで、ほっぺを膨らませたが、本心は嬉しかったのでそれ以上怒らないであげた。

 彼女の顔が上がり、私の後ろを見ていた。

 振り返るとそこにはバツが悪そうなクリストフが立っていた。


「すまぬ……やはりこのままではいけないと思ってな」


 なんと返せば良いのか悩んだ。それと同時にホッとした。まだ彼との関係を戻せると。勇気を出して彼へと駈け寄った。


「わたくしの方こそごめんなさい……叩いてしまって、本当にごめんねさい!」


 頭を下げた私の肩に触れ、そして彼はゆっくりと抱擁してくれた。


「気にしていない。其方のことであるのに黙って動いた俺が悪いのだ。二人で話し合いをしよう」



 先ほどのリタの話を伝えないといけない。



「実はそのことで重要な話がありますの!」


 彼の部屋に戻って話をする。外から帰ってくるとやはり暖炉がある部屋は暖かいと感じた。

 コートを脱ぎ、彼とベッドで横座りをした。

 先ほど聞いた話を伝えると、彼は頭を抱えていた。


「そうか……結局そなた抜きでは始まらない話だったのだな」


 しばらく考えをまとめるように彼は沈黙していた。おそらく葛藤しているのかと思う。それほどまでに彼は戦場へ私を連れて行きたくないようだ。

 しかし彼もとうとう折れた。


「其方も一緒に行こう」

「本当ですか!」

「ただし!」


 喜ぶ私を制するように彼は条件を突きつける。


「少しでも危なければ俺を置いてすぐに逃げる。それだけは必ずしてもらう」


 最大限の譲歩であり、彼との約束になる。私は頷いて、彼は少しだけホッとした顔になった。

 しかし私も条件を付けよう。


「それでしたら貴方も必ず帰ってきてください。そうしてくださらないと困るように、私に貴方を残してくださいませ」

「何を――」


 彼を押し倒すと驚いて目を丸くしていた。そしてすかさず彼の上に馬乗りして、服を脱ごうとした。

 それで彼も思惑に気付いたようだった。


「待て! 薬をまだ飲んでいない! もし俺に何かあれば其方が――」


 彼は私を止める。だけど彼に命を大事にしてもらうためにこうするしかない。


「そんなこと……言わないでください」



 彼はきっと自分よりも他人を大事にできる人であろう。あの日、ガハリエと戦ったときも自分の負傷より私を気にしていた。

 あの時は生きていたが、今回は本当に死んでしまうかもしれない。

 だからこそ彼の重荷になりたい。



「夫婦なんでしょ? 式を挙げていないからわたくしに永遠を誓ってくださらないのですか! どうしてずっと貴方がいなくなるのが前提なのですか! 未来を夢見てはいけないのですか!」



 気持ちが昂ぶるたびに涙が溢れてくる。すると彼は私を大きな腕で包み込んでくれた。


「泣かないでくれ。俺は絶対に死んだりしない」

「それは私がお願いしたからですか?」

「いいや、これは俺の意志だ」


 彼は体位を変えて、私がベッドの下側に来るようになって、膝立ちになり私へキスをする。私が落ち着くまでずっと彼は唇を離さなかった。

 そしててゆっくりと唇を離してから、彼は服を脱ぎ出す。


「其方の喜ぶ顔がもっと見たい。ソフィー、未来でも食事をする姿は綺麗だった、何気なく人助けをする君の心に触れたかった」


 彼の手が次第に私の全てを露わにしていく。そしてお互いに何も隠さず一つになる。


「何があってもソフィーの元へ帰ってくる」

「うん……」


 お互いに感触を確かめながら、長い時間をかけて彼の愛を受け続けた。


「其方を独占していいのは私だけだ。他の者にはもったいない」

「うん! うん!」


 どんどん彼は独占欲を強くするように体で示してくる。

 私もそれが嬉しくて、彼に刻まれるためにどんどん笑顔になっていく気がした。


「可愛い顔だ。もっと見せてくれ」

「ん……」

「ほら」


 次第に快楽に耐えるのがきつくなってくると、彼は愛おしそうな顔をする。彼ともっとこうしていたい。毎日でも側に居たい。もっと唇を合わせて欲しい。


「ん……ねえ……クリス……」

「どうした?」

「ううん」


 自分から言うのが恥ずかしいと思ったときに彼から唇を合わせてくれた。

 この一瞬とも思える時間は、たしかに気持ちが通じ合っている気がする。

 これまでの我慢を全て吐き出すように、気持ちをお互いにさらけ出していく、

 彼は約束として私の体へ残していく。未来で芽吹くために。


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