間話 始祖の討伐 セリーヌ視点
わたくしの名前はセリーヌ。国から聖女という地位を頂き、特殊な力で国に貢献してきた。
不作の地があれば豊穣に、干ばつが続けば雨を降らせる、そして魔女が姿を隠せば魔女を見つける。
それが聖女の仕事だ。
代々受け継がれる力だが、聖女は短命であり、二十歳には死んでしまう。
お母様もすでに亡くなっており、お父様も後を追ってしまった。
だからと言って聖女の仕事を誰かが代わってくれるわけでもないため、私は幼いときから人々の役に立つように生きてきた。
国から指令が届き、それにため息を吐きたくなった。
「どうかされましたかな」
テーブルにコトンッとケーキが置かれた。指令書から顔を上げると、執事のように紅茶を注ぐヒューゴがいた。
いつものように無愛想だが、少しだけ機嫌が良さそうだった。
彼とは幼なじみなので、他の人が気付かないことでも私は気付くのだ。
「このケーキはどうしたのですか?」
「先ほど、ソフィア様が訪問されて、美味しいお店を見つけたからとお裾分けいただきました」
「まあ。ヒューゴにもお友達が出来ましたのね」
「つまらないことを言うのでしたら取り上げますよ」
それは困る。奪われる前に皿ごとこちらへ引き寄せると、ヒューゴは呆れていた。
しかし、ソフィア様の懐の深さには少しばかり驚いた。ヒューゴが行ったことは非道で、普通ならもう関わりたくないと思うものだろう。
クリストフもまた仕事人間であり、独身で過ごすかと思ったが、良い人を見つけたものだ。
ふと。ヒューゴの姿勢が少し悪いことに気付く。
「あら、腰でも痛めましたの?」
「ええ。先ほどクリストフと手合わせをしましてね。てっきり怠けていると思っていましたが、前よりも強くなっておりました。結婚すると強くなるのですかね」
「守る人がいるからではないですか? あっ……ならヒューゴもわたくしと結婚すればもしかしたら強くなるかもしれませんよ!」
ちょうど結婚のことを考えていたため、思わず先走りすぎた。
するとヒューゴの顔が急に気難しくなった。
「誤解がなきように。私はただの貴方の部下です。いくら親しいからと言って、そのような勝手は国が許しませんよ」
その国が私に結婚しろと言っているのだ。次世代の聖女を残さねばならぬからこそ、候補の中から未婚の男性を選ばねばならない。
その中にヒューゴだって入っている。
悩みの種だからこそ早く解決したい。
「それよりもガハリエの件で至急承認をいただきたいです」
「セラフィン元大司教ですか? 何か進捗があったのですね」
報告を聞くと、セラフィン元大司教はグロールング領の山脈へ姿を隠したらしい。
お得意の転移も回数を重ねるごとに距離を短くしていき、とうとう自然の中に隠れることにしたようだ。
そうなると人手が無いと見つけることができない。
「分かりました。本国にも連絡して人員を派遣してもらいます。この国の王にも要請してみましょう」
犯罪組織を解体したとしても、教祖が生きていればまたどこかで復活する。
永遠の時を生きている化け物をここまで追い詰めたのは今回が初だ。
絶対に取り逃してはいけない。
「その任については私も同行させてもらいたい」
ドアを開けると同時にクリストフ司祭が提案する。
おそらくはヒューゴが呼んだのだろう。
しかしヒューゴは歓迎しているとはいえない不機嫌な顔をしていた。
もしかして訓練でやられたことを根に持っているのでしょうか。
「構いませんが大司教代理とはいえ、私の下に就いてもらいますよ」
「もちろんだ。あの男だけは生かしてはおけない」
セラフィン元大司教は彼の後見人だ。親同然の男が彼の全てを奪ったとなれば、親愛から憎悪に変わっても仕方が無い。
「クリストフ司祭、私情を挟みすぎては任務に支障をきたします。その溢れ出る殺気を抑えない限り参加は許可しません」
勘ではあるが危うい気がする。本人も己を顧みたようで、息を吐いて落ち着かせる。
「かしこまりました。出動が決まる前に判断ください。妻も狙われて外出も困難になっております。平穏を取り戻すためにもこの身を磨きます」
準備はいくらしても多すぎることはないだろう。もし伝承通り始祖の力が全開になれば、それこそ国が滅ぶかもしれないのだから。
だけど言葉にできない不安が頭をよぎる。




