甘くて幸せな時間
すぐに離れたい。そうしないと――。
「ソフィー!」
ベッドの端まで逃げようとした。
だが彼にすぐに捕まり、両腕が彼に掴まれて身動きできない。
「いや! 離して! いや!」
じたばたと暴れたがそれでも彼は離さない。
「落ち着くのだ! こればかりはどうしても……嫌でも無理矢理にしなければ其方が――」
だが彼は絶句した。それはきっと私の涙を見たからだろう。
「ち、違うの……これは、ただ……」
涙が止まらず、彼は言葉を失っていた。
「あの男に……肌を触られて……」
「分かった! もういい。俺の配慮が足りなかった……恐い思いをさせてすまない」
「ちがうの……」
そうじゃない。たしかに恐かったが、そんなのどうだっていい。
ただ――。
「あの男が刻印に神聖術を使った時……必死に耐えたの……だけど頭がおかしくなりそうで……」
無理矢理に自分の恥ずかしい部分を見られたそんな気分だ。何もなかったが、たしかにあったのだ。
そのせいで彼に顔向けできない。
「貴方以外の人に……あんな気持ちにさせられた私が汚くて……それが嫌なの……」
彼は悪くはない。私もただの被害者だ。だけどそれでも彼を裏切ってしまったかのような罪悪感があった。
「ソフィー……」
「好きなのに……でも私は汚――むぐっ!」
彼の唇が私の言葉を止めた。それはとても長い時間だ。この時間だけはおそらくは私達のためだけにあるであろうと錯覚できるほど、彼は情熱的にキスをした。
そして唇が離れ、彼は真剣な顔で泣きじゃくる私へ断言する。
「其方は美しい。自分が助かる道があったのにヒューゴの命を優先した。自分の命と引き換えにやつを倒そうとした其方の勇気が綺麗でなければ何が美しいと言うのだ!」
「でも……それでも――」
すると彼はまた唇を合わせてそれ以上の言葉を止めた。そしてまた離した時に、彼から先に囁く。
「今日のことは全て忘れさせてやる」
そう言った彼は私の下着にそっと触れた。
「今日の思い出は俺との時間だけだ。それ以外は些細なことにしてやる。ソフィーのことはこの俺が全て知っている」
彼は肌を合わせて、私の反応を確かめながらじっくりと焦らす。
それに堪えきれず、私は彼の虜になっていた。
何度も止めたのに、今日だけは意地悪だ。
「クリ……ん――ッ」
何度もキスをしてお互いの気持ちを確かめ合う。
どんどんと頭がとろけて、本当に今日のことが彼だけにいっぱいになっていく。
「ソフィー……愛している……」
「わたしも……」
彼の首に手を回してシーツをどんどん乱していく。
初めてなのに、色々と不安だったのが嘘みたいに本当の快楽に溺れた。彼は本当に私のことを知り尽くしていた。
するとどんどん正直な気持ちが出てきた。
「とっても恐かったんだよ……」
「もうあんなことにはさせない」
「ううん。来てくれるって信じてた……好き」
また幸せな夢の続きが始まった。
彼は何度もとろけさせてくれる。そのたびに「綺麗だ」とか「もっと可愛い顔をみせてくれ」と囁いて、どんどん人に見せられないところを彼だけが知っていく。
彼が動くたびに、どんどん侵入してくる。体の奥がうずくたびに、彼はそれを察してどんどん深く潜り込む。もう私は止めることはせず、全てを受け入れるだけだった。
全身に痺れるような甘い感触が広がり、まるで体に満ちていくようだった。
まるで夢心地の時間はすぐに過ぎ去り、彼は私を抱きしめてくれた。
背中をさすりながら尋ねてくる。
「不安がなくなるまでずっと側にいる。安心して眠るといい」
「いや! ずっと抱きしめて!」
彼は首を傾げた。先ほど彼が言ったことが本当になったのだ。
「もう今日のことはクリスのことしか覚えていないもん……だけどずっとこうしてほしい」
私のお願いにくすりと彼は笑う。
「甘えん妨な其方も愛らしいな。実を言うと俺も抱きしめたかったのだ」
彼の唇がおでこにチュッと触れた。
「もう眠くなってきたか?」
「うーん……まだちょっとドキドキしているかも……」
「ならもう少しだけ続きをしないか?」
思わず悪いことを考えた。
「意地悪しないなら考えてあげる」
「それは聞けないな」
「もう……クリスのえっち……」
優しい彼に抱かれていつの間にか寝てしまった。
とても疲れて、嫌なことがたくさんあったはずなのに、すごく素敵な一日だった気がした。




