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死に戻って王太子に婚約破棄をしたら、ドSな司祭に婚約されました〜どうして未来で敵だった彼がこんなに甘やかしてくるのでしょうか〜  作者: まさかの


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魔女の潔白

 私が組織に入っていたとき、私に何度もやり直せると訴えていた少女がいた。だけど私はその言葉を無視して組織に残り続けた。

 だけどとうとう私はその言葉を受け入れて、罪を償おうとしたとき、彼女を狙ったボスが不可思議な技を放ったのだ。

 そして私はそれに身代わりになって死んで、過去に戻ってきた。

 目の前にいる銀髪の少女こそ、宗教大国家にて聖女として特別な力を持っていた。その聖なる力は人々の平和な暮らしを守っているのだ。



「どうかしましたか、クリストフ司祭?」



 固まっているクリストフへ聖女セリーヌは首を傾げていた。それをもう一人の司祭であるヒューゴが、薄く笑って尋ねる。


「おやおやクリストフ司祭、まるで悪いことをした子供のような顔になっておりますよ。もしかすると噂は本当ということですか?」


 ヒューゴは不気味なほど不自然な笑顔を私へ向ける。もしこの状況でセリーヌに触れられたら異端審問するまでもなく魔女であることがバレてしまう。

 何も答えない彼へヒューゴはしびれを切らした。


「なんとか言ったらどうだ、クリストフ!」



 突然にもヒューゴは人が変わったかのように豹変する。クリストフの手を振りほどいてベンチから立ち上がった。


「お前は司祭だ。国が総出を上げて魔女から人々を守っているのに、己を律することを忘れて肉欲に負けたか?」

「ぐっ!」


 ヒューゴはクリストフの胸ぐらを掴んだ。苦しそうな顔をする彼を助けないといけない、と思っていた時、私の手の上に何やら違和感があった。


「お前は私と同じ境遇だ。だからこそ同期として買っていたのだ。なのにお前は魔女を狩ることはせず内地に籠もり、魔女を好きになるという過ちを犯したのだぞ!」


 あまりにも大きな声で怒鳴るせいで、通行人達も何事かと気づき出す。

 さらにはクリストフは有名人であるため、魔女という言葉で噂の事について頭によぎったであろうことは想像に難くない。



「彼女は何も悪いことはしていない。神は全ての人に平等なはずだ」


 クリストフの苦し紛れの説得をヒューゴは鼻で笑った。


「お前は何を学んだ。魔女は人ではない、化け物だ。お前にチャンスをやろう。自分の手でその女を殺せば、私は規律に従ったと上に報告してやる。魔女を騙すために好意があるフリをしたとな」


 私を見捨てるのは簡単だ。だが彼の性格上、そんなことは絶対にしない。

 私だけが見える位置で、彼の手に鎖が現れるのが見えた。

 彼は私を守るため、祖国へ反旗を翻すつもりなのだろう。

 だけど私はそれをさせない。私も立ち上がった。


「失礼、ヒューゴ司祭」


 ヒューゴの腕を掴む。すると私が前に出るのは意外だったのだろう。そのままクリストフを離してくれた。


「ごほごほ、ソフィー何を!」


 私が前に出なければ、彼は暴れていただろう。だけどそれでは彼が全てを失ってしまう。


「ほう、ご自身が前に出るとは、なかなか肝が据わっていらっしゃる」


 愉快げな顔をするのは私を苛立たせようとするハラがあるのだろう。

 だけどそんな安い挑発に乗らない。


「わたくしにいわれの無い噂が立っていることは存じ上げております。ただ、正式な書状の知らせがきておりませんのに、公衆の面前でわたくしを辱める権利は他国の貴方にはないはずです。違いますか?」


 なるべく平静を保ったままゆっくりはっきり、堂々と言う。はったりが効いて退いてくれ。

 だがヒューゴは一瞬だけ虚を突かれた顔をするだけで、彼の手が突然私のあごを掴んで顔を近づける。


「ぐっ!」

「私に嘘は通じませんよ。何人の魔女を殺してきたと思っているのですか。拷問をせずとも其方の嘘くらい――」


 拷問という言葉で脅したいのだろう。だが私はもっと恐い旦那様から、命がけの追いかけっこを何度もしたのだ。あれに比べたらただの司祭程度に怯えてなるものか。

 私はヒューゴの手を払いのけた。


「無礼者! 私の家はベアグルント! いくら貴方様が他国の要人であろうとも、証拠も無く事実無根を訴えるのなら相応の覚悟は持っているのでしょうね!」


 だが相手も臆することは無かった。


「証拠なんぞ、聖女様が貴女へ触れば――」



 ヒューゴは私の後ろへ目をやり、まるで探し人が見つからない様子で辺りをきょろきょろとしていた。



「セリーヌ様! いずこへ!」


 先ほどまでいた聖女は見渡す範囲ではどこにもいない。それを私は知っていた。


「まさか、貴女が何かしたのですか!」


 ようやくヒューゴも焦った顔をする。聖女で無ければ私を魔女だと実証できない。私の腕には魔女の刻印なんてないので、この場で服を脱げと言われない限りは絶対にバレないのだ。


「おあいにくですが、聖女様はふらふらとあちらへ歩いて行きましたよ。その道に立っている方々に聞いてみたらいかがですか?」


 ヒューゴは野次馬達に目を向けると、その者達は彼の圧にびびりながら何度も頷いてみせた。

 するとヒューゴも嘘では無いとわかり、大きなため息を吐いた。


「全く、あの方はすぐにどこかへ行かれてしまう。しかし本当に度胸がある。てっきり簡単に白状するかと思ったのですがね。まったく、女性は見た目で分からないものです」

「身に覚えが無いことに答えようが無いだけです」



 状況が少し良くなった。あと少しでこの場を切り抜けられそうだ。早くいなくなってほしい。するとやっと彼も諦めてくれた。


「いいでしょう。いくら私が今騒いでも、腕に刻印が無いのでしたら、可能性として胸の下でしょうか――そこは公衆の面前ではだけさせることはできませんからね」



 ドキッと心臓が高鳴った。どうやら彼は魔女の刻印が腕だけに無いのを知っているようだった。


「未来予知が出来る特別な魔女にそのような特徴が出るそうですね」

「そうなのですか、私には関係がありませんのでもうこれくらいでよろしいでしょうか」


 なるべく強気な態度を続けて、彼が去ってくれるのを祈った。


「そうですね。ただ前に出るとしても無防備すぎますね。脈は嘘を吐けないのですよ」



 ふと私の左手に誰かの手が触れていることに気付いた。それはヒューゴの手が私の腕の脈に触れている。もしかすると先ほどアゴを強く握ったのは、これに気付かせないため!?

 私は急いで手を振りほどく。だがあちらもそれ以上の追求はしないようだった。


「ではごきげんよう、ソフィア・ベアグルント殿。次は異端審問で会いましょう」


 礼儀正しそうに一礼して私の横を過ぎる。そしてクリストフの隣に一瞬だけ立ち止まった。


「恥知らずめ」



 その言葉を残して歩いて消えていく。だけどまだ周りの野次馬達もいるので、気を抜いている場合では無い。


「みなさま、失礼しました。全ては異端審問の時に潔白が証明されるでしょう。わたくしは潔白を訴えますので、もしこれ以上過度な噂を広める場合には、こちらとしても黙っていることはありませんのでご承知ください。行きましょう、クリス」

「あ、ああ……」


 私達が通る道を周りが勝手に空けてくれる。今日はこれ以上デートは無理そうなので、馬車に乗った。

 カーテンを閉めて、私はやっと気を抜けて背もたれに体を預けた。


「こわかった~」


 人生でこれほど命を賭けたはったりなんてしたことがなかった。だけどヒューゴには見透かされていたので、あまり良い結果には転ばなかったが。

 隣に座るクリストフが私の頭を撫でる。


「よくあの状況で堂々とできた。おかげで最悪を免れたぞ」

「へへっ」


 ただあれば切り抜けられる確証があったからに過ぎない。私は手に持っている紙を広げた。


「それはなんだ?」

「聖女様の手紙だよ」

「なんだと!?」


 あのベンチでの出来事の時に、セリーヌがこそっと私にこの紙を渡してきたのだ。

 彼に渡すと小さな声で読み上げる。


「今日の夜に大聖堂の裏口を開けておきます。懺悔室で待っておりますので、クリストフ司祭とお越しください――だと?」



 どうやら彼女自身は早急に事を進めたいわけではないようで安心した。心優しい方なのでこちらの事情を聞いてから判断したいのだろう。


「ではどこかで時間を潰した方がいいかもな」

「それがいいかもしれませんね」


 御者にお願いして適当に止めてもらうようにお願いした。しばらく馬車の中で身を潜める。


「あのヒューゴさんって方も魔女によって何か失ったのですか?」

「ああ。俺と同じく爆発で領地が一部吹き飛んだ。その時に大事にしていた妹君を亡くしたらしい」

「そうだったのですね……」


 そうなるとクリストフと境遇は似ているどころか全く同じだ。だが彼から漂う悲壮感はクリストフとは違う。私が魔女だと判明すれば、一切の温情無く殺すことは目に見えていた。

 私はとうとう彼と別れる時が来たのでは無いだろうか。


「ソフィー、顔色がどんどん悪くなっているぞ。心配せず――」


 彼が私を抱きしめようとしたが、彼の顔の前に手をやってそれを拒否した。このまま甘えたままではいけない。


「ねえ、クリス。私達、別れましょう」


 彼の顔をまともに見れずに、下を向いたまま言った。すると彼は声を震わせながら答える。


「何を……言っておる」


 私の魔女の噂が流れてから潮時だと思っていた。今日は助かったが、ここまでバレてしまってはもうどうすることもできない。


「もう私のせいでクリスまで巻き込みたくないの……」

「そんなことを気にしないでいい」

「私が気にするの!」


 思わず怒鳴るような声になってしまい、自分の声に驚いた。

 だけどもう手遅れだ。また私はこの魔女の力のせいで全てを失うのだ。



「日に日にクリスの事を好きになっている自分がいるの……」


 彼と別れるのは私だっていやだ。もっと一緒に食べ歩きたいし、遊びにだって行きたい。

 望むなら彼の子供だって考えたかった。だけどそれを望むには私の血が邪魔をする。

 どうしてみんな私達の邪魔をするのだろう。

 涙が溢れてくる。


「クリスの事が好きでも……どうしようもないんだもん。私を嫌いになってよ……見捨ててよ。クリスは悪くないのに、周りから色々と言われて……私が全部悪いのに……」


 このまま私が死ねば全てが解決する。そう思ったら、防犯用に持ってきた腰の短剣に自然に手が伸びた。


「ソフィー、何を考えている!」


 だが彼は私の挙動に気付いて私の腕を力ずくで止める。短剣が首元にもう少しで刺さるのに、彼がそれを許してくれない。


「私が死ねばクリスはまた元に戻れるの! 離して!」

「馬鹿を言うな! 其方が死ぬ必要は無い!」


 彼は私から短剣を奪い去って私の手が届かないところにやる。

 取りに行こうとしたが、彼は私を強く抱きしめた。



「少し落ち着いてくれ……俺は其方を見殺しにして生きていくつもりもない」

「なんでよ! 私を見捨ててよ!」



 じたばたともがいたが彼の力に勝てるわけもなく次第に疲れて暴れる体力も無くなった。


「私のせいで不幸になった貴方から嫌われたくないのよ」

「俺が嫌うわけないだろ。俺が選んだ道だ。其方が俺を嫌っても一生側に居る」

「嫌えないよ……なんでそんなに優しくするの……」

「其方を愛しているからだ」

「んっ!? ……ぅん」


 彼は私の反論を唇を会わせることで防ぐ。少しずつ気持ちも落ち着きだした頃に彼はゆっくりと唇を離した。

 そして真面目な顔で言う。


「一つだけ異端審問を乗り越える方法がある」


 彼の言葉は半信半疑だった。


「本当ですか? それは一緒に国外へ逃げるではありませんよね?」


 ずっと逃げ続ける人生には限界がある。彼だけならまだしも、私はおそらくどこかでへまをするだろう。それに私のために彼を縛り付けたくない。

 だが彼は首を横に振ってくれた。


「今の生活から変わることは無い。だが其方に確認しなければならないことがあるのだ」


 クリストフは急に躊躇うようなそぶりをしてなかなか本題を話さない。

 だがやっと覚悟が決まった顔をする。


「神聖術を其方の体の中で満たせば、一時的に魔女の刻印を消すことが出来る。そうなれば聖女様でも探知が出来なくなるはずだ」

「本当ですか!?」


 そんな方法があるなんて。なら私は取り越し苦労をしてしまったようで、余計に彼に苦労を掛けてしまった。しかし言葉には続きがあった。


「だが何度もすれば効力も薄まるため、異端審問の前日に行うつもりだ」

「ええ、ぜひお願いします! でもどうしてそんなに緊張した顔をされているのですか?」



 私が尋ねると彼はごくりと息を呑んだ。


「神聖術はいつものように外から掛けるのではない。それでは効果が薄くなるため直接体内に入れる必要がある」

「はい」


 相づちをうつ。その続きを聞くために耳に全集中を注ぎ込んだ。


「その方法は其方と閨事を通して体に送るということだ」

「はい……えっ?」



 思わず普通に相づちをしようとしてしまった。彼の顔が真っ赤になっており、私も少しずつ理解してきた。


「えっと……そうしますと、その日が私達の初夜になるということですか?」

「いかにも……子供ができないようにその日は俺が薬を飲むから安心するがよい。嫌でも我慢してくれ。こればかりはもう避けられないのだ」

「い、嫌ではありません!」


 また私は大きな声が出てしまった。お互いに気まずくなってしまった。恐る恐る私は予防線を張る。


「初めてなのでがっかりしないでくださいね……」


 書物で見ても分からないことだらけだ。だが彼はそんな私を馬鹿にしなかった。


「するわけなかろう。だがその日だけは覚悟はしてくれ。俺もこれまで我慢させられたのだ。その日だけは其方は寝不足で異端審問を受けねばならぬかもしれないからな」


 そういえばリタが言っていた言葉を思い出す。彼は体格が良いので、もしかしたらそれに見合ったモノがあるかもしれないと。そして彼の底なしの体力。

 頭の中で色々な想像が駆け巡った。

 すると彼は私の耳元で囁く。


「其方の妄想を何倍も上回ってみせよう」

「……はい」


 一体どんなことをされるのだろう。私は夜までずっとそのことばかり考えてしまった。


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