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死に戻って王太子に婚約破棄をしたら、ドSな司祭に婚約されました〜どうして未来で敵だった彼がこんなに甘やかしてくるのでしょうか〜  作者: まさかの


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もっと積極的に

 ~~☆☆~~

 私の名前はクリストフ。

 ドラゴン退治の褒美で休みをもらっていたが、その期間も終わり、また司祭の仕事に明け暮れる。ソフィーには外出の時は騎士の護衛を付け、遠出の時は俺を呼ぶように伝えた。

 たまにアベルも巡回してくれるため、前よりはこちらも準備が整っていたので危険も少ないであろう。

 俺は自室で執務をしていると、アベルがやってきた。


「浮かない顔をしているな。ソフィアちゃんと何かあったのか?」



 この男は顔を見ただけで、簡単に俺の悩みを当ててきた。悔しいが頼らなければならない。


「恥を忍んで其方の意見を聞きたい。最近、ソフィーがよそよそしくてな。だが理由が分からないのだ」

「たとえばどんなだ?」

「一緒に寝てくれなくなったのだ」


 魔女の刻印は一週間に一度ほど神聖術を使えば抑えられる。だからそれほど頻繁に一緒に眠る必要はないが、俺は少しでも彼女の側に居たいので、色々な理由を付けて誘っていた。

 だけど最近はやんわりと断られる。

 アベルは急に退屈そうな顔に変わって耳をほじっていた。


「お前の行為が乱暴だからなんじゃねえの?」

「まだ何もしておらんわ!」


 机をドンッと叩いた。すると逆に意外そうな顔をする。


「結婚して結構経つのにまだ手を出していないのか?」

「当たり前だ。お前にも話したが、魔女の血を持つ彼女との間に子供が出来たら、その子までソフィーと同じ辛い目に遭うであろう。だからこそ俺も色々な文献を漁って、彼女を血から解放する方法を探している」


 俺は彼女を不幸にするつもりはない。せっかく司祭という身分があるのだから、一般では手に入らない書物を簡単に読むことが出来る。時間は掛かるが、少しずつ昔の書物の解読も進めていた。

 だがアベルをやれやれと手を頭に当てていた。


「別に色々と方法もあるだろうに。お前、もしかして飽きられているんじゃねえか?」

「飽きられる……だと?」


 その言葉を聞いて、急に気分が重くなった。胃に何か詰められたような不快感が押し寄せてくる。アベルは大きなため息を吐いた。


「当然だろ。一緒に寝て、全く手を出さない朴念仁なんて退屈でしょうがねえ。どうせお菓子で釣っておけばいいとか思ってるんだろ?」


 アベルの言葉が突き刺さり、言い返せなかった。。これほどまで自分の不甲斐なさを実感する日が来るとは。


「其方、ワインが好きであったな。今度俺の家から好きなやつを一本持っていくといい。だからどうすればいいかを教えてほしい」

「おっ、いいぜ。俺がしっかりとお前をいっぱしの男にしてやるよ」


 この男が友人で良かったと初めて思えた瞬間だった。教わった成果を披露するのは、ブリジット殿とのお茶会になりそうだ。


 ~~☆☆~~

 私は今、緊張の瞬間を迎えた。リタがコルセットをきつく締め上げ、そして緊張しながらドレスを着た。すっぽりと前と変わらないフィット感で私はガッツポーズを取った。


 ダイエットに成功した。


「ソフィアお嬢様、頑張った甲斐がありましたね」


 私は泣きたくなるほど嬉しかった。なるべくお菓子を我慢して、朝の訓練も参加して今日まで体を絞ってきた。

 だらしなくなった体では彼に愛想を尽かされると思い、必死で運動をしたのだ。

 たまにデートも誘ってくれたが、なるべく食事より劇などでお腹が満たされない場所を選んだりと大変だった。


 ――ちょっとクリスには見せられなかったけど、今日の夜は一緒に寝たいな。



 痩せるまでは彼に甘えるのを我慢した。だけど一人で眠るより彼と一緒に寝るときの方が、寝心地が良かったことに気付いた。

 だからこそ元の体重に戻った今なら、また彼と一緒に寝られる。


「もうクリスも来たかな?」

「はい。馬車で待ってくださっておりますよ」


 彼も司祭の仕事に戻ったので、少しの間だけまた会えなかった。久々、会った私の変化に気付いてくれるだろうか。


 馬車に入ると彼はいつものように姿勢正しく座っている。甘やかされることも多かったので、なるべく大人な女性なところを見せてあげよう。


「お待たせしました。クリスと会えるのを楽しみにしていました」


 すると彼は向かい側に座っていた私に近づいて、私の手の甲にキスをした。


「俺の方こそ楽しみにしていた。少し痩せたか? 前よりも素敵になっているな」


 心の中でやった!と喜んだ。頑張って運動をした甲斐があったというものだ。だけど少しだけ彼に違和感を感じたが、何にそれを感じたのかは分からなかった。

 すると彼は座り直して私の髪にも目をやる。


「今日は編み込みにしているのか」

「ええ。女性のお茶会ではなるべく可愛さよりも大人っぽさが出る方が好まれますので」

「そうか。どおりで今日は普段とは雰囲気が違うと思ったのだ。前も良かったが、今日の其方も美しい。今度は二人っきりの時に独り占めさせてもらおう」


 なんだかいつもの彼と違う。こんな気持ちを正直に言うタイプだったっけ。だけど彼の甘い言葉なら全然欲しいので、私は素直に受け取っておく。


「ありがとう存じます。クリスと会えなくて寂しかったですが、今日はずっと一緒にいるから少し楽しみでしたの」

「それは光栄だ。俺も話しを聞きたかったのだ」


 これまでの経緯として私が作る小さな学校の話をする。まだ改修しながら、少しずつ必要な備品を入れていく。

 お金はそこまで掛けず、なるべく配給等をして生活に困っている人をサポートしていく予定だ。


「そうなるとひと月は掛かりそうだな」

「そうなると思います。もし一人で難しいときは騎士団のみんなにも手伝ってもらう予定です。もし優秀な人材が生まれたら、そのまま雇い入れるのも考えておりますわ」


 才能が埋もれている人材に投資をしていつか返ってくるように私も頑張らなければならない。

 クリストフからも慈善だけではなく、リターンも考えるように助言をもらっていた。


「最初から上手くいくことは少ない。まずは一つ一つ試していくのがいいであろう。さて真面目な話はこれまでにしておこう」


 彼は突然にも立ち上がる。馬車が走っている中でよく転げないと感心していると私の隣に座って、私の腰に手を添えて持ち上げた。


 ――待って、まだそこはぷにぷに!


 そのまま彼の膝元へ着地する。

 いくら痩せたといっても筋肉が付いたとはいえず、彼がどう思うか気になった。

 すると首元で彼の吐息が掛かった。


「ソフィー、最近はよそよそしかったが、俺のどこが気に入らなかったのだ?」


 あまりにも距離感が近く、私から腕にくっつく分にはいいが、彼のひっつき方は顔が見えない分、妄想が膨らんでしまう。


「い、いいえ。ただその……」


 ダイエットをしていたからとは言いづらい。だけど彼の手がお腹に触れたので、もしかして気付いているかもしれない。


「言いたくないのなら構わない。だけど俺はこれでも寂しがり屋なのだ。もっと近くで其方の顔を見せてくれ」


 彼に言われるままに半身だけ後ろを振り返る。すると彼は私の手を彼の肩に回される。


「いくらなんでも近すぎませんか? 誰かに見られたら……」

「見せればいいではないか。俺たちは夫婦なのだから。俺も反省している。其方にはあまり正直な気持ちを伝えていなかったからな」


 そうだったけ。彼はひんぱんに愛を囁く印象があった。言葉は少ないが私を気に掛けてくれることは感じている。

 彼はさらに私の体を引き寄せようとする。


「きょ、今日のクリスはどこか変ではありませんか! いつもより強引と言いますか……」



 すると彼はやっと動きが止まった。そして反省したように暗い顔をする。


「すまない。慣れないことをしたな。アベルから其方への愛し方が足りないと言われて、少しでも変えようと思ったのだが迷惑だったな」


 まさかのアベルの助言だったか。あの遊び人から影響を受けたのなら、先ほどまでの彼の行動に納得がいった。

 彼が今度は引き離そうとしてきたが、私は彼の首に巻いている腕を解かなかった。


「別に迷惑ではありませんよ。いつもよりワイルドで格好よかったですし……」



 彼は本当に私を飽きさせない。普段はしっかりしていて頼りになるのに、二人っきりの時だけは可愛らしくなるのだから。


「口紅があるからキスはできないのが残念です。私の旦那様は一番素敵ですよ」

「ソフィー……」


 その時、急に馬車が揺れた。石にでも乗り上げたのだろう。彼の力が弱まっているタイミングだったため私は横に倒れそうになった。

 ぎりぎり彼が支えるのが間に合ったが、椅子の上に寝そべるように倒れた。


「す、すみません! 大丈夫ですか!」


 前の御者が声を掛けてくる。するとクリストフは少し恐い声を出す。


「いいから進めてくれ。カーテンを閉めてこっちが見えないようにしろ」

「は、はい!」


 御者も異様な気配を察したのかすぐに言われたとおりにしたのだろう。

 彼と見つめ合い、お互いの体が密着する。

 狭いところで彼と見つめ合うせいか、まるで二人っきりの世界にいるような感覚に陥る。

 私は椅子に寝たまま、彼からの愛を受けるのだった。

 そしてようやくブリジットの家へとたどり着いた。



「ようこそ来てくださいましたわ」


 ブリジットは玄関の前で私達を歓迎してくれる。もうすでにいくつかの馬車が帰って行ったので、おそらくは私が最後になったのだろう。

 それは全部、隣にいる男のせいだが。

 ブリジットは首を傾げていた。


「あら、ソフィアさん、顔がすごく赤いですが、もしかして熱でもあるのではないですか?」

「なんでもありませんよ!」


 私は持ってきて扇子で口元を隠して誤魔化す。だがそれだけで隠しきれないキスマークが首元についていた。

 それにブリジットに気付かれた。


「あら、とても楽しいお時間だったみたいですね」

「ち、違いますよ! これは馬車が揺れて偶然付いただけですから!」


 バレバレの言い訳だが、それでも言っておきたい。

 すごい強引だったが、もしもっと時間があればもう少しあのまま二人の時間を楽しみたかったのは事実だ。


「それほどまで愛されているのでしたら、やはり噂なんてしょせん噂ですよね」

「うわさ?」


 私にどんな噂が流れているのだ。クリストフへ目を向けた。彼も知らないようで同じく首を傾げていた。


「ええ。ソフィアさんが正教会が嫌う魔女の末裔ではないかってね。それならクリストフ猊下が愛するわけありませんよね」


 笑っているブリジットに私もどうにか笑って誤魔化そうとした。


「ブリジット殿、それは誰が始めに流した噂かご存じでしょうか?」

「さあ、私も今日来ている子から話を聞きましたからあまり知りませんの」

「そうでしたか。失敬、あまりにも危ない発言をする者がいると思いましてね。ソフィー、其方は何も気にする必要は無い」


 彼が私を宥めようとしてくれるのが分かった。出来るのなら彼の胸にうずくまって全てを忘れたかった。いきなり幸せだった気分がどん底まで下がっていく。未来の私もこんな風に突然幸せな毎日が消え去ったのだから。


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