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死に戻って王太子に婚約破棄をしたら、ドSな司祭に婚約されました〜どうして未来で敵だった彼がこんなに甘やかしてくるのでしょうか〜  作者: まさかの


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遊び人の波乱

 馬車の中でアベルが急に雰囲気を変えて私へクリストフとのなれ初めについて質問をする。

 おそらくこの人もクリストフから話を聞いていない。私が正教会にとって異端である魔女であることを。

 そして未来では組織の幹部として、国を混乱させたことを。


「それは……」



 クリストフの側にいたときは常に緊張していた。ずっと殺し合いをしてきた宿敵だったからだろう。

 しかし他の神官には誰一人だって遅れを取ったことはなかった。

 だから今回もそのはずだ。


「言えません……」


 全く答えを考えていませんでした。そんな私は苦し紛れに下を俯くしかできない。

 余計に怪しんでいるのかアベルがじーっと見つめている気がした。

 だがそこで助け船が入った。


「アベル大神官様、ソフィアお嬢様は恥ずかしがり屋ですので、あまりそのことはお触れになってほしくないようです」


 私のメイドであるリタが無表情な顔で助けてくれる。アベルも「それもそうですね。失礼しました」とあっさりと退いてくれた。

 張り詰めた空気も緩和された気がしてホッとした。


「しかしあいつがあれほどデレているなんて初めてみましたよ」

「そうなのですか? 私から見るとそうは見えませんでしたが……」


 常に楽しそうにおちょっくているか仏頂面な顔しか見ていない気がする。

 だけどアベルは「いやいや、もう頬が弛みまくってましたよ!」と楽しそうに話す。


「ソフィアちゃんが魔法でも掛けたのかと思ったくらいです」


 どきっと心臓が鳴った気がする。あまり過敏になりすぎるのもよくないのは分かっているが、やはり魔女に関連しそうな話題は心臓に悪い。

 それからはクリストフの話題は潜まり、軽い世間話だけになった。

 そんな話をするうちに私の屋敷が見えてくる。


「なんだか久々に帰ってきた気がします」

「二日しか経っておられませんよ」


 感傷的になっていたのにリタが気分を台無しにしてきた。


「それだけ色々あったのよ! 動物に襲われるし、クリスから告白されたり、もういっぱいあったんだから!」

「告白? それまでされていなかったのですか?」


 アベルが私の言葉を拾ってきた。

 私はそこで自分で墓穴を掘ったことに気付いた。

 てきとうに誤魔化さないといけない。


「何度も愛を囁いてきたってだけですよ!」


 私は「おほほほ」と笑って誤魔化した。なんだかアベルの目がジトーッとしており、余計に怪しまれている。私の迂闊さを呪いたくなった。


 早く屋敷に着いてくださいまし。


「おかえりなさいませ、ソフィア様!」


 屋敷に入ると私を出迎えるため、使用人達が一斉に出迎えてくれた。


「ただいま。今日はお客様もいらっしゃいますので、紹介いたします。私の旦那様であるクリストフ様のご厚意で護衛をしてくださることになったアベル大神官様です」

「しばらくはお世話になります。どうかお気軽にアベルとお呼びください」


 アベルの歯がきらりと光った。すると若いメイド達が頬を赤くしている。

 さっそく色男ぶりを発揮していた。

 これは少し要注意かもしれない。使用人で一夜の恋を楽しむ輩も多く、また個人のことなのでとやかく言いづらい。

 私はリタへこっそりと話す。


「リタ、ちょっといい?」

「なんでしょうか?」

「絶対にたぶらかされないでね」



 耳から離れると、彼女は少しだけ目を丸くしていた。だけど頷いてくれたので、おそらくは大丈夫だろう。アベルはまずは部屋を案内してもらうため、メイドと供に奥へと消えていく。

 メイドを何人か彼付きにしたが、年若い者が多いので心配だ。


「お嬢様、改めましてお帰りなさいませ」


 五十歳になったばかりの執事セバスチャンがやってくる。彼はお父様の筆頭側仕えで長年我が家を見てきた。私も彼に言葉を返した。


「ただいま、セバス。お父様はまだお戻りにはなっていないのですよね?」


 セバスは首を横に振った。


「左様です。ですがもう終局と知らせは来ておりましたので、そろそろお戻りにはなると思います」


 この時期だとお父様は遠征で魔物の討伐に行っていた。それならお父様が帰ってくるまでは私がしっかりと領地経営をしなければならない。


「分かりましたわ。では後ほどこれまでの収支報告書と関連書類を部屋まで運んでください」

「お嬢様が読まれるのですか!?」


 これまでの私は全部の業務をセバスやリタに丸投げしていたため、突然のやる気ある行動に驚かれた。

 だけど私だけ知っているの。一年後には大飢饉がやってくるので、それまでに対策をしないと私の領地が危ないのだ。


「ええ。ずっと苦労をかけましたけど、今日からわたくしも心を入れ替えて頑張ります」

「お嬢様……ついに公爵家の令嬢としての自覚が芽生えて、じいは嬉しいでございます」


 セバスが涙をハンカチで拭いていた。そんな大げさなと言いたいが、これまでの私の言動を振り返るとそう思いたくなるのだろう。


「よしやりましょう!」


 早速と私は自分の執務室に入って、セバスに持ってきてもらった資料に目を通した。

 だけどよく分からない文字の羅列に早速と心が折れかけた。


「紅茶をお持ちしました……どうしたのですか? おねだりするような顔をしておりますが」

「リタ、お願いだから教えて! 全く読めないの!」


 小難しい数字ばかりでどう読んでいけばいいか分からない。

 リタはフッと笑って、私の隣に椅子を持ってきた。


「ご自身から頑張ると言ってくださったのですから、いくらでもご協力いたしますよ」


 リタは優しく私へ教えてくれる。日が落ちる前には一通り資料を読めるようになっていた。

 だけどやはりずっと椅子に座っていると体が痛くなってくる。



「リタ、着替えを手伝ってもらえるかしら」

「こんな時間からどこかへお出かけに行かれるのですか?」

「ううん、遠征に行っていない騎士達が残っているでしょ? 一応は私は副団長なのだから、一緒に稽古をしたいのよ」



 リタは、この子はなにを言っているのだ、という目をしてくる。なにぶん、稽古はこれまでサボり、副団長としての責務も放り投げていたのだから。

 しかし私のお願いということもあり応じてくれる。


「かしこまりました。ですが邪魔だけはしてはいけませんよ」

「分かっていますよ」


 私は動きやすい服に着替えて、騎士達のいる訓練場へと向かった。

 何やら盛り上がっているようで、歓声が聞こえてきた。


「何かしら?」

「さあ?」


 私とリタは顔を見合わせて、急ぎ足で向かってみた。するとどうやら模擬戦を行っているらしく、それで騒がしくなっているようだった。

 普段はいないはずのメイド達も応援に来ているため、嫌な予感がした。


「はは、みんな応援ありがとうね!」


 アベルが笑顔で手を振るため、メイド達がきゃあきゃあと黄色い声援を送っていた。

 そんな彼に対して、騎士達は殺気だっていた。


「やれ、ノエル! お前なら勝てるぞ!」

「そうだ! 俺たちの無念を晴らしてくれ!」



 どうやら騎士達の多くがもうすでに敗れているらしい。

 アベルと今から戦うそばかすのある青年もまた、他の者達同様に気合いを入れている。


「おうよ! うちの騎士の意地をみせてやる!」


 と勢いだけは良かったが、数秒後には剣を吹き飛ばされ、手を挙げて降参のポーズを取っていた。

 メイド達は大きな歓声を上げて、アベルの勝利を祝っていた。


「くそっ、つまらねえな」

「あんな野郎に負けるなんて……」



 騎士達のやる気がぐんっと下がっていた。アベルの実力が高いとはいえ、これでは情けない。


「アベル様、本当にかっこいいですわ」

「うちの騎士達がいつも偉そうにしていたけど大したことないわね」


 メイド達から馬鹿にされても、騎士達はなにも言えずに黙っていた。

 今後の訓練に差し障ってしまいそうだった。

 私は大きく「ごほんっ!」と咳払いをした。

 するとみんなが一斉にこちらへ向く。


「お嬢様!? どうしてこちらへ!」


 副団長補佐のランスロットが真っ先にやってくる。オレンジ色の髪のせいで少し幼く見えるが、私の代わりに騎士達を指導してくれる真面目な子だ。


「わたくしも少し体を動かしたかっただけですよ。それよりもアベル、少しやり過ぎではありませんか?」


 彼は私の護衛として来ただけだから、あまり家を荒らしてほしくはない。

 だが彼はしれっとした顔をする。


「いえいえ、喧嘩を売ってきたのは彼らですよ。ただ俺はメイドさん達に案内をしてもらっただけですのに、絡まれて大変だったのですから」



 彼の言い分を確かめるために周りを見渡したが、みんなが顔を背けるので、一概に彼だけが悪いとは言えないようだった。しかしこのままではうちの騎士達が舐められるだけだ。


「リタ、髪ゴムをください」


 リタは用意していた髪ゴムと渡してくれた。それで髪を後ろでまとめて動きやすくした。

 するとアベルは意外そうな顔で尋ねる。


「もしかして、ソフィアちゃんが次の相手かな?」


 周りは、そんなことあるはずない、という顔をする。当然ながらこれまで訓練なんて数えるほどしか参加していない。

 だから私が戦ってもただ怪我だけすると思われているだろう。

 私の評価なんてそんなものだ。だけどこれでも未来ではある程度の腕前にはなったのだ。


「ええ。これでも私は副団長ですからね。覚悟してください」



 私は持っている木刀をアベルへと向けた。

 これでも剣の称号を持つベアグルントの女ですから。


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