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死に戻って王太子に婚約破棄をしたら、ドSな司祭に婚約されました〜どうして未来で敵だった彼がこんなに甘やかしてくるのでしょうか〜  作者: まさかの


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しばしの別れ

 朝になって私はブランケットの中に一人で隠れた。

 そうなった原因は、目の前の椅子に座って紅茶を嗜む意地悪な司祭のせいだ。

 昨日はクリストフと図らずもいちゃいちゃしてしまった。

 だけど私は何度も止めたのだ。だけど彼はどんどん調子に乗るように意地悪をしてきた。

 私は言ってあげなければ気が済まない。


「昨日はなにもしないって言ったくせに嘘つき!」



 私は彼へと非難の目を向けた。だが彼は終始落ち着いていた。

 それどころかすごく意地悪な顔をする。


「一線は越えていないのだから間違ってはいないだろ」

「だからって……あれはやり過ぎよ!」


 彼はところ構わず色々なところへキスをしてきた。それどころか、もっと過激なところまでいきかけたのだ。だが彼はしれっとした顔をするので、そこがまた腹立たしい。



「其方が可愛いのが悪い。あれだけ可愛らしく喘がれる俺の身にもなってみろ」

「なっ!」


 何を言ってもこの調子だ。怒るに怒りづらい。私の頬が膨らんだ。


「もうクリスなんて嫌い!」


 私は完全にふてくされてそっぽ向いた。すると彼が立ち上がったのを感じる。そしてこちらへ近づいてきて、後ろから抱きしめてきた。


「悪かった。だからそんなに怒るな。今日も美味しいスイーツを用意している。領民から桃の差し入れをもらったのでな。生クリームも入れて美味しく仕上がっているらしいぞ」

「えっ!」


 思わず振り向いてしまった。

 だがすぐに彼の言葉に操られていることに気付いて、ふんっと顔をまた背けた。



「そうやって誤魔化すの嫌い」


 彼はしょうがないと嘆息する。


「手強いな。なら俺はこっちのスイーツを食べようか」


 彼の口が首元に触れた。むずかゆくなり、なおかつキュンとなってしまった。

 私は彼の思い通りにならないと、仕方なく話に乗ってあげることにする。


「分かったから離れて!」


 やっと彼は私の願いを聞いて離れてくれた。

 これ以上彼の側にいると調子が狂う。彼が私を憎んでいないことは分かったが、それにしてもくっつきすぎだ。


「ほら、手を貸せ。一緒に食事を取ろう」


 彼は手を差し出してきた。だけどさっきの意地悪の仕返しがしたいので、私はその手を取らずに自分で立ち上がった。


「一人で歩けますのでいりませんわ」


 言ってやったりと思い、彼がどんな顔をするかと思えば、彼は笑顔を深めていた。


「ほう……では偽装結婚の書面に記載している、俺が要求したら手を繋ぐという事項に反するがいいのか?」

「そんなの書いてありましたっけ!?」



 正直、内容をそこまで覚えていない。確かにスキンシップがやけに多いとは思っていたため、簡単に嘘だと断言ができなかった。

 そうなると王家への違約金などたくさんの問題が浮上する。

 色々と反論を考えたがどれも決定打に欠けた。

 どうせ彼のことだから、わがままを言いたいだけなのだろう。


「分かりましたよ。いじわるな司祭様」


 私は諦めて彼の手を握った。クリストフも満足そうな顔をする。


「けっこう。では行こう」


 彼に引っ張られて一緒に歩く。やはり彼の大きな手に引かれて歩くだけで安心感があった。

 一緒に朝食を終えて、約束のデザートが来た。

 熟れた桃はとても綺麗なピンク色をしており、口に入れたら柔らかな食感と甘い味がやってきた。


「しあわせ……」


 ほっぺに手を当てて美味しさに感動していると、横に座るクリストフは少しだけつまらなそうに私を見ていた。


「どうかしましたか?」

「いいや、俺と一緒に寝たときよりも嬉しそうだと思って、嫉妬しているだけだ」



 デザートにやきもちを焼いてどうするのだ。しかし彼がこんなに子供っぽいところがあるとは知らなかった。

 私はこれ幸いにとデザートを褒める。


「だってデザートは意地悪しないし、それにお腹も満たしてくれますもの」


 私はまたスプーンで生クリームをすくって食べていると急に彼が立ち上がってきた。

 立ち上がる音があまりにも大きく、ビクッと体が震えた。

 もしかして言い過ぎたかと思って恐る恐る彼を見たら、「待っておれ」と言い残し部屋から出て行った。

 それからすぐにもう一つオレンジ色のゼリーが入ったグラスを持ってきた。


「其方があまりにも美味しそうな顔をするからおかわり持ってきたぞ」


 私の旦那様はとても素敵かもしれません。私は手を差し出して頂こうとしたが、彼はスプーンでゼリーをすくった。

 私に食べさせてくれないかとショックを受けたが、彼はそのスプーンを私へと向けた。


「あげる代わりに俺が食べさせてやろう」

「自分で食べられます!」


 私は奪い取ろうとしたがすぐに彼は後ろに椅子を引いて避ける。

 意地でも私に食べさせたいようで、うなってみせたが結局は私は食欲に負けた。


「分かりました……では食べさせてください」


 私は口を軽く開けて彼がスプーンを運ぶのを待った。


「仕方ない。其方がそれほどお願いするのならやぶさかでもない」


 ――貴方が提案したのでしょうが!


 まるで私からおねだりしているみたいではないか。

 文句を言おうとしたがそれよりも早く彼のスプーンがやってきた。

 私はゼリーを口に入れると柑橘系の味が広がる。


「ん~~!」


 とても美味しい。もっと食べたいからすぐにまた口を開けたら彼はすぐに食べさせてくれた。


「本当に美味しそうに食べるな」

「だって甘くて美味しいですもの。もっとください」


 私は甘さにとろけながら、その味を思い出すように目を閉じた。そしてまた口を開けたが、ここで目を閉じたのが間違いだった。


 あごに彼の手が触れたと思いきや、私の口は少し閉じさせられ、柔らかい感触が唇に触れた。


「ん~~!」


 おかしな気配に私は目を開けると、彼の顔が目の前にあった。

 油断していたとはいえ、簡単にキスを許してしまった。

 驚きからすぐに彼の手から逃げた。



「な、なにをするのですか!」



 彼はペロッと唇を妖艶にも舐める。そして何食わぬ顔で言う。


「油断する方が悪い」

「うう……」



 私は彼にうなって見せた。だけど彼は意に介さず、私へさらに近づいてきた。

 今度はそこまで悪意はなさそうに感じたので、私は接近を許した。


「悪く思わないでくれ。今日でしばしの別れがどうしても辛いんだ」

「だからって……私だって寂しくないわけではないのですよ」



 主に彼の庇護下にないのが一番恐い。だけどそれを言うとまた意地悪をしてきそうだ。

 だが彼はそれで気分を良くしていた。


「言っておきますが、私はまだ惚れたわけでありませんよ! 夫婦としての責務を果たしているだけです!」


 ずっと彼におちょくられている私ではない。だが彼は「それで十分だ」と満足そうな顔をする。

 なんだか自分が子供になった気分だ。

 仕返しがしたい。



「これも妻の役目ですからね」



 私は逆に彼の首に手を回して、私からキスをしてみせた。

 ゆっくりと唇を離すと、彼の顔が真っ赤になっていた。


「不意打ちとは卑怯だぞ」


 これは面白い反応だ。ちょっとニヤニヤしてき私からおちょくる。


「先ほどからクリスがしてきたことではありませんか」

「くっ!」


 彼が言い返せずに赤面したまま黙って立ち上がった。

 まさか受け身になると、彼は少し弱くなるようだ。

 一つあちらの弱みを知れた。クリストフはわざとらしく咳払いをする。


「ごほんっ、そろそろ時間だ。お互いに支度もあるのでそろそろ部屋に戻ろう。もうすぐ其方を迎えに馬車も来るだろう」

「分かりました」


 クリスに部屋まで送ってもらい、私は帰り支度を済ませる。

 そして少し時間が経ってから、迎えも来たので玄関の前でクリストフへ別れの挨拶をする。


「では今日までお世話になりました。また次に会えるのを楽しみにしていますわ」

「ああ。すぐに任務は終えてくる」


 私は彼と握手をしてから背を向けて、迎えに来てくれたメイドのリタと供に馬車に乗り込もうとした。



「おーい、ちょっと待ってくれ!」


 急に誰かが呼んでいたので、乗り込む前に声の主を探すと、アベルが走ってこちらへ来ていた。


「俺もせっかくだから乗せてもらっていいですかね?」


 別に乗せるのはいいが、彼は自分の馬車があったはずだ。

 彼は質問をする前にその答えを言う。


「道中長いのに話し相手がいないと暇なんですよね。それにあのクリストフとのなれ初めとか聞きたいですし」


 そんな恋人らしいエピソードなんてないので、ボロが出ないか心配だ。

 しかし断るのも不自然なため私は許可する。


「いいですよ。ですがあちらでクリスが睨んでいますがよろしいのですか?」

「はは、いいの、いいの。さあさあ、早く乗りましょうよ」


 アベルは護衛という任もあるので、私の近くにいてもおかしなことではない。

 クリストフも特にそこについてはとやかく言うつもりはないようなので、私達は一緒に馬車へと乗り込んだ。

 馬車が走り出してから、当たり障りの無い話をした。


「仕事人間だから休まないしさ、クリストフの真面目さにみんな頭を悩ませているんだよ」

「ふふ、そうだったのですね」


 クリストフはやはり世間一般のイメージ通り、正教会内でも真面目で義理堅く、慈愛に満ちた人物らしい。

 私と一緒にいるとき以外は、おそらくは猫を被っているのだろう。

 そのとき、アベルの雰囲気が急に変わった気がした。彼は足にひじを置いて頬杖をした。


「だからこそ気になるんだよね。ソフィアちゃん、どうやってあいつの心の隙間に入り込んだの? 俺の記憶だと、ソフィアちゃんと関わる機会なんてないと思うんだけど」



 普段おちゃらけている彼とは思えない気迫を感じた。いずれ直面すると思っていたが、やはり私達の偽装結婚に疑問を持つのは必然だったのだろう。


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