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死に戻って王太子に婚約破棄をしたら、ドSな司祭に婚約されました〜どうして未来で敵だった彼がこんなに甘やかしてくるのでしょうか〜  作者: まさかの


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組織再び

 遠くで腹を抱えている金髪の神官にクリストフは嫌そうな顔をしていた。

 そして金髪の男性は笑い終わった後にこちらへやってきて、手を胸に当ててお辞儀をした。

 見た目は好青年そうだが、甘い顔と目元のほくろに多くの女性が泣かされてきたあろうと、女の直感がした。



「ソフィア様、お初にお目にかかります。クリストフ猊下の右腕として働く、アベルと申します。これからお会いする機会も増えると思いますので、何でも雑事はお任せください」

「こちらこそよろしくお願いいたします」


 先ほどとうって変わって真面目そうな挨拶をする。私も簡単に挨拶を返した後に、またアベルは笑いそうになるのを我慢していた。

 それにクリストフは眉をぴくぴくさせて苛立っていた。


「用が済んだのなら戻れ。ソフィー、こいつのことはあまり気にしなくてよい」

「えっ……でも、クリスの大事な右腕なのではありませんの?」

「右腕は否定せんが、其方にとって有益であるわけではない」


 どういう意味であろうか。彼の様子からあまり関わらせたくないようだ。

 だがアベルはそれを無視して話し出す。


「ソフィア様、俺は嬉しいのですよ。幼なじみのこいつがとうとう結婚することがね」


 アベルはにやにやとクリストフを見ていた。それで二人が仲の良い理由が分かった。


「幼なじみなのですね。ですが、クリスなら女性からも人気が高いのに、そんなに心配することなのですか?」


 クリストフは結婚にもともと興味が無いという噂はあったが、その気になればいつでも結婚はできるはずだ。

 しかしアベルは首を横に振っていた。


「それがずっと未練たらたらな初恋を追いかけて――」

「おい、アベル……そろそろ黙らないとその口を縫い合わせるぞ」


 隣に座るクリストフから強烈な殺気が飛んだ。アベルも慌てて手で口を押さえて、もう喋りませんよ、というポーズを取った。

 朝に呼んだノートの続きには、好きな人を思って詩を書いていたと言っていたので、もしかするとその方のことかもしれない。



「だから其方に会わせたくないのだ。それで。俺を探していたのなら急ぎのようか?」

「おっと、そうでした。やつらの件で報告がありますので、少しだけお時間をいただけますか?」



 クリストフの目が細まり、チラッと私を見た。

 もしかすると、組織についての報告かもしれない。


「分かった。だが手短に話せ」

「うぃーす!」


 私には伝えられない情報のようなので、クリストフは席を立った。

 しかしそうなるとは、私はこの敵地で一人取り残されることになる。

 急に恐くなってきた。


「ソフィー、少しだけ席を外す。何かあればその聖遺物に念じろ」

「はい……早く帰ってきてくださいね」



 ――出かける前はずっと側にいろと言ったのに嘘つき!


 と思ってはいるが、彼は多忙な司祭であるため仕方が無いことだ。

 そんな心の内はなるべく出さずに、よい妻のように快く送り出した。


「おや、天下のクリストフ猊下の顔が赤くなってますね」

「そろそろ其方とは果たし合いをした方がいいかもしれんな」


 本当にあの二人は仲が良いようだ。今の私はそれほど仲が良い友人を持たないので少しだけ羨ましかった。

 私はふと、ベンチに何か刻まれているのに気付いた。それは古代文字で短く書かれていた。


「そういえば組織もこんな感じで暗号を残していたなー。えっと、教会の子供を誘拐する……って! これって組織の暗号!?」



 せっかく組織とは縁を切っているのに、こんな文字を見つけてしまうなんて本当に不運だ。

 そこで私は過去の組織が行った履歴を思い出す。


「そういえばたしかにそんなことをしたって聞いていたかも。それを資金源にしてどんどん拡大したって……」


 止めなければ、また未来の災厄がやってくる。時間も書かれており、それも解読してみた。


「って、もう始まってる!?」


 ちょうど今が任務開始時間だ。すぐに動かないともう手遅れだ。

 クリストフに報告したかったが、どうやら死角になるところに移動したみたいで、彼らの姿が見えない。だがそこで私は迂闊であると反省した。


「だめよ! アベル様もいるのなら私がこれに気付いたことを怪しまれる」


 古代文字は暗号として使えるため、組織の一員は必ず覚えないといけない。

 古代文字を覚えている人間なんて学者くらいだ。

 そんなものを都合良く覚えていたら、変に疑われるかもしれない。

 そうなると私単独で追いかけて、ある程度時間が経ってからこの聖遺物に念じれば、彼が来てくれるに違いない


「でも私だけで助けられるかな……」


 今の私には魔女だった頃の力もなければ、体も鍛えていない。

 私だけで助けようとするのはあまりにもリスクがある。

 いっそのこと今回のことを知らぬふりをすればいいかもしれない。


「そうよね……私しか気付いていないんだし……」


 自己保身に走ろうとしたときに、クリストフの言葉が急に思い出す。


 ――其方もあの未来を望んでいないのなら俺と同じ気持ちのはずだ。


 未来では組織があまりにも拡大しすぎて、どこもかしこも争いが絶えず、被害者はどんどん増えていった。

 ここを防がなければ、未来は良くはならないだろう。それにもし黙っていたことがバレたら、今度こそクリストフによって殺されてしまうかもしれない。



「どっちにしても地獄じゃない……これからずっと彼の側にいるのにバレない自信ないよ……」


 進むべき道は一つしかない。大きく息を吸い込んでお腹に力をこめた。

 そして早足で私は組織が運営しているであろうサーカスを探す。

 すぐにでかでかとしたテントを見つけた。

 そこの前に馬を二匹で引きずる大きな馬車があり、その馬車の前で男達がテントに入っていくのが見えた。


「やっぱりいた……たぶん、あれで運ぶのよね?」


 しかし組織も敵の根城に堂々とアジトを構えるとは、恐いもの知らずだ。

 なぜバレないのだろうか。未来でもこのアジトが見つかったとは聞いていない。



「人もいなさそうだし、先にあの馬車に入っておこうかな」


 こそこそと忍び足で近づいて、私は馬車の中に入った。

 まだ何も運び込まれていないため、空の樽がいくつかあるだけだ。

 私はその樽の中に入って隠れることにした。

 そして胸に付けているネックレスに何度も念じた。


 ――助けて、助けて、助けて!


 一生分の願いを込めて祈った。

 クリストフがいれば百人力のため、彼が来るまで時間を稼げばいい。

 すると外で積み荷を入れる音が聞こえてきた。


「早く運べ! 時間が迫っているぞ!」


 がたがたと音が聞こえてきて、いつバレるのか心配になった私は心臓が高鳴っている。

 そしてようやく運び終えたようで静かになっていた。


「よし、いくぞ!」


 男の号令と供に馬車が動き出した。しばらく時間が経ってからこそっと樽から顔を出してみると、馬車の中で積み荷を見守るのは一人だけのようだった。

 だけど運がいいのか眠っている。


 御者台の方で談笑している声も聞こえるので、どうやらあと二人はいるようだった。


 ――今がチャンスかも。


 私は外にそろっと出る。そして木箱がいくつも重ねて置いてあるので、耳をそっと木箱にくっつけた。

 するといくつもの寝息が聞こえてくる。


 ――眠らせているのね!


 おそらく騒がせないようにしているのだろう。まずは見張りの男をこっそりと――。


「本当にネズミがいたとはな」


 後ろから気配を感じて振り向こうとしたが、それよりも早く抱きしめるように拘束された。

 男の強い力で絞められて苦しくなった。


「は、離しなさい!」


 さらに腕がしまり、骨がみしみしと音を出す。

 このままでは折られてしまうと思うくらいに強い力だった。


「高価な服を着ているとなると貴族か。どこで俺たちの秘密を知ったんだ?」

「うぐっ! あぁーー!」


 答えようにも苦しくて声が出せない。


「その辺にしたまえ。せっかくの美女がもったいないではないか」


 若い男性の声に、私を羽交い締めしている男は緊張した声を出す。


「か、かしこまりした!」


 御者台に居たはずの男が中へと入ってきて、見張りの男を諫めた。

 おかげで苦しさは半減したが、私は床へと押し倒されて、男の膝が私の背中に押し当てられた。

 動けば骨折ではすまなそうな圧を感じた。


「おやおや、その綺麗な桃色の髪は、ソフィア・ベアグルントではありませんか?」


 芝居掛かったように言う男は、仮面を付けており顔が見えない。

 金色のフード付きのローブを身に纏っているため、自己顕示欲の高さが見て取れる。

 だがその声には聞き覚えがあった。未来の私は彼に助けられて組織に入ることになった。

 誰も名前を知らない彼をみんなはボスと呼んでいた。そして彼が未来で私を殺した張本人だ。


「体を起こしてあげなさい」


 下っ端はボスの命令に従って、私の両腕を背中に回して膝立ちを強要する。

 するとボスはいつの間にか手元にナイフを握って、ナイフの腹で私の頬をすりすりと擦った。


「美しいな。何度も見たことがあったが、そのたびに我が物にしたかった。私は綺麗な物は大事に扱うのだよ」


 彼の言動が一致していない。

 少しでも動けば私をナイフで刺すつもりだ。

 狂人である彼を人の常識で測ってはいけない。私は彼によって助けられたのに、ずっと得体の知れない不気味さを常に感じていた。

 首元にナイフを添え、体中から冷や汗が流れている気がした。


「私は優しいから選ばさせてあげよう。私に陵辱されたくないのなら、君の言葉で言いたまえ」



 喋ればナイフで首が切られる。こんなのは悪魔の問いだ。

 やはり一人で助けだそうとするのは、やはり無謀だったのだ。



「なんだ、君も望んでいたのか。それでは合意ということで私も遠慮せずにやろう」


 彼のナイフが首から離れて、そのまま上からナイフを落とし、私のワンピースだけを切り裂いた。

 私の素肌が丸見えになり、下着すら男達に見られてしまっていた。

 あまりの恐怖と羞恥に涙を流して懇願した。


「お願いします……何も見てませんから解放してください」


 だけどそれで解放してくれるほど優しい者たちではない。

 そんな私の姿を見てさらに興奮しているようだった。


「ああ、美しい……女性的な肢体に豊満な胸。まるで神が作ったような比率。では堪能しよう――」


 ボスの手が私に伸びようとしたとき、急に動きが止まった。

 一体何事かと思ったら、私の胸の下にある刻印を見ているようだった。


「ほう……まさかこれは運命か! 素晴らしい! ああ、神よ! 私は貴方様へ感謝を捧げます! あはは!」


 急に天に仰いで笑い出す。そしてボスは私へ恐ろしいことを言う。


「ソフィア・ベアグルント。光栄に思うがよい。私の妻として迎えよう! この場で見せしめとして汚そうかと思ったが、その刻印があるのなら話は別だ」


 どうやら私の魔女の刻印を見て考えが変わったようだ。

 だけどどっちにしても私にとって良い未来では無い。諦めかけたときに、私を掴んでいた男が急に呻きだした。


「うぐっ! な、なん――」


 拘束が外れて後ろを見ると、男の首には鎖が巻かれていた。そして百キロは越えそうな巨体が引っ張られて馬車の外へと消えていった。

 その代わりに白いローブを着た彼が馬車の中へと入ってきたのだった。


「クリス!」


 やっと来てくれた。彼に似合わず息を切らしており、ここまで全速力で走ってきたのだろう。

 馬に追いつけるのは彼くらいだ。


「ソフィー! その恰好は……」


 ワンピースは無残にも切り裂かれているため、私は手でなるべく見えないように隠した。

 どう説明しようかと思っていたが、彼の目はこれまで見たことが無いほどの殺意が芽生えていた。


「俺の妻に手を出して無事で済むと思うなよ!」


 まるで全てを噛み切らんとする彼の怒った姿は、まさに異名の黒獅子に相応しかった。

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