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第44話 ネバーギブアップ

 急に床に穴が空いて落下していた《力》と《恋人》だった。《力》は彼女を抱きかかえて壁を蹴って勢いを殺しながら地面へと着地する。しかし、沼に嵌ったかのごとく足が黒い泥水に飲み込まれる。幸いすぐに足を抜けば歩けそうだった。問題は沼から上がる場所もなく、元の場所へ戻ろうにも天井が封鎖されている。


「あの姉妹なら問題ない。このまま進もう」


「はい」


 《力》は《恋人》をお姫様抱っこしたまま歩いている。


『俺の研究施設へようこそ。ってあー、もう言ったんだっけ? あーちくしょう。台本どこに置いた?』


 どこからともなく不気味な男の声がする。《世界》だ。


『ったく。しっかし、俺の神聖な家にカップルで来るなんて良い根性してるじゃねーか。ああん、何かの自慢か? 一応言うがここはラブホじゃないぞ。まさか金ないから来たとかじゃないだろうな? ベッドは満席だぞ』


 あまりに身勝手で辛辣な言葉の羅列に《力》の手が震える。


『まぁでも安心しろ。俺は裏切り者にも同性愛者にも寛容だ。素敵なカップルに最高のアトラクションを披露する。それが経営者ってもんだ』


 無言で歩く彼女達の前に頭上からぼとぼとと黒い物体が沼の上へ落下してくる。それはまるで芋虫のようであったが、よくみれば違う。両手を横腹にくっつけられ、両足もくっつけられた黒くなった人間だった。目だけ異様に黒く光っており謎の寄生を発している。


 それを見た《力》は手で《恋人》の目を隠して見させないようにした。


「これが貴様の本性か」


 《力》は怒りを必死に抑えていた。今まで自分がこんなろくでなしの元で戦っていたと考えれば寒気すらある。


『まー何だ。芸術っつーのは他人に理解されにくいんだよ。最高の作品でも他から見たら腐った子供の落書きに映るだろ? それと同じさ。まーけど、そいつらは俺から見ても気持ち悪いな。うん。それを可愛いと評する奴がいたら頭を疑うね』


「イカレ野郎め」


『けど、あの姉妹は最高だろ? 俺の中でアレを超えるのは無理だ。あんな愛くるしい見た目で中身は殺人兵器だ。俺は常々思うんだが、むさ苦しい野郎の戦争なんか見て誰が楽しいのかって思うんだよ。争いにこそ華が必要、そう思わないか? だからアレを造ったんだ。あんな可愛い子に殺されたら死ぬ方も悔いがねーだろ?』


「いい加減にしてください。あなたには人の心がありません。狂った、化け物です」


 《恋人》は《力》の手を払って沼へと下りた。目の前の芋虫人間を見ても動じていない。


『おいおい。化け物なんて傷付くだろーが。もしも俺の心がピュアで繊細だったら一生立ち直れないぞ』


 そうこうしてる間に芋虫人間が2人を捉えて這いずり近付く。その1人を《力》が吹き飛ばして壁に叩きつける。


 更に《恋人》の誘惑で敵同士で相打ちにも発展させた。けれど次から次へと敵が降り注ぎ終わりが見えない。それでも彼女達は決して諦めない。それが勇者への道だから。



 ※



 一方、《魔術師》は攫われた《運命の輪》を追って通気口の中を這っている。丁度、床が抜けている所を発見し降りた。そこは人がぎりぎり2人並べるほどの隙間で高さも3mほどしかない狭い廊下だった。そんな奥に《運命の輪》を触手で掴みながら壁を這っている蜘蛛人間が居た。口からピンク色の触手が伸びており変幻自在に動かす。


「きもい、死ぬさ」


 《魔術師》が一度右手を払えば灼熱の炎で蜘蛛人間が炎上して悲鳴を上げながらひっくり返った。風の魔術を起こして《運命の輪》を引き寄せて抱く。


「全く、ご自慢の予知はどうしたのさ?」


「これが正道だよ」


「なら心配ないさ」


『まだその予知にすがるとはお前も学習能力がないな。占い師なんて良い所しか言わない詐欺師じゃないか。あんなの俺でも出来るぞ。お前達の未来を占ってやろうか?』


 《世界》の声が唐突に発せられて2人の機嫌が一気に悪くなる。


「あんたが《世界》さ。トップの癖に顔も見せないなんて随分弱気さね。そんなに死ぬのが怖いのさ?」


『あぁ怖い! 怖いね! 死ぬのが怖くない人間なんているのか? 俺はめちゃくちゃ怖いぞ! ひゅー、君達が死ぬのはもっと怖い!』


「くそったれ。会話してると余計にイライラするさ」


「耳を貸しては駄目だ。奴に論理を求めるのは間違っている」


『おいおい。只のコミュニケーションじゃないか。これくらいでイライラするなんてちゃんとカルシウム摂ってるか? 俺は毎朝焼いたパンにレタスとトマト、茹で卵、マメを挟んで食べてるぞ。勿論バターは使ってない。ミルクも1日に3杯飲む。おかげで健康体そのものだ。お前も若いからって不摂生ばかりしてると身体潰すぞ。人間の身体なんて脆弱だからすぐにガタが来る。覚えておきな!』


「《世界》。お前が何を言おうとどうでもいい。ボク達の未来は自分で決めさせてもらう」


『格好いぃ! 俺も人生で一度は言ってみたいね! そんなお前達には特別ボーナスステージ! 迫り来る蜘蛛の大群だ! その数、500! いや、もっと少なかったか? まぁいいか。じゃあ頑張れよ』


 ブツッと音が途切れて周囲から手を叩きつける音が響く。2人は背中を合わせて来る敵に備える。


「10秒以内に前方から50、3秒前に床から5、その後に後ろから30」


「逐一で教えるさ! 全員ぶっ潰すさね!」


 《魔術師》は両手に光の球体を纏わせて魔術を始動させるのだった。

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