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第43話 研究所

「まさかこんな所にあったとはな」


 《運命の輪》の予知で敵のアジトである研究所を目指していた一行。研究所は荒野の街が存在する荒地の洞窟の中にある。洞窟内部は平凡な洞穴に過ぎないがその壁の奥に構えられているのだった。


「皆、準備はいい?」


 白猫が確認を促す為に振り返った。《恋人》《力》《運命の輪》《魔術師》、灰狼の全員が同時に頷いた。気付けばかなりの大所帯になっていたので白猫も苦笑してしまう。

 姉とののんびりした旅はいつの間にか消えていた。


「まず作戦なんだが・・・」


 黒狐が言う前に前方の壁が謎の爆風によって吹き飛ばされた。《魔術師》の魔術だ。

 彼女は帽子の位置を調整して鼻で笑う。


「見た奴全員ぶっ飛ばせ、だろ?」


「ここまで来たら作戦なんて意味ないよ」


 《魔術師》と《運命の輪》が奥に出現した鉄のトンネルへと踏み込んでいく。


「理屈の通じない敵だ。余計に考えるよりはシンプルに攻めるべきだ」


「《審判》も《世界》も強大でしょう。各々が最大の役割を全うすべきかもしれません」


 《力》と《恋人》も先へと進む。黒狐はやれやれと呆れていたが、確かに一理あるなと思った。今までの経験上想定どおりにことが運んだ試しがない。なら最初から何も想定しない方がいいと思い直した。


「どう、するの?」


 灰狼だけが残って首を傾げている。彼女は元々命令だけで生きてきたので何もないというのが不安なのかもしれない。


「私の癒しはお前だけだよ」


 黒狐が灰狼の頭をワシャワシャと撫でるので白猫が怪訝な顔をした。


「へー、そっかー。わたしじゃ足りませんかー」


「お、おい。何勘違いしてる。妹は特別枠じゃないか」


「狼ちゃんを特別枠にしたじゃん。わたしを捨てるんだね。浮気だよ」


「なんだと。妹もこの前まで聖女さんに浮気してたじゃないか」


 バチバチと視線を向けていると灰狼が間に入る。


「けんか、だめ」


 潤んだ瞳に訴えられて姉妹は特上の笑顔に見せて灰狼の手を繋いで奥へと進んだ。


 コツッコツッ。


 七人の足音が鉄の床に反芻される。中は点灯魔術によって光が各地に点在してそれが内部を照らしている。


 ある程度進むと行き止まりになった。が、急にガタンと揺れて床が下へと降りていく。


「もう後戻りできないな」


「お姉ちゃん怖いの?」


「妹は冷静だな。今の私達はただの人間だぞ?」


 呪術と霊術を失った今、彼女達に戦える手段は限られている。


「死んでもお姉ちゃんと一緒なら怖くないよ」


「そうか」


 床が制止して目の前の黒い扉が開いた。内部は壁や床が真っ白な施設で至る所にガラス張りがされていた。天井は鉄のタイルで覆われている。閑散としており人はおらず、ガラス張りの向こうには階下へ通じる階段が1つ。


 《力》と灰狼が先頭に進んで死角へと飛び出した。敵はおらず残りも続いて入る。

 全員が施設に入ると背後の扉が3重に閉まって、奥の床も上昇していくのを感じた。

 敵の本拠地なので罠があるのは当然。そして、彼女達も逃げる気は毛頭ない。


『あー、あー。ようこそ我が研究施設へ。本日はご来訪を心よりお待ちしておりました。当施設の職員は現在出払っていますが職場体験は歓迎する。ま、楽しんでいってくれ』


 どこからともなく甲高い男の声がした。妙に纏わり付くようなねっとりした口調だ。


「この声は芸術家気取りか。お前が《世界》だな?」


 黒狐が質問すると拍手が聞こえる。


『聞いたか、今の? あの反抗期の娘が親の声を覚えてたぞ。これは嬉しい。感動だ。そんな娘の期待に応えるのが親心。今からとっておきのサプライズを送ろう』


 《世界》が指を鳴らすと《力》と《恋人》が立っていた床が急に抜けて2人が落下する。更に反応する間もなく天井の通気口から触手が伸びて《運命の輪》が攫われた。


『助けに行ってもいいぜ? でも遠回りになる。正面の階段が近道だ。俺としては親子水入らずが嬉しいんだがな』


 そんな男の声に聞く耳も持たずに《魔術師》が通気口へと飛んで中へと入った。


「あいつは私が助ける。だから心配するなさ!」


 それだけ言い残して《魔術師》は消えた。残されたは白猫、黒狐、灰狼のみ。

 するとまたしても拍手がされる。


『なんとよき友人! 空気を読んで去ってくれるとは満点だ。流石は娘が選んだだけある』


「いい加減黙れ。お前を殺す」


「今更命乞いしても遅いから」


『まぁ待て。お楽しみは最後なのが相場だろ? デザートを最初に食う馬鹿はいない』


「そうなの? わたしはデザートからでもいけるけど」


 白猫が嫌味たっぷりで言うも声の主は全く聞いてなかった。


『まぁまぁそう言うなって。それにお前達は手ぶらで能力なしだろう? あまりに不憫で可哀想だ。娘を戦場へ送り出すのは親としてもしのびない。そこで、お前達にプレゼントを用意した』


 するとガラス張りの部屋が急に開いて床から赤と青の宝箱が出てくる。どちらも人が1人入れそうなほどの大きさだ。


『最初に贈り物を貰うのが相場だろ? 好きな方を開けな。中身は自由に使っていいぞ。両方開けるなんて行儀悪い真似はするなよ? 中身は開けてからのお楽しみだ』


 《世界》が1人盛り上がってるのを他所に白猫と黒狐、灰狼はガラス部屋に入ろうともせずに回り込んで奥の階段を目指す。


『おいおいおい! 親の贈り物を無視するなんてないだろう! 本当に変な物入ってないぞ! これを逃したらお前達本当に終わっちまうぞ!』


「うるさい黙れ。お前の声を聞くとイライラする。不愉快だ」


「敵の施しなんていりません。勝手に親面しないでください」


 灰狼も同じ気持ちなのか眉間に皺が寄っていた。


『あー残念。本当に残念だ! 少しは成長したと思ったがまだまだ子供のままだ。これでは親子の再会に感動がなくなってしまう。その前にちょーっと教育が必要だなぁ!』


 すると2つの宝箱が急に開いて中から剣と盾が空中に浮かぶ。更に部屋の床を突き破って真っ白の人間が飛び出して来た。全身を白いタイツで身を包んだように顔も輪郭も一切ない。それは剣と盾を持つと走り出した。


『作品ナンバー、第1823番。騎士のなりそこない』


 白人間が駆け出してガラス張りを破って出て来た。だがそこには姉妹が息ぴったりに拳を並べており敵の顔面を思い切り殴っていた。

 派手に転がっていき、その背中に灰狼が短剣を投げて刺し合唱する。爆発して木っ端微塵となった。


『あー。あれだ。うん。筋トレしてたんだな? こいつは参った。ご褒美に追加で50体プレゼントだ』


 壁の至る所がひっくり返って白人間が出てくる。

 3姉妹は臆することなく拳を握った。

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