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第37話 崩壊する組織

 白猫と黒狐は監獄内部を歩いていた。遺跡を思わせる石造りの壁が続いている。

 中は暗く蝋燭がポツポツとあるだけで先まで見通せない。


 暫く道なりに進んでいると壁の方に鉄格子になった所がある。奥には薄汚い人間が収容されている。格子は奥まで続いており一人ずつ区分けされている。


 彼らは端で蹲っていたり独り言を呟いていたり壁に叩いていたり鉄格子を揺らす者もいる。

 いずれにせよ姉妹の興味の対象ではない。


「ここにも看守はいないんだね」


「あからさますぎる」


 それを幸か不幸かはまだ分からない。奥まで行くと階段があり上階へと続く。

 上の階もその上の階も長い廊下と収容された囚人がいるだけで警備の1人もいない。


 4階に着くと同じく廊下があるのだが東西に分かれる道があった。白猫と黒狐は迷った。

 聞いた話では塔の最上階に幹部がいると言われている。


 結局両方行くと結論付けて現在地の西から上ることにした。コツコツと上がる。階段の上には小さな木の扉があった。2人は相槌を打ち合ってから、黒狐が扉を蹴飛ばした。


 古い扉は勢いのまま外れて部屋の端へと飛ぶ。中は少し上品で整った部屋だった。

 赤いカーペットにカーテン付きのベッドもある。棚には何種類もの瓶が揃えられている。


 白猫と黒狐の視線が止まる。部屋の真ん中で人が倒れていた。真っ赤なドレスを着た金髪団子頭の女性。机に一本の瓶と床には中身が入ったグラスが零れている。

 2人は慎重に足を運び近付いた。その女性の近くに寄るものの動く様子はない。

 既に死んでいる。


「どういうことだ?」


 状況が全く読めない姉妹。そんな彼女達の背後から足音が聞こえた。即座に振り返ると扉の前には《魔術師》とベージュ色のスーツを着た女性が立っている。


「よくここまで来たわね。歓迎するわ」


「出迎えの1人もないなんて寂しいじゃん」


 白猫が皮肉混じりに話すと女性がクスクス笑う。


「ごめんあそばせ。あなた達みたいなゴミには必要ないと思って」


「ゴミはここにいる奴らだろう。お前含めてな」


 黒狐が手を突き出す。気配から相手が幹部であるのは間違いなかった。だから呪術を使ったのだ。


 ドサッ。


 それを受けた女はその場に倒れた。瞳孔を開けたままピクリとも動かない。


「は?」


 何故か隣に立っていた《魔術師》が素っ頓狂な声を上げる。


「ちょ、ちょい待つさ。《女帝》、話が違うさね。こいつらを殺すって。な、なぁ」


 混乱する彼女だが返事はされない。彼女は非常に動揺していた。《女帝》と姉妹を何度も交互に見ては最終的にその場から逃げ出してしまった。


 意味が分からないのは姉妹も同じだ。


「一体何が起こってるの?」


「1つ分かるのはあの魔法使いさんも分かってない何かが起こってる」


 部屋に転がる2人の死体はおそらく《女帝》と《女教皇》と思われる。


「生き返らせて聞いてみる?」


 今死んだばかりの《女帝》を復活させれば問い詰めるのは可能だ。


「やめとけ。死ぬつもりの人間に聞いても無駄だ」


「ん、分かった」


 そのまま階段を降りて廊下に戻る。薄暗い闇、先程まで灯っていた蝋燭が全て消えていた。

 姉妹は疑問に思った。いや、疑問だらけだ。状況がまるで分からない。


 とはいえそれは瞬時に打破される。白猫の後頭部が何者かによって思い切り殴られた。怯む間もなく開いている牢屋の中に投げ入れられ扉が閉まる。

 驚く黒狐だったが彼女だったが瞬時に事態を察知して近くの格子を溶かして鉄パイプを振り回す。幸いそれが敵の頭に命中して鈍い音が響く。


 チラッと見えたその者の頭を見て黒狐の表情が険しくなった。


「今度は《死神》様であんたは襲ってくるんだな?」


 《死神》は闇に紛れており、赤い瞳だけが不気味に光る。コツコツと廊下を歩き黒狐を凝視していた。そのせいで彼女も妹を救出しようにも視線が外せない。


「地獄の最終章です。あなた方の命運尽きました」


「尽きたのはそっちの幹部じゃん」


「そう思いですか? では始めましょうか。私の命はあなた方の抹殺となりましたゆえ」


「今更? 意味が分からないな」


 黒狐が先制で呪術を放つ。すると格子の中にいた囚人が1人絶命する。


「そういえばそんな能力だったな」


「お互い手の内を知った戦いです。盛り上げて参りましょう」


 《死神》が後ろに下がって闇に紛れる。今が好機と見た黒狐が即座に白猫の牢屋を開放しようとするが、一瞬視線が動けば奥で火花が散った。

 気付いた頃には腹部を弾が貫いている。


「お姉ちゃん!」


 白猫が蘇生術で傷を治して立ち上がるがその時には《死神》が眼前に迫っており、黒狐の顔面を殴り飛ばした。


 白猫の霊術は死んだ者でなければ魂の移動ができない。つまり急所を外された攻撃は必然的に傷を治すだけしかできない。ならばと壁に頭をぶつけて自殺を図ろうとしたが腱を撃たれて転んでしまう。それでも地面に頭をうちつけた。


「愚かですね。そのような行動で仮に牢屋から出ても意味などないですよ」


「勝手な価値観を押し付けてくるな!」


 白猫が額を血で汚しながら叫んだ。そんな様子を《死神》は哀れみを持って視線を外す。

 白猫がガンと頭をぶつけると意識を失う。と同時に肉体が灰となり消えた。次に姿を見せたのは黒狐の隣だ。


「絶望しなさい。後悔しなさい。全てを憎みなさい。所詮は掃き溜めの命です」


「お前、そんなに死にたいのか?」


 黒狐が拳を握って不吉な気配を見せる。


「失敗作と罵られ逃げ出した。この世界のどこに居場所があるというのですか? 人を殺すためだけに生み出された愚かな娘よ」


「貴様っ!」


 黒狐の怒りは最高点に達した。右手に禍々しい黒いオーラが纏わり付いている。怨嗟の呪術は全てを飲み込み周囲を溶かし、何もかも腐敗する。

 それは《死神》も同様だった。


 だが彼の能力は『代償』。その傷は周囲に肩代わりさせる。まずは監獄塔の人間が死ぬ。

 その次は街の人間が死ぬ。その次は世界各地の人間が死ぬ。


 はずだった。


 死神の肉体が邪気に飲まれて侵食される。


「ほぉ、これはこれは」


 彼の能力を超えて肉体を消滅させている。すると《死神》はケタケタと笑い始めた。骸の顔が不気味に何度も、何度も笑い続けて完全消滅するのだった。

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