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第36話 辺境の悪夢街

 2週間と半日という時間をかけて白猫と黒狐達はターゲスアンブルフでもっとも恐れられる辺境の市街へと来ていた。昼過ぎというのに空は曇天に見舞われて薄暗い。


 ここは世界でも有数の監獄都市であり監獄塔と呼ばれる巨大な塔がそびえ立っている。

 塔と呼ぶにはあまりにも城塞となっており、高い城壁で囲われ敷地も非常に広い。

 東西に2つの塔が天高く建っているのが特徴だ。


 監獄都市と呼ばれているだけあり街もどこか湿っぽく、人々も薄気味悪く人相が悪かったりする。そんな都市の外で彼女達が立ち止まっている。


「ここに《女帝》とやらがいるんだな?」


「《女帝》だけでなく《女教皇》もいるだろう。彼女達は監獄塔の管理を任されている権力者だ。あの2つの塔の最上階に居座っているはず」


 《力》が街でもっとも大きな建物である城塞の塔を指差して話す。


「へぇ。だったら能力とかも知らないの?」


「すまない。そこまでは分からない」


 アルカナは1つの組織であるものの幹部はそれぞれ独立している場合が多く、自身の能力を隠している者ばかりだった。事実、《教皇》の能力すら《力》は知らなかった。


「だったら予定通り別れる?」


「そうだな。私と妹、残りは街で身を潜めてくれ。こっちが幹部に見つかったら派手に暴れて知らせる。そっちもそうなったら同じようにしてくれたらいい」


「分かった」


 これで両者が別れて街に潜入する手筈が整う。早速行動に移ろうとしたのだが、最後尾に立っていた1人だけ動かない。《運命の輪》だ。


「僕は1人で動くよ。人数が多いと目立つしね」


 その独断には流石の黒狐も眉を潜める。


「・・・帽子、前も1人で動いてたが信用していいんだな?」


 他意はない。だが釘を刺す。そんな言葉に彼女は動じる気配もなくジッと見ている。


「どっちでもいいよ。信用できないならこの場で殺してもいい」


 少し不穏な気配が漂うも黒狐は表情を緩ませて《運命の輪》の帽子をポンと叩いた。


「信用してるよ。よし、そうと決まったら各自解散だ。目的は幹部の打倒。無理と思ったら即逃げる。陽が落ちる前にここに戻る。ヤバイと思ったら建物潰して知らせる。オーケイ?」


「「「オーケー」」」


 《運命の輪》以外が返事をして各自行動に移った。



 ※




 白猫と黒狐は市街の中を堂々と歩いていた。街中の建造物はどれも薄汚く、黒ベースが殆どだ。人の賑わいはそこそこだがいずれもフードを被っていて目元近くまで隠している。格好も黒服が多く、おまけに近くを通ってもぼそぼそ話す人ばかりだ。それは店と客のやりとりでも同様。


「なんというか陰気だな」


「後ろめたさが全身から感じるね」


 2人の格好も黒基調の制服なので派手に目立ちはしないものの、やはり耳と尻尾が弱点となっている。とはいえ、彼女達の存在に気付いても大きな反応もなく、寧ろ無視されていた。


 そんな中、多くの果実を取り扱っている出店があり店主と客が金銭の受け渡しをしていた。その隙に客を装っていた黒服の男が果実を1つ握ってその場から立ち去ろうとする。


 パァン。


 その男の頭が銃弾で撃ち抜かれた。発砲したのは店主だった。がたいの良い店主は店から出てその男に近寄ると盗んだ果実を強引に引き抜いて戻って行く。

 道端に1人の男の死体が転がるも、それを気にする人はいなかった。まるで何もなかったように死体を跨って歩いている。


「こういうの日常茶飯事なのかな?」


「なんか《正義》の所の街と似てるな」


 法も秩序もなく犯罪が横行する街。ただあそこと違うのは力の上下がなく、人々の中にも僅かなルールが存在している。そのルールを破れば何をされても文句を言えない、という感じだ。


 通りを抜けると広場に出たがそこでも奇妙な光景があった。がやがやと多くの人が集まっており、広場の中央に絞首台が設置されていて、その上に1人のみすぼらしい男が動けないように手足を十字架の台に固定されている。その横には頭を茶色く汚れた袋で隠した非常に屈強な者が構えている。


 身長は2mは超えており、ツナギの上にエプロンという格好だった。そのエプロンは黒く滲んでいる。手にはチェーンソーを持っていた。

 その者は紐を引っ張り一度でチェーンソーを起動させると鋸の部分が回り始める。


「ひっ、や、やめてくれ! 何でもする! 何でもするから許してくれ!」


 男の願いは虚しく届かなかった。最終的に男の死体はバラバラにされて幕を終える。

 それを見ていた人々は静かに拍手だけしてその場を去って行く。ゴミ袋の男は新たに十字架の設置すると台の後ろで口も縛られた人間を選別している。


「・・・多分、死刑囚だろうな」


「随分と悪趣味な殺し方」


 彼女達は情緒なくその場を過ぎ去った。目的は幹部の全滅。人助けではない。

 そのまま通りを歩き続けて監獄塔の前まで来る。その間も誰も彼女達を咎めたり気にはしなかった。中には彼女達の存在に気付く輩もいたが鼻で笑ったり、じっと見てくるだけで終わる。


「同じ穴のむじなだな。ここにいる奴らはきっと表の社会で生きられない奴らなんだろう。だから表向きは指名手配されてる私らを見て笑うんだ」


「こんな場所でコソコソ生きるくらいなら悪さなんてしなきゃいいのにね?」


「悪道というのは知らずに踏み外してるんだよ」


「・・・生まれた時から罪人なんて理解できない」


 白猫は怒りをぐっと堪えて話す。己の運命が初めから悪だったのに心底うんざりしていた。

 そんな白猫の怒りを鎮める為に黒狐が彼女の頭を撫でる。少しだけ落ち着いた白猫が城塞の門前を物陰から確認する。


「敵情視察報告。門番が・・・ゼロ?」


「ゼロだな。誰もいない」


「そんなの有り得る?」


 世界中の極悪人が収容されている監獄である。警備が全くないのは明らかにおかしい。

 おまけに城塞に見える塔も何故か門が開いている。これには姉妹も不穏な気配を感じて考え込む。


「罠だよ」


「罠だな」


「大方逃げた《魔術師》が報告したんじゃない?」


「どうだろう。それで私達がいつ来るかも分からないのに警備をザルにするか?」


 実際、彼女達がターゲスアンブルフに到着するのに2週間かかっている。


「・・・んー」


 黒狐には1つだけ心当たりがある。自分達がいつどこからどうやって一寸の狂いなく分かる方法がある。だがそれは・・・。


「お姉ちゃん、わたしは信じてるよ。絶対そんなのないから」


「・・・そうだな。私がどうかしてた。考えても仕方ない。こうなったらゾンビアタックだ」


「結局ごり押しだよねー」


 そうして姉妹は監獄の中へと堂々と侵入するのだった。

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