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第35話 触れ合い

 白猫と黒狐の旅もそれなりに続いたが、今では総勢5人という当初では考えられない賑やかな面子となった。いずれも訳ありばかりの女子だ。

 夕闇の中、彼女達は現在樹海の真っ只で焚き火を囲んでいた。散り散りになって少し離れているのは周囲を警戒してだ。

 《恋人》が石鍋を焚き火に乗せてぐつぐつと白いスープを煮込んでいて、焚き火の周囲にはバルークという怪鳥の肉を串焼きにし、マイマイダケという螺旋状の茸も串焼きで焼かれ、キリモミという青紫の果実も串焼きにされている。


「そろそろですね~」


 彼女の言葉を聞くと白猫と黒狐の耳はピクッと立ち、ウトウト眠っていた《運命の輪》も起き上がり、監視をしていた《力》に至っては目を輝かせている。

 全員が《恋人》の料理を凝視してはゴクリと喉を鳴らした。


「このスープをタレにして串焼きを食べてくださいね」


 《恋人》が1人ずつ均等に串焼きを石皿に乗せて渡していく。全員はまだかまだかとソワソワしていた。


「では頂きましょうか。今日も食材と命に感謝を込めまして」


 《恋人》が唐突に祈りを始めてしまうので全員が「どうしよう」と顔を見合わせてしまう。黒狐に至っては串焼きを握り締めて鍋に突っ込みそうな勢いだ。幸いにも《恋人》の祈りは長くなかった。


「あ、ごめんなさい。どうぞ遠慮なく食べてくださいね」


 料理人の許可を得ると4人が一斉に鍋に串焼きを突っ込んだ。真っ白なタレがキラキラと零れ落ちながら口に運ばれていく。


「わ、美味しい!」


「これは何個でもいけるぞ」


 白猫と黒狐が率直な意見を申し、《運命の輪》も同意して何度もコクコク頷いている。


「・・・かなりいい。どこかで食べた鮭の焼きと比べ物にならない」


「それは大変だったな。同情するよ」


「うん。あんな飯を出す店には二度と行きたくない」


 彼女の皮肉に全く堪えておらずに黒狐がひょいひょいと串焼きを平らげていく。


「ああ、さすがレナだ。この味はそこらの店では再現できない。高級レストランすらも霞んでしまう。あの時食べた料理もこれくらい美味しかった・・・。幸せ」


 《力》が恍惚な笑みで食べている。白猫が黒狐を見て「何かキャラ違くない?」と訴えるも手を広げて「知らん」と答えた。


「でも本当美味しいよね。このスープってどうやって作ったの?」


「これはモチグサという白い稲を磨り潰して粉にしたのを薄めたものですね。味付けに果実を数摘入れてますが基本成分はモチグサが殆どですよ」


「詳しいね。もしかして結構メジャーなのかな?」


「いえ。幼い頃お金もなく孤児に食べさせる物も殆どありませんでしたから、山を登って食べれそうなものを採取したんです。それでこのモチグサは色々と用途に使えると知って食べる機会が多かっただけです」


 《恋人》は謙遜して話すが、白猫からすればそれは凄いことだった。2人も長く旅をして山や森には頻繁に出入りする。だがその白い稲が食べれるなど微塵も知らなかった。


「やはり聖女さんを連れて正解だな。飯が格段に美味しくなる」


「だろう!? レナは本当に凄いんだ」


 何故か《力》が誇らしげに言って、《恋人》が恥ずかしそうに顔を赤くする。最早つっこむ気すらない姉妹だった。


「でもさ、2人の関係を見て思ったんだがワイズへ行く時に聖女さんを連れてたら面倒せずに終われたんじゃないか?」


「ああ、確かに。団長さんもすぐに仲間になってくれそう」


 2人がちらりと《運命の輪》を見るが彼女は首を振って否定した。


「無理。まず君達が誘拐犯と疑われて即効で敵対するパターン。特務機関に狙われて拉致されて殺されるパターン。怒り狂った《力》と戦って何も残らず終わるパターン。好きなの選んでいいよ」


「じゃあ団長さんと共闘して《教皇》を倒して聖女さんと旅するパターンで」


「・・・いずれにせよ結果は変わらないけどね。最悪の事態になっても君達は《皇帝》と協力して難局を抜けてたし、何も残らなかったとしても次に進んでた」


 それを言われて白猫も少し考える。実際、大抵の非情な状況になったとしても動じない自信があった。故に《運命の輪》の話す結末への行程は否定できない。


「ま、いいよ。今の所は問題なさそうだし。これからも頼りにしてますよ、名軍師様」


「・・・何回聞いても腹立つ」


「まだ1回しか言ってないぞ」


「ボクは52回聞いた」


 《運命の輪》から睨まれて黒狐も申し訳なくなったのか、最後に取っておいた果実の串焼きを彼女に上げることで手打ちにした。


「暢気な雑談はこれくらいにして提案があるんだ。私達の今後の動きについてだ」


「大方一緒に行動しない方がいいという話だろう?」


 《力》が迷いなく答えて黒狐が「そうだ」と返事をした。


「敵の狙いはあくまで私達。だから団長さんと聖女さん、それと帽子とは別行動した方が目くらましにもなる。勿論これは国に入ってからの話だ」


「でも大丈夫かな。万が一敵の幹部と鉢合わせになったりしたら不味くない?」


 白猫がいなければ蘇生するのも難しい上、連絡を取り合える手段もない。危険な橋だと彼女は思う。


「レナは私が守る。何も問題はない」


「だ、そうだ。それに敵の能力が分からない以上、かたまって行動する方がリスクが高い。私と妹でまずは敵の情報を視察して、そこから連携する方が敵の狙いも逸らせる、はず」


 語尾が妙に自信がないのは真横に未来視ができる存在がいるからだ。


「悪くはない、けどリスクも大きいね」


 元よりリスクは覚悟の上だった。誰も反論せずに黒狐の意見が尊重される。


「分かってはいましたが、アルカナに逆らうというのは想像以上に過酷な道ですね・・・」


 《恋人》は少し憂鬱そうに話す。元々戦いや争いとは無縁で避けていただけに葛藤もある。


「大丈夫だよ。既に半分くらいはリタイアしてるだろうし折り返し地点だしね。こんなに仲間がいたらきっと大丈夫!」


 白猫が《恋人》に引っ付いて肩を叩く。それを聞いて彼女も少しだけ表情を緩ませる。

 ただ《力》の表情は険しくなったが。


 食事を終えて落ち着くと疲れからか《恋人》と《運命の輪》がウトウトしている。


「先に寝ていいぞ。見張りなら私がする」


「いいや、私がしよう」


「なら交替だな。妹も混ぜて・・・」


 黒狐が白猫に目を向けるも彼女は未だに《恋人》に抱きついたままだった。


「聖女さーん。一緒に寝よー。地面は固いから私に寄りかかっていいよ。私も聖女さんにハグするー」


「で、ではお言葉に甘えますね、白猫さん」


 両者が肩を寄せ合って眠り出すので黒狐と《力》が目を見合わせた。


「・・・妹が、姉離れした」


「・・・今夜は語ろうか」


 謎に意気投合して結局2人は夜通しで泣きながら見張りをするのだった。

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