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第34話 旅の仲間

 次なる幹部打倒を目指してターゲスアンブルフへと出発した白猫と黒狐、《運命の輪》と《力》。だがその前に《力》の提案でラーズワルドへと立ち寄っている。

 彼女達はゴーストタウンの街へと来て、目の前に今にも潰れそうな孤児院が建っている。門が開放されて庭では子供達が走り回っている。そんな子供の中心には白いローブを来た清楚な金髪の女性が座っている。フードを下ろして長い髪が風に漂っている。


「聖女さーん!」


 白猫が一目散に駆けつけて《恋人》の胸に飛び込んだ。気持ち良さそうに抱きついてはべったりする。


「白猫さん!? それに、えっ、あなたはフレイル!?」


 《力》を見て《恋人》が非常に驚いた顔をしていた。《力》も髪を触って恥ずかしそうに視線を逸らす。


「元気そうで何より・・・レナ」


 まさか旧友と再会するとも思ってもおらず《恋人》の口は開いたままだ。


「色々あって団長さんと、それに帽子が仲間になってくれた。それで顔を見に立ち寄ったんだ」


 黒狐に紹介されて《運命の輪》もいるのに気付く。《運命の輪》は無愛想に軽く一礼するだけで何も言わなかった。


「そうだったんですね・・・。白猫さんと黒狐さんも無事で良かったです」


 《審判》の元へ行ってから音沙汰なしだったので彼女もずっと心配していた。


「交渉はうまくいったよ。多分幹部は狙ってこないはず」


「でもあの偏屈の言い分なんて当てになる? 平気でイカサマするような奴だよ」


「それも、そうだな・・・」


 どこまでが敵の掌かも分からない。それを聞こうにも《運命の輪》も答えてくれないのである。


「とりあえず中へ入ってください。皆は良い子に遊んでるのよ」


「「「はーい!」」」


 相変わらず子供に慕われており、彼らは一斉に元気よく手を挙げるのだった。

 孤児院の中へと入るもタコ部屋も人がいるということで《恋人》の部屋へと案内される。

 特に洒落た部屋ではなく、寧ろかなり質素で寝台と机、本棚があるだけだ。どれも長年使っているのか傷んでいる。


「お茶を淹れてきますね。皆さんは寛いでいてください」


「あ、わたしも手伝うー」


 白猫も率先して彼女の後を追って廊下へと消えた。その様子を見た《力》が黒狐へと寄りかかる。


「1つ聞きたい。あの子とレナって仲が良いのか?」


「ちょー仲が良いぞ」


 それを聞いた《力》が青ざめてその場に崩れた。両手を床について何度も「仲がいい」と呟き続ける。黒狐は冗談とも言う気になれず床に座り込む。

 《運命の輪》はベッドに倒れこんで仰向けのままウトウトしていた。


 そんな状態が少し続いて扉が開けられる。《恋人》がトレーに紅茶を乗せて運んでくれる。それを小さな丸机の上に並べて行く。彼女の目に《力》が映り首を傾げた。


「何かあったのですか?」


「恋人を取られて泣き寝入り」


「は、はぁ」


 黒狐の言葉の意味が分からずに彼女は曖昧な返事しかできない。紅茶が啜られて少ししてから話が始まる。


「私達はこれからターゲスアンブルフを目指そうと思ってる。そこにいる幹部を倒す」


「白猫さんから少し伺いましたがワイズでも過酷な思いをされたのですね」


 他者に優し過ぎる彼女ゆえ、その進む道に激しく同情をしている様子だ。


「大丈夫だったよ。お姉ちゃんは最強だし、団長さんが最後にぶっ飛ばしてくれたから勝てたんだよ。あそこは聖女さんにも見て欲しかったなぁ。本物の勇者だったもん」


「そうだったんですね。フレイル、ありがとうございます」


 《恋人》から笑顔を向けられると《力》に生気が戻ってパァッと明るくなる。うんうんと何度も頷いていた。何とも分かりやすい、と白猫が思う。


「それにしても孤児院経営してるってだけあって色々本があるな」


 黒狐が本棚に興味が注ぎその中の1つを手に取った。題名は『勇者物語』。イラストはなくベージュのカバーに金色の文字でそれだけ記されている。随分と古いのか紙も黄ばんでおりボロボロだった。


「あ、それ知ってる。勇者が魔王倒す話でしょ」


「有名な奴だよな」


 白猫と黒狐が雑談している横で《恋人》と《力》が妙に遠い目をしてその表紙を見ていた。


「それ、まだ置いてあったんだ」


「思い出、ですから」


 どこかシンミリと話す2人。それには白猫が食いついて《恋人》に迫る。


「なになに? この一冊から恋でも始まったの?」


 それを言われて《力》の頬が赤く染まり、《恋人》はふふと笑みを零した。


「フレイルがパンのお礼にってくれたんです。私もこんな勇者になるんだーって目を輝かせて言ってましたね」


「ちょっとレナ! 恥ずかしいから言わないで!」


 それはもうずっと昔の話だ。彼女の過去を少しだけ聞いていた2人なのでパンのお礼の意味にも合点がいく。《力》は顔を真っ赤にして俯いてしまう。


「いいじゃん、勇者。悪くないと思うよ」


「団長さんならきっとなれるだろう。もう悪い人をやっつけてるしな」


 褒められたら褒められたらで余計に恥ずかしくなって《力》はますます萎縮してしまう。

 当初の気の強さとはうって変わっての姿だが、これが本来の彼女なのだと理解される。


「今日はお疲れでしょう。今夜はゆっくりしていってください」


「そうだな。明日からはまた戦いだ。流石に疲れる」


「聖女さんの手料理楽しみ~」


 暢気な黒狐と白猫をよそに《力》の表情が暗くなる。


「レナは1人でも大丈夫なの?」


 それは心からの心配だった。姉妹が《審判》と交渉したのも聞いた。けれどただの口約束に意味がないことを彼女は身をもって知っている。《恋人》の安否だけが気がかりだった。

 だからつい口に出てしまう。


「レナも一緒に来ようよ」


 本人も意識していなかったので言ってから口を塞いでしまう。部屋の中がシンと静まり返った。おそらく白猫や黒狐も言おうか迷っている部分があったのだろう。しかし、一緒に来たとしても危険がある。残っても危険だが来るよりはまだマシかもしれない。

 事実、《教皇》との戦いは一歩間違えたら全員が死にかけない事態だった。


 長い沈黙が続くもそれを破ったのは幼き少女だった。


「《恋人》は必要だよ。協力は絶対にいる」


 いつの間に起きていたのか《運命の輪》がベッドから起きて座っていた。

 未来の見通せる彼女の言葉には信憑性が高い。


 《恋人》は迷っていた。心のどこかでは行きたいという気持ちがあるのかもしれない。

 だがそうすれば孤児院を放置することになる。それだけは彼女のプライドが許さない。


「一晩、考えさせてください」


 《恋人》はそれだけ言い残す。それから彼女達は特に盛り上がることもなく時間を無為に過ごした。



 ※



 翌朝。《恋人》を除く4人は孤児院の庭で待っていた。あれから《恋人》は部屋に篭って誰とも話をしなかったのである。食事は一緒だったがそれでも愛想笑いをするくらいでまともな会話はできなかった。


 彼女は真剣にどうすべきかを考えていたのである。何故なら彼女にとって大切な親友と孤児院の子供を天秤にかけるなど無理だから。

 故に庭に集まっている彼女達は気遣ってご飯も食べずに待っていた。少しでも考える時間を上げるために。


「正直さ、聖女さんは残った方がいいと思う」


 白猫が沈黙を破って言った。彼女は《恋人》の優しさを良く知っており、こうして悩んだ上でどちらかの答えを出すのはよくないと思っている。何故なら、結論を出すというのはどちらかを傷付けるという意味にもなる。それは優しい《恋人》にとってもっとも過酷だと思った。


「わたしも聖女さんが来てくれたら嬉しいけど、聖女さんは身寄りのない人を救う為に活動していたんでしょ? わたし達とは根本的に生き方が違うよ」


 白猫の言葉に誰も反論しない。はみ出し者の姉妹はもとより、風来坊の《運命の輪》、正義感からの《力》。なら《恋人》はどうだろうか。犯罪組織を壊滅させるのに使命感があるだろうか。


「私の考えが至らなかった。私もレナが傷つくのは見たくない」


 《力》も今更ながら自分の発言に責任を感じていた。彼女も《恋人》がここまで思いつめると思っていなかったのだ。

 彼女達の中で意見が纏まりつつある中、孤児院の玄関の扉が開けられた。そこには《恋人》が立っている。表情はいつもと変わらない。


 彼女はゆっくりと歩み皆の前に立つと深々と頭を下げた。


「ごめんなさい。やはり子供達を残して行けません」


 それが彼女の答えだった。けれど、白猫や《力》は内心ホッとする。これで来ると言われたら引き止める説得をしなければならない所だった。

 だから文句の1つも言わずその答えに納得する。


「帽子もそれでいいな?」


 黒狐が確認する為に声をかけた。


「別になんでも。どうせ誤差範囲だし」


 相変わらずやる気なく答える。満場一致の意見でこれで心置きなく旅立てる、そう誰もが思っていた。だが孤児院の扉の奥に子供や老人が集まっていた。子供達が駆け出して《恋人》の元に集まる。


「シスター行かないの?」


「悪い奴倒すんでしょー?」


「化け物退治ー?」


 子供の純粋な眼差し。彼らは事情を全く知らない。けれど、《悪魔》が出たあの日に何が起こったかは何となく知っている。真夜中に暴れ周り街を破壊した敵を倒したと思っている。


「私には孤児院を守る義務がありますから」


 彼女が後悔を見せないように笑顔を向ける。だがそんな彼女に対して子供達が返答した。


「ぼくたちはへーきだよ! ご飯作れる!」


「洗濯も掃除もへっちゃら!」


「シスターは悪い化け物倒さないのー?」


 それは気遣いではなかった。実際、彼らはもしもに備えていつでも1人立ちできるように《恋人》から訓練されていた。だから家事全般は全員大体できる。けれどそう分かっていても心配になるのが親心だった。《恋人》は選択を変える気もなく首を振った。


 そんな時、後ろから孤児院で暮らす老人や大人が混ざる。


「聖女様、どうか行ってください。子供達は俺達が責任を持って面倒を見ます」


「ずっと世話になったんだ。少しは気持ちを返さないといけないと思っておった」


「《悪魔》が現れたあの日、あなたがいなければ死んでいました。私達はあなたにずっと感謝しています。その恩を今返します」


 背中を押すように次々と言葉をかける。彼女は嬉しさと申し訳なさが混ざった感情が込み上げる。本当は騙していたのに。本当は自分のせいなのに。

 けれど、その真実を知ったとしても彼らの答えはきっと変わらない。


 《恋人》が迷っていると子供達が彼女の手を引いて門の前まで引っ張った。そして、最後に背中を押して院の外へと出す。


「シスター! 帰ってきたならまたお話し聞かせて!」


「悪い人を倒した英雄譚!」


「楽しみにしてるよ!」


 ここまで言われて、ここまで尽くされて、ここまで感謝されて引き返せるほど彼女も厚顔ではない。孤児院の全員に深く頭を下げると彼女は顔をあげた。その目は赤く滲んでいる。


「ありがとうございます。どうか、あなた達に神のご加護がありますように。行ってきます」


 朝日に照らされ《恋人》が駆ける。その先に待つは除け者の親友。その旅路はきっと祝福されているだろう。

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