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第27話 敵の敵は

 翌朝、白猫と黒狐、《運命の輪》は宿屋で一夜を過ごした。起きた時には既に《運命の輪》の姿はなく、また2人だけでの行動となる。


「それでそろそろ説明してくれないか。何か作戦があるんだろう?」


 下着だけの格好の黒狐が畳んであった服に手を伸ばそうとするのを、同じく下着姿の白猫に止められる。彼女の手には制服が掴まれてあった。


「今日はこちらで動きたいと思います」


「正気か? その格好だと尻尾を隠せないぞ」


 短いスカートだとどうしても尻尾が出てしまうので人の多い首都では目立ってしまう。その為に変装服を買ったというもの。


「隠す必要はないよ。寧ろ見つかった方が好都合だね。わたしの作戦はこう。まず特務機関に喧嘩売るでしょ? で、一杯追いかけてくるだろうからそいつらを神聖騎士の所へ連れて行く」


「ほうほう」


「そしたら両者が争って皇帝のお城がガラ空きになる。隙を見てお城に侵入して皇帝を取り押さえる。そしたら秘薬が渡らないでしょ?」


 白猫がドヤ顔で語るが黒狐が難しい顔をしてウーンと唸る。


「そんな上手くいくか? まず皇帝側も教皇側も私らが敵だから一時休戦する可能性があるだろ」


「ないない。そんな簡単に割り切れるなら酒屋で火炙りなんてしないよ」


「それもそうか」


 長い諍いで両者も正常な思考ができなくつつある。実際、教皇側の部下の判断能力がかなり低下しているのは明白だった。


「特務機関がわたし達に本気出してくるのは今までからも分かるし、そこに神聖騎士の私怨も混ぜたら完璧。首都大反乱事件の開幕だね」


 白猫が悪そうな顔をしてにっこり笑う。それが起きれば一般人は大迷惑極まりない。まさに悪者だ。


「ふむ。けど悪くないな。全体が混乱すれば一般人の注意もそっちに向くだろうし、隙は確かに生まれるな」


「でしょ~? 我ながら完璧な作戦だよ」


 作戦が決まれば後は実行するのみ。2人は今まで通りのブレザーの格好に戻って、買った服はアタッシュケースに閉まった。当然帽子も被っておらず、耳と尻尾を惜しみなく自慢している。宿屋を出る際も店主や周囲から奇異な眼差しを向けられるも気にはしない。


 街中に出て大通りを歩けば、相変わらず人混みで賑わっている。朝なので市場の方では名産物をアピールする声が聞こえるし、別の所では開店セールと大々的に宣伝をしている。


『続いてのニュースです。昨夜、現在指名手配されてる凶悪犯の黒狐と白猫が首都を徘徊しているという情報を得られました。黒狐は全身をコートで身を包み、白猫は白いセーターを着ていたとのことです。どちらも長いスカートを履き、頭には帽子も被って耳と尻尾を隠しているとのことです。万が一、目撃した場合は直ちにご連絡ください』


 大広場のモニターの中の人間が抑揚のある声で言っていた。それを聞いた白猫と黒狐は鼻で笑う。


「この様子だと見つかるのも時間の問題だったな」


「やっぱり今のご時世オープンにしていかないとね」


 とはいえ、報道されているというのにそれを聞いている人も多くなく、実際通りを堂々と歩いている彼女達に注意を向ける人は少ない。時々、その派手な尻尾に気を取られて振り返る人がいた。


『え、ちょアレって』

『通報した方がいい?』

『堂々と歩いてるけど本人だよね?』

『ひっ。あっちから行きましょ』

『嘘だろ。何でいるんだよ』

『本当に尻尾生えてるぞ!』


 流石に気付いてきたのか、周囲の様子も変わってくる。人々は道を譲るように何処かへ逃げ、建物に駆け込む姿が散見される。


「有名人は辛いねぇ」


「見世物にされるよりはマシだろう」


 直後、唸るサイレンが街中に響いて警告する人間の声がした。タイヤが擦り減る摩擦と共に銀の四輪車の接近を感じる。

 ものの数分で彼女達は囲まれた状態となり、道という道を全て塞がれてしまった。


「ファンサービスは?」


「全力で応える」


 黒狐が手を一瞬動かすと遠くから狙撃されて腕を吹き飛ばされる。次の動作をする間もなく爆撃に巻き込まれた。

 そんな姉を放って白猫は銀の四輪車に突っ込んでいた。特務機関が一斉に発砲するも無意味だ。魔弾を使っているとはいえ、10秒間で命中できるのは精々100発程度。それくらいなら彼女の足は止まらない。白猫の四輪車の窓を殴った。防弾ガラスなのかびくともしない。彼女は振り返って爆撃が上がった方に意識を向けて指を引いた。

 そうすれば、黒狐が彼女の真横に突如現れドアを溶かしてしまう。乗車していた特務兵や周囲も無尽蔵に発砲していたが、その程度では何もしてないも同然だ。


 運転席と助手席に乗っていた人間を投げ捨てて、白猫と黒狐がそれぞれ助手席と運転席に乗る。エンジンは掛かっており、いつでも発進可能だ。


 黒狐はギアを切り替え思い切りアクセルを踏んで急発進させると道を塞ぐ銀の四輪者を乗り上げて公道を突っ切った。


「お姉ちゃん。運転資格は?」


「むかし本で読んだ」


「運転経験は?」


「事故起こしても私達は死なない」


「相手に同情するよ」


 加速を続ける四輪車に背後からも負けじと特務がサイレンを鳴らして追ってきている。だがその距離が縮まるはずはない。マシンの性能が同じならば最高速度も同じだ。

 おまけに黒狐は安全運転など完全無視してスピードを上げ続けた。


 狙撃されて車体を撃ち抜かれる。黒狐は敵の射撃を嫌って急ハンドルをして商店街の方へと侵入した。車体は思い切り揺れて白猫がフロントガラスに思い切り頭をぶつける。

 商店街の方では普通に人が出回っていて、暴走する四輪者を見ては悲鳴を上げていた。

 中には腰を抜かして倒れている人もいたので、黒狐は彼らを避けるように右へ左へハンドルを振り回す。その度に白猫が頭をドカドカぶつける。


「安全第一でお願いしていい?」


「安全だぞ? まだ誰も轢いてない」


 商店街を抜ければその先で待ち伏せしていた銀の四輪車が角から出て来て道を塞いできた。

 黒狐が減速するはずもなく衝突して両者の車体が横に回転するも、東を向いてくれたのでそのまま発進させた。白猫は口に手を当てて気持ち悪そうにする。


「特務相手に事故。大減点」


「急に出てくる方が悪い」


 車道に出て走ると周囲から煩いサイレン音がいくつもする。車道を走っていた一般車も恐怖を感じてすぐに脇へと避難して停車していた。道が空けばその分加速させる黒狐。しかし、それは特務機関も同じだった。直線は不味いと思って脇道を探す中、道路に1人の女性が仁王立ちして立っている。

 それは彼女達も見覚えのある顔で神聖騎士団長の《力》である。彼女は拳を握ってこちらを見据えている。


「このままだと轢くよ?」


「車道に立つ馬鹿が悪い」


「お姉ちゃんは一生運転資格取れないだろうね」


 時速300kmが一瞬で《力》との距離を詰めていくのだが、50mほどの位置になると《力》が拳を上げてそれを振り下ろそうとする。そこは何もない場所なのだが、最高速度の出てる四輪車は必然的にそこへと到達しようとしていた。

 白猫は窓上にある取っ手を握って衝撃に備える。


 ガシャン!


 《力》がボンネットを思い切り叩くと四輪車が真上に飛びあがった。クルクルと回転しては上昇していく。白猫と黒狐は急いで車から脱出して空中に飛んだ。

 そうなれば銃弾の蜂の巣が待っていたので、黒狐が車のカバーを溶かして剥がしそれを盾にする。


 《力》が落下する彼女達を見上げている。黒狐が彼女の立つ周囲の道路を溶かして20mはある落とし穴を造った。ズドンと落ち、その間に2人も着地する。

 しかし、《力》はジャンプ1つで戻って来る。その間、銀の四輪車も続々到着して特務機関が容赦なく発砲していた。


 すると周囲にいた市民や停車していた車の中から悲鳴が続く。その様子を見て《力》が特務機関の方に目を向けた。


「おい! まだ市民が逃げてない! 無闇に撃つな!」


 しかし、彼女の訴えを聞く者は誰一人としていない。《力》は舌打ちをして陰で待機していた神聖騎士に目を配る。


「お前達! 負傷した市民を治して保護しろ! 安全な所まで連れて行け!」


 彼らは《力》の命令を誠実に実行して物陰で怯える子供や老人、車内に取り残された人々を救助していく。中には銃弾を受けた者もいるが、神聖騎士は医術を扱えるので多少の応急処置は可能だった。


「くそ、皇帝の犬共が。それが正義の味方のする行いか!」


 《力》はいつになく乱心だったが、それでも己を律して白猫と黒狐に襲い掛かる。銃弾の中へ飛び込むというのに彼女は軽妙な動きで弾を一発一発かわして距離を詰めた。拳を握り大地を叩けば瓦礫が舞う。その攻撃を姉妹はあっさりとかわした。


「さて。相手側は乱れてきたな。いい感じだぞ」


「もっと乱してあげる?」


「そうだな・・・」


 彼女達が迷っていると不意に住宅の屋根に得体のしれない気配を感じた。

 そこには赤く長い髪を1つに束ねた女性が立っていた。黒い外套を着崩し中には派手な絵柄のシャツを着ている。短いスカートの中には黒のタイツを履いており、肌の露出は殆どない。


「随分と楽しそうなことしてるじゃないさ。あたいも混ぜてよ」


 その女性はニコニコと不気味に笑う。


「こっちは忙しいんだ。消えろ、《魔術師》」


「連れないさぁ。だったら勝手に混ざるさね」


 《魔術師》が黒い指揮棒を取り出して構える。が、急に首を捻ってそれを折った。ポイと投げ捨ててから指を差す。


「せっかくだし、戦いやすくしてやるさぁ」


 彼女が言うと空気中が紫色の霧で覆われる。視界も悪くなり何よりそれを吸うと気分が悪くなった。特に白猫と黒狐の顔色が悪い。


「不味い、これは魔元素だ」


 黒狐に言われて白猫も口を塞いで頷いた。その霧にはかなりの魔元素を含んでおり、少し吸っただけでも大量に体内へと吸収される。その濃度は彼女達でなくとも気分を悪くし、敵味方問わずに苦しそうにしていた。例外として《力》と《魔術師》だけは平気そうで、《力》が彼女を睨み付けている。


「おい! 今すぐやめろ! 無関係な市民を巻き込むな!」


 特務機関、神聖騎士、そして市民が大勢苦しそうに悶えている。

 そんな怒っている《力》に《魔術師》はニコニコしながら答える。


「いいじゃん、いいじゃん。その子らも苦しんでるし、あたいらの敵だし? 《審判》も捕まえろって言ってたさぁ」


「ふざけるな! このままでは大勢が犠牲になるだけだ!」


 しかし、《力》の訴えは聞きうけてくれない。白猫と黒狐も魔元素に弱くはあるが過剰摂取しても体調を悪くするだけだ。だが通常の人間の場合、血が流れるように魔元素も体内に流れている。大量に摂取すればそれらが循環して最悪死に至る場合もある。


 白猫と黒狐はどうしようかと悩んでいた。《魔術師》を殺すべきか。或いは逃げるべきか。

 黒狐は迷わず前者を選んだ。ここで《魔術師》を殺す行為は最も得する行為と判断したからだ。


 しかし、視線を向けて呪術を使ったというのに何故か《魔術師》は平気そうだった。だが、次第に彼女の前の空間がドロッと溶け始めて液体が零れ落ちる。


「おー、怖いさぁ。本当に無差別に殺してくるさねぇ」


 《魔術師》が笑いながら言ってくる。能力者故に既に対策はしてあった。

 ならば、この場に長く留まるべきでないと白猫は思った。すぐにでも駆け出そうとしたのが・・・。


「・・・どいつもこいつも好き勝手しやがって。そんなに死にたいか」


 《力》の目から光が失われていく。誠意も誠実さも結局は人の耳を傾けるに足らず。

 真に必要なのは・・・力。


 ズドンッ!


 《力》が右足で地面を叩くと大地が揺れ、建物がゆれ、人々が倒れる。揺れはそこまで大きくなかったが、その存在感をアピールするには十分だ。


「全員、処刑」


 《力》は消えると次に姿を見せたのは《魔術師》の前。拳を振ると見えない壁に阻まれるも、それも力で無理矢理破壊した。すると魔術師はまるで階段を上がって行くように空中へと上る。


 高い所へと行った《魔術師》だったが、その高さも《力》のたった一度の跳躍力で間合いを詰める。すると《魔術師》は空中に立っていたが急降下して屋根の上に戻った。勿論、その後に《力》が戻って来る。拳には風圧が込められ落下速度も加わる。

 足を踏んだだけで地震を起こしたのだ。それが衝突すれば大災害になるのは間違いない。


「そこまでだ」


 強張った男の声がする。だがそれで彼女達が止まるはずもなく、《力》は拳を落とした。

 しかし、予想を裏切ってその拳は極普通のパンチと変わりなく何の力もなかった。それだけでない、先程まで覆っていた紫の霧も晴れている。


「目的を忘れるな。《力》《魔術師》」


 そこには銀色の鎧を纏った妙に背の高い者が立っていた。腰には異様に長い鞘を下げている。


「おいおい。こいつが喧嘩売ってきたんだってさ」


「《節制》邪魔をするな。邪魔するならお前も処刑する」


 両者がピリピリしているものの銀の鎧の男、《節制》が動じる様子はない。

 黒狐は相手が言い争ってる隙を狙って《節制》の鎧を溶かそうとした。だが彼も対策してあるのか何も起こらず終わる。


「お姉ちゃん、今の内に逃げようよ」


「それがいいな」


 そうっと歩き出す2人を見て《力》と《魔術師》が同時に屋根から飛び降りた。前後を挟まれる形となる。


「逃げさせはしない」


「観念しなって。悪党」


 そう言ってくるが相手が手を出してくる様子はない。黒狐はもう一度《魔術師》に向かって能力を発動した。しかし、今度は何も起こらなかった。


「無駄さ。この堅物が来た時点でこの場に最強なんていないも同然さぁ」


「貴様らの身柄を拘束する。素直に従うといい」


 《節制》が部下を何人か連れて寄って来る。黒狐は何度か能力を使おうとするも、全てが徒労に終わった。ならばと逃げようとする白猫だが《力》に取り押さえられる。

 結局、2人は敵に捕まってしまうのだった。

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