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第24話 変装作戦

 白猫、黒狐、《運命の輪》の3人はワイズの首都と前の草原まで来ていた。かれこれ半月近くはかかり、途中に馬車なども利用して何とか到着する。

 道中、服屋に寄って変装の為の衣装も買い揃え白猫と黒狐は既に着替えてある。


 黒狐は腰下まで伸びる黒のロングコートに黒のロングスカート、更に茶のマフラーをしサングラスまでしている。耳を隠す為に黒の帽子も被っており、一見では男にも見える。


 一方白猫は白のセーターに黒のロングスカート、首は十字架のネックレスも下げて上品さを出している。当然耳を隠す為に白の帽子を被っていて、一見では聖女に見える。


 またスカートが長いので見えないが白のタイツと黒のタイツも履いていて、白と黒の手袋もしておりお互い肌の露出が殆どない。唯一、ブーツだけは以前と変わらず、制服もアタッシュケースに仕舞って手に下げている。

 髪も帽子で隠して短めになっているので直ぐに白猫と黒狐と気付ける者はいないだろう。


「いよいよだな」


「お姉ちゃん、緊張してるの? そんな見た目なのに」


「これは武者震いだよ。今まで馬鹿にされた借りを返せると思うと高ぶる」


 黒狐はサングラスの位置を調整して話す。大規模な首都を眼前にして《運命の輪》の足が止まった。


「じゃ、ボクはここで」


「一緒に来ないのか?」


「君達と一緒だとボクまで危険に巻き込まれるからね。まだ死にたくないし」


「サラッと危険が起こると暗示しないでくれ」


 何事もなく終われないのが確定した瞬間である。


「帽子ちゃんは1人で大丈夫なの?」


「未来が分かるボクにその質問は愚問だよ。寧ろ自分達の心配をした方がいい。この先1手でも間違えたらお終いだから」


「プレッシャーかけるねぇ」


 それでも彼女達が張り詰めてる様子はない。いつも通り、気楽に目的を果たすだけだ。

 2人は帽子に手を挙げて別れを告げようとした。すると何かを思い出したのか《運命の輪》が声をあげる。


「言い忘れてた。首都に入ったらこれだけは守った方がいい。1つ、皇帝に例の秘薬が渡ってはいけない。2つ、神聖騎士を殺害してはいけない。3つ、《魔術師》に見つかってはいけない」


「分かった。また後で」


「終わったら美味しいの一緒に食べようね」


 今度こそ別れを告げて離れていく。《運命の輪》は空を見上げて目を瞑る。彼女には既に結末が分かっている。だからこそ感慨も何もない。


「頑張りなよ。可能性ってのがあるといいね」



 ※



 ワイズの首都は大都会である。大勢の人が集まり、常に最先端を掲げているこの都市では何でも取り入れる姿勢がある。例えばラーズワルドにある学術都市の魔術。物を浮遊させる術を組み込まれた物質はこの都市でも存在する。洒落た店では看板や皿を浮かせて客のアピールにする。


 他にも最新の自動四輪車が公道を走っていたり、甲冑を着た武人が列を組んで行進していたりもする。建物は軒並みカラフルで白く淡いデザイン性もあいまって、街全体を明るくしている。おまけに20階は優に超えるビルから電脳パネルがかけられて、画面の中で映像が流れている。ある所では着ぐるみのキャラクターが徘徊していたり、別の所では魔術の合同訓練をしていたりする。


「相も変わらず楽しそうな所で」


「ある意味人間の最終形態だよね」


「言えてる」


 黒狐は丁度路頭販売をしている新聞屋を見つけて1つ取った。《運命の輪》から預かった財布から銀貨一枚を取り出して店主に渡す。


「毎度」


 店主は愛想もなく淡々と答えるも2人も気にしない。


「ていうか帽子ちゃんに財布返すの忘れてるじゃん。盗んだら駄目でしょ」


「確かに忘れてた。でも帽子が何も言って来なかったってことは、借りたままでいいってことじゃないか?」


「責任押し付けてるねぇ」


 未来を知ってる彼女は財布の有無も当然知っていたはず。だから、黒狐の言い分はもっともだ。


 黒狐は新聞を片手に読みながら歩く。傍目から見れば完全に探偵の風貌で、白猫が助手にすら映る。そのせいか、通行人が彼女達を気にするはずもない。



 ===エーテルクライス世界新聞===



 深刻化する両者の派閥。ワイズの未来は如何に。


 教皇の発言により、世界政府の実情が暴露された問題について今も尚終わりが見えません。ワイズでは政府を支持する皇帝派と国民の安心安全を基盤とする教皇派で対立し、両者の問題が深刻化しています。教皇の『皇帝が犯罪組織と繋がりがある』と発言した問題について皇帝は今も発言の撤回と教皇の謝罪を求めています。一方教皇は、皇帝に対して国民の信頼を裏切るべきでないと直ちに皇帝を辞任するよう呼びかけています。


 教皇の発言に関して特務機関も犯罪組織との関わりがないと強調していますが、皇帝が特務機関局長だったという立場から隠蔽工作をされているという声も上がっています。

 これにより、皇帝派の特務機関と教皇派の神聖騎士の対立が深刻化しており、暴動が頻繁に発生しています。一般市民からは不安の声も度々上がっていますが、今の所両者の争いに終わりが見えません。ワイズの明日はどちらへ転ぶのでしょうか。



 ※



「なるほどな。これが帽子の言ってた色々ドロドロしてるって奴か。確かに面倒になってるな」


 黒狐は新聞を流し読みしながら必要な情報を抜き取る。そして、教皇の発言に嘘がないというのも彼女には分かる。皇帝が秘薬を手にするという情報を知っているからだ。

 だが、何も知らぬ者からすれば教皇の乱心とも映るだろう。


「神聖騎士を殺すな、か。教皇と手を組めってことか?」


 秘薬の情報を持っているので一応は利害が一致する。しかし、そんな安直に動くべきかも悩んでいた。そんな所に白猫がいつの間にか姿を消していて、パタパタと戻って来る。


「お姉ちゃん、たこ焼き買ってきたよ」


 何故か財布も抜き取られてある。新聞に集中していたのかもしれない。


「このたこ焼き凄いんだよ。何と具がイカにタイにホタテと色々入ってるんだ。勿論タコも入ってるよ!」


 海の幸に目がない白猫がキラキラ目を輝かせて話す。


「それもうたこ焼きじゃない気がするけど。というかあんまり勝手に動くなよ。どこに誰がいるか分からないし」


「ごめんごめん。あまりに香ばしい匂いに釣られちゃって」


 事実、今2人が歩いてる通りには多くの露店が並んでいて甘い匂い、辛い匂い、食欲を煽る燻製の香りと混ざって漂っている。彼女だけでなく、一般人も足を止めては財布を取り出していた。


「まぁいいか。腹が減ってはだし」


「そうそう。せっかくの帽子ちゃんの驕りなんだから贅沢しないと」


「お前はもう少し遠慮をしろ」


「遠慮したもん。お姉ちゃんの服よりわたしの方がずっと安上がりですー」


 白猫が爪楊枝を手にしてたこ焼きをフーフーして食べる。一口丸ごと食べて幸せそうな顔をして、無言で親指を立てていた。


「とにかく当面の目的をどうするかだな。この様子だと皇帝の城を目指すのも面倒そうだし。お、うまいな」


 黒狐も片手でたこ焼きを頬張りながら話す。皇帝と教皇が争っているならば、その根城も神経質になっているのは間違いない。そうなると、皇帝と接触するであろう組織(アルカナ)を取り押さえる、或いは殺すというのも難しい。おまけに誰が交渉人かも分からない。


「わたしにも見せて」


 白猫が黒狐と新聞とたこ焼きを交換して記事をマジマジと眺める。


「へぇ。高級スイートホテル今日からオープンだって。1人一泊5万テイルって金銭感覚狂いそうだね」


「あんたねぇ。もうちょっと真面目に読みなさいよ」


「うわ、これ見て。謎の爆発で有名酒屋閉店だって。今月で3件目だよ。怖いね」


 黒狐はやれやれと思ったが、思考が止まる、すぐに白猫から新聞を取り上げて彼女の話した記事を見た。


「ああ、これは使えそうね。妹、お手柄だ」


「よく分からないけど、どういたしまして」

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