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第23話 正しい選択

 夜。陽もすっかり暮れたので、白猫と黒狐、そして《運命の輪》を含めた3人は川辺の方で焚き火を囲んでいた。


「ほれ、焼けたぞ」


 黒狐は鮭を切り身にして串で焼いていたのを取って《運命の輪》に差し出す。彼女はそうっと受け取るもやはり熱そうにして落としそうになる。

 それから串の両端を手で持って身に頬張った。


「生臭い・・・。味気もない・・・」


 《運命の輪》は閉じそうな瞼から表情を一切変えずに淡々と感想を言う。


「うんうん。やっぱり醤油が欲しいよね。その気持ち分かるよ」


「お前達は鮭の気持ちを考えろ」


 黒狐が串を2本取って片方を白猫に渡す。パチパチと燃える焚き火を眺めて初めての3人での食事。


「さて、本題だ。帽子、私達はこれからどう動くのが最善なんだ?」


 敵の情報もなく、敵の総力も分からず、敵がどこに潜んでいるかも分からない。だがそれらは目の前の水色髪の少女は全て知っている。彼女は無表情のまま鮭を食べている。答える様子はなかった。


「はぁ。お姉ちゃんは本当に人付き合いが下手。会って1日目だよ? まずは寝食共にして、苦楽を共にして、頼れる相棒になってから質問しないと」


「それはいつの話になるんだよ」


 彼女達に時間はない。こうして暢気に鮭を食べている間にも敵が暗躍している。すぐそこまで迫っているかもしれない。だがそれらを知るすべが2人にはないのだ。


「仕方ない。秘密兵器を出そう」


 黒狐は食後まで取っておくつもりの石のコップを持った。中はカラフルな色の果汁で詰まっている。


「森を探索している時に集めた木の実で作ったジュースだ。味見したが美味しかったよ。子供受け間違いなしだ」


 それを聞いた《運命の輪》がジトーッと黒狐を見つめていた。


「な、なんだ? 言いたいことなら言ってくれ」


「わたしが代弁しよう。鮭とジュース何て絶対合わないし何考えてるんだ、コイツ。後、子供扱いするな」


 白猫の答弁に《運命の輪》が同意してコクコク頷いている。


「それは悪かった、許してくれ」


 すると《運命の輪》は再び鮭を頬張り始める。無視されたと思って黒狐が泣きそうになるが、白猫が答える。


「別に怒ってないって言ってるよ」


「いや、何で普通に通訳できてるんだ?」


「お姉ちゃんが知らない内に頼れる相棒になったんだよ」


「だったら妹から言ってくれよ」


 黒狐に言われて白猫が親指を立てた。


「ねぇねぇ、美味しい店に行ける未来を教えてよ。それか温泉でもいいよ」


「おい、真面目にやれ」


「大真面目だもん。お姉ちゃんは気を張り詰めすぎ。そんなのは自由な旅じゃないよ」


「妹は軽率過ぎる。自由の為の戦いじゃないか」


 両者が睨みあって不穏な空気を漂わせている中、第三の声が発せられる。


「ワイズ。あそこへ行くのが今の最適だろうね」


 それはどちらに対しての返答なのか、と2人が見つめるも少なくとも《運命の輪》がボケるとも思えないので黒狐に対してと考えるのだった。


組織(アルカナ)はまだ対価を支払えていない。だから特務機関と手を組むのを阻止できる」


「それは想像したくもない未来だな」


「対価って?」


「例の秘薬の試作品。アレを特務機関に渡される」


 そうなれば最後、特務機関に所属する全員がアルカナが持つ力を得てしまう。


「そうか。話してくれてありがとう。ようやくこっちから攻められる」


「でも忠告しておくよ。今のワイズは色々とドロドロしてる。おまけに組織の幹部も大勢集まってる。そんな中に君達が行くのは火中の栗を拾うのと同じ」


「それは寧ろ好都合じゃない?」


 幹部全員を倒すと決めたので数が揃っているなら尚更行くべきだと思った。ただ《運命の輪》だけが憂鬱な表情を見せている。


「正直、どこまで話すべきか迷う。話しすぎると君達は碌でもない行動に出るし、言わな過ぎても暴挙に出る。ボクには最善が分からない。どうせ結末は同じなんだから」


 《運命の輪》が鮭を食べ終えて串を焚き火の中に投げる。それから黒狐が渡そうとしたジュースを貰って少しずつ飲み始めた。


「今の所はその情報だけで十分だ。問題は幹部と遭遇した時の対処方か。数がいるなら連携もしてくるだろうし、ワイズには人も多い。特務機関に絡まれると面倒だ」


「複数で来られたら面倒だよね。向こうはこっちの能力を把握してるし」


「となると、変装が必要だな」


 黒狐は《運命の輪》の帽子を見つめた。髪を束ねて隠すだけでも印象が変わるし、耳と尻尾も隠せば一見では分からない。今まで変装行為をしなかったのも大きく敵を欺くには適している。


「奇襲には奇襲だ」


「なるほど。つまりこっちに気付かれる前に殺せ?」


「そうだ。先制さえ決まれば元人間は助からない」


 2人が名案だと話すも《運命の輪》だけは何も言わずにジュースを飲んでいる。何も話すつもりはないらしい。


「そうと決まれば早速新しい服を買うぞ」


「いいけど。お金はどうするの?」


 すると黒狐は手を叩いて《運命の輪》に頭を下げた。


「すまん、帽子。お金を貸してくれ。利子つけて絶対に返すから」


「お姉ちゃん。それ絶対に返さない人の決まり文句だよ」


「妹! お前も頭を下げるんだ」


 白猫も申し訳程度に頭を下げる。《運命の輪》はジュースを飲み終えて石のコップを置くと夜空を眺め出す。


「やっぱり駄目か?」


「別にいいよ。お金なんてどうせ使わないし」


 《運命の輪》がポケットから長財布を取り出して投げる。それは子供が持つには高価な皮製で中を見れば1万テイル札が大量に入っていた。


「私、アルカナに就職しようかな」


「ぶっ殺す発言は何処に」


「だってこの額だぞ。こんなブラブラ遊んでるだけで月給何十万あるんだ?」


 黒狐が札束を取り出して1枚ずつ勘定する始末。そんな様子を白猫が肩をすくめて見ていた。


「帽子ちゃん、本当にいいの?」


「返済なら期待してない。未来見ても返されてないし」


「お姉ちゃんは酷いね」


「そう言われると絶対返したくなる」


 最強の金づるのおかげで金銭問題を解消した白猫と黒狐。しかし、これからが過酷な戦いの始まりだとはまだ知るよしもないのだった。

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