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第16話 ゴーストタウンの聖女

 廃墟街。それは一般的に元々人が住んでいて、何らかの理由で居住できなくなった、或いは人がいなくなった街を指す。原因は様々で気候変動による生活の困難、突発的な災害による崩壊、経済的な問題で都市を維持できなくった、などが上げられる。

 しかし、そうした問題が起こっても大抵は復興され元通りになるのが普通だ。だから、このゴーストタウン化してしまうには必ず大きな問題が背景にある。


「街に来たはいいものの誰もいないね」


「ゴーストタウンか。それにしては随分と綺麗に残っているな?」


 夕暮れ前、2人は廃墟街を歩いている。街には彼女達の背丈の何十倍もある建造物や洒落た店、鉄の四輪車が残っている。住宅に目を向ければ洗濯物を干したままで放置されていたり、公園にはボールや遊び道具が転がっている。


「ここで何かあったのかな? 結構最近まで住んでみたいだし」


「今日の世界新聞でも発行されていたら知れたんだがな」


 人がいなければ事情も分からない。けれど手掛かりはゼロではなかった。

 通りを歩いていると道の真ん中に大量の血痕が染み付いている。既に乾いており赤く滲んでいる。それが各地にいくつもあった。


「通り魔でも出たのか?」


「そのわりに死体はないけどね」


 とはいえ、人がいないというのは彼女達にとって好都合だった。2人は人間が嫌いだが人間の造る物は嫌いじゃない。それが料理であれ、建造物であれ、興味の対象だった。だから指名手配されていると分かっていても街を歩きたくなる。それが好奇心からの行動である。


「人間って1人1人は大したことないのに、数が集まると本当に色々作るよね」


 白猫は天に届きそうなほど高い展望台の天辺を見ようと顔を上げる。


「蟻の巣穴に似ているな。それだけ数の力というのは偉大なんだよ」


「あーあ。誰も居ないんだったらフカフカのベッドで寝たいなぁ。温かい湯船に肩まで浸かりたい!」


「この前不法侵入だの畜生に成り下がるだの言ったのは誰だ」


「気持ちの問題なんでしょ? だったら関係ないよ」


「私に責任擦り付ける気か?」


 白猫が屈託のない笑みを見せて愛嬌を出した。黒狐は猫かぶりな妹を持つと大変だと思いながらも反論しなかった。


「近くに宿屋か旅館でもあればいいんだがな。後払いできるし」


「お姉ちゃんも律儀だねぇ」


「当然だろう? 店を経営するって大変だぞ。毎日掃除したり手入れしないと駄目だし、客足を伸ばす為に新作のバーガーも考えなくてはならない。私は彼らを尊敬するよ」


「何でバーガー? 宿屋の話じゃないの?」


 あまりに真顔に話す黒狐だったので白猫もツッコミを入れるべきか迷いながら呟く。

 その質問に関しては何の返答も得られず終わる。言わなくても分かるだろうとそんな目をしている。


「近くにあるといいけどね」


「そうだな」


 静かに歩道を歩いている彼女達だったが、ピタリと足を止めた。目の前のベンチで白いローブを纏った金髪の女性が祈っているのである。フードは前髪が少し見えるくらいまで被って、肌の露出が一切ない。見るからに聖女という印象を与える。

 彼女は十字架を握り締めて祈っている。


「人がいるよ?」


「そりゃ街だからな」


 彼女達が二の足を踏んでいると、その声が聞こえたのか聖女はハッと顔を上げた。蒼く澄んだ瞳が2人を捉えて、再び目元から涙を流した。


「ああ、神よ。我々の同志を生かして頂き感謝致します。神の慈悲深き愛をとても感じます」


「・・・何だか面倒そうだけど?」


「迂回するか」


 右方向に足を向けた彼女達だったが、相手はお構いなしに歩み寄る。急ぎ足と言うべきか、聖女の歩く速度は異様に速く2人を追い越して前に立った。


「お待ち下さい。ここは危険な地、か弱き乙女が2人で行動するのはとても危険です。どうか引き返してください」


 それを聞いた白猫と黒狐だが、その発言は矛盾していた。


「あなたも1人じゃないですか。わたし達よりも余程危険だと思いますけど」


「私は1人ではありません。私の心には幾人もの人の心が常にあります。それに私は神を愛し、神に愛されています。どんな災厄も守ってくれるでしょう」


 聖女は十字架をぎゅっと握り締める。これは話し合いにならないと2人が肩をすくめた。


「ごめん。そういうのは間に合ってるから。私らは今日の寝床探しで忙しいの。悪いけどじゃあね」


「・・・悪魔が来ますよ」


 立ち去ろうとする彼女達に聖女がポツリと呟く。それには2人も足が止まって振り返った。

 聖女は戸惑った様子を見せながら視線を外している。


「また悪魔が来て全てを奪い尽くすのです。私達に残された時間はそう多くないでしょう」


「悪魔って?」


「頭が山羊、体が人間、背中に蝙蝠の翼を持った黒い化物です」


 それを聞いて白猫と黒狐は《悪魔》がこの街を襲ったのだと納得する。命がなくなった《悪魔》は街の人を襲うことで己の命を増やしていた。


「アレをこの世の生物と呼ぶべきではありません。命を、物か何かと思っているのでしょう」


 聖女は目元を人差し指で拭って平静を保っている。多くの命が亡くなったのを悲しんでいるのだろう。


「そう。でも私達は大丈夫だ。そう簡単には死なない」


 黒狐は相手の好意を無視して先を急ごうとした。すると聖女が彼女の手を掴む。


「駄目です。2人だけで行くなど悪魔の格好の餌となります。どうか、今夜は私の院で泊まってください。夜は・・・悪魔の本領ですから」


「・・・わたし達の顔、知らないの?」


「知っています。その耳と尻尾を見間違うはずもありません。ですが、あなた方を見て分かりました。あなた方もまた救いを求める者なのだと。私は差別を望みません。ご安心ください」


 聖女が丁寧にお辞儀をする。その言葉に嘘偽りがないのは目を見れば明らかだった。嘘を吐く人間は大抵目が泳いだり、挙動がおかしかったりする。勿論ポーカーフェイスが得意な人間もいる。しかし、白猫と黒狐は多くの人間を見てきたので、聖女は少なくともそれが出来る側と思えなかった。それに丁度寝床もなく困っていたのも事実。


「本当にいいの? 他に人間がいたりするんじゃない?」


 白猫は気遣ってか何度も確認する。嫌と言いたいわけではない。自分達の評価をよく知っているからこそ、何も知らない人間と一緒にいるべきでないと感じている。


「大丈夫です。あそこの人達はそんな横暴ではありません。皆、いい人ですよ」


 聖女が優しく微笑む。ここまで親切にお節介を焼く人物は2人の長旅経験でも初めてだった。白猫と黒狐は顔を見合わせて数秒考えるも同時に頷いた。


「じゃあ、悪いけどお邪魔するね?」


「正直不法侵入は胸が痛むからね。許可があると助かるんだ」


「あなた方に神のご加護を。こちらに来てください」


 聖女が先導して前を歩いて行く。その後ろに白猫と黒狐も続いた。

 聖女の歩くペースは遅かった。2人はもっと早くても構わないと感じたが、それは彼女の優しさなのだろうと思い黙っている。


 街灯が1つも点いていない公道を進み、品出しされたままのパン屋の横を通る。

『本日のオススメ』と看板を出された料理店を通り過ぎ、セール中の雑貨屋の角を右手に曲がる。細い道となり幅は人が5人通れるくらい。看板の電灯が点滅している酒屋を過ぎて、カラスがゴミ箱を荒らしている。横を通ればバサバサと飛び立ち不気味に叫ぶ。


 住宅街の間となって、折れたパイプが向かいの建物へ垂れている。落ちそうだがまだ大丈夫だ。壁は血で汚れていて、赤い手形もある。


 通りに出て枯れた木が等間隔に立ち並ぶ。道路を渡って真っ直ぐ進むと石橋が見えた。それを渡れば緑の生い茂る住宅地へと来る。建物の間を抜けて一番奥に鉄の門が見えた。

 レンガの柵がされていて、中には広い庭がある。その中に二階建ての大きな院がある。


 木造建築で建てられてから古いのかあちこと傷んで黒っぽくなっている。窓の奥は明かりがぼうっと点いていて人がいるのを感じる。


「ここが私の経営する孤児院です」


 聖女は門の鍵を開けながら話す。


「孤児院って子供のいる?」


「はい。身寄りのない子供から大人まで。特にこんな状況になっているので大勢が集まっています」


 2人が庭に入ると聖女は門を閉めて鉄の棒を落としてロックをする。手入れされていない庭のガーデニングを片目に院の玄関前へと来た。別の鍵を使って開けるとキィーッと嫌な軋み音をあげる。耳に敏感な2人は少し不快な顔をする。


「す、すみません。もう長く使っているものですから」


「謝らなくていいよ。こっちも態度に出して悪かった」


「無礼を許してね」


「寛大な心に感謝します」


 聖女はバタンと扉を閉めると奥からバタバタと騒がしい足音が近付いて来る。


「シスターおかえりー!」


「遅いから心配したよー!」


「お腹空いたー!」


 年端もいかない少年少女が笑顔で聖女を取り囲み服を引っ張ったりしている。彼女は子供達の頭を順に撫でてから話す。


「お客さんが来てますからお利口にね。夕飯の準備をしますから手伝ってくれますか?」


「「「はーい!」」」


 子供達は手を挙げて慌しく走る。聖女は振り返って頭を下げた。


「すみません、騒がしくて」


「随分と懐かれてるんだね」


「物心の付いた頃から育ててますから。私が母代わりになれるとは思っていませんが、愛も知らぬまま亡くなるのはとても悲しいことです」


 聖女は遠い目をしながら呟いていたが、すぐに右手の廊下へと指を差した。


「この先にタコ部屋があります。元々の孤児院に避難者もいます。寛げる・・・かどうかは分かりませんが、ゆっくりしてください。私は夕飯の準備がありますので」


「分かった」


「あ、それと左手の廊下の奥に大浴場もありますので好きに使ってください」


 それを聞いた白猫と黒狐の耳がピンと立つ。


「それは大変ありがとうございます。とても助かります」


「こちとら風呂も満足に入れぬ風来坊なものでして」


 彼女達は腰を落として聖女に対して両手を合わせる。そんな彼女達の行動に聖女は手を突き出して首をブンブン振る。


「そんな・・・大したことではありません。お風呂に入るならタオルは後でお持ちします。着替えは・・・」


「あー、このままで大丈夫だよ」


「もう慣れた」


「宜しければ洗濯しますよ。私の御下がりで宜しければパジャマも貸しますが?」


 息を吐くような気遣いに人間嫌いの彼女達でも思わず感心する。


「あなたは女神様ですか?」


「良い人間に出会えた」


「え、えっと。では着替えも必要というので宜しいですか?」


 2人は息ピッタリに頷く。聖女は去る前にもう一度頭を下げてから姿を消した。

 その背中が見えなくなると、白猫と黒狐も歩き出す。


 言われた通り、左手の廊下へ歩けば奥には青と赤の暖簾がある。女性である白猫と黒狐は当然赤の暖簾の方を潜った。中は使われてる様子はなく静かで誰もいなく、ロッカーだけが無数に点在している。


 2人は服を投げ捨てるように脱いで近くの籠へと入れるとガラガラと戸を開けた。一歩入れば、白い湯気が顔を覆い石の床に足が乗る。奥には長方形に伸びた湯船があった。手前には身体を洗う場所が点在している。周囲を見渡しても人はいない貸切状態だった。


 2人はまず身体を洗う為に近くの流し場に歩く。石鹸にシャンプー、リンス、ボディソープとしっかりと置かれていた。それを手に取った白猫が感動する。


「ハーブ以外の匂いがあるなんて。もうここで住もうかな」


「否定できないのが辛い」


 2人はお互いの髪と身体を洗い合うと、目玉の銭湯に浸かった。肩まで浸かって床に手を置く黒狐と両手両足を伸ばして全身でお風呂を楽しむ白猫。どちらも尻尾は湯船の上に浮かんでいる。


「極楽~。お風呂なんて何年振りだろうね~」


「ワイズの秘境温泉以来ってなると、2年半くらいか? もうここに戸籍置いていい気がしてきた」


「聖女様も優しいし、街も静かだもんね~」


 恍惚に息を吐き続ける2人。そんな後ろの方でガタガタと音がして戸を叩かれる。


「湯加減の方はどうですか?」


 聖女の声だった。


「問題ないよー。最高だよー」


「この恩は必ず返そう。ありがとう」


「いえいえ。ごゆっくりどうぞ」


 パタパタと走って再び静かになる。


「あんな人ばっかりだったら世の中いいのにね」


「激しく同感だな。無理だろうけど」


 結局、彼女達がお風呂を上がったのは1時間以上経過してからだった。今後二度と入れないかもしれないという感情もあって浸かっていた。本当はもっと浸かっていたかったが、夕飯の支度をしていると聞いていたので待たせては悪いと感じてである。それに気付いたのも遅かったが。


 風呂から上がって肩にタオルをかけ、青とピンクのパジャマをそれぞれ黒狐と白猫が着ている。廊下をパタパタと歩き、玄関から右手奥のタコ部屋へと向かった。

 そちらに近付くとガヤガヤと賑やかな声がしてくる。


 ガチャッと扉を開けると視界には大勢の人で賑わっていた。老若男女がよりどり緑だったが、特に子供が多かった。ベッドや机、長椅子など置かれていて余計なものは殆どない。

 既に食事を始まっているのか、多くはお椀を手にしてスープを啜っている。


 2人が立ちすくんでいると廊下の方へと子供達が賑やかに飛び出して行った。そんな背中を聖女が追おうとするも彼女達に気付き足が止まる。


「あ、料理の支度が出来てます。こちらにどうぞ」


 聖女に促されるまま付いて行く。しかし、周囲の大人達は白猫と黒狐を一瞥しては奇怪な眼差しを送っていた。読書する手も止まり、寝ていた者も起き上がり、箸の動きさえ止まる。唯一、子供達は気にしてない様子で部屋中で騒がしく遊んでいる。


「分かってたけど、あんまり歓迎はされてなさそうだね」


「仕方ないね」


 それでも何かを口にする者は1人といない。それが聖女に口止めされたのか、下手に刺激して殺されるのを恐れているのか。


 奥の机には大きな厚底鍋が置かれていている。聖女はお椀を2つ用意すると蓋を開けて丁寧によそった。里芋、人参、ほうれん草、餅が具材で出汁は味噌と昆布。

 それを見た白猫がマジマジと眺めている。


「へぇ。わたし雑煮って初めて食べるよ」


「味噌汁なら何度かあるんだがな」


 興味津々の2人だったが、聖女は少し申し訳なさそうな顔をしていた。

 そう料理と言ってもそれだけだ。成長期には少々物足りない量ではある。


「すみません。本当はもっと色々作りたいのですが・・・」


「十分じゃない? わたし達なんか森の葉っぱ食べるだけの日もあるし」


「荒野を歩いてた時は雨だけ飲んでたな」


 ふふふと笑う彼女達に聖女はどう反応していいか困り果てる。2人はお椀とお箸を拝借すると立ちながら食べ出す。まずは汁を一口飲んだ。


「んー、美味しい。風呂上りの身体に染みるね」


「温かく優しい味だ。嫌いじゃない」


「ありがとうございます。そう言ってくれると作り甲斐もあります」


 2人はゆっくりと咀嚼し味わって時間をかけながら雑煮を食べた。中身が空になると机にお腕を置く。


「おかわりがありますが、どうしますか?」


「もうお腹一杯だからいいよ。ご馳走様」


「その分は子供達にあげるといい。美味しかったよ、ありがとう」


 反論許さずという風に白猫と黒狐はその場を後にしてタコ部屋から出た。人の視線を嫌い観察されたくなかったからだ。


 廊下に出て彼女達は空いた窓に寄りかかって外を眺める。月明かりが綺麗に反射して庭を照らしていた。


「落ち着くまでここにいるか」


「プライバシーは遵守しないとね」


 聖女の家というので勝手にウロウロするのは悪いと思ったからだ。恩義があれば無粋も働かない。それが白猫と黒狐だ。


 夜風に当たって長い時間が経過した。タコ部屋の明かりはまだ点いている。

 そんな時、扉が開いて聖女が出て来た。


「こちらにいらしたんですね」


「私達が居ると気まずくなるから」


「そう・・・ですね。悲しいですがこの世界にはそうした弊害が多くあります」


 聖女は2人と隣の窓際に立って顔を出す。


「生まれてまもなく捨てられた子。理由もなく置き去りにされた子。障害を背負ったから親から愛されなかった子。ここにはそんな子供が多く居ます。私はそんな子供達を放っておけなくて孤児院を開きました」


 何のなしに聖女は己の身の内を明かす。


「そういうのって、普通は国が助けてくれるんじゃないの?」


 白猫の質問に聖女は一点を見続ける。


「確かに親が子を捨てた場合それは育児放棄となり犯罪です。ですが、子が親の顔を覚えていなければ証明できません。それに政府は戸籍のない人には権利がないと主張し何もしてくれませんでした。何度も訴えましたが全部却下されました」


 聖女は悲しそうに話す。役人については2人も辟易としていたのでその気持ちは十分に理解できた。


「だから私が頑張ってあの子達を愛そうって決めたんです。産まれた子に罪はありません。愛は平等に与えられるべきだと思います」


「なんか、ごめん。初めてあなたと会った時、面倒な人って思ったの謝るね」


「あなたは強い人だ。普通の人間にそんな思考はできないだろう」


「ありがとうございます。けれど、私1人では全員を満足に養えられません。孤児院に来る子供も多く既に定員をオーバーしています」


「そんな時、《悪魔》が来た?」


 聖女は静かに頷いた。


「皮肉なものですよね。こんな危機的状況になって子供達と同じになると大人は同情をするんです。今までは見向きもしてくれなかったのに」


 けれど、そんな大人でも同じ人として聖女は等しく助けた。ここで見捨てれば自分も切り捨てる側の人間と同じになるから。


「食糧がないって言ってたけど本当に大丈夫なの?」


 白猫の問いに聖女は沈黙を守り続けた。そこでようやく2人は何故彼女は1人で行動していたのかを理解する。《悪魔》によって街が無人ならば考えられるのは1つだけ。


「あんたも色々と苦労してるんだな」


 黒狐は特に責めずにそう話す。聖女は窓から顔を戻して閉めると、2人に向き直って頭を下げる。


「お話し、聞いて頂いてありがとうございます。こういうのは誰にも言えませんから」


「それであなたの肩の荷が少しでも降りるならいくらでも聞くよ」


「これでも口は堅いから。そもそも話す相手がいないけど」


 それを聞いて聖女は静かに微笑んだ。


「お2人はとても指名手配者とは思えませんね」


「今のあんたと似たような感じだ。敵にする相手を間違えた。それだけ」


 聖女は目を丸くするが、それが気遣いだと気付きもう一度頭を下げた。


「そういえば、《悪魔》が来るとか言ってたけど大丈夫なの?」


「大丈夫・・・とは言えませんね。今はまだ見つからずにいますが、いつここに来て襲ってくるか・・・」


 聖女は憂鬱な気持ちで顔を下げる。人間には到底手に負える相手ではなく、来れば一瞬で全員が死ぬだろう。


「明かりは消した方がいいぞ。あんたは優しいけど無用心過ぎるな。1人で動くし」


「すみません。気をつけているのですが、子供の生活も考えたらと思いまして」


「ま、あんたには感謝してるから《悪魔》が来ても守ってあげるよ」


 聖女は複雑な表情をして何も答えなかった。彼女は窓から顔を戻して窓を閉める。

 時間は既に遅かった。孤児院では消灯が早くて朝が早い。


「寝床は2階に空き部屋がありますので、そちらを案内します」


「ありがとう。あなたに神のご加護を」


「神のご加護をだな」


 2人は聖女を真似して信仰の欠片もない祈りを見せる。聖女は微笑んで本当の祈りを2人に見せるのだった。

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