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第15話 明日はきっと

 ザーザー。


 森の木々を打つ大粒の雨が降り注いでいる。白猫と黒狐は小さな洞穴の中で肩を寄せ合って座っていた。


 彼女達は雨の日が嫌いだった。雨は髪や服を濡らすし、身体もべたつく。視界は悪くなるし、泥が跳ねる。空気が湿気るので火を起こすのも大変で、ご飯も食べれなくなる。


 何より、あの日も雨が降っていたから。


 2人は雨が止むのはジッと待ちながら景色を眺めていた。


「雨、止まないね」


「今日は止まないだろうな」


 雨の日は気分も悪くなる。お日様が隠れるのでメラトニンの分泌量が減るからだ。

 長い沈黙が続く。いつもの楽しさも遊び心も冒険心も今はない。


「・・・これから、あいつらがずっと狙ってくるのかな」


 白猫がポツリと呟く。それは少し前まで戦っていた《悪魔》と《死神》に対してである。

 いつもの賞金稼ぎや特務機関相手ならば余裕を持って相手にできる。

 けれど、《死神》の行動は2人を完全に熟知した動きだった。彼女達の能力は視線を合わせるという条件、更に魔元素に弱いという体質。それらを見抜き欺いた。


 白猫は憂鬱だった。これから先、あんな敵が何人も襲って来るのではと思うと全く気が休まらない。身も心も疲弊していた。


「安心しろ。どんな敵が来ようとお姉ちゃんが守ってあげる。だから何も心配しなくていい。いつも通り、自由な旅を続けよう」


 自由。ただそれを求めて旅に出た。けれど《死神》は言った。


『お前達に自由はない』


 他人の言葉など信じる気もない白猫だったが、その言葉だけは頭の隅に残り続ける。

 彼女は頭を抱えた。


「やっぱり人間の言葉なんて聞くんじゃなかった! あいつらと関わったから、こんな危険になったんだ!」


 あいつら、というのは市街で出会った奴隷を指して言っている。妙な信念に踊らされて《正義》を殺したから今の状態になったのだと白猫は考える。


「あいつらは自分達さえ助かればそれでいいんだ! こっちの気も知らないで、こっちが危険になっても見向きもせずにどこかへ逃げる! 人間なんて皆死ねばいい!」


 パチン!


 洞穴に反響する平手打ちの音。白猫は自分の頬に走った痛みに驚きを感じ瞳孔を開けている。黒狐は怒った目付きをしていた。


「少なくとも私はあの時の選択を自分の意思で決めた。料理と寝床を譲ってくれたあの女の子に感謝の気持ちもあった。それを否定するというなら、あなたは私も否定するの?」


 いつにも増して厳しい口調で話す。白猫は今更になって襲う罪悪感と言い過ぎたという気持ちが強くなってくる。彼女は耳を垂らしながら俯いて「ごめんなさい」と謝った。


「あなたは時にして感情的になり過ぎるわ。それが良い所でもあるけど。でもね、これだけは言わせて。私はあなたと一緒に旅に出てから後悔なんて1つもしてないわ」


 黒狐が白猫の髪を優しく撫でる。その手はいつもより大きく優しく、そして温かった。

 黒狐はいつも白猫に優しい。厳しく映る態度も彼女を考えてこそ。たった1人の妹で、たった1人の理解者だから。こうして顔を上げていられるのも白猫がいるからである。


「本当に後悔してないの?」


「そりゃそうよ。あの箱庭に比べたら余程快適じゃない。大抵の悩みなんてちっぽけよ」


「荒野の街で肉サンド食べれなかったのは?」


「まぁ、ちょっとだけ」


 視線が泳ぐ黒狐に対して白猫が目を細めてジーッと見つめる。


「で、でもね! 人間が皆死んだら美味しい料理が食べれなくなってしまうぞ。刺身も海鮮巻きもクレープも食べれなくなる。それって悲しいじゃない」


「・・・分かってるよ。全ての人間が愚頓じゃないなんて。そうだよね。隣に住んでる人が重い病気に患ってるからって知っても、何かする人なんていないもん。皆、自分が生きるのに必死だから。少しでも生存率を上げるには面倒に関わらないのが一番だもん」


「妹・・・」


「わたし、馬鹿だよね。産まれた時から運命を決められていたのに、こんな状況になっても心のどこかで救われたい、幸せになりたいって願ってる自分がいる。そんな自分が一番ムカツく」


 白猫が意気消沈して俯く。そんな彼女に対して黒狐が肩を抱いて撫で続けた。


「あまり自分を責めちゃ駄目。あなたの言いたい気持ち、痛い程分かるから」


「わたし達、これからどうなるんだろう?」


「そうねぇ。とりあえず、私達のファンクラブに入りたい輩が大勢来るってのは分かるわ」


「いっつも思うんだけど、お姉ちゃんの言葉選びって毎回変だよね」


「真顔で言われると普通に傷付くんだけど」


 シュンと耳と尻尾を垂らして沈む黒狐を他所に白猫は汚れも気にせず地面に寝転がった。


「あーあー。ウダウダ考えても仕方ないよね。どうせ成るようにしかならないんだし! 寝る!」


「なら子守唄を歌おうか? 怖くない話でもいいぞ」


 と言っている間に白猫は小さな寝息を立てて眠っていた。終わりのない旅で疲れも溜まっていたのだ。黒狐も寝ようか考えたが刺客が来る可能性を考慮して起きていることにした。


「う・・・ん。お姉ちゃん・・・好き」


 寝言なのか堂々と口にする。それを聞いた黒狐は尻尾だけパタパタして冷静さを保とうとする。


「はぁ。そんな風に言われたら次から怒れないじゃない。本当にもう」

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