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第12話 仄暗い闇の底

 ===エーテルクライス世界新聞===



 本日未明、ラーズワルド南東にて世界各地で行方不明となっていた人達が発見されました。ラーズワルド南東には荒地が多く、人の住める場所がありませんでしたが山に囲まれた一角に市街が発見されました。そこで行方不明者は過酷な労働を強いられ奴隷とされていました。市街を管轄していたのは世界でも指名手配されている《正義》と名乗る人物で、その情報の多くは出回っていませんでしたが、この市街にある屋敷にて死亡されているのが確認されました。


 他にも市街の中には多くの武器や金銀、麻薬なども検出され一部では地雷も埋められていました。世界政府は一連の犯行を《正義》の仕業と判断して捜査を進めています。また、市街中では戦闘が行われていた形跡が残されており、政府は事情聴取をするなどして事件の究明に尽力しています。事件を目撃していた人物からは「獣の耳をした女の子が暴れていた」と証言しており、政府は指名手配中の黒狐と白猫との関連性を強く疑っています。現在、犯罪組織の活動が増えている中、こうした反乱や暴動が各地で相次いでいます。凶悪犯を見つけたとしても無闇に関わろうとせず、特務機関へご連絡ください。



 ※



 薄暗い会議室の中、夕暮れの光だけが差し込み机を真っ赤に染めている。横に長い机の奥で茶色いコートを纏った渋い男が今日の新聞をマジマジと読んでいた。

 室内には彼以外誰もおらず、20の席はいずれも空席となっている。


 コンコンコン。


 静寂を破ってノックがされる。


「入れ」


 男は抑揚なく呟いた。ガチャリと扉を開けられると黒いスーツを着込んだ骸骨が入る。

 男はその者が来ると新聞を机の上に投げ捨てた。


「《死神》か。遅かったな」


「申し訳ありません。予期せぬトラブルがあったものですから」


 《死神》は軽くお辞儀をして謝罪する。男は特に気に留める様子もなくポケットから縦長のカードを取り出す。その中から剣を持った男が描かれたカードを《死神》の方に向けた。


「《正義》が死んだようだな?」


「ええ。情報では従えていた奴隷に射殺されたと報告を受けていますが・・・」


 《死神》がその先を言う前に男は2枚のカードを取り出した。そこには《太陽》と《月》が描かれている。


「黒狐と白猫。奴らで間違いないか」


「理由は不明です。ただの気まぐれなのか人間に唆されたのか」


「アレが人の言うことを聞くとは思えないがな。とはいえ、《正義》を殺すだけの殺意は持っていたようだ」


「《正義》には彼女達の能力を伝えたのですか?」


「一応な。対策も教えてやろうとしたが、あいつは最後まで人の話を聞かない」


 男は胸ポケットからライターを取り出すと剣を持った男のカードを燃やした。灰になったカードは風に流され霧散する。


「残念です。《正義》は素行は悪かったですが、使い捨ての人間を集めるのに長けていました。おまけにあの場所も特務機関に悟られず、活動拠点にも適していました」


「確かに。《正義》は独裁主義だったが、ほぼ1人であれだけの街を造りあげたのは褒められるべきだろう。もっとも、部下からの信用は最悪だったようだがな」


 彼らに仲間という概念はない。しかし、有用であるという認識はある。だからこそ、幹部の1人の喪失は大きかった。


「宣告の力を持っても打ち勝つとはやはり侮れません。早急に手を打つべきかと思います」


「代償はその首で支払ってもらうとしよう。さて、運命のカードを引こうか」


 男は《太陽》と《月》のカード以外を裏向きにして混ぜ、3枚のカードを表にした。

 一枚目は山羊頭の人間が描かれたカード、二枚目は逆さ吊りになった男のカード、三枚目は猛獣を従えている人間のカード。

 男はそれらを並べて《死神》に見せる。


「これが答えのようだ」


「正気ですか? その3名を送ればいくら彼女達とはいえ助かりませんよ」


「化物には化物をぶつけるのが鉄則だ。それにアレは死なない」


「彼女達に何かあれば《世界》を敵に回しますよ」


「ならばお前ならどうする?」


 《死神》は靴音を立てながらカードの前まで歩く。場に出ているのは《悪魔》《吊るされた男》《力》の三枚。《死神》は少し思案してから《力》を取り上げた。


「《力》を戻して《恋人》に入れ替えます」


 場に新たに出たのは天使が中心に立って、それを挟むように向かい合った男女のカード。

 それを見て男は関心を示す。


「ほぉ。扱いにくい《恋人》を出すとはな。だが悪くない。流石はあいつが認めただけある」


「恐縮です」


「では《死神》よ。奴らを彼女達に向かわせろ。《恋人》にはこちらから連絡しておこう」


「畏まりました。全ては《審判》が命ずるままに」


 骸骨は胸に右手を置いて一礼する。


「それと、例の会食はどうなった?」


「『対価を支払い次第』と」


「楽な相談で」


「では行って参ります」


 《死神》はコートの中から黒いフェルトハットを取り出して被ると扉を開けて消え去る。

 残された《審判》はカードを片付けようと集めたが、底の方に一枚表向きになっているカードがある。馬に乗った骸骨のカードだった。


「何かあれば、か。よく言ったものだ」


 《審判》は鼻で笑うと通信魔術でモニター画面を表示させるのだった。

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