星をみるひと
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星をみるひと
作:狩屋ユツキ
【里村 優(さとむら ゆう)】
高校一年生。
朴訥で星を見るのが好き。
【鈴原 利音(すずはら りおん)】
高校一年生。
天真爛漫。星を見るのが好き。
【先生】
鈴原利音と兼役。
学校の先生。
30分程度
男:女
1:1
優♂:
利音・先生♀:
------------------
優N:「我が校のモットーは自由だ。時代に合わせて封鎖されることの多い屋上も、高いしっかりしたフェンスに囲まれているものの開放されている。だが、夜は別だ。何処もかしこも施錠されていて、警備員だっている」
利音:「あれ?お客さん?」
優:「どうして……」
利音:「え、どうして、は……こっちなんだけど」
優:「は?」
利音:「はへ?」
優N:「だから深夜零時を回った学校の屋上のど真ん中に先客などいるはずがないんだ」
間
(夜、学校屋上)
利音:「警備員さんかと思って、びっくりしちゃった」
優:「俺も」
利音:「バレたらやっぱり怒られるよね」
優:「そうだな」
利音:「何しに来たの?」
優:「星を見に」
利音:「奇遇だね、私も星を見に来てる」
優:「来てる?ってことは、何回も来てるのか?」
利音:「ふっふーん、一回も警備員さんに怒られたこと無いよー」
優:「そういう意味じゃなかったんだが……まあいい。じゃあ、自己紹介」
利音:「え?」
優:「これから何度も会うかもしれないから」
利音:「え、あ、そ、そうだね!!」
優:「里村 優。一年A組。そっちは?」
利音:「鈴原 利音。……一年でクラスは秘密。よろしく、里村くん」
優:「秘密?」
利音:「秘密。女の子には秘密が多いんです」
優:「何だそれ。……鈴原、利音……鈴原か。タメなんだし呼び捨てで良い」
利音:「駄目だよ!あ、私のことは呼び捨てでいいけど。私は駄目」
優:「なんで」
利音:「なんででも!!」
優N:「深夜の屋上の真ん中に膝突き合わせて喋る。不思議な光景だっただろう。俺も制服、鈴原も制服だった。うちの高校は男子は詰め襟学ラン、女子はピンクのラインとリボンが印象的なセーラー服だ」
優:「そんな力いっぱい言わなくても」
利音:「大事なことなの、これは!!」
優:「そうか。……星、見ないのか」
利音:「あ、見る」
優:「綺麗だな」
利音:「綺麗だねえ。……あ、ねえねえ」
優:「ん?」
利音:「誰もいないんだし、寝転んじゃおうよ」
優:「……ま、いいけど。そっちスカート」
利音:「上見てたらスカートの中身は覗けませーん」
優:「大体、俺は星を見に来たんであって鈴原のスカートの中身を覗きに来たわけじゃないしな」
利音:「ちょっとは興味を持ってくれたって良いよー?うふふ、女子高生のスカートの中身ですよー?」
優:「いや全く。……よっと。……ああ、こっちのほうがよく見えるし首が楽だな」
利音:「ちょっとは興味持とうよぅー。利音悲しくて泣いちゃうー。しくしく」
優:「お前も寝転べよ、鈴原。ちょっと砂はじゃりじゃりするが、星がよく見えるぞ」
利音:「全無視は傷つくんですけどー!!……じゃ、お隣失礼します」
優:「次はなにか敷くもの持ってくるか……っと」
利音:「ん?何それ」
優:「何が」
利音:「手に持ってるそれ」
優:「ずっと手に持ってたぞ、俺」
利音:「だって、今空にかざしたから」
優:「これはこうやって使うものなんだよ。星座早見盤。使ってみるか?」
利音:「あ、いい!!使い方わかんないし!!里村くんが使って見せて?」
優:「ま、そうだよな。今は春だから……あそこに並んでるのが北斗七星。北斗七星はおおぐま座の尻尾になってて……」
利音:「あの明るい星は?」
優:「スピカだな。乙女座の一番明るい星だ」
利音:「あっちの明るい星は?あ、あっちもすごく明るい星がある」
優:「アークトゥルス、デネボラ。よく見つけたな、その三つで春の大三角形って呼ばれてる」
利音:「凄いね里村くん、星に詳しいんだね」
優:「星座早見盤使ってるからな。使い方さえ覚えれば空の地図みたいなもんだ」
利音:「少しずつ重なってるところを動かして星を眺めるのは私には無理そう……」
優:「やってれば慣れる」
利音:「ううん、これから一緒に星を見るときは里村くんが案内係ね」
優:「まあ、俺は構わんが」
利音:「えへへ、嬉しいな。……私まだ友達いなくって。里村くんが友達第一号!」
優:「友達になった覚えはないが」
利音:「酷い!!」
優:「……嘘だ。俺もあんまり友達はいない。腐れ縁の幼馴染が一緒に入学したくらいで」
利音:「むー。嘘つくなんて酷いです、里村くん」
優:「はは、鈴原はからかい甲斐があるな」
利音:「むむむー」
優:「機嫌を直してくれ。あんまりむくれると、河豚になるぞ」
利音:「むむむむむむむむむー!!!!!!!」
優:「ほら、さっき言ったデネボラから獅子座が見つかった。あのハテナをひっくり返したような形のがそれだ」
利音:「あー、話逸らしましたねー!!許さないんですからー!!」
優:「スピカから乙女座も見つかった。あそこの一群がそうだ」
利音:「う」
優:「それからこぐま座も……」
利音:「あーもうっ!!酷い、私の興味を引いて怒りを逸らそうだなんてー!どこ、何処がこぐまさんなのー!!」
間
(明け方、校門近く)
利音:「じゃ、私はここで」
優:「?鈴原は帰らないのか?」
利音:「里村くんを見送ったら帰るよ」
優N:「空も白んじてきた頃、俺達は帰ることにした。少しだけ浅い睡眠を貪ったら学校に来なくてはいけない。校門近くで足を止めた鈴原に、俺は首を傾げたが、鈴原はそこから動こうとしない」
利音:「ほらほら、少ない睡眠時間がどんどん減っちゃうよー?」
優:「それはお前も同じだろう」
利音:「私は昼間寝るから大丈夫!!」
優:「それは全然大丈夫じゃない」
利音:「あはは、冗談冗談。私超ショートスリーパーだから問題ないの」
優:「それなら、いいが……」
利音:「ほーら、そうじゃない人はちゃんとお家帰って寝る!!ダッシュ!!」
優:「……鈴原」
利音:「何?里村くん」
優:「また会えると良いな」
利音:「……うん、そうだね!!」
間
優N:「だが、それから数日、鈴原には会えなかった。俺も気が向いたときにしか行かなかったからかもしれない。すれ違っていたのだろうと気にもとめていなかったある日、やはり深夜、屋上に先に来ていたのは鈴原だった」
間
(夜、学校屋上)
利音:「へへー。今回も私のほうが先ー」
優:「誰も競争なんかしてないだろう。……この数日会わなかったが、来てたのか?」
利音:「私は毎日来てるよ。でも屋上だけじゃなくて学校探索してるときもあるから会わなかったのかも」
優:「学校探索?」
利音:「えっと、えーっと……肝試し的な?」
優:「何故疑問形なんだ」
利音:「よ、夜の学校も面白いよ?」
優:「だから何故疑問形なんだ」
利音:「深く突っ込まないで!!私にはそう、秘密が多いのです!!」
優:「そういえばクラスも秘密とか言ってたな」
利音:「はっ、まさか里村くん私のクラスを調べたりなんて!!」
優:「してない」
利音:「してないのかー!!よかったー!!でもなんだろう寂しいー!!」
優:「鈴原とはこうして夜会えるだけで十分濃いしな。昼間まで労力割いて会おうと思わない」
利音:「くっはー!!辛辣なお言葉ー!!」
優:「それよりほら、今日はいいものを持ってきたぞ」
利音:「いいもの?」
優:「レジャーシート。これで制服が汚れない」
利音:「準備万端じゃん!!」
優:「ということで、見るか、星」
利音:「うん!!」
優N:「レジャーシートを広げ、その上に並んで寝転ぶ。星座早見盤を取り出して座標を合わせていると、鈴原が「あ」と声を上げた」
利音:「まだ星座って春の星座なの?」
優:「そうだな、数日経っているから明け方頃には夏の星座が顔を出すが……その頃には朝だろうしな」
利音:「じゃ、前回のおさらいが良いな」
優:「……元からそのつもり」
利音:「え、そうなの?」
優:「星座早見盤がなくても星座が見つけられるようになるまで、勉強中」
利音:「ほへー。里村くんは本当に星が好きなんだねー。私なんか、星なんて綺麗なだけでいいのに」
優:「うち、天文部ないだろ」
利音:「あー……うん」
優:「同好会でもいいから作ろうと思って。でもそのときに部長が星座早見盤見ながらっていうのはカッコつかない気がしたから覚えたら作る」
利音:「じゃあ、夏と秋と、冬の星座もおんなじように観測するつもりなの?」
優:「何事もちょっとずつで良いと思ってる。二年になったら天文同好会作るから、鈴原も入らないか」
利音:「……うん、そう、だね」
優:「なんだ、あんまり乗り気じゃないな。無理に誘う気はないぞ」
利音:「そうじゃない!そうじゃないの!!……うん、入る。二年になったら、天文同好会が出来たら、入る!」
優:「……何度も言うが、強制じゃないぞ」
利音:「入りたいの!」
優:「そ、そうか……」
利音:「ほら、おさらい!あの三つのめちゃくちゃ明るい星が春の大三角形で、ええと……」
優:「スピカとアークトゥルス、デネボラ。スピカは乙女座の一部で、アークトゥルスはうしかい座、デネボラはしし座の一部だな。鈴原、北斗七星は見つけられるようになったか?」
利音:「えっと、えっと……あ、あった!!あそこの柄杓型になってる星の並び」
優:「そう。そこから柄杓の先端の二つの星を結んだ距離を五倍に伸ばして、一番明るい星が北極星」
利音:「見つかった!」
優:「それがこぐま座の一部にもなってる。こぐま座も柄杓型だな」
利音:「んー……ちょっと難しい……」
優:「星図ではこうなってる」
優N:「そう言いながら俺は少しだけ鈴原の方へ体を寄せた。途端、鈴原が跳ね起きる」
利音:「あ、……ごめん」
優:「いや、……俺の方こそ女子に無神経だった」
利音:「ごめんね、……私、あんまり近づかれるの苦手で。触られたりとかもしたくなくて」
優:「そうか。先に聞いておくべきだったな」
利音:「……ごめんね」
優:「謝る必要はないだろう。そういう性格なら仕方ない。ほら、もう少し隙間を開けていいから寝転がれ。星の話の続きをするぞ」
利音:「……うん、ありがと、里村くん」
間
(明け方、校門近く)
優:「やっぱりここでお別れなんだな。お前本当に帰ってるか?」
利音:「失礼な、私は不良少女ではありません」
優:「夜中から朝方にかけてまで出歩く高校生が不良じゃなくて何だって言うんだ」
利音:「それなら里村くんだって不良じゃない」
優:「俺は一応親には許可取ってるぞ」
利音:「嘘、真面目」
優:「何かあったときに心配かけるのもな。面倒くさい」
利音:「面倒だからなんだ……」
優:「じゃ、俺は帰るが……お前も早めに帰れよ?」
利音:「うん、分かってる。じゃあ、里村くん、ばいばい、またね」
間
(夜、学校屋上)
利音:「またまた利音ちゃんの勝ちなのです」
優:「だから競争してるわけじゃないだろうって……はあ、まあいいや、鈴原、今日は寒いから先に行きたいところがあるんだけどいいか」
利音:「じゃ、私ここで待ってるよ」
優:「いや、よかったら付いて来て欲しい。こっちだ」
利音:「え、ちょ、ちょっと待ってよ里村くん!」
間
(夜、学校の自販機前)
利音:「来たいところってここ?」
優:「そ、温かい飲み物とかあったほうが良いだろ」
利音:「……」
優:「カイロ代わりにもなるし、喋ってたら喉も渇くし。鈴原、お前何が良い」
利音:「え、私の分はいいよ……!!」
優:「いいから、奢ってやるよ。特に無いならコーヒーにするぞ」
利音:「里村くん、本当にいいから……!!」
優:「なんだよ、遠慮するなんて鈴原らしくないな」
優N:「本気で遠慮しているらしい鈴原に軽く笑って、俺はホットコーヒーを二つ購入する。二つの缶コーヒーを抱えた俺は、振り返った先で俯いて青い顔をしている鈴原に気がついた」
優:「鈴原?」
利音:「(小声でぶつぶつと)どうしよう……どうしよう……どうしよう……」
優:「鈴原」
利音:「えっ、あ、うん、何かな?!」
優:「触られるの、嫌なんだろ。投げるから受け取れ。熱いぞ」
利音:「えっ」
優:「ほら」
間
利音:「……あ……」
優:「……は……?」
間
優N:「俺が投げたコーヒーは、受け取る姿勢をとっていたにもかかわらず、鈴原をすり抜けて地面にガランと転がった」
間
利音:「……もう少し、気付かれたくなかったな」
優:「……鈴原」
利音:「私ね、幽霊なの!だからクラスもないし、里村くんに触れたり物に触ったり出来ないの。アハハ、幽霊ってちゃんと足あるんだね、私自分が幽霊になるまで幽霊には足無いんだと思ってたよー!!」
優:「鈴原」
利音:「……黙ってて、ごめんね」
優:「……お前、死んでるのか」
利音:「うん。入学式の日に交通事故にあって、それから記憶がないの。気がついたらこの学校にいて……それからずっとここにいる。でも……どうも夜の里村くんにしか見えないみたい」
優:「入学式から……」
利音:「……私ね、この制服好きなんだ。すっごく可愛いでしょ?白地のセーラーにピンクのラインにピンクのスカート、ピンクのリボン。これをね、中学の時の先輩が着てて、絶対ここに入学するんだ、って、あの制服を着るんだって意気込んでたから……未練になっちゃったのかな?」
優:「……」
利音:「警備員さんにも見えなくて、壁とかも突き抜けちゃって、それで、ああ、私死んだんだって気付いて。それなのに里村くんには見えて、普通にお話ができて……。出会えたあの日、私、何もすることがなくて星を眺めてたの。このまま成仏できないで私は消えていくのかなって……お星さまになれないかなって。どこにも居場所なんて無いのに」
間
優N:「我が校のモットーは自由だ。時代に合わせて封鎖されることの多い屋上も、高いしっかりしたフェンスに囲まれているものの開放されている。だが、夜は別だ。何処もかしこも施錠されていて、警備員だっている」
利音:「あれ?お客さん?」
優:「どうして……」
利音:「え、どうして、は……こっちなんだけど」
優:「は?」
利音:「はへ?」
優N:「だから深夜零時を回った学校の屋上のど真ん中に先客などいるはずがないんだ。――なかったんだ」
間
利音:「見える人がいるって……嬉しかった。星の話、楽しかった。でも未来の話は……少し辛かった。私、文字通り天文同好会の幽霊部員になっちゃうから」
優:「っ……!!」
利音:「コーヒーもせっかく買ってくれたのにね……拾うことも出来ないや。……里村くん、拾ってくれる?」
優:「……ああ」
利音:「ありがとう。……そのコーヒーは二つとも最初から里村くんのものだよ。……今日は、ごめん、星見る気分になれないや。私は消えるから……里村くんはゆっくりしていってね」
優:「鈴原!!」
利音:「騙しててごめん。……もう、現れないから」
優N:「そう言ってまるで、最初からそこには何もなかったかのように、鈴原の姿はかき消えた」
間
(昼、学校)
優:「俺のクラスじゃない、他のクラス……そうだ、先生に聞けばわかるかも……!!」
先生:「騒々しいわね、何事ですか」
優:「すみません、失礼します!!あの、鈴原利音って生徒のことを知りませんか……!!」
先生:「ああ、彼女ね……かわいそうなことになってしまって……」
優:「……っ!!!」
先生:「貴方、彼女の知り合いなの?」
優:「友人です!」
先生:「そう、なら……」
間
(夜、学校屋上)
優:「(息を切らして)鈴原!!いるか!!鈴原!!!!いるなら返事してくれ、鈴原!!」
利音:「ちょ、里村くん、そんな大きな声出したら警備員さんに見つかっちゃうよ!!」
優:「(息切れのまま)鈴原!!」
利音:「もう現れないつもりだったのに……どうして私の名前を呼ぶの?幽霊なんだよ?死んでるんだよ?気持ち悪いでしょう?怖いでしょう?なんで……」
優:「(息切れのまま)生きてる!!!」
利音:「へ?」
優:「(息を整えながら)お前、生きてる!!俺、今日お前が搬送された病院に行ってきた。頭を強く打って昏睡状態だったけど……お前、ちゃんと生きてるよ!!!」
利音:「嘘、私、……生きてるの?」
優:「これ、病院の場所のメモ!!こっちはお前の寝てる写真!!ご両親にも会ってきた、ずっと目を覚まさないだけで、怪我はもう殆どいいんだって……お前、自分が死んでると思いこんでここにずっと意識だけ持ってきてるんだよ!!」
利音:「(しゃくりあげながら)嘘……嘘でしょ、私、生きて…………生きてるの?本当に生きてるの?」
優:「生きてた!!クラスはC組、ちゃんと席もあったし、先生にも確認してる!!お前の居場所は、お前の本当の居場所は、ちゃんとある!」
利音:「(泣きながら)里村くん……」
優:「お前は、生きてるんだよ!!早くもどれ、馬鹿!!」
利音:「(泣きながら)うん……うん……この病院、知ってる……私が生まれた病院……これ、私の顔だ……眠ってるだけみたいに見える……」
優:「実際眠ってるだけなんだよ。分かったら、……体に戻って、入学式やり直して……もう一度星を見ようぜ」
利音:「うっ……うぇ、うあ、うあああああああああん……!!!!!私、生きてる、生きてるんだ、私、生きたい、生きていたい……!!里村くんと、ちゃんと星を見て、一緒にお昼ごはん食べて、一緒に帰りたい……!!!」
優:「鈴原……」
優N:「俺は思わず子供みたいに泣きじゃくる鈴原の体を抱きしめていた。その手はすり抜けてしまったけれど、どうしてかぬくもりが伝わってくるような気がした」
利音:「えっ…ぇっ……さとむらくん……」
優:「俺、待ってるから。お前が入学してくるの、待ってるから。天文部作って待ってるから」
利音:「……同好会じゃないの?」
優:「夢は大きくすることにした」
利音:「でも、私達二人だけだったら」
優:「同好会だな」
利音:「……ふふっ」
優:「……早く、戻ってこいよ」
利音:「……うん」
優:「なるべく早くだぞ」
利音:「分かったって」
優:「あんまり遅いと……忘れるからな」
利音:「それは酷いよ……里村くん」
優:「俺は物覚えが悪いんだ」
利音:「星のこと以外は?」
優:「そう、星のことと、……お前のこと以外は」
利音:「結局覚えててくれるんだね」
優:「早かったらな」
利音:「……私、頑張るね」
優:「……ああ」
利音:「あ、体が……?」
優N:「抱きしめていた鈴原の体が足から徐々に消えていく。それはまるで、星になっていくようだった」
利音:「し、死んじゃうのかな……?!」
優:「大丈夫、絶対戻れる。お前は星じゃない、星を俺と一緒に見るんだ」
利音:「……うん」
優:「待ってるからな」
利音:「うん、……待ってて!!」
優N:「そして俺の腕の中から、満面の笑みの鈴原は消えた」
間
(朝、校門近く)
優N:「それから、一年が経とうとしていた。今日は入学式だ。真新しい制服を着て、新入生と思しき生徒たちが登校してくる。俺は押し付けられた入学式の準備委員会で忙しくしていて、その生徒たちの整理に追われていた」
優:「新入生は右胸に花とリボンを付けて!ああ?ピンで指を刺した?舐めとけ、治る!!!」
利音:「あの、お花とリボンもらえますか」
優:「悪いな、花とリボンはあっちの係が持っていて俺は……っ?!」
利音:「……えへへ、一年、かかっちゃった」
優:「……」
利音:「だから、今日が私の入学式。見ててくれますか、先輩」
優:「……時間かかり過ぎなんだよ、馬鹿野郎」
利音:「天文部はどうなりました?」
優:「申請書は書いてある。あとは提出するだけだ」
利音:「私の名前は?」
優:「勿論書いてあるに決まってるだろう」
利音:「よかった、忘れられてなかった」
優:「同好会からだからな。新入生捕まえて、部にするぞ」
利音:「はい、先輩」
優:「……それから、俺、星座全部覚えたからな」
利音:「え」
優:「あの星座早見盤はもういらない。だからお前にやる」
利音:「里村くん……あいたっ!(デコピンを食らう)」
優:「優先輩だ。後輩が調子乗るな、…利音」
利音:「……」
優:「……?どうした、呆けた顔をして」
利音:「里村くんって私の名前覚えてたんだ……」
優:「え、そこか?突っ込むところそこか?!申請書に書いたって言っただろう!!」
利音:「いやてっきり忘れてるものだとばかり……あいた!!!!(チョップを食らう)」
優:「ほら、さっさと花とリボンもらってこい。新入生はあっちに並ぶんだぞ」
利音:「いたた……へへ、はーい!!(駆け出していく)」
優:「ああ、そうだ……利音!!」
利音:「はい?(振り返る)」
間
優:「ようこそ、私立星見高校へ」
了
参考資料:ToHeart
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