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ハローとグッドバイ  作者: 代々城
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第2話 ループする文化祭

10月29日、午前7時00分。



教室の窓にかかるカーテンの隙間から入る優しい朝日で、水上は目を覚ました。水上自身、文化祭の前日まで準備に追われて疲れ切っていたようだった。水上の身体には薄い毛布と教室の地面には、文化祭で使うガムテープやハサミが散乱していた。



水上の通う私立高校は文化祭の前日に親族公認で学校に一日だけ止まることができる制度を設けている。なにぶん、この高校の文化祭はメディアなど公にはされないものの、地域に大きく根差している部分があり、それなりに有名ではあった。だからこそ学生たちが夜遅くまで学校に泊まり込んで打ち込むものでもあった。



水上が眠そうな目で頭を掻いていると、隣で親友と呼べる人物から声を掛けられた。



「お早うさん。水上。寝起きで悪いこと聞くが。お前、凪原さんと付き合い始めたんだって?」

「はあ!? なんで、青木がそれ知ってんだよ!」

「さあ、なんででしょうね」



水上に気さくに話している少年。「青木航平(あおきこうへい)」。坊主頭の高校二年生である。身長は168cmほどで、お調子者の性格とは裏腹に野球のことに関しては真面目なところもある。



「凪原さんとオレが文芸部で話してたことを誰かが盗み聞きしてたってことか?」

「ほう、なるほど。文芸部でお互いに愛の告白をしてたってことか」

「おい」



10月29日、午前7時30分。



水上と青木が話しあってる間に学校のチャイムが校内に鳴り響いた。学校に寝泊まりしていない生徒達が登校し始めてくる時間だ。「ヤッベ。早く散らかってる道具を片付けろ」と青木が言って片付けを始めると、水上もそれに倣って散乱している道具を片付け始めた。



午前中は文化祭の手伝い、自分のクラスの出し物を進んでやって出るなどして、過ごしていたが

午後からは付き合い始めた凪原と共に、他のクラスの出し物。お化け屋敷やパンケーキなどの食事。記念撮影もして大いに二人で楽しんだ。



10月29日、午後5時00分。



文化祭も無事終わりを告げ、多くの生徒たちは文化祭で整えた道具や物を後片付けをし、帰り支度を始めていた。

ひと先早く、帰り支度を済ませていた水上と凪原は下校の途中で話しながら、帰っていた。



「学校中にバレちゃってたね、付き合ってること」

「そうだね、誰かが盗み聞きしてたらしいけど」

「犯人探ししても今更しょうがないよ。逆に開き直らなきゃ。ね」



繋いだ手をお互いに離すと手を振るように別れを告げ、二人は別々の道に下校した。



10月29日、午後11時00分。



自宅に帰ってきた水上は早速、風呂に入り、叔母と話を弾ませながら夕食を済ませた。自分の部屋で読みかけの小説を読み終えた後、寝床に着いた。すると、文化祭の疲れからか深い眠りに吸い込まれ、短くも長い心地のまま、瞼の奥で闇に包まれていった。



瞼に突き刺さるような朝日で水上は目が覚めた。なぜか、そこには家にいるはずもない青木がカーテンを開けて、にやけながら水上が起きるのを待っている。そもそもここはどこなのか。わからない。水上は眠そうな目で頭を掻きながらゆっくりと身体を起こした。



「ようやく、お目覚めか。水上」

「なんでお前、オレの家に」

「お早うさん。水上。寝起きで悪いこと聞くが。お前、凪原さんと付き合い始めたんだって?」

「え?」



どこか聞き馴染みのあるセリフを水上は聞いた気がした。周りを見渡すとそこは、高校の教室だった。

水上は混乱した様子で青木に問いただした。



「なんで昨日、終わったはずの文化祭にいるんだ」

「何言ってんだ? お前。昨日は文化祭の準備だろ。今日が文化祭、当日じゃないか。頭、どうにかしたか?」

「……」



水上はスマホの画面を見遣った。



10月29日、午前7時00分。



どこかおかしい。なぜ、自分は昨日、開催された文化祭にいて。なおかつ自分のベットで寝ていたはずのところとは違う、学校の教室の床で寝ていたのか。とにかく普通ではなかった、普通であって欲しかった人生が、この時点で普通ではなく異質になったこと。何もかもが分からなかった。



10月29日、午前7時30分。



学校のチャイムが校内に響き渡った。「ヤッベ。早く散らかってる道具を片付けろ」と青木が言って片付けを始めると、水上はその光景を突っ立って見ていた。



「何、突っ立ってるんだよ。早く片付けるぞ」

「ああ、うん」



青木に諭されて教室の床に散らかる道具を片付け始める水上。何が起こっているのか分からず、ただただ夢でも見ているかのように片付けに没頭した。



「水上くん!!」



教室の外から小走りでやって来る凪原の声が聞こえた。冷や汗をかいた様子でどこか顔色も悪い。

凪原は水上を教室の外、廊下へと呼んだ。



「私。昨日、下校途中でトラックに轢かれて死んだの」

「え?」

「いきなりこんなこと話して信じてもらえないとは思うけど、本当なの。個人的には夢であってほしいけど」

「オレも、家で寝ていたはずなのに、いつの間にか起きたら文化祭の当日にいて」

「私も。トラックに轢かれて意識を失った後、なぜか教室の床で寝ていたの」

「オレと一緒か」



互いにこの不思議な現象と情報を共有し終わった後、二人は奇妙な夢であったと認識、答えを出すことで一致し

今日の文化祭を二度楽しむことにした。



文化祭のあらゆる出し物を楽しんだ後、今度は凪原の家の近くまで、一緒に下校することにした。

あの事故はどこか夢のようには思えなかったと凪原は語り、不安がっていた凪原を優しくなだめるようにして、帰ることにした。



そんなときである。二人が歩く前、交差点の右横からトラックが猛スピードで突進してきたのである。



「危ないッッ!!」



凪原をかばうようにして身体を押しのけたが、もう遅い。水上と凪原はトラックと衝突した。

意識が反転する。ひどく寒気を感じる。赤い液体が自分の視界の周りにぼんやりと見える。

水上は今ある、力で必死に倒れている凪原の元へ、手を伸ばした。

が、しかし。水上は力尽きたのか、その重い瞼を閉じ。長くも短い眠りに落ちた。



水上は焦るようにして目を覚ました。冷や汗をかきながら、周りを見渡すとそこは学校の教室。隣には青木がすやすやと眠っていた。水上は急いでスマホに目を見遣った。



10月29日、午前7時00分。



青木が欠伸をしながらゆっくりと起き始めた。水上は恐る恐る青木の放つ次の言葉を待っていた。



「起きるの早えな。お前は」

「お早うさん。水上。寝起きで悪いこと聞くが……」

「お早うさん。水上。寝起きで悪いこと聞くが。お前、凪原さんと付き合い始めたんだって?」



何かの間違いであって欲しかったと、水上は強く思った。今、自分たち二人は同じ時間を繰り返す、ループする世界に閉じ込められてしまったこと。決して明日が来ない世界にいることを、水上は知ってしまったのである。

拙い文章ですが、コツコツと書き溜めてた小説をやっと投稿し始めることができました。


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Twitterもやってますので、そちらもどうかよろしくお願いします!


→@yoyogi_2629

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