3話 どうやら初戦闘でも俺は詰んでるらしい
「はぁ………」
本日何度目かのため息が俺の口から漏れてしまった。結局、あの後も幾つか老婆に質問をしてみたが余り参考になる話は聞くことが出来なかった。
「結局、収穫は大まかなヒューマンの立ち位置と『こいつ』だけか……」
左腰に吊り下げられた長さ120cmほどの片手剣を左手で軽く撫でた。
【海兵の剣(古)】
Str+5
Agr+2
耐久値 350/350
『オーシス諸島連合海軍正式採用の片手剣。
一般な物と違い、片刃で刀身が僅かに峰側に反っているのが特徴でカットラスやサーベルに近い形をしている。長い間使用されていなかったのか古ぼけているが、しっかり手入れされている。』
この片手剣は別れ際に老婆から貰った物だ。未だ武器を持っていなかったのを思い出し、身を護る為に買いに行こうと武器屋の場所を尋ねたまでは良かったのだが
「もうこの街には武器屋や防具屋なんてありゃしないよ」
と言われリアル『orz』状態となってしまった。
これが理不尽か!?
そう思わずにはいられなかったのだが、あまりにも俺が哀れだったのか老婆が奥の部屋からこの剣を持ってきてくれた。
「死んだ私の息子が使っていた物だよ。
こいつも使われずにずっと私といるよりあんたに使われたほうが良いだろうから。
お金はいいよ………選別さ。」
お金を払おうとしたらそう言われてしまい、感謝の言葉を言いつつ俺はその剣を受け取ったのだ。
本当にあの老婆……いや、ここまでしてくれたおばあちゃんには頭が上がらなくなるよ。
「とりあえず、今後やることを決めなきゃいけないな………
ステータスオープン。」
ログイン直後にステータ画面で見つけたメモ機能を起動する。
「やることは沢山有りすぎるが、まずはレベル上げと回復アイテムの素材を主として集めること……あぁ、まさか序盤で戦うスライム相当のモンスターがダンジョンボス並みとか泣きそう。」
『
☑️ 武器の入手
□ 生息するモンスターの把握
□ 戦闘システムの把握
□ レベル上げ
□ 素材の入手
□ 装備の強化
』
「こんな所か……
よし!取り敢えず実際に経験しないことには始まらないし、初戦闘行ってみるか」
この港街の大通りはログインした広場を中心に東西南北の十字に延びており、港は南通り、フィールドに出る為の門は東通りに存在する。
フィールドと街は巨大な石造りの城壁と門で遮られており、並大抵のモンスターでは破壊出来ないと思わせる程の堅牢さだ。
さっそく東通りを歩き進め、石造りの巨大な門………は閉まっているので、直ぐ横にある勝手口のような扉を通ってフィールドへと歩き出す。街の外は東側に広い草原と丘陵地帯になっていて、所々かつての街や家屋の跡(というよりは遺跡に近い)がかつての戦争の名残として残っていた。風に優しく揺られる草花を見ていると此処がいつモンスターに襲われてもおかしくないフィールドだということを忘れてしまう。
「今の所モンスターの姿は見えないな……」
いつでも剣を抜けるように警戒しながら遺跡の影から影へと身を隠し歩く。時折、何かの鳴き声が空気を震わせて俺の体に緊張が走る。やはりおばあちゃんが言った通り、ダンジョンボス並みのモンスターが存在するのだと改めて確信し、一昔前に大ヒットした某狩ゲーの世界の狩人の気持ちが少しだが分かった気がした。
数分ほど遺跡の影に身を潜め、鳴き声が全く聞こえなくなってから再び歩き出した。ゆっくりと、しかし素早く沢山の丘陵を登ったり降ったりして進んでいると、ようやくモンスターに出会うことができた。
サイの様な体をしており、豚を思わせる平たく大きな鼻、尻尾はトカゲの様に長く、2本牙と1本の角を持っている。背中には背鰭の様な器官があり、哺乳類というより爬虫類や恐竜に近いモンスターだろう。
数は10頭前後の群れで、呑気に草を食べている様子は奴らが肉食系ではなく草食系のモンスターであることが分かった。
【草竜アルプテリオス】
『
竜盤目 角竜亜目 草竜下目 アルプテリオス科
草を主食とする草食竜。翼は退化しており飛ぶことはできないが、その重い体重を支える四脚を使った突進は下手な肉食モンスターを軽々と吹き飛ばす。性格は温厚で、神話時代では馬や牛の代わりに荷を引いたり、肉を食べたりと家畜として飼われていたこともあった。肉は脂がのって大変美味らしい。』
どうやら視界に初めて遭遇するモンスターがいると名前と生態を表記してくれるらしく、俺の前にはアルプテリオスの生態などが名前と共にウィンドウに表記されていた。
「まずはあのアルプテリオスってモンスターから倒すか。」
ゆっくりと、なるべく音を立てないように片手剣を鞘から引き抜く。キラリと鈍く輝く刀身は、久しぶりの戦闘を喜ぶかのように太陽の光を反射する。
ゆっくりと、姿をみられない様に丘を迂回しつつ距離を詰め、奇襲をかけるその時をじっと待つ。しばらく待つと、群れの中の1頭が群れから離れゆっくりとこちらに歩いて来た。
一瞬バレたかと体が強張ったが、どうやらアルプテリオスはまだ俺には気づいていない様で約5m程の距離でまた呑気に草を食べ始めた。
「………今!」
アルプテリオスが草を食べる為に顔をこちらから僅かに反らした瞬間に、俺は一気に距離を詰める。
片手剣を右に大きく振りかぶり、アルプテリオスの右の脇腹辺りを全力で切りつけた。
真一文字……とはいかなかったが、切りつけた所から鮮血が舞いシステムが与えたダメージに対応したエフェクトが弾けた。
「ブモォォォオオオ!!!」
斬りつけられて初めて俺の存在に気づいたらしいアルプテリオスは叫び鳴き、しかしまだ混乱しているのか未だその場所でたたらを踏んでいた。
「もう1発貰っとけ!」
左に振り抜いた片手剣の勢いをそのままに、俺はその場で1回転して再び右上から斬りかかる。2度目の攻撃は一撃目よりもエフェクトが小さく、アルプテリオスのHPは未だに8割ほど残っていた。
「かったいなぁ……あぶねぇ!?」
もう一度斬りかかろうとしたところで視界の隅にアルプテリオスの尻尾が見えたので慌ててバックステップで距離をとった。その瞬間に目の前スレスレを通過するアルプテリオスの尻尾。アルプテリオスは体を思いっきり左にまわすことで鞭の様にしなった尻尾で薙ぎはらってきたのだ。そのまま俺を正面に見据え、頭を僅かに下げ一気に突進してきた。尖った角と牙が俺を捕らえようと猛スピードで迫り回避が間に合わず左腕を引っかけてしまった。
それだけで俺は数メートル吹き飛ばされた。
おばあちゃんが言っていた程の強さは無いが、それでも初心者が相手にするにはキツすぎる相手に冷や汗がでる。
「腕を引っかけただけでHPの半分を持っていきやがった……」
視界に移る自分のHPバーは一気に半分も無くなり、緑だったバーは今は黄色に色を変えている。
ブモォォォオオオ!!
再び突進してくるアルプテリオスをギリギリで前転回避して事前にアイテムかしていた初期配布の回復アイテム『コモンライフポーション』を飲み干した。
【コモンライフポーション】
HP回復20%
『回復系ポーションとしては最低品質のコモン級ポーション。回復率は低いが値段は手頃で初心者には嬉しいポーション。』
ゆっくりと回復していくHPを確認して再びアルプテリオスに向き直る。三度目の突進を行おうとしているアルプテリオスを今度は余裕を持って回避、すれ違い様に左の前足付近を斬りつけた。
「一撃与えても1割未満かよ……くそが!」
アルプテリオスの突進の力も利用しての斬りつけも殆どダメージは出ずに思わず悪態をついてしまったがアルプテリオスは間髪入れず突進してくるので再び回避からの斬りつける。たまに距離感を見誤って回避できず腕を引っかけてしまい、折角回復したHPが3割を下回ってしまう。それを何度か繰り返し、アルプテリオスもHPを4割程まで減らせたのだが回復ポーションも尽きてしまい。既に俺の回復手段はなくなってしまっている。
「このままじゃ負け確だし、あれを試してみるか。」
おばあちゃんから片手剣を受け取った際に取得したスキル『片手剣』
このスキルはスキルレベルを上げるごとに必殺技みたいなのが習得できる様で、レベル1でも1つだけ習得していた。
『ストライクアーク』
ぶっちゃけただ突進してからの斜め斬りなのだが、説明欄に通常よりもスキルを使った攻撃のほうがダメージが上みたいなことが書いてあったのでこれに賭けてみる。
説明欄の通り左下に剣先が来るよに構え、スキル名を発音すれば後はインストールされているスキルモーションを体が自動でなぞってくれる。蒼い光が剣から放たれ体が俺の意思とは関係なく動来はじめた。
真っ正面からアルプテリオスの突進に攻撃しても押し負けて死に戻るのは確定だ。だから狙うのは突進をスレスレで回避しつつも最もダメージが入る部位に攻撃を与えられる場所。
「ストライクアーク!」
俺が叫ぶと同時に蒼い光は更に輝き、今まで以上のスピードでアルプテリオスに突撃する。アルプテリオスもまた、俺に止めを刺さんと突進を行う。
まだだ……
まだ……
……
今!!
「はぁぁぁああああ!!」
アルプテリオスの突進を紙一重で避けてストライクアークをアルプテリオスに叩き込む。
狙うはどんな生物にも必ず存在し、なおかつ急所である部位。
「首置いてけぇぇぇええええ!!」
首だよ首!
左下から斜め上へと振り切られた剣はアルプテリオスの突進の勢いもプラスして喉元に刃を突き立てる。右腕にかかる衝撃に歯を食い縛り、一気に剣を振り抜いた時に右腕にかかる衝撃が消えた。
僅かなスキルの硬直時間のあと、自由になった体で振り替えると、アルプテリオスは静かに崩れ落ちた。
どうやら、上手くアルプテリオスは首は置いていってくれたようだ。
「勝った……か」
ドロップアイテムやら経験値やらのウィンドウが現れたので間違いなく俺はアルプテリオスに勝利したらしい。
「疲れたぁぁぁぁ!!」
緊張の糸が切れたのか、ここが安全性なぞ欠片もないフィールドなのも忘れて俺は大の字に倒れた。
「まさか妖怪首置いてけが成功するとは思わなかったわ………」
実際の所、土壇場で狙ってみたはいいものの成功するとは思っておらず、寧ろ成功したことに俺自身が驚いている所だった。
「確かに手強かったが、色々発見もあったな。
部位ごとのダメージ判定、急所の有無、速度やらなんやら外力によるダメージの変化………検証することが一杯だ……」
気持ちのよい風に揺られる中、このまま昼寝でもしようかとい思いが込み上げてきて少しだけ目を瞑った。
リアルでは冬の寒さに震える中で、春の様な暖かさに包まれる感覚は素晴らしく、勝利の余韻も相まって無警戒にも程がある行為をしてしまった。
気を抜いた一瞬、まるでトラックに跳ねられたかのような衝撃が俺を襲った。
吹き飛ばされて空を舞う俺は状況が理解出来ず、そのまま運の悪いことに崖を通り越して海へと墜ちていく。
「おいおい………マジかよ」
俺は今になってようやくおばあちゃんの言葉の意味を知った
墜ちていく寸前に見えたのは巨大な蝙蝠の様な羽を持ち、羽に全身を硬い鱗で覆った某RPGでも初代ラスボスをはったモンスター。
「なんでドラゴンがスラ○ム的なポジションなんだよ!」
ドラゴンが序盤の敵とか積みやん!
『海巫女の加護が発動しました。』
………………prayer area move
………………now reading
……new start Blessing cave
オリジナルモンスターとかの分類を考えるの楽しいです。
いつも某狩ゲーを参考に考えてます。