2話 どうやら始まりから俺は詰んでるらしい
文章が下手くそ過ぎて泣きたくなります。
そんな第2話です。
再び暗転から回復する視界。太陽の眩しさに目を細めながら辺りを見渡せば、そこにあるのは頑丈な石造りの町並みと少し先にある蒼い海。
潮の香りが鼻をくすぐり僅かに照り返す太陽の熱が肌を刺す。
「………すげぇ」
最早その言葉しか出て来なかった。
今まで幾つかのフルダイブ型VRMMOをやって来たが、ここまでリアルに五感を刺激する物は存在しなかった。
視覚を唸らす美しいグラフィックも
肌の触覚を刺激する太陽の熱や石造りの町並みも
嗅覚が懐かしさを生み出す潮の香りも
聴覚が感じる心地よい波の音と海鳥の鳴き声も
味覚が求めた空気の味すらも
最早今までのVRMMOがお遊びに感じられる程の作り込みに、俺は感動して暫し時が止まったかのように立っているしか出来なかった。
「って、こんなことしている場合じゃない。
『ステータスオープン』!」
音声認証システムにより、俺の声とともに開かれた半透明のパネル。
『◇ タモン』
称号 【愚者の誇り】【海巫女の加護】
種族 【ヒューマン】
職業 【船乗り】
level 1
HP 100/100
MP 0/0
スキル 【先読み】
所持金 【1000シル】
頭 【 】
胴 【布の服】
腕 【 】
腰 【革のベルト】
足 【布のズボン】
アクセサリー 【 】
「いつの間にか知らない称号が増えてる……」
称号をタップしても何も表示されない。どうやら取得条件や効果などは開示されない仕様らいかった。
「気にしても仕方ないし他のも確認するか」
先ず目につくのはお金と装備品………どうやら『シル』がこの世界での通過らしい。1000シルが安いのか高いのか、どれほどの額かは分からないが初期配布金なぞはした金とどのゲームでも決まっているし、最悪何かしら店の商品の値段で判断すればいい。
装備品をタップすれば詳細なステータスが表示されたが、流石に初期装備よろしく低性能だった。だがどうやら耐久力無限のスキルがついているらしく、耐久値は無限となっていた。まぁ、初期装備が壊れたら裸で戦わないといけなくなるしそこは運営の良心的配慮なのだろう。
【布の服】
Vit+1
耐久値 ∞/∞
『一般的に普及している布製の服、通気性はそこそこ』
【革のベルト】
Vit+1
耐久値 ∞/∞
『革製のベルト。何の革で出来ているかは不明』
【布のズボン】
Vit+1
耐久値 ∞/∞
『一般的に普及している布製のズボン。そこそこ動きやすい。』
どうやら防具(と言っていいか分からないが)は初期配布されるみたいだが、武器についてはアイテム欄を探してみたが僅かな回復アイテム以外見つからず、どうやら元々配布されず街の武器屋で買うしかないようだった。まあ、槍使いが初期配布で片手剣貰っても意味がないし、その為の初期配布金なのだろう。
「さて、まずは町の地理を覚える為に散策だな。」
そうと決まれば善は急げ。先ずは港に足を運ぶ。船を降りてからは久しく嗅いでなかった潮の香りを楽しみつつのんびり歩いていく。気分は好調、好きなアニソンを口ずさみつつルンルン気分で大通りを歩いていけば、5分とかからず港へとたどり着いた。
港は巨大で、大型船(例えるならガレオン船や戦列艦など)なら余裕で2隻は縦に入れる程の長い桟橋が10本、中くらいの桟橋が5本の計15本が整備され、それぞれが荒波でも壊れないよう石造りの土台に硬いオーク材で作られているようだった。
港の左右からは2本の防波堤が円を描くように作られ湾内は実に穏やかだ。
右を見れば大型船用の干ドックが場違いな程立派に整備されており、左には中、小型船用の引き上げ船台が2つ整備されている。
港には中型桟橋に2隻程漁船らしき小型帆船(帆走からみてカッターだろう)が係留されており、生憎と中、大型の帆船は存在しなかった。
「………なんかおかしい。」
これほどの立派な港湾設備に対して違和感を覚えた訳ではない。
「なんで船がいないんだ?」
俺はまだほんの一部しか街を歩いていないがこれ程大きな港街だ。振り替えれば陸地の奥には城らしき大きな建造物も見える。
これだけの街なら人口は数千人。下手をすれば万に届くだろう人口がいるはずだ。
なのになぜ港に船がいないんだ!?
港街というのは物流の要所だ。輸送技術の発達した現代日本でも海上輸送は貿易の99%を担っている。
輸送技術の発達しておらず、いくらファンタジーとはいえ精々が荷馬車程度だと思われる中世の世界観なら尚更大量輸送の要だ。
これだけ大規模な港街なら貿易や旅客の為に常に数隻の大型貿易船が停泊していてもいいはず……それなのに止まっているのは古ぼけた小型の漁船らしき帆船が2隻だけなんてあり得ない。
「そういえば……」
港を目指す為に大通りを歩いていた時、一体何人のNPCと『すれ違った』?
1番の商売所である大通りの商店の何件だけが『開いていた』?
自分の脳裏に嫌な結末がよぎり、額から汗が流れる。その汗は決して偽物の太陽が発する熱による物ではないだろう。
「まだそうと決まった訳じゃない……そう、まずは最初に決めた通り地理の把握だ。」
自分にそう言い聞かせ、俺は港を背に歩き始める。やる事は変わらない。ただ、脳裏によぎった結末通りではありません様にと願ってしまう。
ひとまず大通りへ戻ろう。港を背に俺は歩き出し、ひとまず大通りを歩きつつ最初のスポーン位置へと向かう。その間も大通りを観察してみたが、やはりというか俺の想像を裏付ける事ばかりだった。
ゲーム内での街の大通りといえば華やかで多くのプレイヤーやNPCが軒を連ねる商店を見ながら歩いているものだ。
しかしこの街は閑散としており、石造りの建物は蔦が繁りヒビが入っていて手入れされた様子もなく、何処か物寂しげに佇んでいる。
大通り以外にも数十分ほど小道も歩いてみたが、プレイヤーは未だに一人も見ていない。NPCも殆ど出現せず、商店などは殆どが閉まっていて、開いている店は殆ど見つけれなかった。
『死にかけの街』
もしくは
『廃墟』
そう表現出来るほど何も無く、誰にも会わなかった。
唯一小道をグネグネと歩いた先に開いている店があったので入ってみたが、商品は余り並んでおらず、ほんの僅かな果物が並んでいるだけだった。
「これは……」
【萎びた果物】
HP回復5%
『時間経ちすぎて新鮮さなど欠片もない萎びた果物。僅かにHPを回復する。』
並んでいる果物を手に取るとこのようなアイテムの説明ウィンドウが俺の前に現れた。
「…………やっぱりかぁ」
普通、こんな商品など売れるどころか客からクレームが来るほどの物だ。しかし、それでも商品として陳列している。処分するでもなく商品として残っているのは何故なのか?
いや、むしろ『このような物』でも商品として価値があるのだろう。
「何かしら……魔王みたいなラスボスクラスの敵と戦っている最中なのか、もしくは既に戦いに敗れたのか………」
戦争による物資の不足。若しくは大規模な災害による大恐慌。それが俺がこの街に起きているであろうと予想した中でも最悪のシチュエーションだった。
「………いらっしゃい」
不意に声をかけられた。振り向いて見れば、店の奥から店主らしき老婆のNPCが出て来るところだった。
「あんた……見ない顔だね。生憎今時まともな商品なんてありゃしないよ……」
老婆からは何処か何かを諦めたかのような、もしくは大切な物を失くしてしまったかのような、言い様の無い寂しさが感じられた。
「旅の者だ。
つい先ほどこの街へやって来たばかりなんだが、何故この街はここまで廃れているのか教えてもらえないだろうか?」
俺プレイヤーなんだけど話聞かせてくんない?……的な感じで話しかけても、NPC相手に通じるはずもないのはどのVRMMOでも共通なので、なるべく旅人っぽく当たり障り無い言い方で濁しつつ、老婆からこの街についての情報を得なければならない。
芝居は苦手なんだけどなぁ……
「ヒューマンで知らないものがいるとはね……
まぁいい、教えてくれあげるさね。少し長いが構わんね?」
そう言うと老婆は目を瞑り、淡々とこのNLSの世界の成り立ち、そして何故この街がこんなにも廃れているのかを説明してくれた。
【
シャンラティス大陸神話
昔々、はるか千年以上も昔のこと、世界は1つの大陸で繋がっていました。
その大陸の名前は『シャンラティス大陸』
治めるのは大地の神『陸神グランリオル』と大海を治める海洋の神『海神ソブリン』の2柱でした。陸神グランリオルは大陸の内陸と山々を治め、一方の海神ソブリンは海と大陸の沿岸部を治めて、そこに住まう多くの種族は争いを殆ど行うことなく長年平和を享受してきました。
しかし、ある時陸神グランリオルは海神ソブリン対してある提案をしてきました。
『大陸と海、明確に住み分けようではないか。』
陸神グランリオルはかねてより、海の神でありながら沿岸部というごく一部ではあるのですが陸地を治めている海神ソブリンを快く思っていませんでした。海神ソブリンから陸地を取り上げ、真に大陸の主神になりたかったのです。
これに対して、初めはやんわりと断っていた海神ソブリンですが、しつこく要求してくる陸神グランリオルに怒りを覚え
『二度とその言葉を口に出すな!』
と、陸神グランリオルに怒鳴ります。
何故海神ソブリンはここまで頑なに断っていたのか、それは様々な理由がありましたが
愛する民を護るため
これが最も大きな理由でした。
海神ソブリンは大海の神であると共に『慈愛』『平和』を司る神でもあります。民を愛し、またそこに住まう多くの民も海神ソブリンを敬愛していたのです。
気性が荒く、気に入らないモノは早々に壊してしまう陸神グランリオルが主神につけば、自分を信仰してくれている民はどうなってしまうのか……
海神ソブリンは民達の事を思わずにはいられません。そんな中で、業を煮やした陸神グランリオルは大陸中の種族に御触れを出します。
『海神ソブリンの治める領地を侵略せよ!
成功した者には莫大な報奨を与える。』
実に自分勝手で我が儘な陸神グランリオルですが、彼もまた大地の神であると同じく力と闘争を司る神でもありました。
莫大な報奨を信仰する神様から貰えると知り、大陸に住む多くの種族は海神ソブリンと彼を信仰するヒューマン種の地へと攻め要ります。
必死に抵抗する海神ソブリンとヒューマンの民ですが、ヒューマンの民は身体能力、魔力の有無などではるかに圧倒的な種族としての差に蹂躙され、次々と倒れていきました。
一方、海神ソブリンも戦場にて陸神グランリオルの不意打ちを受け、決して癒えることのない深手を負ってしまいます。
なんとか陸神グランリオルから逃れた海神ソブリンでしたが、最後には海神ソブリンが治める『海都アケリス』と周辺のごく僅かな街や村のみとなり、海神ソブリンは陸神グランリオルに破れた事により、自分を信仰してくれている民が次々と倒れていく光景を悲しみ、海神ソブリンは娘の『海巫女セイルン』と共に最後の力を振り絞って大規模な魔法を行使しました。
海神ソブリンと海巫女セイルンが死を持って使った魔法は大地を割り、山を砕き、海を荒れさせて陸神グランリオル共々攻め要った各種族を押し流し、最後には海都アケリスと周辺の街や村を残し大陸の3分の1を海へと沈めてしまいました。
生き残った僅かなヒューマンの民は海神ソブリンの死を悲しみながらも、島となった海都アケリスと共に新たな国家『オーシス諸島連合』を建国、島と島を行き来しながら新たな生活を始めました………
】
と、老婆の説明と共に現れたウィンドウに書いてある事を読んでみたが一言言いたい。
「これ………積みじゃね?」
神々の戦争云々は正直どうでもいい。グランリオルうぜぇとか思う程度だし。しかしこの話の通りなら俺が選んだヒューマンは他の種族に比べステータスが全て低いことになる。それが僅かな差なのかかなりの差なのかが気になる所だが、どうみても一方的な蹂躙だから少なくとも同じレベル同士なら俺が圧倒的に不利なのは確定だろう。
「魔法も使えないとかファンタジー全否定だし……」
圧倒的ステータスの差、よしんば戦いになっても魔法による遠距離からの蹂躙。しかも物資不足で回復アイテムも使えず、武器の目処すらたっていない。
うん、積みだ。
「ここ数十年は船が進歩してねぇ、ノイエ・ヒューマンやドワーフなんかの戦船が私らの貿易船を沈めてまわってるから物資も届かず、他の島との連絡もとれてないのさ。
街の外に出ようにもモンスターが彷徨いて満足に食料や薬草も採れやしないのさ。」
モンスター……やっと具体的にファンタジーゲーっぽくなってきたな。
「何故ノイエ・ヒューマンは敵なのだ?
同じヒューマン種なのだろ?」
俺がそう言うと老婆は首を横にふった。
「あいつらはヒューマン種だが全く別者さ。
ハーフヒューマンって言った方が解りやすいかい?」
「ハーフ……つまり多種族との混血種……という認識で合っているだろうか?」
「合っているよ。
あいつらは元々私らと同じヒューマンだが、長い年月をかけ多種族と交わり魔力を持ち身体能力を向上させた者達さ。
無論、魔力ならエルフに、力ならドワーフに、素早さならケットシーやワーウルフに遠く及ばないが、それでも私らにとっちゃ違いなく格上さね。」
「しかし同じヒューマンなのだろう?」
「簡単な事さ……
あいつらはソブリン様を裏切ってグランリオルに寝返った者達だからだよ。
自分達こそが新しい選ばれたヒューマンであると。
だからヒューマンじゃなくてノイエ・ヒューマンと名乗り、私らを見下している。
……あいつらが裏切らなければソブリン様はグランリオルの不意打ちを受けることも無かった筈なのにねぇ。」
そう言って老婆は僅かに憎しみの籠った目をした。今でもヒューマンにとって神とは海神ソブリンなのだろう。
裏切り自体はプレイヤーである今の俺には関係無い。しかし基礎ステータスで劣っているのは確かだろうし、この世界観ならヒューマン種と言うだけで他のプレイヤーからもPKされかねない。
こうなった以上、少しでもレベルを上げて安全性を確保したい。
「因みに質問だが……街の外にいるモンスターはどのくらい強いのか聞いても?」
「そうさねぇ……昔聞いた話だと一体一体が大陸にあるダンジョンの主クラスだって聞いたことがあるよ。」
あ……………詰んだな。