1話 キャラ製作は正直面倒くさい
暗転した視界が元に戻った時、俺は真っ白な空間にいた。
目の前にはこちらも真っ白な顔のないマネキンが1体。
『キャラメイクを開始します。』
唐突に目の前に現れるウィンドウ。どうやらチュートリアルの前にキャラメイクがあるパターンのゲームだったみたいだ。
新たに現れたウィンドウを見れば、種族から始まり体型どころか出自や年齢、初期スキルなど性別以外かなり弄れるようだ。
「うっわぁ……めんどくせぇ……」
実を言えば、俺はキャラメイクが苦手だ。どう弄っても違和感しかないキャラしか造れないのだ。
「とりあえず……名前から決めるか。」
といっても、俺は基本的にゲーム内の名前は統一する派の人間だ。別に考えるのが面倒くさい訳じゃない。断じてない。
「名前はタモンっと」
名前を打ち込むと目の前のマネキンに変化が起きた。マネキンの頭上に立体的な菱形が現れたかと思うと、その横に『タモン』と幾つかのステータスが表示された。
「成る程……ゲーム内ではプレイヤーはこう言う風に表示されるのか。」
『◇ タモン 』
称号 【 】
種族 【 】
職業 【 】
level 0
HP 0/0
MP 0/0
スキル 【 】
全てが0又は空白なのはまだキャラメイクの段階だからだろう。
「種族は……へぇ、色々あるな」
ヒューマンを初めとして、ファンタジーでは王道のエルフやドワーフ、ケットシーなど、多種多様な種族が表示される。しかも、例えばエルフを選択すれば更にダークエルフやハイエルフといった更に細かい設定まで選択できるようにされている。
ヒューマンも無印のヒューマンとノイエ・ヒューマンの2つに別れていた。
種族を決め更にカスタマイズしようとすれば、アバターのカスタムパーツは数百種類以上存在し、使えるパーツも種族毎に異なり、使えない物は灰色で表示さるなどかなり細かい所までアバターを作り込めるようになっていた。
「まぁ、俺には関係ないけど」
俺は速攻でキャラメイクの隣にあるデフォルトのボタンを押す。するとマネキンは1度輝いたかと思えば現実の俺と瓜二つの姿となった。
素晴らしいかな現代技術。頭をすっぽりと覆うハードのおかげで設定せずとも内蔵スキャナーにより現実の顔を細かくインプットして最も近いアバターを製作してくれる。ゲーム性を真っ向から否定している気がしなくもないが、面倒くさいから仕方ない。
「あとは種族と細かな調整をしてっと」
ノイエ・ヒューマンは地雷臭がしたので無印のヒューマンを選択。
身長や体重等は流石にそのままでは再現出来なかったため手動で入力。現実と全く同じ冴えない根暗なアバターが出来上がった。
『◇ タモン』
称号 【 】
種族 【ヒューマン】
職業 【 】
level 1
HP 100/100
MP 0/0
スキル 【 】
キャラメイクが終わりマネキンのlevelが0から1になり、HPも増えたのだが肝心のステータスが現れない。
「もしかして、ステータスは見えないパターン?」
確かに過去にもStrやAgl、Vitなどアバターの能力に直結するステータスが表示されないゲームはあった。そういう種のゲームシステムは自分で割り振るのではなく、走れば走る分だけ、重い物を持ち続けるなど、プレイヤーの行動によりステータスが変化するシステムだった。おそらく、NSLも同じようなシステムなのだろう。
「これでキャラメイクは終了っと」
キャラメイクを終了し『次』のボタンを押すと今度はキャラの出自を選択出来るようだった。
「平民、貴族、旅人、商人、傭兵……今度も色々あるな」
どうやら出自(と言うより職業に近い物だな)によって初期スキルが変わってくるようだ。例えば商人ならお金関係、貴族なら剣や槍、傭兵ならサバイバル関係……
数十種類ある出自をスクロールしながら調べていると、ある項目が目に付いた。
『船乗り』
刀剣類使用時の熟練度アップ(小)
器用さに対するステータスアップ(中)
重鎧装備時のステータスダウン(大)
初期スキル【先読み】
説明
船乗りは誰よりも先を読む。風を読み、波を読み、そして天を読む。誰よりも命を掛ける船乗りは、たとえ屈強な兵士でさえ彼らの誇りを奪えまい。
Agl及びDexに補正(小)
スキルで言えば他の物の方が優秀だろう。しかし船乗り、船乗りである!
つまりこのゲームで船に乗れるのである!
諸事情で降りてしまったが元船乗りとしてこれ程嬉しい事はないだろうか?いやない!!
俺は全く躊躇うことなく職業(面倒くさいから職業でいいや)に船乗りを選択する。
『◇ タモン』
称号 【 】
種族 【ヒューマン】
職業 【船乗り】
level 1
HP 100/100
MP 0/0
スキル 【先読み】
どうやらこれでキャラメイクは終了らしい。後は決定を押すだけで俺はNLSの世界へと旅立つ。
初めは余り気乗りしなかったが、今では楽しみで仕方ない。あぁ、早くNLSの世界を楽しみたい!
だから俺は決定をつい連打してしまった。仕方ないだろう?誰だってついボタン連打位するはずだ。
チュートリアル案内すら聞かずにスキップし、またもや決定ボタンを連打。
ついにキャラメイクも終わり視界が再び暗転していくなか、俺は最後に押した際に出てきた注意文を読むことなく初めてしまった。
【注意!】
貴方は各種族中最もステータスが低く魔法も使えない種族である【ヒューマン】を選択しています!
他の種族を選択しているプレイヤーよりも遥かにハードで困難なプレイスタートとなりますが構いませんか?
【Yes】/No
【注意!】
1度アバターを製作すると2度と変更できません。それでも構いませんか?
【Yes】/No
……………………
……………
……
【了承】
『貴方はNLSの中で最もハードで過酷な選択をされました。
これから多くの困難が貴方を待ち受けることでしょう。貴方の新たなる人生に幸運のあらんことを……』
『新たに称号を会得しました。』
New!【愚者の誇り】
全種族中最もプレイ人口が少なく、また基本ステータスが最も低い種族のプレイヤーにのみ取得可能。
【自身よりも格上な敵との戦闘時に全ステータスアップ(中)】
《たとえどんな困難が待ち受けよとも、ただひたすらに己の目的を目指す愚者を誰も止めることは出来はしない。》
New!【海巫女の加護】
NLS中最も海に面した種族国家、その中でも最も基本ステータスの低い種族の職業【船乗り】を選択したプレイヤーにのみ取得可能
【部下に対する鼓舞(大)】
【一定確率でHP全損回避】
《大洋を渡り港を目指す者達は、例えどんな巨大な嵐の中でもその指針を見失う事はない。何故なら彼らの胸の内には、海神の愛娘たる海巫女の加護があるのだから……》
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