7
鵜の目鷹の目で探しても色が見つからない。何度も指でなぞった所為かインキは滲み、殆ど読めなくなっている。聞いたことがないのに、敵が攻めてきたときに鳴らされる早鐘を聞いているような感覚に陥る。
二人の決め事が故に誰に相談していいのか分からない。振り返って寝息を立てるニウルを見るが起きるはずもなく、途方に暮れる。
ただの不注意なのか。それとも、やはり誰かが成りすましているのか。
最悪の場合を考えてみる。一文字、一文をニウルでない誰かが書いたのだと。となれば、全てが嘘。事実でない。
そこまで考え、新たな疑問が抵抗することなく浮かび上がる。
誰が、何のために?
一つだけ確かなことは、二人の悪者を仕立てようとしていることだ。誰が、何のために?考えれば考えるだけ、それこそ蛇にじわじわと巻きつかれているような感覚に陥る。手紙を前に頭を悩ませてはだめだと思い至り、支度を済ませ食堂へ向かう。私が確かめなければ。
意識しなくても普段と同じように振舞えることを不思議に思わなかった。カップをつたい、ソーサーに零れたいつもと同じハーブティーを拭き、いつもと変わらずたわいのない会話を続ける。私は確信した。あの手紙は誰かが成りすましている。
再び疑問が浮かび上がろうとしたが、「誰か」は私たちが合言葉を共有していることを知らないのだと気付いた瞬間に光明を見た。敵になろうとしている「誰か」は次を約束していた。手ぐすねを引く猶予を図らずも差し出してきたのだ。
親愛なるニウル
太陽と月がもたらすものに疑問を抱いたことはあるかしら?正直に言えば私にはないわ。
大声の代わりに彼は照り付け、彼女は囁くように子守唄を歌う。私はそれを疑問も持たずに甘受している。誰かに教わったわけでもなく私が感じたまま。
直感とは言えないわね。経験とも少し違う気がするの。強いて言えば、血縁と同じように受け継がれたものなんだと思ってる。換言すれば、抗うことができない真実としての真理。だからこそ、あなたが何を聞きどういったことを感じたのかは知らないけど、私は私の感じたままに生きたいの。心配しなくていいわよ。なんてことは絶対に言わない。だってそうでしょ?私をこんなにも思ってくれてる人に言えるわけがない。私が言えるのは一つだけ。ありがとう。ただそれだけ。いいえ。もう一つあるわね。これからもよろしく。
と、話を聞く前の私の素直な気持ちを綴ってみたけど、その間にあなたの言う覚悟が私の中で薄れていることに気付いてきたわ。なんだか私の現実はあなたの夢の中を生きてるみたい。言ってみれば、あなたの現実を突きつけられることが怖い。とても恐ろしい。
でもね、それじゃだめなんだってことも知ってる。知ってるからこそ聞かなければいけない。あなたの話を。あなたの真理を。
それじゃ。
おやすみ、おはよう。