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「改まってどうしたの?」

「いえ、改まっているのはあなたの方では?きっと話を聞いたに違いない」

「ええ、確かに聞かせてもらったわ。だからって態度は変えてないはずよ」

「その無意識があなたを普段と変えているんですよ。無意識は隙を作りますからね」

「申し訳ないけど、言っている意味が分からないわ。で、ここに呼び出した理由は何かしら?誰にも聞かれたくない話ならば、最も聞かせてはいけない人物だと自負してるのだけれど?」

「ははは、僕の勘違いだったかもしれません。それに問題ありません、普段のあなたに聞いてもらいたかったんですよ。これで漸く話すことができます」

「初めからそう言ってるじゃない。あなたの無意識が私を変えていたのかもね」

「これは、一本取られました。では、本題に入りますが、その前に。今日は地位ではなく、僕の血を留意してください」

「分かったわ。王子としてね」

「ありがとうございます。単刀直入に申し上げますと、あなたの父上、現国王様に僕の血についてそれとなく言ってもらえることは可能ですか?」

「それでは独りよがりの単刀であって、相手がいないわ」

「と、申しますと」

「理由が明かされていないもの。どういった腹つもり?」

「笑わないでくださいよ。ラヴィヴェル様のことが好きなんです」

「ふっ。ごめんなさいね、笑わないでと言われても冗談にしか聞こえないもの。頃合いを見計らったような告白なんて、裏があると思って当然でしょ?」

「例えお嬢様の言葉でも聞き捨てなりませんね。時期がきたと言ってほしいのですが」

「ふんっ。物は言いようね。それじゃ、裏はないのだと仮定して、お父様にあなたの血筋を教える訳を聞かせてくれる?」

「簡単なことですよ。生まれも才能の一つですからね。それが理由では言葉足らずですか?」

「やっぱり、おかしくないかしら?今頃になって血を利用するなんて。今まで隠してたんじゃないの?」

「一般的には隠していたことになるかもしれませんが、神が与えてくれた好機をみすみす手放すわけにはいきません。なにより、僕の話をお二方は信じていますからね。それが最たる所以かもしれませんね」

「分かったわ。言ってあげる。でもね、お父様は何も言わないし、何もしてくれないと思うわ。だって、あなたにあって私たちにないものがあるもの」

「ありがとうございます。それも分かっています。では今日はこれで」


 一度も筆を握らず、話の主導権だけは離さなかったノーフプに不信感が募っていた。猜疑心を育まなければいけないうちは、ラヴィヴェルには黙っておこう。そう心に決めて、ようよう気を休めることができた。正に、気休めなのだが。

 花瓶に挿されたダリアの花が無暗に明るく、暗に何かを示しているようだった。


 親愛なるラヴィヴェル

 時に繋がりは拘りになり、拘泥してぐるぐるぐるぐるぐるぐる締め付けられるのね。毒蛇に侵され、我知らず毒蛇になっているのに…。私が言いたいことは貴方を傷つけるかもしれない。既に傷ついているのかもしれない。それでも、言葉にしなければいけない。一つだけ知っておいてほしいのは、私も傷ついているのだと言うこと。でもそれは免罪符だと思っている訳じゃないから、私を嫌いになっても構わないわ。

 ノーフプには気を付けて。

 先も書いた通り、貴方も毒に侵されてしまうわよ。解毒剤はないのだから、これ以上親密になるのは控えた方がいいと思う。貴方の気持ちを尊重したいと言った時とは話が違うの。

 だがしかし、と、思うならそれまでだけれど…。

「御夕飯の支度ができましたよ」

「今から行くわ」

微かに聞こえる足音に耳をそばだて、遠くに離れていくのを確認してから書きかけの手紙を仕舞った。私はあの日を境にばあばにも手紙を見られないように心掛け、ほったらかしにするのは以ての外だと自身に言い聞かせるようになった。

 たった一つの行動が齟齬を生じさせたとは信じられないが、同じ行動をしなければ齟齬は生じないのではと信じることができた。所謂、神頼み。願掛けに等しいのだが。

 それほどまでに謎であり、二度と起きてほしくない事なのだ。できれば、謎のままであってほしいとさえ思っている。均衡を保たなければいけないのだ。下世話に言えば、平等に。

 

ナフキンで口を拭い、立ち上がろうとするお父様を呼び止めた。突然の出来事に顔を顰めているのを見ると、これから話すことも相俟ってたじろぎもしたが、一人客室でダリアの花を眺めながら考えた弥縫策を講じた。

必然的に手放された話の主導権は私が握れることができるのだから、ノーフプとの約束は守りつつも有利に事を進めよう。と、頭の中で反芻して、口火を切った。

「聞きたいことがあるのだけれど…。お父様は私たちのことを思って、嫁がせるのよね?別に何かの考えがあるのは仕方ないのだとしても、私たちのことを第一に考えているのよね?」

娘を見る目ではない、私の後ろを見透かそうとしているようであり、胡乱な者を邪推するような細くした目を向けている。

 程なくして、塵芥を吹くような溜息をついたと思えば、

「何を言い出すかと思ったら…。いや、まだ何も言っていないのかな」

と、正に私の話が取るに足らないと言いたげな様子で会話を続けようとした。

 目の前に座る人物の一連の言動で私はラヴィヴェルとの声なき会話を思い出した。

 彼女には風になってあげると言ったが、どうやらなれる人は決まっているようだ。権力もとい権限を持っている人に限るのかもしれない。だから、私は弥縫策を捨てた。

 悪いがノーフプには少しだけ待ってもらおう。状況と気持ちが変わった。真に裏がある人物とは、人を見下し余裕綽々としている白髪交じりのこの男のようなことを言うのだ。

「どうした、そんな親の仇を見るような目をして?私はお前の親のはずだが?」

はっとした私は飽く迄も娘を演じるべく、羽を広げる天使のように口元の両端を上げ、笑みを浮かべた。

 時すでに遅いのは把握している。が、意識的に作る笑顔は相手に不気味な雰囲気を与えるだろう。それだけで、少なからず真剣に相手をしてくれるはずであった。

 …………………。私の考えは甘かった。

 だがしかし。と、思うならそれまでだけど…。

 と、数刻前までは思っていたけれども、またもや話は変わったわ。私がペンを離していた間に何があったか書くわね。

 あなたは私を口うるさく思っているのかもしれないけど、何や彼や言っても一番にラヴィヴェルのことを思っているからこそ、お父様にノーフプについて言ったの。でもね、お父様は私たちのことを一番に考えていなかったわ。

 あなたは優しいから真実を書き綴れば書き綴るほど狭間に落ちていってしなうんじゃないかって心配なんだけど…。

 だからね、やっぱり、あなたの気持ちを聞いてから書くことにしようと思うの。

 次の手紙に聞く覚悟があるのか書いてちょうだい。

 それじゃ。

 おやすみ、おはよう。

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