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2

ノックの音が自室でないことを思い出させ、一昨日の記憶が蘇る。間断なく打たれる続ける扉は軋み、今にでも壊れそうである。私は不思議に思う。この部屋に軟禁されたとき、脱出を試みたが、どうやら鍵は向こうからでしか開閉することはできず、徒労に終わったのだ。

 眠い目をこすりながら、扉まで静かに近づく。止む気配がなかったノックは怒鳴り声と共に消え去り、土を蹴る快活な音が後に続いた。

 もしかして。と頭を過る。

 誰かが私を助けに来たのではと思い始めたが遅く、自然なものでなく、人工的を思わせる濃い腕毛をした男が入ってきた。

 初めて見る顔に後じさる。

 一歩、また一歩。

 膝裏に障害物が当たり、尻餅をついた。しかし痛みはなく、小屋に似つかわしくないベッドに倒れ込んだのだと気付いた。


 ノックの音は本来の役割を忘れ去られ、耳朶に直接語り掛けてくるようであった。半身を起こし、剥がされた布団を一瞥して昨日を慮る。

 短く息を吐き、立ち上がる。伸びをして筋肉を伸ばしてまた全身に力を込め扉まで近づき弛緩させる。

 鷹揚とした態度でばあばと向かい合い、素知らぬ顔をしてかしがせた。

 再び意識せずに筋肉が強張っていくのがわかる。

 疲労感を湛えた瞼に焦燥を感じさせる手、憤怒が固めた口に憔悴が圧し掛かり項垂れる頭。

 その変わり果てた姿に呆然としてしまい、

「どうかしたの?」

再び応用と出来る訳もなく、ただ白々さだけがふわりと漂う。

 逡巡を思わせる少しばかりの間のあとに言葉を溢し始めた。

「いないんです。いないんですよ。どこを探しても。

昨日、朝食のお時間になっても降りてこなかったので珍しくおね寝坊かと思い起こしに行ったのです。

とんとん。とんとん。こうやって何度もノックをしました。ええ、そうなんです。

起きる気配も起きている気配も感じなかったのでお部屋に入りベッドに近づきました。

すると…。」

先を促すために繰り返すのだが、草を食む動物のように窄めた口をもごもごするだけである。

「すると?」「ねえ?」「すると?」「ねえ?」徐々に苛立ちが募り、言葉に金属音が混じっていくのが自分でも分かっているが止められない。

 あべこべに落ち着いた表情と動作でばあばは四つ折りにされた一枚の紙片を取り出し、押し付けるかのように差し出す。私が受け取り二つ折りにする頃にはばあばは部屋を後にし、文字を読む頃には静けさだけが残った。


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