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 足をぶらつかせて何をしようかと考え込んでいた私の意識を部屋へと戻したのはこんこんと控えに叩かれるドアの音だった。

 そして遅れて「お義姉様、いらっしゃいますか?」とこちらを尋ねるような声が聞こえてくる。

 声の主は明らかで「はい」と返事してドアを開くとそこにはやはりアンジェリカ様がお気に入りのテディベアを抱きしめながらこちらを見上げていた。



「お義姉様、シェフには最高のものを用意させました!」

 テディベアを支える手を一つだけ外し、私の手を引いて早速あの庭へと向かおうとする。

 私とラウス様ほどではないにしろ、私とアンジェリカ様ではいささか身長差がある。だからなのか進む一歩は私のものより少しだけ狭い。それでも先を急ごうと必死で動かす姿は微笑ましい。

 引かれていく一方だった私はその身をアンジェリカ様の隣へと移動させる。


 するとアンジェリカ様は嬉しそうに隣を見上げながらお茶会のメニューについての説明を始めた。

「お茶は紅茶で有名なランドールのものを用意させました。ケーキは昨日とは違うものと、お義姉様が美味しそうに食べてらっしゃったというものを用意しましたわ!」

「それは楽しみです」

 庭へと向かう道のりさえ煩わしいと感じるのか次第に歩くスピードは上がっていく。繋いだ手は焦る気持ちを表しているのかユラユラと大きく揺れる。

 隣を見上げながら階段を降りていて、落ちてしまわないかとソワソワしてしまうものの、それほどまでに私とのお茶会を楽しみにしてくれているのかと思うと顔が緩んでしまう。


「私のオススメは「アンジェリカと義姉さん?」

 アンジェリカ様の楽しそうな声が廊下に響いていたらしく、サキヌ様がその声につられたように私たちが今しがた降りてきたばかりの階段を遅れて降りて来た。

「お兄様どうしたんですか?」

 アンジェリカ様は階段の下で歩みを止めると一段ずつ降りて来るサキヌ様を見上げて首をかしげた。


「アンジェリカこそ、義姉さんと手まで繋いでどうしたんだ?」

「お茶会をするんです!」

「…………さっき夕食を一緒にとれることになったって言ってなかったか?」

「はい! 今日はお茶も昼食も夕食もお義姉様とご一緒できるのです!」

「はぁ……アンジェリカ、義姉さんに迷惑かけちゃダメだろ!」

 おでこに手を当てて、呆れたようにアンジェリカ様を諭すサキヌ様は『お兄さん』という感じがする。

「全くお母様もアンジェリカも……」

 腰に手を当ててお説教モードに入ろうとするサキヌ様の声をどこからか聞きつけたのであろう、私たちの向かう庭の方角からはお義母様が優雅に歩いてやってくる。

「あらサキヌもアンジェリカもそれにモリアちゃんも! みんな揃ってどうしたの?」

 手で驚いた口を隠すお義母様は声こそ明るいものの、その目は全く笑ってはいない。

 まるで自分を除け者にして何をしているのかと責めているようだ。


「お母様、聞いてください! お兄様がいじめるのです!」

「そう……それで『何』をしていたの?」

 アンジェリカ様の主張を聞く気がないようで、冷たい声で一蹴した。

 自分が否定されたわけでもないのに、その声に、言葉に背筋を汗が一筋這い落ちる。

 それよりも『何をしていたのか』、そのことを聞くまでは他のことに耳を傾けるつもりはないようだ。


「アンジェリカが義姉さんと昼食もお茶会も、夕食までも一緒にするつもりらしいんだ」

 だがその声を向けられた当の二人はといえば慣れているようで特に気にした様子もない。

 すると自分の欲しかった答えをもらったお義母様はその冷たい雰囲気など取り払って、まるでただをこねる子どものようにサキヌ様の肩を掴んで揺さぶった。


「そんなの私聞いてないのだけど!」

「俺も今聞いたんだよ!」

 前と後ろを強い力で往復させられていたサキヌ様はその力と同じように力強い声でそう答えた。

 するとパッとサキヌ様の肩から手を離したお義母様は、今度はアンジェリカ様に詰め寄った。

「サキヌはともかくなんで私に言ってくれないの!」

 いきなり顔を寄せられたアンジェリカ様は機嫌悪そうに頬をぷくっと膨らませる。


「……お母様も昨日、私に内緒でお茶会したじゃないですか……」

「だってアンジェリカは予定入ってたじゃない?」

「それでも初めてのお茶会はご一緒したかったんです!」

「それは……そうね……。ごめんなさい」

 アンジェリカ様がテディベアを抱きしめながら、不機嫌ながらも強く主張するとお義母様はすぐに目をそらし、そして謝った。


「わかればいいんです! とにかく今日のお茶会は私とお義姉様の二人で……」

 アンジェリカ様はそれに満足したように再び私の手を握ると二人に背を向けて歩き出そうとする。

 けれどその行く手は自分の非を認めて謝ったばかりのお母様によって阻まれる。

「それは違うわ、アンジェリカ。……お茶会はみんなでした方が楽しいでしょう?」

 アンジェリカ様の肩に手を乗せてゆっくりと諭すように語りかける。

「それは……」

 仲間外れはよくないことだとわかっているアンジェリカ様の心を揺らすにはその言葉は十分な威力を発揮する。

 そしてお義母様はそれにもうあとひと押しとばかりに「ねぇ、モリアちゃん?」と私に目配せをする。

「ええっと、その……はい」

 それにはもう頷く以外の選択肢は残されていなかった。


「ほらモリアちゃんもこう言っているじゃない! ということで私もお茶会に……」

 私の言質をとったお義母様はアンジェリカ様の気が変わらないうちに、意気揚々と私とアンジェリカ様の背中を押す。

「お母様、何を強引に話を進めてるんですか!」

 それをサキヌ様はお義母様の腕を強く握りこむようにして制す。

 お義母様のドレスは私もアンジェリカ様もそうであるように長い袖で、掴まれた腕など直接見えないが指の間に刻まれたシワはその力の強さを表していた。

 あれでは結構な痛みが走るはずだろう、けれどお義母様は顔色一つ変えることなく私に笑顔を向ける。

「強引じゃないわよね?」

「……ええ」

 強引では、ある。強引ではあるが悪い気はしない。

 というよりも私の意思とは関係なく腕にはお義母様の腕が絡め取られ、それを解くことなど私には出来そうもない。


「義姉さんがいいなら俺は別に……ただ無理してるんじゃないかって……」

 ゆっくりとお義母様の腕から手を外すと、アンジェリカ様とお義母様に恨めしそうな視線を向ける。

「そんな私は無理をさせる気なんて……。お義姉様も私とのお茶会、楽しみにしてくださってますよね?」

 その問いに声が出るよりも先に首がこくんと上下した。

 可愛らしいアンジェリカ様にウルウルと上目遣いをされ、頷かないなど私には無理だった。


「さぁモリアちゃん、アンジェリカ、お茶会を楽しみましょう? あ、サキヌは別に来なくてもいいのよ?」

「うっ……」

「だってお茶したくないのでしょう?」

「…………義姉さん、俺もいい?」


 追い打ちまでかけられ、しょぼんと落ち込んでしまったサキヌ様の頭に犬の耳のようなものが見えるのだから、私はつくづくこの家族には弱いのだろう。


「ええ」


 もしも私の背が後20cmほど高かったら、嬉しそうにお茶会ご一行の仲間に加わったサキヌ様の頭を間違いなく撫でていただろう。


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