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2話 最初の一歩

冒頭5話くらいは詠唱破棄レベル、それ以降は儀式魔術ばりに執筆速度が変わる駄目作者。そんな奴が居るか?居るさ。そうここに!

………そんな感じの駄目な奴、どうも春間夏です


まだ文も短めなので、速度も妥当な疑惑あり。暇を持て余した時にでもお読みください

 その後、バリケードを作り終えて村に戻る道中でエルストに説明されたレンの能力は、「意識して注視した人や物が未来で辿る出来事の道筋を視る事が出来る」というものだそうだ。

 ミスガニエの村に戻ってすぐ、レンがふと目の前を歩いていた村人を数秒見つめてから近寄っていく。


「……グラジーさん。今日、山の方に行く用事はありますか?」


「ん? あぁ、ちょっと薬草を採りに行こうとは思ってたが……」


「急ぎじゃなければ、今日は行かない方が良いです。途中の橋で足を滑らせて川に落ちて、足の骨を折ってしまいます」


「うぇ……それは嫌だな。いつなら大丈夫だい?」


「……ずっと、駄目?」


「えぇっ!?」


 レンの非情な宣告に、グラジーと呼ばれた中年男性が大袈裟に仰け反った。周囲から笑い声が上がるが、本人としては笑い事で済ませるには内容がエグい。


「な、何でだよ!?」


「何で……でしょう?何日後の未来を視ても、同じように足を滑らせている姿しか……」


 レンにも理由が分からないらしく、首を傾げる。そんな二人のやり取りを後ろから眺めていたエルストは、ふと違和感を覚えてレンに声を掛ける。


「……えっと、レン。視たのは、()()()()()()()未来なんだよな」


「え? ……うん」


「グラジーさん本人をどれだけ視ても未来が変わらないなら、原因は別にあるんじゃないかな? 例えば……()()()()()()()とか」


「「え?」」


 エルストの指摘に、レンとグラジーが声を揃えてグラジーの靴に目を向ける。

 エルストは、確かに直接的な交流は少なくなっている。だからと言って、伊達に一二年間の月日をこの村で過ごしてはいない。


「グラジーさん、物持ちが凄く良いから。その靴だって、手入れをしながら五年くらいは使ってるんじゃないかな…けど、流石に靴底の減りが限界だよ。途中の橋は木で出来てるし、川の流れが速くなってて水飛沫でいつも濡れてるから。それで滑るんじゃないかな」


「……そう言われてみると、流石に寿命かと思ってたんだよな、この靴。底の溝が殆ど残ってないくらい消耗してるし」


「なら、靴を新調してから改めてレンに視て貰うのはどうですか? それでも未来が変わらなかったら──その時は、俺が代わりに薬草を採ってきますよ」


「エルストが?」


「はい。どうせ、今日みたいな力仕事が無い時は暇ですから。それでどうです?」


 エルストの提案に、グラジーは「まぁ、どうせ替え時だったしな」と呟いてから頷いた。


「よし、分かった。それじゃ、もしも駄目だった時はエルスト……に、頼んで構いませんか、村長」


 グラジーの視線が、迷うように村長に向けられる。エルストに何かを頼む時は、大抵村長が可否を判断していたからだ。問われた村長は、微笑みながらエルストに話し掛けた。


「エルスト。まずは、これまでの事を謝罪させて欲しい。お前が自身の力とどう向き合っていくか……共に考えるどころか、最低限の役割だけを与えて封じ込めまでしてしまった」


「……気にしないでください。俺だって、嫌なら逆らっていました。自分の力を信じていなかったのは、俺も同じですから」


「そうさせたのは私達だ。その事を許されても、誤魔化す事はしてはいけない」


 そう言って、村長はエルストに対して深く頭を下げた。その場に居合わせた周囲の村人も、村長に(なら)ってエルストへの謝罪、抱いていた罪悪感を形として示していく。

 エルストが受け入れた日常(あたりまえ)は、ミスガニエの村人にとって当たり前ではなかったのだ。誰もがエルストへの接し方を悩んでいた。このままで良い筈が無いと分かっていた。それでも、どうするのが正しいのかという答えに辿り着けなかったのだ。


「……だが、先程の出来事で痛感したよ。エルストがその力とどう向き合い、どう扱い、どう生きていくか。それを決められるのは、エルスト自身しか居ないとな」


 村長は、バリケード設置現場での出来事を周囲の村人に語り聞かせた。ただエルストの行動を賞賛する者や、エルストの()()の想像以上の成長に驚く者。反応はそれぞれだったが、その中に……エルストが危惧していた、()()()()()()()()()()()()ような反応は含まれていなかった。

 誰もが、封じられていたエルストの成長を認め、喜んでいたのだ。


 その反応を受けてか、元から決めていたのか。村長は、改めてエルストに向き直ってから結論を告げた。


「……エルスト。これからは、お前がやりたいと思った事をやると良い。生きていく上での力加減も、その内に分かってくるだろう」


「……はい。ありがとうございます」


 村長の言葉に頷くエルスト。その服の裾を引っ張られる感覚に振り向くと、レンがエルストの服を引っ張りながら首を小さく傾げていた。


「えっと、どうかしたか?」


「……ん、と」


 どう話すかを考えていなかったのか、レンは問われてから考え始めたようにポツポツと言葉を紡いでいく。


「私、未来は視れる。けど、どうしてその未来に辿り着いちゃうのか……それが、あんまり分からないの。さっき、エルストは私じゃ分からない理由が見えてた。エルストが居れば、私だけじゃ視れない未来が、視れるかも」


 そこまで話して、「だから、えっと……」と次の言葉を探すレン。色々考えた末に、それでも少し不安そうに呟いた。


「たまに、一緒に居て欲しいな、って……思うんだけど……駄目?」


「……ぉ? え、と」


 二人の神童による初々しいやり取りに、周囲の大人達が(ざわ)めき出す。


「……おぅ? これはまさか……」

「何か遠い昔に忘れ去った甘酸っぱい匂いがするな」

「分かる。ただ、俺の記憶だともっと酸味がキツいけどな」

「俺は酸味に苦味がブレンドされてるが」

「結果、思い出が無味無臭な俺が最強って事だな」

「「オーケー、今晩呑もう」」


 ……よく聞けば、最終的に独身の男達が自棄酒煽り会を結成しただけな気もするが。ともかく感情との相性によってはトラウマスイッチとか誘発する類の空気だった。


 エルストが返答に迷ったのは、感情的な理由ではない。そもそも、村長がエルストの行動にある程度の自由を与えた理由は前述の通りとして、そうさせても構わないと判断した根拠はエルストの神童としての能力──常人離れした身体性能があってこそだ。

 対して、レンの未来視は能力としてはエルストを凌ぐが、レン個人の身体能力は年相応……より、下にしか見えない。エルストがいつも通りの感覚で動き回った場合、三分も経たずにはぐれてしまいそうな予感すらある。

 だから、エルストは視線で「大丈夫なんですか?」と村長に問い掛けた。

 村長は数秒間考え込んでから、小さく頷く。


「別に、健康的な問題は無い。あまり頻繁に外に出る機会が無かっただけだからな。エルストと過ごす内に、体力が付いてくれるかも知れん。エルスト、お前が嫌じゃなければこちらに咎める理由は無いが」


「……それなら、俺は別に」


 村長の返答を受けてから、エルストは改めてレンの方を見た。未だに不安そうな表情のままエルストを見つめるその瞳に、ゆっくりと頷いた。


「分かった。よろしく、レン」


「ぁ……うん! よろしく、エルスト!」


 自らの願いが受け入れられたと分かり、花のような笑顔に変わるレン。それを見たエルストは、その笑顔を守りたいと思い、今の自分ではレンを壊してしまうんじゃないかと不安になり、一刻も早く力の調節を上達させないといけないプレッシャーを感じ、それでも何だかその全てが──。


──悪くない、と思えた。



           *



 それから二日後の昼過ぎである。家の手伝いとして任せて貰った薪割りが思ったより早く終わって手持ち無沙汰になっていたエルストの元に、グラジーが訪ねてきたのは。


「お、エルスト。家に居たか」


「グラジーさん? どうしたんですか?」


「早速、靴を新調したんだ。これからレンに視て貰うつもりなんだが、エルストも付き合ってくれないか?」


「あぁ、成る程。レンが視たのがやっぱりグラジーさんが骨折する未来だった時に、俺がそのまま薬草を摘みに行けますからね」


「そういう事だ。すぐに行けるか?」


「はい、大丈夫です」


 割った薪を手早く整理して、エルストはグラジーと共にレンの家を目指す。と言っても、エルストの家から歩って一分以内だが。村の中なんてその程度の距離である。

 そうしてレンの家を訪ねると、レンは庭に作られたベンチに座って日向ぼっこ中だった。子猫のように目を細め、心地良さそうに過ごしている姿を見ると邪魔するのが申し訳無くなってくる。

 エルストがグラジー共々その場に立ち尽くしていると、それに気付いたレンが「あっ」と声を上げてベンチから跳ねるように立ち上がり、小走りで駆け寄ってきた。


「エルスト、と……グラジーさん? どうしたんですか?」


「何か、エルストに言われたのと殆ど同じ反応だな。まぁ、アレだ。今の状態で、未来を視て欲しくてな」


「今の状態で……あっ。靴、新しくしたんですね。それじゃ、視てみますね……」


 レンも事情を察したらしく、早速グラジーを見つめて意識を集中させる。それから一〇秒経ったかどうかで、「はいっ」と笑顔を浮かべた。


「大丈夫です! 今のグラジーさんを視ても、特に重大な事故は起きませんでした」


「おぉ、そうか! やっぱり靴が原因だったんだな。レンとエルストには感謝しないとな」


 安堵の表情を浮かべるグラジーに微笑みながら、エルストはふと気付く。


「って、事は。薬草は、グラジーさんが自分で採りに行くんですか?」


「ん? あぁ、それなんだが……折角だし、嫌じゃなければエルストに任せても良いか?」


「……え、やらせて貰えるんですか?」


 グラジーの返答に、エルストの目が一瞬輝いた。グラジーとて年長者、自分の役目が減ると思った瞬間にエルストの表情が少しだけ曇ったのに気付いたのだ。


「あぁ、村長も言ってたろ? やってみたいならやってみろって。だから、行くかどうかはエルスト次第だ……どうする?」


「行きます、やります。やってみたいです」


 俄然やる気を(みなぎ)らせるエルスト。その姿に、グラジーは苦笑しながら踵を返す。


「分かった、それじゃ籠を持って来るから待っててくれ」


 そう言い残して、グラジーは収穫用の籠を取りに自宅へと戻る。それを見送るエルストの服の裾を、いつかのようにレンが引っ張った。


「……ん? レン、どうした?」


「……私も、一緒に行きたい」


「……レンも? そうだな……」


 エルストは、この後辿るルートを頭の中で整理する。村の北門から出て、橋を渡る。そこから山道を進み、薬草が分布する場所まではゆっくり歩いて……エルストなら片道が四〇分ぐらいか。その全体図を思い浮かべてから、レンを見てちょっと不安になる。


「……山道だし、結構キツいぞ?大丈夫か?」


「えっと……多分」


 特に根拠は無いらしい。少し迷ったが、最悪の場合は家まで抱えて帰れば良いかと結論を出してエルストは頷いた。


「分かった、一緒に行こう。ただ、辛くなったらすぐに言ってくれよ。無理は禁止」


「うん! ありがと、エルスト」


「……ん、あ、おぅ」


 また、二日前と同じ笑顔。諦め気味だったとは言えつい最近まで同年代の間ではボッチ寄りだったエルストには眩しさが強くて、少しだけ視線を逸らす。その反応が何となく気になったレンがエルストの視線の先へ回り込み、またエルストが視線を移動。回り込み、移動。レンが「んー……むぅー?」と疑問の唸り声を上げ始めた辺りで、グラジーが籠を持って戻ってきた。


「待たせたな……何やってんだ?」


「多分、何でもないです。薬草を摘む量は、その籠が一杯になるくらいですか?」


「あぁ、充分だ。気を付けろよ、採るのは葉の部分だけだ。シルソニアは根を残しておけば何度でも成長するが、根を抜いちまうと二度と生えてこないからな」


 シルソニアは、ミスガニエの村があるウェルヴェドのカミルヴァス地方西部に多く分布する野草だ。葉に含まれる栄養素が豊富で、ペースト状にすれば傷薬、煎じて飲めば栄養剤の役割を果たす薬草として知られている。


「シルソニア……使った事はあるけど、生えてるのを見るのは初めてかな。エルストは、見た事ある?」


「あぁ、俺は何度か。そんなに似た草も無いし、これだと分かれば間違えないと思う」


「……ん? もしかして、レンも行くのかい?」


 会話の流れで勘付いたグラジーに、エルストは「まぁ、はい」と頷く。


「何か、さっきそういう流れになりました」


「そっか。まぁ、大して危険な場所は無いし大丈夫だろう。エルスト、レンの事も頼んだぞ」


「はい、それじゃ行ってきます」


「行ってきます、グラジーさん」


「おぅ、行ってらっしゃい」


 グラジーに見送られ、二人は北門に向かって歩き出す。エルストの右手に持たれた手持ち用の籠を、エルストの右側を歩きながら見つめるレン。何を思ったのか、籠の上部にアーチ状に付けられた持ち手を指先で軽く引っ張る。


「……エルスト。籠、持たせて?」


「ん? あぁ、良いけど」


 レンが籠の持ち手をしっかり掴んでから、エルストが右手を離す。まだ中に何も入ってないので、レンでも片手で持てる程度の重さだ。なので、レンは籠を右手に持ち替えて──もう一度、左手をエルストの方へ伸ばした。


「……えっと?」


 その意図が分からず、エルストは首を傾げる。レンは伸ばしたままの左手を少し不機嫌そうに振りながら、仕方無いので言葉で伝える事にした。


「手、繋いで行きたい」


「え? ……あ」


 その言葉で、エルストはレンが籠を持ちたがった理由を漸く理解した。

 エルストが右手で籠を持っていたら、右側を歩いているレンと手を繋げない。

 だから、レンは籠を持ったのだ。()()()()()()()()()()()()()


「……駄目?」


 上目遣いを不安で曇らせるレンに、エルストは自分の右手を見て、一度深呼吸してからそっとレンの左手を握る。


「……痛かったら言ってくれ。まだ、こういう力の加減は覚えてないんだ」


 恐る恐る、繋ぐ手に込める力を探るエルスト。その右手を左手でしっかり握って、レンはやっぱり笑顔で言い切った。


「なら、覚えるまで繋いでいよう。それで……覚えてからも、手を繋いで欲しいな」


「……あ、うん」


 一切の心理抵抗をする気にならない表情と言葉に、エルストは頷く以外の選択肢を見付けられなかった。

そもそも、右手に伝わる自分よりほんの少し冷たい、けれど温かい左手を。

 離すなんてとんでもない──そう思っているのだから、断る理由はどこにも無かった。



           *



 ……そんな様子を、ずっと後ろから眺めていた村人の男達。目配せを数回繰り返して、最後に静かに頷いた。


 よし、今晩も呑もうぜ……と。




1話からトータル1万文字を使って、ストーリー上の経過時間が2日……うん、ハイペース。一歩間違えたら20分も進まない事もあるので、順調です。日数をざっくり端折っただけだとしても!


まぁ、次の話は多分1日も進まないですけど…書いてから変わってるかもですけど。とりあえず書いてから考えます。

ではまた次の話まで

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