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しょや

 花嫁となり、騒ぎに騒いだ宴会を抜けて、夫婦の部屋へと連れて行かれた。もう少し騒ぎたかったわたしには全然、頭に入っていなかった。「初夜です」と事務的にエリエが告げるまで、初夜とやらを意識していなかった。


 エリエに塗りたくられた香油の腕を眺めていたら、ため息が出た。薄いヴェールみたいな手触りの夜着も、そこから見える自分の体のかたちも、実感がわかない。どこか他人ごとのように考えてしまう。


 冷静そうなエリエにすがりつきたくて、「ねえ、エリエ」と声をかけた。


「わたしにたずねられてもお答できません。初夜を迎えたことがありませんので」

 ――初夜って、どんなもの? と聞きたかった。わざわざ口に出さなくても、エリエにはわたしの疑問がすぐにわかったらしい。



 彼女にもわからないのか。よく考えれば、エリエはわたしより1つ下なんだ。結婚もまだしてない。たまにその落ち着きのせいか、人生の先輩のように感じてしまう。


「そっか」


「そろそろ、わたしは失礼します」


「え? いてくれないの?」


「サディアス様のお邪魔はできません」


 そうか。サディアスがやってくるんだ。当たり前だ、しょ、初夜だし。エリエが部屋を去ってしまうと、ベッドで大人しく座っていられない。うろうろと部屋を往復する。何度も夜着の裾を踏んでつまずきそうになりながら、悩みに悩んだ。


 答えが出ないまま、うろうろしていたら、ノックがされた。エリエではないだろうし、マリアさんが訪ねてくるとも思えない。これから来るのは初夜だ。おそらく、ノックをしたのはサディアス。わたしの旦那様だ。


 なかなか、返事ができないでいたら、また強くノックがされた。サディアスが怒っているかも。彼に嫌われるのは怖い。今まで嫌われたって平気だったのに、好きだと自覚してからは嫌われたくなくなった。


 その強さに押されるかたちで、「はい」と声を上げる。上げてしまえば、サディアスは遠慮なく扉を開いてこちらに入ってくる。


「サディアス……」


 サディアスの髪の毛はオールバックで、結婚式のときのまま。服も何にも変わっていない。でも、額に汗は浮かんでいるし、細めの顔は上気している。お風呂には入ってこなかったらしい。


 ぼーっと突っ立っていたら、長い腕がわたしを引き寄せて閉じこめた。サディアスの胸板が頬にくっつく。


「着替えなかったの?」


「すまん。体を洗う暇が惜しかった」


「えっ?」


 戸惑っている間にも、唇が塞がれた。息苦しいほどに強く求められて、ベッドの上に倒された。


 素早く上半身をさらしたサディアスに目線を外すことができない。骨ばった指がわたしの夜着の襟をつまむ。きっと、左右に開けば、わたしの体はサディアスの目の前でさらされるはずだ。いとも簡単に裸になれるだろう。


 その前にどうしても言いたいことがあって、わたしはサディアスの手を掴んだ。


「あのね、サディアス。本当にわたしでいい? 後悔してない? サディアスって案外、女の子にモテるんだよ? 顔もいいし、頭もいい。あ、口さえ開かなければだけど」


「黙れ」


 また怒らせたかもしれない。誉めるつもりが最後に嫌味を言ってしまった。オールバックにした髪の毛がほつれて何本か額にかかる。汗のしずくが額から鼻筋へとこぼれていく。


「怒らせちゃった?」


「違う」


 言葉が短くて伝わりにくい。いつもなら回りくどいくらい長々と話すくせに、何でそんなに短いの?


「じゃあ、何?」


 サディアスはめいいっぱい息を吸ったあと、大きく吐いた。


「お前こそ、どうなんだ? 俺と結婚して良かったのか? お前だってそこそこ可愛いだろう。他に造形のいい男を選び放題だ。まあ、ぎゃーぎゃー、わめかなければの話だが」


「可愛い?」


 あのサディアスがわたしを可愛い? アホ面とバカにしてくるくせに可愛いなんてよく言えたものだ。でも、同時に自分がどれだけおバカな質問をしたか、わかった。気持ちは決まっているもの。


 サディアスがにやっと怪しく笑う。


「わかったか? そんな質問は時間の無駄だ。俺は早くお前と繋がりたい」


 繋がるってたぶん、そういう意味だ。顔が熱い。


「ちょっと心の準備が」


 何か言い訳を考えていたら、サディアスがわたしの額にキスをした。


「ミヤコ、好きだ」


 ずるい。そう言われたら、ごちゃごちゃ考えられなくなる。


「わたしだって好き」


 サディアスの指が優しくわたしの顔の輪郭をくすぐる。キスが何度も落とされ、唇が重なる。それだけじゃ足りなくて、わたしがサディアスの首に腕を回すと、もっと熱く求められた。


 知らない間に裸にされて、ふたりの体をへだてるものは何にもなくなる。荒い吐息。強くて熱い腕のなかで、彼にされるがまま、意識を失うまで求められた。


 翌朝、サディアスはわたしの命令を誠実に聞いた。あれ食べたいと言えば、エリエを差し置いて持ってきたり、体が痛いと言えばマッサージしてきたり。その夜、もうやめてと泣きながら懇願したわたしに、「無理だ」と求め続けたんだから、当然の報いだ。


おわり

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