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結婚式

 ついに、やってきてしまった、サディアスとわたしの結婚式が。


 ゲオルカ原産の半透明で割れにくい稀少価値の高い俺の一番好む宝石(サディアス談)を散りばめた白いドレスを纏う。


 ――普通、花嫁の好きな宝石を使うんじゃないの?


 確かに、サディアスから「好きな宝石はあるか?」と聞かれて、「わかんない」と答えてしまったけど、ちょっと納得できない。


 頭は編みこまれて、これでもかと花や宝石で盛られている。王冠や首飾りも合わせると、本当に重かった。顔を上げるのもおっくうで、薄いヴェールの下は、かなり険しい顔をしていると自分でもわかる。控え室の全身鏡から顔をそらして、マリアさんのほうに体ごと向いた。


「マリアさん」


 これまでずっと支えてくれたマリアさん。彼女がいなかったら、無事にこの日を迎えられなかった。


「ミヤコ様、お綺麗ですわ」


「それはマリアさんやマージさんのおかげです」


 マリアさんの隣にはマージさんがいた。マリアさんはドレスを着せてくれただけではなく、レーコさんがかつて着た花嫁衣装を、わたしが着れるように手直しをしてくれた。


 純白のヴェールは一針一針、マージさんが縫ってくれたものだ。しかも、フィンボルンからわざわざお城まで来てもらうことになって申し訳ない。だから、重みに耐えながら頭を下げた。


「マージさん、来てくださってありがとうございます」


「いいえ、いいんですよ。わたしは、ミヤコ様の花嫁衣装をこの目にすることができて、嬉しいです。それに教え子の働きぶりも見れましたしね」


 マージさんはマリアさんのほうをちらりと見る。珍しいことにマリアさんは顔を強ばらせていた。あのマリアさんが緊張するなんて、やっぱり、マージさんってすごい人だったんだ。こんなすごい人がそばにいてくれたら、頼もしいはず。


「あの、考えは変わりませんか?」


 実は、レーコさんとも話し合って、マージさんにふたたびお城づとめをしてもらえないかと考えた。手紙で打診して断られたのだけれど、諦めきれない。


「大変申し訳ないのですが、気持ちは変わりません。わたしはあの宿屋を守らないとなりませんし、それに、ここにはマリアがいますしね。彼女がいれば、わたしは必要ありませんよ」


 マージさんはマリアさんを見て、ふっくらと笑った。こう微笑まれてしまっては、もう何にも言えない。


 マリアさんはまた涙腺を刺激されたようで、顔をゆがませた。子どものように涙を流すマリアさんをマージさんが肩を抱いて慰める。ふたりはうらやましいくらいいい関係だ。


「ミヤコ様、お時間です」


 エリエの落ち着いた声が、ようやく、マリアさんの涙を止めた。


◆◆◆


 結婚式は神殿で行われる。レーコさんとお父さんもここで結婚式を挙げたらしい。


 立会人は神官長さんに頼んだ。わたしが脱走してから神官長さんに迷惑をかけたし、その罪滅ぼしでもある。神子がいない今、神殿の役割は終わったけど、これからも国民の心のよりどころになってほしい。だから、国民の開かれた場所として神殿は残すことにした。


 エリエに案内されて、神殿の内部に入る。1枚扉を越えれば会場というところで、足を止めた。扉のかたわらにはクラウスさんが立っていた。実は、クラウスさんと一緒にバージンロードを歩く。


 こちらの世界ではバージンロードを歩く風習はなかった。レーコさんもお父さんとふたりで神の前まで歩いたそうだ。だけど、一生に一度のことだから、わたしも譲れずにバージンロードを歩かせてもらう。


「クラウスさん、ありがとう。引き受けてくれて」


「ミヤコ様のお父上の代わりにわたしなど、おそれ多いことです」


「クラウスさんしかいないと思いました」


 わたしの兄のような頼れる存在といったらクラウスさんだけだった。彼のくつろげられた腕のなかに自分の腕を回す。見上げれば、クラウスさんの相変わらずさわやかな笑みがあった。


「さあ、時間です」


 そう言ったエリエが扉に手をかけたのを見て、わたしは腕を少し引いた。


「あの、最後に『大丈夫』って言ってください」


 これまでずっと、わたしの気持ちを軽くしてくれた「大丈夫」を聞いておきたかった。クラウスさんはまた唇の端を上げた。今の髪型では頭を撫でられないけど、その優しい瞳はわたしをあたたかく包みこむ。


「大丈夫です。あなたなら」


 まだ、結婚式の前なのに、目頭が熱くなってしまった。泣き顔をさらしたくなくて、扉に目を向ける。エリエの手で扉が開かれた。


 人々の視線が気になる中、バージンロードに1歩踏み出す。「大丈夫」のおかげで、震えていた足が不思議と落ち着きだした。クラウスさんの声の効果は絶大だった。


◆◆◆


 結婚式は何の問題もなく、進んだ。誓いとか指輪の交換とか、書類にサイン。その辺りまで来ると、「大丈夫」の効果が薄れてきた。緊張しすぎて、思わず、「倉持都」と書きそうになって慌ててしまったし。


 そんなこんなで、サディアスの顔をまともに見られたのはキスの時だった。


 ヴェールを頭の後ろに流し、唇と唇を合わせるだけだ。それなのにサディアスの指先が小刻みに震えていた。案外、可愛い。彼も緊張しているのだと実感したら、口元がゆるんだ。


「こんなときにアホ面とは、やめてもらおうか。する気が失せる」


「うるさい、鉱物バカ。さっさと終わらせなさいよ」


 何でこんなときまでののしらなくちゃならないのか。でも、わかっていた。お互いの緊張をほぐすためだ。


「愛している」


「わたしも」


 ふたりで顔をゆるませて、笑う。おかげで、わたしたちは調子を取り戻し、誓いのキスを滞りなく済ませた。


おわり

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