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第八話

ちょっとだけ時間が飛びます。

 僕がこの館に来てから半月くらい経った。槍も、魔法も結構上々でそろそろ戦えるようになった気がする。まぁ、ここまで来るのは大変だったんだけど……


 フィーナさんは僕をガンガンしごいてくるから、毎日のように筋肉痛と戦っていた気がする。今となっては筋肉痛にはならなくなったけど。


 セントさんは熱中すると僕と話すってよりは自分の世界に入っちゃう感じだったから、僕の意見を聞いてから僕に答えを返すまでの時間が妙に長かった気がする……


「でもとうとう入学かぁ」


 昨日アーリアさんに言われた。明後日から学園らしい。んでもって寮生活らしいけど……そこはいいや。この館にそのまま住めるならそれがよかったけど、僕はアーリアさんの弟子ってわけでもないしなぁ。まぁフィーナさんたちが弟子なの? って言われるとよくわかんないんだけど。


 今日はダンジョンの経験だけしてみようか、とフィーナさんに言われていて、セントさんも含めて三人でダンジョンの浅い階層だけ潜ってみるらしい。

 浅い階層だけなのは、僕の経験がないのもそうだけど、アイテムボックスが借りられるわけではないので、いいアイテムが出た時に悔しい思いをしたくないとか。時間の関係もあるね。


「お、来たね」


「ハルキくん! 待ってたよ!」


「ごめん、待たせちゃったかな?」


 なんでも、この館の地下にはとあるダンジョンの入り口まで飛べる魔法陣があるらしい。僕は地下には行ったことがなかったので、その手前の階段で集合した。


「大丈夫。私たちも今来たところさ」


「あはは! なんかデートの時の男の子みたいなセリフだね!」


 あ、それは僕も思ったけど、それだったら僕とセントさんの立場が逆だよ……?


「……ふむ、姉さんのその言葉は無視する。さて、これからハルキにとって初めてのダンジョン、そして魔物の討伐にもなってくるわけだが……準備、覚悟はいいかい?」


「何かあっても私たちが守るから安心していいよ!」


 準備は今までのトレーニングで問題ないし、覚悟は……うん、大丈夫だね。


「うん、大丈夫。不思議と緊張もないしなんとかなりそうな感じがするんだ」


「それならよし! それじゃ行こうか!」


「……では行こう。本来であれば姉さんが前衛、ハルキが中衛、私が後衛を受け持つわけだが今回はハルキの経験のためだからね。最初に姉さんが魔物と戦って見せるからその次はハルキにも一度、前で戦ってもらうからね」


「うん、わかった」


 階段を下りて魔法陣のある部屋に入る。その中はだいたい三畳くらいの部屋で、中心に魔法陣があるだけだった。


「起動」


 セントさんの一言で魔法陣が光を放つ。フィーナさんがまず先に足を踏み入れた。


「……消えた」


「傍から見ると消えたように見えるね。私たちも行くよ?」


「うん」


 セントさんの後に続いて魔法陣の中に入る。


「っ!」


「大丈夫かな?」


 一瞬視界が暗くなったような感じがしたけど、本当に一瞬だけで気づけば景色が変わっていた。


「これがダンジョン……」


 目の前にあるのは洞窟の入り口みたいな場所だった。中の様子はよく見えない。


「うん、問題なさそうだね?」


「大丈夫」


「姉さんは先に入ってしまった。まったく気が早い……私たちも行こう」


 フィーナさんが見当たらないと思ったらすでに入っていたらしい。フィーナさんが魔法陣に入ってから僕たちが入るまでそんなに時間はなかったように思えるんだけどなぁ……


「あ、やっと来た。遅いよ二人ともー!」


「遅くない。姉さんが先に行ってしまっただけだし、姉さんが行ってから一分と経っていないよ」


「むー! だって楽しみだったんだもの! 私の戦いぶりをハルキ君に見てもらうのも、ハルキ君の戦いぶりを見るのも!」


「だからって……いや、まぁいい。とにかく行こうか」


 元気に笑っているフィーナさんとは対照的にセントさんは呆れ顔だ。うん、いつものことなんだけどね。魔法のこととなると立場が逆になることは結構あるけど……楽しい姉妹だよなぁ。


 ダンジョンに入ると空気が変わったことに気が付く。なんかそこらじゅうに魔力が漂っている感じで、少しひんやりとしているような気がする。


「お、さっそくいるねぇ。ゴブリンなのが残念だけど、人型からやっておくのも悪くないかっ」


 少し歩みを進めた先にいたのは僕よりもさらに小さい、緑色の餓鬼のような姿の魔物だった。これがゴブリンか……なんか気色悪いな……魔物は初めて見たけど、恐怖感はまったくないや。むしろ、簡単に倒せそう。


「それじゃかるーく捻ってくるから私のカッコいい姿をしっかりと目に焼き付けておくがいい!」


 フィーナさんは本当に楽しそうに、ゴブリン三体に走って行った。


「ギッ!?」


「ギャッ!?」


 一振り、二振り。ゴブリンはフィーナさんに気付く前にその数を一体までに減らした。それぞれ一撃で首を落としちゃった……


「ギィッ!」


「遅いねっ!」


 最後のゴブリンは持っていた錆びているような剣でフィーナさんに斬りかかるが、持っている腕を一撃で斬られていた。その後、悲鳴すら上げられる前に首を切り落とした。


「……すごい」


「相変わらず姉さんの斬撃の鋭さと言ったら……」


「どうだった? フィーナさんに惚れた? なんちゃって!」


「あはは! でもすごかった。ゴブリンがかわいそうに思えるくらいだったし」


 フィーナさんの冗談はともかく、思わず見惚れてしまうほどの剣捌きだった。僕の武器は槍だけど、あのくらいできるようになるのかなぁ。


「そうでしょそうでしょ! 私はこれしかないからね。ゴブリンくらいだったら一撃だよ!」


 笑顔で右手に持った剣を掲げるフィーナさん。うん、なんか絵になる姿だなぁ。


「さっ! 次はハルキ君の番だからね! とはいえ、さっきみたいに三体まとめていたりするとなぁ」


「その場合は私が魔法で数を減らす。ハルキには最初は魔法なしで行ってもらうからね?」


「うん、了解」


 槍を持つ手に力が入る。だけど、決して緊張しているわけではない。むしろ。


「なんかハルキ君も楽しそうだねぇ?」


「うん、なんかワクワクしちゃってる」


 そう。楽しみだ。こんなに好戦的な性格じゃなかった気がするんだけど、変に戦える力をもっちゃったからかな? でも勇者候補としてここに来たからには戦えないよりはいいよね。


「……ふぅ。妙に似た者同士の二人だね」


「セント、何か言った?」


「なんでもないよ」


 セントさんが何か言っていた気がするけど、なんでもなかったらしい。呆れた声が聞こえた気がしたんだけど。


「それよりも。来たよ」


「あちゃ。ゴブリン五体もいるじゃん。セントやれる?」


「任せてくれ。ハルキ、これから私が五体のうち、四体は魔法でやる。残った一体をしっかりとしとめてくれよ?」


「うん、わかった。任せて」


「では行こう。不可視の刃よ、切り刻め。“ウィンドカッター”」


 セントさんの魔法が発動したと同時に僕も突っ込む。一瞬で周りのゴブリンたちが細切れになるのを横目に見つつ、残ったゴブリンを突き刺す!


「ギィッ!?」


「っ! 外した!」


 力んだか。若干狙いが逸れた。いや、逸れたけど外したわけじゃない。ゴブリンの持つ剣を弾き飛ばしていた。結果オーライだね!


「ギギ……ギィッ!」


「う、らっ!」


 一瞬はじかれた武器を見たゴブリンだったが、その武器は諦めたのかそのまま僕に突っ込んできた。だけど槍を横に払い、ゴブリンを吹き飛ばす!


「と、どめっ!」


「ギャァッ!」


 壁に当たって動きを止めたゴブリンの胸を槍で一刺し。そのままゴブリンは息絶えたみたいだ。


「……ふぅ」


 槍に付いた血を拭って一息。うん、やっぱり初めてだと思った通りに動けてない部分もあるみたい。理想は最初の一撃で仕留めることだよなぁ。でもそのあとゴブリンを吹き飛ばした動きは悪くなかったように思える。僕の小さい身体からの一撃でも吹き飛ばせたわけだし。


「うん! 初めてとは思えないくらいだった!」


「そうだね。私の魔法が発動したと思ったらもう突っ込んでいくとは。かなりの思い切りのよさだったよ。……若干心配になるレベルではあるが」


 よかった。二人とも結構高評価だ。セントさんがぼそっと言った言葉は聞こえなかったけど……


「次は二体まとめて相手をしてみようか。そのあとは……」


「魔法も交えて行ってみるべきだね。この階層だとゴブリンばかりでよくないから、もう少し先に行ってみたいところでもある」


「とりあえず次の階を目指して、その前に魔物が居たら相手をしてもらうね。ハルキ君は大丈夫? 初めて魔物を殺したわけだけど……」


 殺した。実感は正直湧かないなぁ。それにあまり忌避感がないのは相手が魔物だからだろうか?


「大丈夫だよ。特に疲れてもいないし」


「そっか! じゃあ次に行こう! 人型に近いゴブリンが大丈夫なら他の魔物も大丈夫だろうしね!」


「……ふむ。ま、とにかく進んでみよう。限界を見極めるのはまた今度になるだろうけどね」


「うん、わかった」


 そのまま歩みを進める。複数相手だとどうなるか。僕の闇の魔法を使うとどうなるか。やっぱりなんかワクワクしちゃうなぁ。

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