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第五話

「では説明しよう……いや、見てもらった方が早いな。“ウィンドシールド”」


 セントさんの説明が始める、かと思ったけどいきなり魔法を使ってきた。風の盾? 攻撃を防ぐと言うよりも反らすための魔法みたいだ。


「ハルキ。先ほどの魔法をこの“ウィンドシールド”に使ってみてくれないか?」


「うん、わかった」


 先ほどと同じように黒いもやがセントさんの魔法を浸食、消しさる……え?


「……消えない?」


 フィーナさんも驚いているが、僕も驚いている。確かに僕の“浸食”は魔法を食ったはずなのに。


「これが欠点だ。もちろん改良の余地はあるだろうがね」


「……欠点」


 作ったばかりの魔法。だからもちろん、これと“腐食”だけでやっていけるとは思ってなかった。だけどいきなり効果がないところを見て少し悔しいと思った。


「姉さんはわかるかい? 私の魔法がハルキの魔法によって消されなかった原因が」


「んー……わかんない。私は魔法苦手だし」


 少しだけ考えたそぶりを見せたけど、すぐに降参だー、と両手をあげていた。


「……もう少し考える癖をつけたほうがいいと思うのだけどね」


 それは僕も同感かもしれない。とはいえこのさっぱりした感じがフィーナさんの良さな気もするけどね。


「ハルキもやはりわからないだろう? ま、ハルキは魔法に触れて数時間だ。説明なしに理解しろという方が無理か。では説明しよう」


 こほんとひとつ。


「現在その魔法は魔力の流れを止めらない」


 魔力の流れ? 魔法についての知識がなさすぎて全然わからない……


「魔法とは術者の魔力を形にするものだ。ただし、その場で魔力の流れがストップするものと、魔力が流れ続ける、もしくは動き続けるものがある」


 セントさんが最初に使った“アースクエイク”は前者で、地面に魔力を干渉させて大地の槍という形をつくるものだという。ちなみに実際に地面の形が変わってしまうわけではないのだとか。うん、よくわからない。


 で、さっき使った“ウィンドシールド”は攻撃を風の流れによって反らすための盾、らしいのだけど……その反らすために風は動き続けている。魔力もそれに伴って動き続けている、とのことらしい。やっぱりよくわからないんだけど……


「魔法の詳しい講座はまた今度。とにかく、ハルキの魔法は魔力の流れに逆らえない。よって魔法を食らう前に霧散してしまっている」


 勉強しないと、この欠点は克服できないということはわかった。


「ちなみに、ただ単に魔力の流れをどうにかできるだけだとまだ足りない。何も相手の魔法、魔力に関与できる魔法は君だけが使えるものではないからね」


「……」


 フィーナさんは置いてきぼりらしい。全然話について行こうとしてない。ぼぅっとしてる。使えなくても知識はあった方がいいと思うんだけどね?


「ハルキは魔力と対話してその魔法を使えるようになったのだよね?」


「うん、そうだよ」


 僕の魔力が使いたいと言った魔法を形にした結果があれらなわけだし。


「おそらく君は魔力の言うがままに魔法を使ったのだろう? 初日だからそれだけでも驚くべきことだし、そもそも魔力との対話を行える魔法使いというのもそう多くはないが……それではいけない。ハルキの魔法はまだまだこれからだから、いきなり厳しく言っても仕方ないのだが、私も魔法を使う勇者候補としては放っておけなくてね。これはあくまで善意だ。君ならわかってくれているとは思うがね。とにかく、せっかく魔力との対話ができるというのであれば、言われるがままではなく、魔力と一緒に魔法を改良していくことだ。そうすれば、他の人が思いもしない魔法が生まれるかもしれないし、欠点も少しずつ克服できることだろう。うん、君には私が魔法を教えてもいいかもしれないな。アーリア様に相談してみようか。くっ、私が闇属性を扱えないことが残念で仕方がない――」


「えー、と。フィーナさん?」


「あー……」


 さっきから妙に楽しそうなのはわかっていたけど、いきなり止まらなくなったんだけど……


「……セントは昔から魔法が大好きでね。いざ自分が使えるようになった時のためにずっと勉強していたし、使えるようになってからも欠かさず毎日魔法と関わっているんだけど……魔法の可能性を見ちゃうとこうなるの」


 フィーナさんは集中して剣を振っているとき、すごく危険。セントさんは魔法馬鹿?


「いいかい? まずは先ほどの魔法を視認できているところがよくない。それでは相手も魔法にそれに対する細工を行うことだろう。効果がある際の魔法消滅までの時間はなかなか早くていいが、到達までの時間が少々かかっていたことも気になるね? ではどうしたらいいのか、ふむ、もし目に見えないようにはできないと言うのであれば地中をたどらせてみては――」


「フィーナさん、これっていつまで続くの? なんか僕に話しかけているようで話しかけてないんだけど」


「うーん、そもそも闇属性が結構珍しいのに、ハルキ君は初日から使えるようになったわけだからねー。セントも好奇心が抑えられないんだろうなー」


 いっそ置いてっちゃう? なんて冗談でもないことを言うフィーナさん。今はこんな状態だけど、もともとは僕のための説明だったわけだから置いていくのはちょっとなぁ……悪いよね。


「じゃ、こうする、ねっ!」


 ガンッ!


 僕がセントさんを置いていくことを拒否したら、フィーナさんは持っていた剣でセントさんの頭を殴った。


「ちょっ!? 今すごい音したよ!? というかそれ本物じゃないの!? セントさん大丈夫!?」


 これはさすがに慌てる。いきなり頭を殴ったら本物の剣じゃなくても危険すぎるよ!


「こうすれば止まるからねー。手加減してるし、これ模造剣だし、だいじょぶだいじょぶ!」


「いやいやいや……セントさん気絶してません?」


 確かに止まったけど、動きすら止まってるよ。生命活動は止まってないみたいだけど……


「あれ? んー? 大丈夫だよ! 勇者候補はそんなにヤワじゃないから!」


 フィーナさんはセントさんの頬をぺちぺちと叩いていたが、反応はない。


「……」


「うぐ……」

 

じとー。という擬音さえ発生してしまいそうなジト目でフィーナさんを見ていると目をそらしてしまっている。


「あ、あはは……救護室連れていきます! またね、ハルキ君!」


 逃げるかのようにセントさんを肩に抱えて走り去って行ってしまった。持ち方、それでいいの? それ以前に頭を打っている人をそんなに急に動かしていいものじゃない……でももういないや。


「というか……僕はどうしたらいいのさ」


 結局僕は部屋に一度戻ることにした。それで魔力と一緒に魔法を考えることにしよう。暴走したセントさんと、そのセントさんを気絶させてしまったフィーナさんに全部持っていかれた気がするけど、これでも結構悔しかったからね。


 なお、部屋に戻るときに、メイドさんに拾ってもらうまでまたもや迷っていたことは忘れる。今度は地図を貰おう。










▼▼▼


「……姉さん、何も気絶させることはなかったんじゃないかな?」


「あはは、ごめんごめん。でもハルキ君も困ってたよ?」


 私は姉を咎めようとしたが、実際ハルキが困っていたであろうことは確かだし、私の悪い癖が出てしまったが故のことだから強く出られない。


「……まぁいいよ。それにしてもハルキの魔法は今後が楽しみだったよ」


「いいなぁ、セントはハルキ君と楽しくできそうじゃん。ハルキ君が武器を使える戦士タイプだったら私も一緒に楽しくできたのになー」


 姉の拗ねた様子は結構珍しい。ふむ、彼の属性故か、もしくはそのキャラクター故かわからないが、姉は彼に惹かれているようだ。自覚があるかは知らないがね。


「ハルキが武器を使えないと決まったわけではあるまい?」


「ダメだよー。彼の身体すごく華奢だもん。これから大きくなるのかもしれないけど、私よりも小さいわけだし」


 姉さんは百六十五センチほどの身長がある。私はそれよりも五センチほど低い。


「彼はまだ子供だろう? すぐに大きくなるさ。確かに今は私よりも小さいが」


 それであれば、武器の使い方を教えてあげればいいじゃないか、と続けると姉がハッした表情になった。


「それもそうじゃん! そっかそっか私が教えればいいのか!」


「……なんで考え付かなかったのかがわからないが、それでいいだろう? 魔法は私が、武器は姉さんが。ハルキが学園に入学するまでにはまだ日はあるだろうから、それまでしっかりと教えればいいさ」


「そうだねそうだね! 私たちでハルキ君を育てよう!」


 先ほどまで拗ねていたのが嘘のように楽しそうだ。ま、私も楽しみなのだがね。


「それを考えると学園に行ってる時間がもったいないなー」


「そうは言ってもね」


 気持ちはわからなくもないが、勇者候補としての役目は果たさなければならない。もったいないなどと言っていては先生たちに怒られてしまうよ?


「ま、今日はせっかくの休みだし! 楽しもうっと! セントが気絶してたせいで一緒にお昼ご飯ってわけにはいかなくなっちゃったし、まずはハルキ君のための武器探しかなー」


「いや、気絶させたのは……まあいい。私は魔法について考えておくことにしよう。今日はあまり身体を動かしたくはない」


 まだ目覚めたばかりなのでね……自業自得とはいえ、この姉には困ったものだ。


「うーん! 楽しみ!」


 楽しそうでなによりだけれどね。


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