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第三話

更新時間変更。

今日はこちらで魔法の練習をしていただきます」


 次の日に案内された場所は中庭だった。ここもやっぱり広い。


 ちなみに朝は自然と目が覚めた。朝食はサンドイッチでした、これも昨日の夕飯同様美味しかったです。


「魔法って言われても僕がいたところでは魔法なんてなかったから、どうやればいいのかまったくわからないんだけど……」


「なので、練習ですよ。もちろんちゃんと使えるようにいたしますから」


 ご安心くださいと微笑まれた。知識はまったくないから練習以前の問題のようにも思えるんだけど……大丈夫なんだろうか。


「まずは魔法を使うに当たって必須の“魔力”を感じ取ることから始めましょう。私が確認できている限り、ハルキさんの魔力量はかなりのものです。しっかりと魔法を使うことができるようになればそれはハルキさんの心強い武器となるでしょう」


「え、ちょ」


 そう行ったアーリアさんは僕の手を取ってきた。今日もまた顔が赤くなるんですね!


「心を落ち着かせてください。今から私の魔力をそちらに流します。それを感じ取り、自分の中にある似たようなものがあるはずですので、それが感じ取れればハルキさん自身の魔力が理解できるはずです」


 そんなこと言われても若干冷たい手を意識しちゃって落ち着くとか無理です! だから今感じてる暖かい空気みたいなものが僕に入ってきてることなんてわかんないんです!


「……あれ?」


「そうです。それが魔力です。そのままご自身の魔力を」


 初めての感覚だけど、嫌な感じじゃない。今感じている暖かいものがアーリアさんの魔力だとすれば……


「こう、かな」


「っ!?」


 あ、自分の魔力っぽい黒くて冷たいものを感じ取った瞬間にアーリアさんの魔力を弾き飛ばしちゃったみたいだ。

 というか、この黒いのが僕の魔力? アーリアさんとずいぶん違うんだなぁ。もうちょっときれいな感じがよかったんだけど、なんか暗い感じ。


「……さすがですハルキさん。初日、まだ始めてから十分と経たずにここまで魔力を扱えるとは」


「え? これって早いの? 僕はなんかアーリアさんの魔力とは違うものがあったからそれを手元に引っ張ってみる感覚で感じ取っただけなんだけど」


 だとすれば僕には魔法を使う才能があるってことかな。魔力量も多いって言っていたし。いやでも、勇者の適性がある人はこのくらい普通だったりするのかな。


「早い、ですよ。才能のある人でもその日のうちにここまでできる人は多くありません。それをこんな短時間で……」


 アーリアさんは苦笑いと言った感じの表情をしている。そんなに異端なことだったんだ。僕としてはまだ魔法を使ったわけじゃないからあんまり実感がわかないや。


「ここまでの才能があるとするのであれば、通常のやり方をしても無駄に時間がかかってしまうかもしれませんね」


「そうなの?」


「はい。通常であれば感じ取った魔力を使えるように、その方々に合った属性の魔法書を読んでその魔法を使っていくのです。ですが、才能がある場合にはそのやり方よりも自分の魔力に魔法の使い方を聞くのです。魔力が使いたい魔法が自然と形になっていくのです」


「魔力に、魔法の使い方を聞く……」


 自分の体の中を巡っている黒くて暗くて冷たい魔力。これが僕の魔力。君はどんな魔法が使いたい? 


 《―――――――!》


 そうなの? それだけ? 他には?


 《――――――? ――――――》


 そっか。それは嬉しいな。すごく助かるよ。君は僕の一部と言ってもいい存在なわけだし仲良くしようね。


 《―――――――!》


 君も嬉しいか。うんうん。ありがとう! それじゃ頑張ろうか!


「――さん! ――ハルキさん!」


「アーリアさん? どうかした?」


 魔力との対話を終えたと思ったらアーリアさんに呼ばれていた。なんか焦っていたみたいだけどどうかしたのかな?


「どうかした、ではありません! 突然反応がなくなりとても驚きました。いったいどうしたのですか?」


「えっと? アーリアさんに言われたとおりに魔力にどんな魔法が使いたいか聞いてたんだけど」


「な……」


 絶句。そんな様子で黙ってしまったアーリアさん。さっきまでの微笑みが嘘みたいに消えていた。


「ほん、とうに魔力とその、会話ができたのですか?」


「……? うん。結構いい子みたいだったからすごく安心したよ。あ、そうだ。使ってみたい魔法はあるみたいだったから何か魔法をぶつけてもいいものとかある?」


「いい子、ですか……。いえ、すみません。的であれば周りにある人形であればいくらでも魔法をぶつけていただいて大丈夫です」


 そう言われて周りを見回してみると、確かに案山子みたいな人形がたくさん立っていた。うわ、周りが全く見えないくらいに緊張してたのか、僕。昨日から緊張してばっかりでダメだなぁ。でもうん。魔力を感じ取って対話してみてからすごく落ち着いているみたいだ。いい感じだな。


「それじゃ試してみるね」


 一度目を閉じる。魔力に出てきていいよ、と伝える。そしてそれは形となる。


「な……」


「うん! 成功だ!」


 黒い魔力はもやみたいに人形へと触れて、そして人形は崩れ去った。


 “腐食”


 これが僕の魔力が使いたいと言った魔法の一つだった。もう一つあるけどそれはまたあとでいいかな? うん、いいんだね。ありがとう。


「まさか、そんな……」


「アーリアさん? 大丈夫?」


 なぜかアーリアさんがさっきから落ち着かない様子だ。どうしたんだろうか?


「いえ、大丈夫です。本来であればもっと時間をかけて魔法を使うところまで行く予定でしたので驚いてしまいました。まだ魔力に余裕はあるかと思いますが、初めて魔法を使ったわけですから本日はここまでにしましょう。フィーナさんがハルキさんとお話がしたいと言っていましたから、訪ねてみてはどうでしょう?」


 お昼近くまでは訓練施設におりますので。とのことだ。


 様子のおかしいアーリアさんが心配ではあるけど、フィーナさんに会いに行ってみよう。訓練施設ということは戦い方が学べるかもしれないしね。


 ……あれ、僕ってこんなに戦いに関して熱心に考えるタイプだったっけ? ま、いっか。


「それじゃアーリアさん、またね」


「……はい、それでは、また」


 最後には微笑んでくれたから大丈夫そうだ。若干辛そうな声ではあったけど。










▼▼▼


「まさか、ここまでとは思いませんでした……」


 ご自身の魔力を感じ取ってからのハルキさんはまるで人が変わってしまったかのような雰囲気でした。


 それに、人形に使った魔法。


「……いつまでたっても元通りにならない」


 修復機能・・・・の付いた人形が動かない。訓練用に作った特別仕様の人形だというのに。


「私の占いではこんな結果、出ませんでした」


 このままではいけない。強くそう思った私はいつの間にか通信符を握りしめていました。


『――そちらから連絡とは珍しい』


「シンさん。ご相談があります」


『――ますます珍しいな。聞くだけは聞こう』


 ハルキさんのことを伝える。今日のこの時間までの短い間の話だけれど、ゆっくりと時間をかけて話した。私自身が整理できるように。


『――闇属性でそれか。魔法のない世界からの転移者と言ったな? であるならばこのまま放置しておけば魔力に食われるぞ』


「そうなれば……」


『――魔物と変わらん存在になるだろう。魔力の危険性を理解していない転移者であるならな』


 こちらの都合で来ていただいた勇者候補が魔物となる。考えただけで恐ろしい。


「なんとか、なりませんか。私から魔力の危険性を説明すれば、今からでも」


 間に合いますか。そう言い切る前に遮られる。


『――それは悪手だ。すでに本人が魔力との対話も済ませ、その存在をしっかりと認めている。そんな存在を危険だと問うても意味がない。いや、それどころかその考えに反発し魔力に食われるのが早くなるだけだ』


「ならばどうすれば良いと言うのですかっ!」


 思わず怒鳴り散らしてしまう。シンさんが悪いわけではないのに、感情が留まらなかった。


「こちらの世界の……、私たちの都合で呼び出してその人生を討伐されるだけの存在に変えてしまうなんてできるはずありません! どうにか、どうにかならないのですか!」


『――俺より長い時を生きている魔女が言うセリフではないな。まずはその勇者候補に自覚させろ。この世界は生きていくに値する世界であると』


「……生きていくに値する世界」


『――心の拠り所を見つけさせろ。恋人でも友人でもなんでもいい。この世界には守るものがいる。そう自覚させることができれば、勇者候補としての力が守ることだろう』


「……そう、ですね」


 ハルキさんがこちらの世界に来てからまだ二日目。恋人なんて無理だけれど、友人なら。狙ったわけではないけれど、彼はフィーナさんに会いに行った。彼女とは昨日も楽しそうに話していました。フィーナさんやセントさんと友達になれるのであればまだ可能性があるのですね。


「私がその拠り所になれればよかったのですが」


『――やめておけ。いや、理解しているようだな』


「はい。私も、貴方もですが……。私たちは普通の人間のように歳をとりませんから」


『――添い遂げることは不可能だ。同じような存在でもない限りはな。話は終わりか?』


「はい、ありがとうございました。私はハルキさんのためにもう少し考えてみます」


『――そうか。その勇者候補が魔物へと落ちたら俺が殺してやろう』


「――っ! そんなことには私がさせません!」


 通信符から魔力が消えていくのを感じながらも怒鳴り声をあげていた。あの人は本当に……! そんなことにはなりません。ハルキさんも、皆さんも私が守りますから。


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